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婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第四章

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29 すごい客



 ミントは自分の家に来ていた。


「ここに来ると、現実を感じます……」


 どの部屋も物、物、物だらけ。


 ミントはアーネストの家に住み込みをしているが、自分の家を完全になくせない事情がある。


 それは薬師としての作業場と店が必要だからでもあるが、かなりの物持ちだからでもあった。


「結構アーネスト様の家に持っていっているのに、全然減った感じがしません!」

「本にゃ」


 キティが倉庫部屋の中にある本を見つけた。


「見たいにゃ」

「いいですけれど、読めませんよね?」

「ペラペラにゃ」

「ペラペラ? ああ、めくって遊ぶわけですね!」


 キティが本をペラペラとめくっている間に、ミントは倉庫部屋にある本を集めた。


「結構ありますね……」


 しかも、ほとんど読んでいない。


 ヴィラージュに来てからは何かと忙しかったせいで、ゆっくり本を読む暇がなかった。


「いっぱいにゃ」

 

 キティは積み重なった本の山を見上げた。


「おうち、作れるにゃ」

「キティだったらそうですね。積み木代わりになりそうです」

「ミント、お勉強いっぱいにゃ」

「あ、ここにあるのは読んでいないです。とても安かったので手に入れたり、他のものを買った時におまけでついてきたようなものばかりです」


 ヴィラージュを出ていく人々は余計な荷物を破格の値段で処分していた。


 ただでさえ辺境のせいで物価が安く、ありとあらゆるものが叩き売り状態だったのもあり、家まで激安。


 だからこそ、ミントでも一軒家を持っているともいう。


「ほしいにゃ。ペラペラするにゃ」

「いいですよ。店番をする時に見てください」

「わかったにゃ」


 キティはよっこらしょと言いながら何冊も本を持ち上げ、店の方に運んでいった。


「少しずつでいいですよー!」

「力持ちにゃ!」


 確かに……。


 ミントから見るとキティは人間の幼児ぐらいだが、思った以上に力持ち。足は相当速い。会話をしていると、人間のような勉強はしていなさそうなのに、頭が良さそうだと感じる。


 キティの兄のリオンも同じ。前世で言うところの中学生程度の少年に見えるが、人間よりも優秀だと感じることが多い。


 猫族はそういう種族なのだろうと思っていたが、ウサギ族のニンウィーも同じ。人間よりも上という感じがする。


 魔境という厳しい環境で生きているからこそ、早く大人になるのかもしれないとミントは感じていた。


「私も頑張らないとです!」


 ミントはできるだけ多くの本を持ち、いつでもキティが読めるように店の方へ持っていった。


「ここに本を置いておきます。絵本もありましたよ」

「わかったにゃ」


 その時だった。


 ドアが開く。店に入って来たのは優しそうな美青年。


 銀髪。紫の瞳。耳が尖っている。


 エルフだとミントは思った。


「いらっしゃいませ?」


 ミントは声をかけた。


「ここは本屋かな? 薬屋だと聞いたけれど」

「薬屋兼雑貨屋です! この本は店番のために運んでいます」

「賢い子どものようだ」

「あ、えっと、ペラペラめくって遊んでいるだけです」

「なるほど。植物の買い取りもしていると聞いたけれど、あっているかな?」

「あ、はい!」


 買い取り希望の客だとミントは思った。


「でも、何でも買い取るわけではないです。ものによります。売っている品物と交換することもできます」

「これはどうかな?」


 袋から取り出されたのは太い根っこのようなものだった。


「クークマと言う」

「聞いたことがない名前です」

「薄く切って干してから粉にして使う。スパイス、染料、薬になる。干すのが面倒でね。手放したい」


 エルフあるあるですね……。


 面倒だが口癖のエアリスをミントは思い出した。


「別の土地では、ターメリックという名称だ」


 ターメリック! 調味料ですね!


 ミントはぜひともほしいと思った。


「シチューやパンに混ぜると、綺麗な黄色になる。貨幣や花茶と交換してもらえると嬉しい」

「わかりました!」


 ミントは自分がブレンドした花茶を数種類持って来た。


「これは私の店で一番人気がある商品です」

「随分、香りが少ない」

「すみません。私が作る花茶は香りが控えめなのです」

「花の香りが少ない分、できるだけ多く交換してほしい。他にも花の香りがするものがあれば、交換したいと思うかもしれない」

「石鹸もあります」


 ミントは花の香りがする石鹸を持って来た。


「どれも香りが控えめだ」

「すみません。ほのかな香りの方がいいかなと思って」

「なぜ?」

「慣れてしまうからです。どんどん強い香りがほしくなってしまいます」


 多くの人は良い香りがする者を好むが、その香りに慣れてしまうと気づきにくくなる。


 それを防ぐため、あえて香りを抑えていることをミントは説明した。


「好き嫌いの差が出にくいのもあります。香りが強いと、臭いと感じる人もいますので」

「個性的だ。やはりさまざまな店に行くと、他にはない品に出会える」

 

