25 隣人で友人
朝になった。
明るくなったことで、焼失してしまった範囲は思った以上に広いことがわかった。
しかし、アーネストたちの活躍によって、大火災にしては鎮火が早かった。
防火帯より前は完全に焼け落ちてしまっている状態を考えると、ウサギ族の村が残ったのは奇跡的。
ウサギ族の全員がドワーフの洞窟まで無事逃げることができたのも不幸中の幸いだった。
「良かった!」
「無事だったのか!」
ヴィラージュに移住したウサギ族は、森に残った仲間のことが気になっていた。
避難してきた仲間の姿を見て歓声が上がる。
「アーネストたちのおかげで助かった」
「リオンが安全な方角を教えてくれた」
「ドワーフの洞窟に避難した」
「命も何もかも失わずに済んだ」
再会できたことにホッとするウサギ族。
だが、周辺がほとんど焼け落ちてしまっただけに、森の恵みが得られない。
村に残れば以前よりもはるかに苦しい生活になってしまうことを思えば、移住は必須。
突然のことにショックと不安を隠し切れない者も多くいた。
「まずは座って休もう。避難者に水を飲ませてほしい。食べ物と緊急物資を手配してくる」
「エルフの町に行って来る」
「僕は一旦家に帰る。キティとミントが心配している」
「わかった」
エアリスとリオンと別れ、アーネストはヴィラージュ城へ向かった。
森で大火災が発生したこと、ウサギ族の村が炎にみ込まれたが、全員がヴィラージュへ避難してきたことを伝えた。
「緊急物資を使う。届けるのを手伝ってくれ!」
「わかりました!」
「ただちに!」
アーネストの迅速な指示により、緊急物資がウサギ族の村に運び込まれた。
移住希望者が増えてもいいように家屋の用意はしてあったため、それらの家を活用したり、すでにある家の住人たちが協力して仲間を受け入れることが決まった。
ミントは薬師仲間に声をかけ、少しでも気分を落ち着けられるようにお茶を配った。
リオンやキティはウサギ族が好きなにニンジンを配布。
レイディンはパオンやバタータの実の焼き係、セレスティーナはそれを適度に冷まして配った。
夕食時。
火災は森の奥の方で発生したことをエアリスが話した。
「場所的に魔物が原因だろう」
森にいたエルフたちは遠方にある強い魔力をなんとなく感じとっていた。
「魔物の姿は見えなかったが?」
「すぐに奥へ戻ったのかもしれない。こちらの方に来なければ遭遇しない」
魔物のせいで発生した炎はすぐに消えず、強い風に乗って燃え広がった。
風が吹く方向のせいで、ウサギ族の村の方へ炎が向かったのだろうという推測だった。
「焼けた場所には近づくな。付近にはまだ熱気がこもっている。そこを通って奥の方から魔物がこっちの方に来るかもしれない」
「わかった」
「森と草原の境目付近の草刈りをしておいた方がいいかもしれない。草原の方が早く燃え広がる。火の扱いには要注意だ」
「わかった」
アーネストは草原の火災対策を早急に整えることにした。
翌日。
魔物に注意しながら、猫族とウサギ族が森と草原の境目付近の草刈り作業を開始した。
人間は歩道橋を使い、刈った草やを放牧地や飼育場へ運び、作業者に配布する飲食物を運んだ。
アーネスト、エアリス、レイディン、セレスティーナ、リオンはフォレスト・エルフの町にいた。
「人間は草原に住んでいる。森林火災は関係ないと思ってもおかしくないというのに、森に住む者たちのために動いてくれた。礼を言う」
アーネストたちはフォレスト・エルフの族長エルフリードから礼を伝えられた。
「エルフの町まで火が来なくてよかった」
「いざという時は魔法を使えばいい。だが、あまりにも大規模な火災になってしまうと、町を守るのは難しいだろう」
エルフは森と共生している。
森がなければ生きていけない。
「いざという時は、ヴィラージュに一時的な避難したいのだが、了承してもらえるだろうか?」
「もちろんだ」
「アーネストはそうだろう。だが、ヴィラージュの人間は違うかもしれない」
「ツリーハウスの村にいるエルフや果樹園を通じて交流している。エルフに対する理解も進み、それが安心や信用になっている」
ツリーハウスの村に住んでいるエルフは、人間に対する警戒心よりも興味の方が上回っている。
