33 ジスとの再会
次の日。
セレスティーナはジスを探しながら領都を散歩していた。
「疲れましたわ……」
どこかでゆっくり休みたいと思ったセレスティーナは、前にジスと会った場所――ヴィラージュ城の屋根の上へ行くことにした。
「《氷の円盤》《氷の柱》」
ひと気のない所でセレスティーナは得意の氷魔法を使った。
足元にできた氷の円盤を、下から突き上げるように伸びていく氷の柱が押し上げる。
あっという間に屋根の高さ。
使いたい時だけ作る氷のエレベーターだった。
セレスティーナが屋根に飛び移って氷のエレベーターを消すと、
「そうやって屋根の上に来たのか」
会いたいと思っていた人物の声がした。
「ジス!」
「ここに来たら、また会えるかもしれないと思ってね。セレスティーナはとても優秀な氷の魔導士だったようだ」
「否定はしませんわ」
セレスティーナは微笑んだ。
「でも、その方法は昇りにしか使えない気がする。降りられるのかな?」
「問題ありませんわ。氷の階段か滑り台を作ればいいのですわ」
「なるほど」
「特別に見せてあげますわ」
セレスティーナは氷でできた螺旋状の滑り台を作った。
「一緒に滑ってみませんこと?」
「一緒に?」
「こっちですわ」
セレスティーナはジスの手を掴むと、滑り口まで来た。
そして、横棒を作る。
「掴まって」
「ただの棒に掴まる意味が?」
「すぐにわかりますわ」
「冷たい?」
「防御魔法ぐらい使えるでしょう?」
ジスは苦笑しながら氷の手すりを掴んだ。
「両手がいいですわ。スピードが出ますの」
「わかった」
「行きますわよ!」
セレスティーナも氷で出来た横棒を両手で握り、一気に魔力を込めた。
するとたちまち氷が伸びていき、立ち乗り式のそりが出来上がった。
「風で押そうか?」
ジスが言い終わる前にソリはゆっくりと動き出した。
ソリの後方に氷を作り、傾かせればいいだけだった。
「何もしないで。うまく止まれなくなってしまいますわ」
二人を乗せたソリは、螺旋状の滑り台をぐるぐると回りながら一気に下まで滑り降りた。
「感想は?」
「面白かった」
ジスは笑顔で答えた。
「氷魔法をこんな風に使うなんて、驚くべき発想だよ。セレスティーナは氷の女神?」
「褒められるのは嬉しいけれど、本物の氷の女神に嫉妬されたら困りますわ」
「嫉妬されないほど遠くへ行けばいい」
「空を飛んで?」
「別の方法もある」
「どんな方法?」
「知りたい?」
「私も教えましたわ。ジスも教えるのが筋ではないこと?」
「許してくれるなら」
「何を許せばいいのかしら?」
「セレスティーナを抱きしめることかな」
セレスティーナの心臓がドクンと大きな音を立てた。
「なんですって?」
「数秒だけでいい」
セレスティーナはピンときた。
前世の記憶のおかげで。
「数秒だけですわよ」
「セレスティーナは寛大で」
ジスが手を伸ばす。
「知りたがりだね」
セレスティーナはジスに抱きしめられた。
次の瞬間、魔力の気配が一気に膨れ上がる。
その凄まじさに驚くセレスティーナを強く抑えつけるように、ジスの手に力が込められた。
ジスの胸板に密着状態になったセレスティーナは、自分の鼓動がジスに伝わってしまうのではないかと思った。
やがて、
「どこにいるか見てほしい」
ジスはゆっくりと手と体を離した。
セレスティーナは目を見張る。
城の屋根の上にいた。
「転移した。一瞬で別の場所に行ける魔法だよ」
やっぱり!!!
