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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第四章

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36 魔境観光



 次の日。


 朝食を食べたレイディンは加速魔法をかけ、全速力で森に向かった。


 とにかく、速く行きたい。急いだ方が目撃されにくいのもある。


 だが、焼け野原について気づいた。


「待ち合わせの場所は……」


 適当に歩いていただけに、正確な位置を覚えていなかった。


「確か奥に向かっていて」


 なんとなく記憶を辿りつつ、レイディンは奥の方へ向かう。


 刻々と時間が過ぎるが、ジスに会えない。


 レイディンはこのままジスに会えなかったらと不安になった。


 会いたい。会いたい。会いたい。


 レイディンの中で、恐らくは前世の記憶の自分がジスにあうことを切望していた。


「来たね」


 ジスの声がした。


 振り向くと、ジスがいた。


「いつのまに」


 驚き。警戒。それを上書きしてしまうほどの喜びがレイディンの中に沸き上がった。


「誰かに見られたくない。取りあえず、手をつなごう」

「え?」

「握手だと思えばいい」


 レイディンはしぶしぶといった感じで手を差し出した。


 ジスが掴むと、しゅるしゅると何かが這うような感覚がした。


「何を!」


 レイディンは手を引こうとしたが、動かなかった。


「移動するためだ。絶対に私から離れてはいけない。レイディンを死なせないためだよ」


 次の瞬間、魔力が膨れ上がり、光が溢れた。


 転移魔法!


 レイディンがそう思ったのと同時に景色が揺らぎ、数秒後には元に戻った。


 目に映るのは豪華な部屋。


「ここは?」

「私の屋敷だ。装備を貸す」

「ああ、それでか」


 レイディンはジスの屋敷を知らない。転移するには一緒に転移する必要があったのだと納得した。


「その前に転移魔法の説明をしておく。途中で手を離されると転移できない。そして、魔法の行使者と離れるのは極めて危険だ」


 転移魔法は一定の範囲が対象で、その範囲は行使者によって違う。


 わかりやすいのは足元に魔法陣が浮かぶ場合。その範囲内にいれば、転移魔法ができるとわかる。


 しかし、転移魔法は莫大な魔力を必要とするため、少しでも節約するために上級者ほど狭い範囲を指定する。


 中には自分だけを指定する者もいる。そのような者と一緒に転移するには、魔法行使者とつながっていなければならない。


 そうすれば、魔法行使者と一体のもの、服や靴も一緒に転移できるように、他の生物も一緒に転移できる。


 しかし、途中で手を離してしまうと、どこまでが転移魔法の範囲になるかがわからない。


 完全に手を離したつもりでも、魔法の判定次第で体の一部だけが転移してしまうこともある。


 そうなれば大怪我、下手をすると死んでしまうことをジスは説明した。


「さっきは確実に二人で転移できるよう手を結び付けた」

「それで変な感覚がしたのか」

「口で説明しても、やはり不安だと感じて手を離すかもしれない。そのせいでレイディンが大怪我をしたり死ぬのは勝手だ。でも、私のせいにされたくない。手を離したレイディンが悪い。自己責任だ」


 そうかもしれないとレイディンは思った。


「レイディンも転移魔法を使えるのは知っている。でも、魔法陣が浮かぶタイプだった。他の者と一緒に転移できるのかどうかもわからない。もし誰かと一緒に転移魔法をするのであれば、確実に二人で転移できるようにしなければならないことを教えておきたかった。わかったかな?」

「わかった」

「装備を整えよう。得意な魔法を強化する。属性は?」

「火」


 レイディンは正直に答えた。


 これから魔境の奥へ行くのであれば、誤魔化すのは得策ではないと感じた。


「加速魔法も使えるなら、風魔法も使える?」

「そうだね」

「相性がいい属性だけに組み合わせやすい。好きな色は?」

「赤」

「火の使い手、そして王太子らしい好みだ」


 ジスの周囲、空中に召喚陣が浮かび上がり、豪華な金色の炎が刺繍された赤いローブと金色のブーツがあらわれた。


「服の上につけられる。ブーツも今の靴の上から履けばいい。サイズは自動で調整される」

「魔法装備か」

「ローブは火属性への防御力が特に高い。ブーツは浮遊用。風の強化はアクセサリーにしよう」


 召喚陣が半円を描くように複数浮かんだ。


「どれがいい?」


 腕輪。指輪。イヤリング。首飾り。ペンダント。サークレット。


「何個?」

「軽い方がいい。実力がない者ほど装備に頼る。実力者らしく厳選すべきだ」


 さすが、奥地に行くだけある。考え方もセリフもかっこいい!