 空中に魔法陣が次々と浮かび上がった。


「君はすぐに謝る。控えめな性格で善良な証拠だ。自らの感性を活かし、独自の商品を作る努力もしている。役に立つものがあるか見てほしい」


 さまざまな花や香草が出て来た。


「ほしいものがあるなら交換するよ」

「すごいです! ほしいものがたくさんあり過ぎて……王国貨幣と交換しても、全然足りない気がします」

「新しく発行された領貨はあるかな? 王国貨幣よりもそっちの方がほしい」

「ありますけれど、たくさんはないです」

「少なくてもいい。私にとっては王国貨幣よりも領貨の価値の方が高い」

「えっ、どうしてですか?」


 ミントは驚いた。


「発行されたばかりで珍しいからだよ。綺麗なのもいい。王国貨幣は汚れている」

「ああ、流通するほど、何度も使いまわされますからね」

「私は美しいものや綺麗なものが好きだから」

「なるほど!」


 話し合った結果、ミントが持っている領貨とできるだけ交換。それ以外は珍しい花や香草を使ったブレンド茶や石鹸を作り、特注品として渡すことになった。


「何日ぐらいかかるかな?」

「干したり乾かしたりする必要があるので、お天気次第です。取りあえず、二週間ほどいただいてもいいですか?」

「わかった。君の名前は?」

「ミントです」

「とても爽やかな名前だね」


 多くの女性が見惚れそうな微笑みだったが、ミントは違った。


 ハーブの名前ですしね! 


 薬師で料理の趣味を持つ自分にぴったりだと感じ、名前の方に惚れ惚れしていた。


「二週間後にまた来る。状況次第では別の日になるかもしれない」

「わかりました。保存が効くものなので遅くなっても大丈夫です」

「失礼するよ」

「ありがとうございました!」


 ミントはしっかりお辞儀した。


 それを見た美青年の客は驚き、笑みを浮かべた。


「ミントは変わっている。面白い」


 ドアが静かに閉まった。


 しばらくしてから、ミントは深呼吸した。


「なんか……すごいお客様でした」


 ミントの店に来る客はほぼ領都に住む人間。


 アーネストつながりで猫族やウサギ族も来るが、エルフはほとんど来たことがなかった。


「こんなにたくさんの植物が持ち込まれたのは初めてです。特注もしてくれましたし、お得意さんになってくれたら嬉しいですけれど」


 いつのまにか椅子に座っていたキティがミントのそばに来ており、スカートに隠れるようにしてしがみついていた。


「怪しいにゃ」

「怪しい、ですか?」


 ミントは首をひねった。


「エルフっぽくないにゃ」

「どう見てもエルフでしたよ? 耳が尖っていましたし」

「空気にゃ」

「空気? ああ……雰囲気ですね」


 ミントは気づいた。


「それはまあ確かに。あれほど優しい感じがするエルフって見かけない気がします」


 エルフは高慢、不愛想、面倒くさがりというのが三大印象。


 エアリスが体現していますね!


 ミントはそう思った。


「紫にゃ」

「あっ! それは私も気づきました」


 フォレスト・エルフは銀髪に緑の瞳。


 他の色合いもあるのかもしれないが、紫の瞳を持つエルフをミントは見たことがなかった。


「旅の人かもしれませんね」


 ヴィラージュは魔境と呼ばれるほどの辺境。


 だが、全く人が来ないというわけでもなく、旅人が来ることは普通にある。


 どんなところなのか見物しに来る者もいれば、魔物退治で儲けようと思う者、行商人もいる。


 しかし、さびれた領都の様子や現地の情報を聞いて失望、他の場所へ流れていくのもまた普通だった。


「最近、旅人の数が少しずつ増えているそうです。でも、定住者は増えないというか」

「増えたにゃ。キティにゃ」

「そうですね。領都にようこそ!」


 ミントはそう思いながらキティの頭を優しく撫でた。


「取りあえず、交換したものを整理しないと」

「待つにゃ」


 キティは椅子を持ってくると、エルフが持ってきたものを取り、くんくんと匂いを確かめた。


「毒はないにゃ」

「匂いでわかるのですね。さすが猫族です!」

「お手伝いにゃ! 毒見にゃ!」

「そうですね! 食べる方ではなくて、嗅ぐ方ですけれど」


 二人は笑顔で頷き合い、整理と手伝いに取り掛かった。


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