セレスティーナは興奮した。
「この魔法は秘密だ。使える者がほとんどいない。このような魔法があることさえ知られていないからね。セレスティーナには特別に教えたけれど」
「嬉しいですわ」
セレスティーナはジスから教えてもらえたことを喜んだ。
「これなら氷の女神の嫉妬からも逃げられそうですわね」
「買い物にも使える。一緒にアイスクリームを買いに行こう」
「ヴィラージュにアイスクリームを売っているお店はありませんわよ?」
「別の都市に行けばある。君の手掛けた店がね」
「転移魔法で?」
「セレスティーナと一緒にアイスクリームを食べたい。嫌かな?」
「構いませんことよ」
「良かった」
ジスがもう一度セレスティーナを抱きしめると、転移魔法が発動した。
「ここ?」
てっきり店の前に転移すると思っていたセレスティーナは、豪華な部屋にいることに驚いた。
「アイスクリームを買いに行くと言ったのに、嘘をつきましたの?」
警戒しながらセレスティーナは尋ねた。
「買いに行く前に準備をしないと」
「寝室で?」
「すぐにわかる」
ジスはベッドのへりに腰かけると、手をかざした。
大きな袋が召喚され、ベッドの上にドサッと落ちた。
「硬貨?」
「勘がいいね」
ジスが紐をほどき、中身をざっと出す。
さまざまな種類の硬貨があった。
「アイスクリームを買うには小銭が必要だ。しかも、この国の硬貨でないといけない」
「理解しましたわ」
転移魔法の使い手であるジスはさまざまな国に行けるため、各国の硬貨を持っている。
アイスクリームを買いに行くには、支払いに使える硬貨を用意する必要がある。
「国ごとに分けておくべきですわ」
「最初はそうしていた。でも、どの袋にどの硬貨が入っているのかわからなくなってしまった」
どの国の硬貨が入っているかわからない小袋を何度も召喚するより、さまざまな硬貨が入っている大袋を一回だけ召喚した方がいい。必要な小銭を早く探せるとジスは答えた。
「これは大袋の一つだ。同じような袋がまだある」
「小銭持ちですのね」
「紙幣も数えきれないほどある。そのせいで小銭を使うことが少ない」
ジスはため息をついた。
「アイスクリームを買う時は小銭を使うと決めている。探すのを手伝ってくれないかな?」
「仕方がありませんわね」
セレスティーナもベッドのへりに腰かけ、小銭の中から王国貨幣を拾った。
「これぐらいでいいですわ。アイスクリームですもの」
「値上がりしているかもしれない」
「そんなに高くないですわ」
「小袋に移す」
ジスは水色の小袋を召喚した。
「セレスティーナの衣装が水色だから、小袋も水色にした。アイスクリームを買う時は、水色の小袋を召喚すればいい」
「そうですわね」
「歩いていく。転移魔法は秘密だからね」
ジスがピアスに触れると、尖った耳が普通の耳になった。
「エルフであることを隠すピアスですの?」
「とても便利なピアスだよ。私にとってはね」
「わざわざ隠す意味が?」
「場所による。エルフが少ないところでは目立ってしまうからね。無用なトラブルは避けたい」
必要ない硬貨を収納魔法でしまい、二人は寝室から居間を抜けて廊下に出た。
「ここは……ホテルのようですわね?」
「さまざまな場所に行けるようホテルの部屋をずっと借りている」
「お金がかかりそうですわ」
「稼ぐのは簡単だ」
「どうやって稼ぎますの?」
「貴重なものを売る」
「例えば?」
「飛竜の鱗とか」
セレスティーナは驚愕した。
「確かにお金になりますわね」
「私にとってはごみでも、ほしがる者が大勢いる」
「ごみですって?」
「飛竜は弱い。一匹倒せば、数えるのが面倒なほどの鱗が手に入る。高く売れるのが不思議だよ」
飛竜を弱いとか……。
ジスの強さをセレスティーナは感じた。
嘘とも思えない。転移魔法の使い手ゆえに。
「でも、飛竜はなかなかいませんわ。そのせいではなくて?」
「魔境にいる。私なら簡単に生息地に行けるからね」
転移魔法を使えばいいだけですものね。
二人は歩いてアイスクリーム店へ向かった。
セレスティーナはチョコレート味、ジスはバニラ味のアイスクリームを買った。
「美味しい?」
「普通ですわ」
セレスティーナの事業は王国中に拡大しており、地方でも大都市であれば店がある。
アイスクリームの味よりも、ジスが転移魔法でヴィラージュから遠く離れた大都市まで行けることの方が、セレスティーナにとっては特別だった。
「いつもよりも美味しい気がする。セレスティーナのおかげだ」
「誰かと一緒に食べると美味しくなるのですわ」
「違う。セレスティーナだからだよ」
お世辞だとしても、セレスティーナは嬉しかった。
「付き合ってくれたお礼をしたい。何か買ってあげようか? ほしいものはある?」
「ないですわ」
氷菓事業のおかげで、セレスティーナは裕福。
ほしいものは自分で買えばいい。
ジスに買ってもらいたいものはなかった。
「してみたいことは?」
セレスティーナはじっとジスを見つめた。
「魔境に行ってみたいですわ」
「ヴィラージュは魔境だ」
「奥地のことですわ。飛竜がいるのでしょう?」
「飛竜を見たい?」
「見たいですわ。まだ、一度も本物を見たことがありませんの」
「移動しよう。まずはホテルに」
二人はホテルへ戻り、それから転移した。
「ちょっと」
セレスティーナはジスを睨んだ。
「ここはどこですの?」
二人がいるのは砂漠。
「魔境だ」
「ここに飛竜が?」
セレスティーナはキョロキョロと周囲を見回した。
「ここにはいない。飛竜の生息地は危険だ。観光気分で行くのは感心しない」
「だったらなぜここに?」
「周囲を気にせず呼べる」
魔法陣が浮かび上がった。
その中に現れたのは飛竜。
「この飛竜は移動用のペットだ。攻撃しないでほしい」
「飛竜をペットにしているなんて!」
「乗ってみたい?」
「もちろんですわ!」
「わかった。一緒に空の散歩を楽しもう」
本物の飛竜を見るだけでなく、乗れるなんて!
セレスティーナは目を輝かせた。




