26 召喚魔法の使い方
トントントン。カンカンカン。
金槌の音が風に乗って響き渡る。
ヴィラージュで、建築ラッシュが始まった。
移住してきたウサギ族のための住居作りとウサギ族の村の拡張、フォレスト・エルフとの交流をより促すことを目的としたツリーハウス村の拡張が決定した。
「アーネスト様、お茶を飲みませんか?」
ミントがやかんと木製カップを持って来た。
「ありがたい。もらえるだろうか?」
「今日のお茶は麦茶で百ヴィルです」
ミントは薬師をしているが、その収入は決して多くはない。
アーネストのおかげで住む場所や食事は確保できているが、必要品や商売用の資金を得るためにも、お茶の移動販売を始めることにした。
とはいえ、かなりの親切価格。
ミントの販売しているブレンド茶葉をアピールするための試飲が主目的だった。
「カップを貸し出す場合は百ヴィル追加、買うなら五百ヴィル追加です」
「カップも売るようになったのか」
「カップを売ってほしいと言われたので」
「カップも買う」
アーネストはポケットから六百ヴィル分の領貨を取り出した。
「ありがとうございます!」
「カップの売れ行きがいいと、お茶を販売できなくなるのではないか?」
「大丈夫です。売るのはリオンとエアリスが作った新しいカップだけなので」
貸し出し用のカップは前からあったカップ、売るのはリオンとエアリスが新しく作った新品のカップのみ。
新しいカップがなくなったら、カップは貸し出しのみということになる。
「二人が作っているのか。小物を売る商売を始めるつもりだろうか?」
「そうです」
エアリスは錬金術師が本業で、アーネストの森の案内人も務めていた。
だが、大火災があったせいで森の状況は変化してしまっているため、森の案内人としてアーネストから多くの報酬を得るのは考え直すべきだとエアリスは思った。
そこでヴィラージュで報酬を得るための商売をしようと考え、リオンと話し合って木製品の制作を試すことにした。
「リオンが大まかに削って、エアリスが最後の仕上げをしています」
「分業しているのか」
「木くずがすごいです。でも、着火剤に使えるので、風で吹き飛ばさないよう言ってます」
「エアリスなら吹き飛ばすだろうからな」
「キティがお掃除してくれるので助かります」
これまでは味見が主な手伝いだったキティも、少しずつミントの真似をして家の中のことを手伝うようになった。
ほうきとちりとりの扱いを覚えるために、木くずを集めながら練習している。
「私が販売分で百、リオンが削る分で百、エアリスは仕上げと材料の仕入れで二百、キティが掃除分で百です」
「キティも稼ぐのか」
「お小遣いを貯めて、お菓子を買いたいみたいです」
「私が菓子を買う。いくらあればいい?」
「アーネスト様は優しいです。でも、これも勉強ですので」
「なるほど」
「兄上ーーー!」
レイディンが大きな巻紙を持って来た。
「見てほしいのですが?」
「わかった」
「レイディン様、お茶はいかがですか?」
「花茶?」
「今日は麦茶です」
「もらう」
「百ヴィルです。カップの貸し出しは百ヴィル追加、買う場合は五百ヴィル追加です」
「カップも売り始めたんだ?」
「今日からです。でも、沢山はありません」
野外に設置されたテーブルの上に巻紙を置くと、レイディンはポケットを探った。
「お釣り、ある?」
取り出したのは王国貨幣、しかも紙幣の方。
「王国貨幣は嬉しくないのですが、仕方がないですね」
ミントはお釣りを渡し、カップにお茶を注いだ。
「どうぞ」
「カップ付きとはいえ、麦茶が一杯六百か。ヴィルだから安いけれど。数字的には高く感じる」
「嫌なら水を飲んでください。無料です。手ですくえば、カップもいりません」
「そう言うと思った」
レイディンはお茶の香りを確かめる。
「香ばしい……コーヒーが飲みたくなる」
「ここにはありません」
「わかっているよ。だから、これがコーヒー代わり」
レイディンは麦茶を飲んだ。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます。では!」
ミントはお茶を売るために行ってしまった。
「思いつかなかった」
レイディンが持って来たのはヴィラージュの地図。
現在はすでにある領都の周囲を大まかに柵で囲い、さまざまなものを作っていた。
だが、レイディンはきっちりと区画整理を行い、柵を二重にして道路を作ることを考えていた。
「馬車が通る道をしっかりと作った方がいいと思って」
「そうだな。だが、草が生えやすい」
「石で舗装すれば草が生えにくいのではないかと」
「石を集めるのが大変だ」
「焼きレンガを作ればいいのでは?」
「そうか! レンガがあった!」
「このままだと適当に都市化が進んでしまい、あとで大変になると思います。今のうちにしっかりと整備した方が、新しい何かを作る時にも区画を決めやすくなります」
「さすがレイディンだ。私よりもしっかりと考えている」
「兄上も必要なものを作ってはいましたが、細かくこだわってはいませんでした。最初は施設を作ることが大事ですが、だんだんと将来を見据えた修正や改善をしないといけません」
「やはりレイディンが王太子になってよかった。私にはそういったことが考えつかない」
前世で町づくりのゲームをしていたからね!
レイディンは心の中で答えた。
「現在、放牧場や飼育場が領都の側にあります。そのせいで他の村は領都と距離があり、必要品を買いに行くのが大変です。放牧場をより外側に移し、現在の放牧場に新しい村を作ったらどうでしょうか? 住民の生活が楽になります」
飼育場と違って放牧場は柵で囲っただけの草地。
外側に新設するのは簡単だった。
「賛同していただけるのであれば、僕の方で焼きレンガの作業場を作り、測量して区画整理を実施します」
「ぜひ、頼みたい。だが、私たちだけで一方的に決めることはできない。放牧場を管理している者に意見を聞き、了承を得る必要がある」
「働きに行く方向が変わるだけなので、すぐに了承してくれると思います」
「簡単ではない。現在の放牧地にいる魔物を全て捕まえ、新しい放牧地へ移動させなくてはならい。相当な数だけに手間も時間もかかる。反対されそうだ」
「あ……」
レイディンはそのことについて考えていなかった。
「猫族の村長がなんというか」
「会ってみたいです」
レイディンはまだ猫族の村長に会ったことがなかった。
「一緒に行こう。だが、その前にモンウィーについて話をしておく。建築計画を少し変更しなければならない。道路の分を考えないと」
「そうですね」
二人は残っているお茶をぐいっと飲み干し、ベンチから立ち上がった。
「兄上、このカップはどうしますか?」
「リオンとエアリスの手作りらしい」
アーネストはカップを見て微笑んだ。
「とてもよくできている。何度も使いたい」
「そうですね」
アーネストは自分とレイディンのカップに浄化魔法をかけた。
「収納しておけばいいだろう? いつでも呼びさせる」
「やっぱりそうなりますか」
二人は自分のカップを見つめる。
その下に浮かび上がったのは収納陣。
「召喚魔法は便利だ。何でもしまえる」
「否定はしませんが、本来はもっとすごいものをしまうためのものです」
「すごいもの? どんなものだ?」
「強い魔物や珍しい魔物に決まっています」
「捕縛する方法と場所に困らなくていいな」
王都には魔物がいない。だからこそ、収納するのは武器や防具、日用品ばかり。
魔境に来たからには、本来の使い方をしたいレイディンだった。




