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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第四章

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39 弱くない



 昼食を食べたレイディンは散歩に行くと言って外出した。


 午前中は兄のアーネストと一緒に施設に赴き、工事の様子や住民たちからの要望を聞いた。


 少しずつではあるが、ヴィラージュの整備計画は順調に進んでいる。


 王都のようにさまざまな資材が潤沢にある場所ではないが、あるものを活用しながら、人々にとって便利で住みやすくしていけばいい。


 いずれはヴィラージュを大都市にすることさえ可能だろうとレイディンは思っていた。


 母上の方が長生きしそうだし、王都や国のことは任せておけばいいかな。


 魔人は長命種。人間よりもはるかに長い年月を生きることができる。


 人間のふりをしているだけに、いつまでも若いままではおかしいということで、レイディンの母親はわざと年老いて見えるように工夫していた。


 魔人あるあるなんて言っていたけれど、人間的には逆だよ……。


 心の中でぼやいている間に、加速魔法のおかげでレイディンは森へ到着した。


 だが、ここはまだまだ手前。


 実力のあるフォレスト・エルフは縄張りではない森の中でも行動している。


 見つからないようにしなければと思いながら、レイディンは森林火災の跡地へと向かった。


 そして、顔見知りに遭遇した。


「聞きたいことがあるわ」


 フォレスト・エルフの族長の娘セリーヌだった。


「森に出入りしているばかりか、焼け跡を見にきている。なぜ?」

「僕の方こそ聞きたい。なぜ、聞く必要が?」

「魔導士だからよ」


 セリーヌが答えた。


「火魔法を使う。森を燃やせるわ」

「僕がここを燃やしたわけじゃない。森林火災の被害を抑えようとしたことは知っているはずだけど?」

「だからこそ、気掛かりなのよ。なぜ、ここに通う必要が?」

「知りたいからだよ。森がどうなっているのかを」


 レイディンは答えた。


「僕はずっと王都で生まれ育った。魔境のことはなんとなく聞いているけれど、知らないことが多くある。自分の目で確かめるためにヴィラージュへ来た」


 森についても同じ。


 ここは普通の森ではなく魔境の一部。普通の森との違いがわからない。


 魔境の植物は強い。少し経てばすぐに成長したり、元通りになってしまうと言われている。


 実際、草原の方はかなりの魔ウサギが放牧されているというのに、草がなくなることはない。


 魔ウサギの数の増え方もすごいが、魔ウサギに食べられる草の成長度や再生度も早いことをレイディンは目のあたりにしていた。


 森林火災が起きた森がどのようになるのか、再生していく過程が気になることをレイディンは伝えた。


「地面を焼くと草が生えにくいというのは兄上から聞いた。すでに熱気はないけれど、焼野原のままだ。森というか、木々の再生は遅いのかな? ヴィラージュは木材を得るためにかなりの木を伐っている。その分が元通りになるまでには、かなりの年月がかかるのかな?」


 セリーヌは黙ったまま、レイディンをじっと見つめている。


「ここを通って奥から魔物が来るかもしれないという話も聞いた。そうなったら、ヴィラージュの方に出る魔物も多くなるかもしれない。それで様子を見にきているけれど、全然魔物に遭遇しない。もしかして、フォレスト・エルフの方で倒しているのかな?」

「あくまでも様子を見にきているだけだと?」

「他に何か? この森についてはフォレスト・エルフの方が詳しい。何かあるなら教えてほしい。ヴィラージュには多くの人々が住んでいる。僕は王太子だ。人々の命と安全に関わるようなことがあれば、兄上と相談しなければならない」

「毎日来る必要はないはず。目障りよ」

「フォレスト・エルフにはそうなのかもしれない。でも、ここはフォレスト・エルフの縄張りではないよね? そして、ここを通って魔物が来た場合、その魔物がどこに行くのかはわからない。草原に向かってヴィラージュに来たら? 草原は森よりも火災に気を付けるようエアリスに言われている。ここはすでに焼けてしまったから、火魔法を使える。でも、草原で使うのは危険だ。あっという間に燃え広がれば、草原が火の海になってしまう。それでは困るというのはわかるよね?」

「森なら燃えてもいいというの?」

「そうは言っていないよ。でも、この辺りをうまく使えば、魔物への対処がしやすくなる。どこでも自由に魔法を使えないからこそ、どこなら魔法を使えるのかを考え、確認しておく必要がある。ここがそれほど経たずに再生してしまうのであれば、ここでも魔法を使えなくなるだろうけれどね」

「自然界の力は言葉にしきれないほど強い。草原にいなさい。森は人間の来るべき場所ではないわ」

「エルフらしい。でも、この森だって昔は草原だった。その前は畑だった。人間が耕したり、家を建てたり、弱い生き物が住んでいる場所だった」

「人間らしい。でも、それは過去のこと。現在は森なのよ。そして、森には多くの生き物がいる。命を奪い合っていると言っても過言ではないわ。魔法が使えたとしても、人間は弱い。それを忘れないことね」


 セリーヌはそう言うと、跳躍するように走り去っていった。


「警告? 助言? まあ、わかるけれど、そっちだって危ないと思うけれどね」


 セリーヌから見ればレイディンは人間。とても弱い存在。


 だが、レイディンはただの人間でない。


 魔人の血を引く人間だった。


 そして、フォレスト・エルフが、魔人とフォレスト・エルフのハーフであるジスの力を恐れていたことも知っている。


 弱いのは僕じゃない。セリーヌの方だ。そして、フォレスト・エルフの方でもある。


 レイディンは心の中でそう言うと、森の奥へと歩みを進めた。


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