 レイディンは感心した。


「ペンダントがいい」

「私も同じ選択をする。最良の選択だよ」


 ジスはペンダントを取ると、レイディンに渡した。


「やはりレイディンは特別な人間、実力者だ。見る目がある」


 お世辞かもしれないと思いつつも、レイディンは嬉しくなった。


「でも、効果がわからない」

「つけているだけで威力が上がる。シンプルだ」

「わかった」

「防御魔法は?」

「使える」

「魔人専用の防御魔法を?」


 レイディンは動揺したが、一瞬で持ち直した。


「僕は人間だけど?」

「そうだった。人間だった」


 ジスは気づいたようにそう言った。


「私がかける。人間の防御魔法よりも上位だと思う」


 ジスが防御魔法をかけた。


「念のため、自分で使える最上級の防御魔法をかけてみてほしい。上書きできるのであれば、その方がいいからね」


 レイディンは防御魔法を使うが、弾かれてしまった。


「弾かれた」

「防御魔法よりも攻撃魔法の方が得意?」

「そうだね」

「わかった。私が防御魔法を担当する。でも、危険だと感じたら転移すればいいよ」

「どこに?」

「どこでもいい。これを」


 ジスはポケットから腕輪を取り出した。


「はぐれた時の目印になる。一人の時は安全の確保を最優先だ。私が行くまで待っていてほしい。何度も転移されると、探すのに時間がかかって合流できない」

「わかった」


 レイディンは腕輪をはめた。


「これも貸してあげるよ。特別にね」


 ジスは自分がつけていた指輪を一つだけはずした。


 レイディンが手を差し出すと、ジスは微笑んだ。


「この指輪は所有者でなければつけられない。場所によって効果も変わる」

「どんな効果?」

「魔法を使っても疲れにくくなる」

「へえ」

「最後はこれだ」


 魔法陣が浮かび、赤い宝玉がついた黄金の杖が現れた。


「火魔法を自動で最適化する」

「自動で最適化?」


 レイディンが初めて聞く効果だった。


「あとで使ってみるといい。しっかりと杖を持って。私もこの杖を掴んで転移する。手をつなぐのは嫌がられそうだからね」

「わかった。楽しみだよ」

「出発しよう」


 ジスがレイディンの杖を掴むと、転移魔法が発動した。





 転移魔法で来たのは空中だった。


 黄金色のブーツが輝いている。魔法効果が発動している証拠だった。


「そのまま」


 次の瞬間、全てが燃え上がった。


「うわっ!」


 視覚的には炎に包まれてしまっている。だが、熱くはない。


 防御魔法あるいはローブのおかげだろうとレイディンは思った。


 やがて、炎によってボロボロと黒い何かが落ちていく。


 炭化したようでもあるが、視界を埋め尽くすのはほぼ炎。


 しばらくすると、ようやく視界が開けた。


「虫の大群を範囲魔法で処理していた」

「相当な数だったみたいだ」


 範囲魔法でなければ絶対に倒せないだろうとレイディンは思った。


「下にも別の虫がいる。レイディンも範囲魔法で掃除できるかな?」


 地面にはさっきとは違う虫がぎっしりといた。


 レイディンが火魔法を使うと、思った以上に広範囲で炎が上がった。


「いつもと範囲が違う」

「杖のせいだ。この虫は弱い。魔法の威力よりも範囲の方がいいと杖が判断して広げた」

「そんなことができる杖があるなんて……すごいね!」


 レイディンはまじまじと杖を見つめた。


「適当に範囲魔法を撃ちに行こう。害虫駆除だ」

「わかった」


 レイディンはジスと一緒に昆虫系の魔物を範囲魔法で倒し続けた。


「どうかな?」

「範囲魔法をこれほど使えるのは嬉しい。滅多にない機会だ。しかも、全然疲れていない」

「装備のせいだよ。少ない魔力で最大の効果を出せている」

「いい装備を持っているね。ほしくなるよ」


 ジスが優しく微笑む。


「その気持ちはとてもよくわかる。良い装備があると負担が減る。効率よく魔物を討伐できるからね」

「だよね」

「毎日虫ばかりを相手にするのは気が滅入る。だから、上位の魔物を放つ」


 ジスの周囲に多くの魔法陣が浮かび上がった。


「小鳥だね」

「行け!」


 ジスの命令に従って、次々と召喚した小鳥が羽ばたいていった。


「この辺の虫を食べてくれる」

「エサにするわけか」

「今度は別の場所に行こう。あの鳥を風魔法で撃ち落とす。練習したあと、どちらが多く撃ち落とせるかを競争するのはどうかな?」

「行く!」


 レイディンは喜々として答えた。


「フォレスト・エルフは矢を使う。それでは魔物を倒して終わりだ。魔法を使った狩りなら、威力を弱めることで魔物を気絶させることができる。捕まえてここに放てば、虫を食べてくれる。虫ばかりを退治する必要はなくなるし、範囲魔法が使いにくい場所にも有効だ。森を範囲魔法で破壊することなく虫を減らせる」

「なるほど」

「転移する。杖をしっかり持っていて」

「楽しみだ!」


 ジスとレイディンは小鳥を捕まえに向かった。


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