04 確かな希望
「なかなかいない」
森で見つけたのはウサギ、ネズミやリスのような小動物ばかり。
いかにも凶悪そうな魔物もいないが、役立ちそうな動物もいない。
「普通の森のようだ」
「それは違います」
捕縛した魔ウサギをつないだ縄を引きながらミントが言った。
「アーネスト様が普通じゃないだけです」
「少しだけ木を切るか」
「また魔法の風ですか?」
「倒れる方向を考えないといけない。別の方法にする」
アーネストは大斧を召喚すると、複数に増やし、一斉に操って木を切りつけ始めた。
領都の防衛を任せている騎士たちにとってはペンが斧になっただけ。
だが、初めて見るミントは驚愕した。
「何ですか、これは!」
「斧だ」
「それはわかっていますけれど」
ほとなくして木が次々と倒れていく。
「すごいです!」
「いや。無駄なことをしてしまった。魔力を使う割に成果が少ない。やはり魔法で一気に片付ける。ミント、手をつなごう」
「えっ?」
「キティは抱っこだ」
アーネストはキティを抱っこしてミントと手をつなぐと浮遊魔法で浮かび上がった。
「防御魔法をかける」
次の瞬間、
ゴオオオーーーーーーーーーーーーー!
凄まじい突風が吹き、森の木々を薙ぎ払うように吹き抜けた。
「力技過ぎる……」
風が通り抜けたあとに残るのは鋭利な風で切られた木々の光景。
「アーネスト様は林業だけで十分儲けることができそうです」
「魔境の森は木を切っても成長するのが早い。効率よく木材を輸出すれば儲かりそうだ」
「え、いや、真面目に考えられても困るといいますか。木材を運ぶのが大変です。魔物がたくさんいる場所ですから」
「いいことを思いついた」
アーネストは閃いた。
「この木を使って橋のような歩道を作るのはどうだろうか?」
草の高さには上限がある。
それ以上の高さになる木製の歩道橋があれば、魔物が潜んでいる茫々状態の草原を歩いて森へ向かう必要はない。
「今日作った道が草で埋もれる前に作ってしまえばいい」
「わかりますが、どうやって木を運ぶのかを考えないと」
「浮遊魔法でいいと思うが?」
この人、常識通じなさそう。
ミントはそう思った。
数日後。
草原に木製の歩道橋ができた。
丸太を一定間隔で地面に突き刺し、丸太同士を幅広の厚い板でつなぐ。
それを二列作って板でつないだだけの単純な構造だったが、危険が潜んでいる草原の中を歩かなくてよくなる。
空から襲って来る魔鳥の類についてはともかく、以前よりも安全を確保した上で森へ行けるはずだった。
「歩道橋の上に行けない」
「階段がない」
「すまない。浮遊魔法を使えばいいと思って、深く考えていなかった」
アーネストは照れながらそう言った。
「やはりアーネスト様らしいです」
「何でもできそうで意外と」
抜けている。
王都から同行した騎士や領都にいる人々が協力して階段を作ることになった。
「木材を運んで来る」
アーネストはそう言うと浮遊魔法で歩道橋の上まで行き、加速魔法で走り去った。
「空を飛べそうなのに」
「飛べないのか」
「あえて飛ばないのか」
そこはアーネストの選択に任せることにして、人々は歩道橋の上に行くための階段をどのようなものにするか考え始めた。
数日後、人々が団結して作業をしたおかげで無事階段が完成。
その間にアーネストは領都を囲うような木製の柵も作っていた。
この柵は魔物から領都を守るためではなく、森で捕まえた魔ウサギなどの弱い魔物を捕縛して放牧する場所として確保するためだった。
「魔ウサギは草を食べてくれる。草が生えにくくなるだけでなく、食料にもなる。。ここにいる魔物は皆で分け合おう。適度に繁殖させ、森へ行かなくても食料を確保できるようにする」
「すごい!」
「素晴らしい!」
「魔ウサギを狩りやすくなる!」
「別の柵も作る。もう少し強い魔物も放牧できるようにしたいが、木製の柵を簡単に壊してしまうような魔物はダメだ。ウサギなら大丈夫だと思うが、管理する者をしっかりと決めよう」
新領主アーネストに反対する者はいない。
危険を冒して魔ウサギを捕縛しにいく必要がなくなったことも、今後放牧する魔物の種類が増えるのも嬉しい。
「ヤギがいいです」
「ぜひ、羊で」
「馬は……危ないかな?」
「牛。絶対に牛!」
人々は放牧したい魔物を次々とアーネストに伝えた。
「見つけたら捕縛してみる。だが、だんだんと通常の動物の飼育に変えていきたくもある。その方がより安心できるはずだ。しばらくは我慢してほしい。領主として皆のために努める」
問題なし!
良い領主じゃないか!
なんか、いけそう!
つい最近まで魔境に飲み込まれてしまいそうな状況を悲観していた人々は、確かな希望を感じることができた。
「ああ、そうだ。森側の方にも階段を作る必要がある。領都側よりも危険だ。作業者とは別に護衛を配置しよう。騎士たちに頼む」
「わかりました!」
「おまかせください」
王都から同行した精鋭の騎士たちは、ひさびさに剣を扱うような気がした。