34 他の種族の町
朝食を食べたセレスティーナは太らないよう散歩をすると言って家を出た。
嘘はついていない。
あくまで散歩。
セレスティーナはあまり自分が通ったことがないルートを通りながら、ヴィラージュ城へ向かった。
「セレスティーナ」
氷のエレベーターで城の屋根に行くと、ジスが現れた。
「おはよう。今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
セレスティーナはまたジスと出かける約束をしていた。
あくまでも散歩程度のもの。デートではない。
「どこがいいのか、決めかねている」
ジスは答えた。
「私とセレスティーナは種族も育った環境も生活の仕方も違う。人間の女性はどんな風に一日を過ごすのか、男性とどんな場所に出かけるのか教えてほしい」
セレスティーナは人間の貴族の女性がどのように一日を過ごすのか、男性とどのような場所に出かけるのかを大まかに教えた。
「とても興味深い。フォレスト・エルフの生活とは全く違う」
「当然ですわ。森の中に住んでいませんもの」
「人間の町に行く? それとも他の種族の町に行こうか? セレスティーナなら私の屋敷に招待してもいい」
いきなり自宅に招待するとか!
セレスティーナは驚いたが、それだけ特別視されている証拠だと感じた。
「人間の町以外の選択肢がいいですわ」
淑女は自分から男性の屋敷に行きたいとは言いませんのよ。
王宮は国王のものだが、父親の職場に入り浸っていただけというのがセレスティーナの考え。
「私の屋敷に行こう。そこで着替えてから他の種族の町に行く。セレスティーナに装備を貸すから着替えてほしい」
「ジスは女性用の衣装を持っているの?」
「男女兼用の装備だよ。ローブ、コート、アクセサリーだ。美しく着飾りながら防御力も上げることができる。他の種族の町は人間にとっては危険なこともある。普通の衣装ではない方がいい」
「そうですのね」
「では、行こうか」
ジスの差し出した手にセレスティーナは手を乗せた。
「私から離れないように」
ジスは優しくセレスティーナを抱きしめた。
「転移してもいいかな?」
「いつでも」
転移魔法が発動して二人の姿が消えた。
「侍女だ」
転移した先は豪華な部屋で、美しい衣装を着た美少女たちをセレスティーナは紹介された。
「ホテルと違って屋敷は管理しないとだからね。執事や侍従もいる」
「男性の従者もいますのね」
「まずは衣装部屋に行くといい。二人が案内する。私も出かける準備をしてくる」
「わかりましたわ」
セレスティーナはいくつもある衣装部屋から美しい刺繍のある豪華なローブとコートを選んだ。
「少しお待ちください」
侍女が淹れてくれたお茶を飲んでいると、ジスが来た。
「待たせてしまった?」
「それほどでもありませんわ」
「これを」
ジスはポケットから美しいアクセサリーを取り出すと、セレスティーナにつけた。
「似合っている。セレスティーナがより魅力的になってしまったね。私以外の者は目に入れなくていいよ」
セレスティーナはクスリと笑った。
「せっかく他の種族の町に行くのに、何も見ることができないのは困りますわ」
「珍しいアクセサリーを扱う店に行く。私の嗜好とセレスティーナの嗜好を教え合うにも丁度良い」
「わかりましたわ」
ジスとセレスティーナは転移魔法で移動した。
「ここは?」
古びた感じのする石造りの街並み。
「コンヴィという町だよ」
セレスティーナは周囲を見渡した。
誰もいない。
「他の種族の町ですわよね?」
「そうだよ」
「誰もいませんわ」
「日中はね」
「なぜですの?」
「幽霊族だからだ」
え……???
セレスティーナの足が止まった。
「この町には幽霊族が棲みついている。夜になると姿をあらわすけれど、セレスティーナとは日中に来た方がいいかもしれないと思ってね」
「お店に行くはずでは?」
「誰もいないからゆっくり見ることができる。貸し切りだよ」
それは、まあ、そうかもしれませんけれど……。
やがて、古びているものの立派な感じがする店に到着。
ジスはドアを開け、勝手に店の中に入った。
ガラスケースがあり、その中にはさまざまな宝飾品が飾ってある。店内は薄暗いものの、人間の町にある宝飾品店と同じだった。
誰もいない宝飾品店だなんて……不思議ですわ!
