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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第四章

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40 レイディンの役目



 レイディンは焼け野原を歩きながら、地面の様子を確認した。


 森のことが気になるといったのは本当のこと。


 新しい芽吹きはまだ感じられなかった。


「こんな場所じゃ魔物だって生きていけないだろうな」


 やっぱり草原も森も焼いてしまえばいい。そうすれば、あっという間に場所が空き、それを畑にすることだってできる。家だって建てやすい。


 レイディンにはそう思えてしまう。


 もちろん、そんなことを言えば兄に反対され、フォレスト・エルフに敵視される。


 言葉にはできないことを、レイディンはわかっていた。


「何時かな……?」


 いつもであれば、とっくにジスに会っている。


 ジスの転移魔法で屋敷に行き、装備を整え、森の奥の方へ行って魔物を倒している時間な気がした。


 だが、今日に限ってはジスに会えていなかった。


 セリーヌに会ったせいかな?


 レイディンは立ち止まると、辺りをぐるりと見回した。


 黒々とした焼野原。


 見晴らしが良いからこそ、誰もいないのがわかる。


 しかし、あくまでも見ただけの話。魔法などのせいで、本当は誰かがいてもわからないだけというのはありえる。


 ジスが突然あらわれるのは転移魔法のせいではなく、姿を隠す魔法が使えるせいではないかとレイディンは思っていた。


 困ったな……。


 もし、フォレスト・エルフに見張られているとすれば、ジスは姿をあらわさない。


 ジスはフォレスト・エルフに嫌われていることを知っているため、自分とレイディンが会うことで、レイディンやアーネストの立場が悪くなることを心配しており、会うなら絶対に秘密にすることになっていた。


「毎回思うけれど、お土産もないし……かといって、森の恵みを勝手に取るとフォレスト・エルフが怒りそうだし」


 レイディンは悩んだ。


 そして、思いついた。


「ああ、ウサギ族の村があった! 様子を見ておかないと!」


 レイディンは奇跡的に守ることができたウサギ族の村へ行くことにした。





「よく守れた……と言うか、残った気がする」


 周囲は完全に焼け落ち、再生する様子も全くない黒々とした大地が広がっている。


 その中にポツンとあるのがウサギ族の村。


 防火帯として木を伐った場所も再生しているかど思えば、そうでもない。


 やはり火が燃え移ったせいか、黒く焼け焦げてしまっていた。


 セレスティーナが盛大に氷をばら撒いたせいで、村の家屋は残っているが、そうでなければ屋根に飛び火にしてしまい。全部燃えてしまったに違いないとレイディンは思った。


「誰もいないに決まっているけれど、誰かいる?」


 レイディンは残っているウサギ族の家の中を覗いた。


「ウサギ族の家ってこうなっているのか」


 竪穴式住居、だっけ?


 歴史の講義をレイディンが思い出していた時だった。


「レイディン」


 とても小さな声。


「動かないで」


 次の瞬間、レイディンの肩に手が置かれ、視る景色が歪んだ。


 そして、戻った時には豪華な部屋になっていた。


「ジス!」


 振り向くとジスがいた。


 だが、喜んでいるレイディンとは対照的で、ジスの表情は困り切ったそれだった。


「フォレスト・エルフにつけられていた。ウサギ族の村に向かったからついてこなかった」


 森に住んでいる者には縄張りがある。


 すでにウサギ族はヴィラージュに移住しているが、だからといってフォレスト・エルフがウサギ族の村や縄張りに行くことはない。


 ウサギ族の村の跡が残っている間は、フォレスト・エルフはできるだけ近寄らないだろうと説明された。


「やっぱりそうか。見た感じは誰もいなかったけれど」

「人間は視覚に頼る。でも、全方位を同時に見ることはできない。相手の動きに合わせて死角に移動すればいい。姿を見られなければ、誰もいないということになる」

「なるほど」


 やはりエルフは賢い、すごいとレイディンは思った。


「セリーヌに会った。警告みたいなことを言われたよ」

「森に通っていればそうなるよ」


 ジスは静かに答えた。


「レイディンは転移魔法を使える。私の屋敷に来ればいいのに来ないね?」


 レイディンは動揺を抑えた。


「僕は人間だよ? ジスとは違う。そもそも、ジスと全く同じ魔法と言えるのかどうかもわからない」

「自分で考えた魔法?」


 レイディンは答えない。


 答えてはいけないことだった。


「私は父親に教えてもらった。厳しかったよ。でも、それが当たり前だ。一つ間違えば命を失う魔法だからね。誰にでも使える簡単な魔法でもない」


 そうだね。母上も厳しかった。


 レイディンは心の中で答えた。


「ここへは来れない?」

「無理だ」

「なぜ?」

「それは僕が聞きたい。ここは……変な感じがする。普通の場所ではないよね?」


 ジスは微笑んだ。


「そうだとも言えるし、違うとも言える」

「そろそろ決めるべきだとは思っている」


 最初は軽い気持ちで、魔境の奥がどうなっているのかを知りたい気持ちが強かった。


 明日も行くかというジスの誘いに頷くまま。


 しかし、それはあくまでもジスによって案内された場所を見るだけ。本当の魔境の姿ではあるが、広大な魔境においてはほんの一部。


 全てではない。そして、ジスもまた全てを知っているわけではない。


 想像もつかない場所がまだまだ多くある。


 魔人であるレイディンの母親が二度と行きたくないと思うほどの場所があるということもレイディンは知っていた。


「ジスは魔境を攻略していると言ったよね。攻略してどうするのかな?」

「理由はいくつもある」


 ジスは答えた。


「目的も楽しみも一つではないよね? 私と同じ理由でなくてもいい。重要なのは、一緒に魔境に行きたいか、力を合わせる気があるか、裏切らないかだよ」

「ジスと一緒に過ごした日々はとても楽しかった。でも、ジスが知っている場所だからだ。知らない場所に行けば、命を失う危険が増える。個人的には興味がある。でも、王太子だ。死ぬわけにはいかない」


 それがレイディンの出した答え。


 楽しみたい。だが、王太子の役目を完全に放棄するわけにはいかない。


 最も重要なのは、王太子として執務をすることではない。王太子として存在していること。自分が生きていること。


 自分が死んでしまったせいで、魔人の母親が暴走してしまうかもしれない。


 それこそ王国が消滅する危機になってしまうとレイディンは思った。



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