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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第四章

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30 魔人の息子



 レイディンは一人で森へ来ていた。


 ……全部焼けた。何もない。


 森林火災で焼けた場所に来たレイディンの胸に込み上げたのはむなしさ。


 そして、


「まるで僕がやったみたいだ」


 レイディンが最も得意とするのは火魔法。


 強力な火魔法を広範囲で使うことも可能だが、使ってはいけない。


 なぜなら、使う必要がない。


 王国はまあまあ平和だった。


 他の国と戦争をしているわけでもなければ、全国民から兵士を募って魔物を討伐しなければ滅亡しそうということでもない。


 ヴィラージュ以外にも魔物は生息しているが、レイディンにとっては雑魚。簡単に倒せてしまう。


 むしろ、弱い魔法でも効果が高過ぎるため、周囲に被害を与えないよう抑えなければならなかった。


 もっと強い相手と戦いたい。勝利することで強さを証明したい。


 王子だからではなく、レイディンの実力を認めた人々から尊敬され、賞賛されたい。。


 そうなればどんなに誇らしく気持ちがいいだろうかとレイディンは思っていた。


「母上の気持ちもわからないわけじゃないけどね」


 自分の思うまま生きたい。人生を楽しみたい。やりがいを感じたい。


 人間の国を自分の好きにできれば気持ちがいい。自分の好きなものばかりが詰まった世界を作り上げたいという考え。


 だが、レイディンは王子として生まれた。


 父親と兄がいなくなるだけで国王になり、国を好きにできる。


 簡単過ぎて面白くもなんともなければ、やりがいも感じない。


 そもそも、国王になったところで面倒なことを多くこなさなければならない。


 母親が教えてくれた華麗に早く多くの書類にサインをする方法は、父親の執務負担を減らしてデート時間を多くするためのものでしかない。


 自分に従うかどうかもわからず、不平不満を垂れ流す者も含まれる国民まで守る気などさらさらない。


「やっぱり無理だ。母上の気持ちなんてまったくわからない!」


 一生遊んでいたいというのがレイディンの望み。


 そして、それは魔境に行けば叶うはずだった。


 なぜなら、王太子の務めの一つは前世の知識における遊びと同じ――魔物討伐。


 少し歩けば魔物と遭遇。


 アイテムを集め、店に売り、金を貯めて装備を買ってもいいが、面倒なら最終ボスまで直行。勝利。最速クリア。伝説を作る。


 乙女ゲームの設定と同じ世界であっても、転生した意味はあった。魔物がいなくなって世界を救う目的を果たした。


 そうなると思ったのにな……。


 レイディンの予想と期待はことごとく裏切られた。


 何度も夢見た兄弟無双もできていない。


「兄上にとって、ヴィラージュは領地育成のゲームと同じだ」


 強力なモンスターの生息地に危険を冒していき、次々と倒していく必要はまったくなかった。


 弱い魔物、生命力が強い植物をうまく活用すればいいだけ。


 強い魔物が奥地にいても関係ない。奥まで行かない。こっちに来なければいい。


「あーあ、つまらなくて退屈だな」


 レイディンは焼けた森の残骸とも言うべき場所を歩いた。


 自分が強力な魔法で広範囲の森を焼いたのであれば、今と同じような状況になる。


 それでスッキリするか、やりがいを感じるか、満足するかといえば、否だった。


「もっと、奥に行けば違うかな?」


 奥へは行くなと言われていた。

 

 危ないから。レイディンが大切だから。


「わかっているけれど、僕は子どもじゃない。大魔導士だ。それに」


 魔人の息子。


 レイディンは歩いていく。奥だと思う方へ向かって。


 強い魔物と遭遇しないかな?


 だが、その期待はまたもや裏切られた。


 何もいない。


 恐らくは大火災が起きたせいで、付近の魔物は逃げた。


 巻き込まれたら焼け死ぬだけに、当然の行動。


「もっともっと奥に行かないとか」


 だが、あまりにも遠くまで行くと、夕食に間に合わない。


 王宮よりもはるかに小さな家、同居人全員で食卓を囲み、美味しい食事を食べる時間がレイディンは好きだった。


 大好きな兄だけでなく、個性のある同居人全員のことを気に入っている。


 食いしん坊のキティ、クールで有能なリオン、面倒だが口癖のくせに面倒見が良いエアリス、知識欲と研究熱に溢れた薬師兼調理人のミント、悪役令嬢になりきれない腐れ縁のセレスティーナ。


 大パーティーだけど、全然ありだ。


 一緒に旅をする仲間だったとしても、問題ない。


 優秀な戦闘メンバーばかり。ミントは食事係。キティは今のところ癒し係だが、優れた嗅覚と聴覚は普通に活用できる。成長すればリオンのように役立つのは間違いない。


 いずれ美少女に成長したキティに抱きつかれてあたふたする兄の様子を想像したレイディンは、おかしくて羨ましくなった。


 兄上は愛されているからな……。


 レイディンも愛している。たった一人の兄を。母親が違ったとしても、大切な兄弟として。


「帰ろう」


 兄の元へ。みんながいる家へ。


「手土産があれば良かったのに」


 何もない場所をうろうろしていただけで時間が過ぎてしまった。


 レイディンはキョロキョロと周囲を見渡した。


 誰もいない。気配もない。


「大丈夫かな」


 近道をするために、レイディンは特別な魔法を使った。


 転移魔法。


 魔人である母親に教えてもらった特別な魔法だった。


 膨大な魔力が必要だが、魔人の息子であるレイディンならできる。


 魔力が溢れ、膨れ上がり、消失した。


 発動と同時に発生した光はすぐに残照になり、空気の中に溶けていった。





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