セレスティーナは予想外の状況に驚きながらも、経験したことがない状況を楽しんでいた。
ジスは一階の宝飾品には見向きもせず、上階へ続く階段へ向かった。
「上の階に行くほど良い品がある」
ジスが足を止めたのは六階。
「疲れていない?」
「平気ですわ」
セレスティーナは驚いていた。
階段を休むことなく六階まで昇った。だというのに、全く疲れていなかった。
「衣装替えをしてきてよかった。負担を軽減してくれる」
「ああ、それで」
謎が解けたとセレスティーナは思った。
「先に注意しておく。見るだけだ。絶対に触れてはいけない。夜にならないと買えないからね。勝手に店の商品を持って行こうとすると、呪われてしまう」
「それなら盗まれずに済みますわね」
「そうでもない。時々、ここが幽霊族の町だと知らずに来る者がいる。無人だと思って何かを持って行こうとすると、呪われてしまう」
「大変ですわ!」
「呪われてしまった者はそうだね。でも、幽霊族にとってはその方がいい」
セレスティーナはピンときた。
「呪いで幽霊族を増やすのかしら?」
「セレスティーナは優秀だね。日中の町は幽霊族を増やすための罠になる。コンヴィは罠という意味だよ」
「勉強になりますわ」
「一緒に見よう。呪われた宝飾品をね」
「確かに珍しいアクセサリーを扱っている店ですわね」
二人は順番にガラスケースに収められた美しい宝飾品を見て回った。
「では、これにしようか」
セレスティーナの目に留まったのは雪の結晶が連なったようなデザインのネックレスと揃いのイヤリング。
「夜になってからここに来て買えば、呪われませんの?」
「幽霊族との交渉がまとまればだけどね。一旦、外に行こう。店の中で魔法を使うのは不作法だ。そのせいで呪われたくない」
「気をつけないとですわね」
店の外に出た二人はもう一度転移した。
今度は美しい部屋の中。だが、セレスティーナの知らない部屋だった。
美しいベッドもあるということは、寝室だった。
「またホテルですの?」
「セレスティーナが住んでいる国とは違う人間の町だよ」
ジスがピアスに触れると、尖った耳が普通の耳になった。
「歩いて宝飾品店に行く。夜の買い物に備えないと」
セレスティーナはまたもやピンと来た。
「さっきのネックレスやイヤリングと交換してくれそうな宝飾品を買いに行きますの?」
「どうしてわかってしまうのかな? 私の心を読める魔法を使っている?」
「勘ですわ。私、鋭い方ですのよ」
セレスティーナは正解したことに満足しながら微笑んだ。
宝飾品店には美しく素晴らしい宝飾品が多くあった。
セレスティーナはネックレスとイヤリングを一つずつ買えばいいと思ったが、ジスはさまざまな宝飾品を購入した。
「お金持ちなのは本当のようですわね」
ジスは銀行の小切手を取り出し、かなりのゼロがついた金額を支払った。
支配人や担当の店員も笑顔とお世辞のオンパレード。最上級の対応をしていた。
「問題は夜だ。交渉がうまくかないと、あの宝飾品を手に入れることはできない」
「どのように交渉するのか興味がありますわ」
「一緒に行こうとは言えない。夜の外出は反対されるだろうからね」
「ジスに会うことも秘密ですもの」
フォレスト・エルフにはジスのことをよく思わない者が多くいる。
セレスティーナが悪く思われないようため、会うのであれば秘密にするという約束をしていた。
「朝の散歩で城の屋根に来てくれたら、交渉がどうなったのかがわかる」
「だったら行きますわ。気になりますもの」
「では、明日だ。必ず手に入れてくるよ」
「楽しみですわ」
ジスと一緒なら楽しい毎日が送れそうですわね!
セレスティーナは心からそう思った。