人間の方もまた同じ。
互いの知識、考え方、意見を伝え合い、理解を深め、果樹園の共同管理も含めて協力関係を築いていた。
「ウサギ族は全員がヴィラージュに移ることになった」
「ヴィラージュにはすでに一部が移り住んでいる。馴染めるだろう」
「そう思う。だが、新しく家を建てる必要がある。木材を手に入れたいのだが……」
フォレスト・エルフは森の木を伐ることを嫌がる。
ただでさえ森林火災で大量の木がなくなってしまった状況だけに、木材の切り出しについてフォレスト・エルフの理解が得られるかどうか、アーネストは懸念していた。
「生きていくために必要なものを得たいのは当然のことだ。我々の縄張りではない場所から手に入れればいい」
「わかった」
「アーネストを信頼しているからこそ伝えたい。草原も魔境の一部だ。安全とは言えない。いざという時はより離れた場所へ避難することも考えておけ」
「魔物のせいかもしれないと聞いた。だが、魔物の姿を見ていない。もしかすると、小型の魔物で、火災を起こす力のある魔物がいるのだろうか?」
「いる」
「大型の魔物であれば見つけやすいが、小型の魔物は見つけにくいかもしれない。どのような魔物か教えてもらえないだろうか?」
奥の方から来そうな魔物に対して知識を蓄え、何かしらの対策をしておきたいことをアーネストは伝えた。
エルフリードは考え込んだあと、横にいる町長の方を見た。
「やはり話す」
「その方がいいかと」
「何か……あるのだろうか?」
「ここにいる全員を信用して話す。魔境は危険に満ち溢れている。大型の生物ほど強大な力を持っていると思ってはいけない。小型の生物でも極めて恐ろしい存在がいる」
「極めて? エルフから見ても?」
「魔人という種族がいる」
人型で最も多くの魔力を持ち、多種多様な魔法を使いこなす長命種。
「非情で残忍な性格、欲望のままに力を使い、全てを破壊したい衝動や他の存在を支配したい願望を持つ者が多いようだ」
魔人は自分が一番、唯一の支配者だと思っているせいで群れない。
魔人同士が戦い、周囲に大被害が出ることもある。
今回の火災は森の奥の方で火の手が上がった。
魔物によるものかもしれないが、魔人のせいかもしれないと考えていることをエルフリードは打ち明けた。
「考え過ぎかもしれない。ここのところ、雨が降っていなかった。森の水分が少なく、何らかの事情で生じた火が、偶然大火災になってしまったのかもしれない」
「確かにここのところ、ずっと雨が降っていない」
「日中ではなかったため、植物が自然発火したとは思えない。夜中だからこそ、夜行性の強い魔物が原因ではないかと最初は考えた」
だが、魔人が奥地から来ていた。その魔人が魔法を使った可能性もゼロではないということを、エルフリードと町長で話し合っていたことがわかった。
「我々にできることは警戒し、万が一に備えることだ。人間が知らない脅威も存在しているということを教えておきたかった」
「魔人と話をしてみたい」
「やめておけ。まともに話し合えない。下等生物扱いされるだけだ」
力の差だけでなく、考え方、価値観に圧倒的な差がある。
人型ゆえに魔人族と言われているが、人型をしただけの魔物だという考えもあることをエルフリードは教えた。
「魔境にいる魔人と会う機会は滅多にないのだろうか?」
「魔人次第だ。奥地へ行かなければ、まずもって会わない。しかし、強い支配欲があるからこそ、魔人から近寄って来る場合もある」
「従わせようとするのか?」
「それも魔人次第だ。他種族との間に子どもを作りたくて、寄って来る者もいる」
「なるほど」
「アーネストも人間にしては魔力がかなり多い。もしかすると、先祖を遡ると魔人がいるのかもしれない」
「魔人の力を使い、人間たちの王やその一族になったということだろうか?」
「王でいるためには、王と認める者が必要になる。そのために弱き存在を守るのであれば、結果的には多くの命を育て、救うことになる。それも自然の理だろう」
「そうだな」
「魔人でも魔物でも他の種族でも関係ない。この森を破壊することも、恵みを奪うことも、全てを消し去ることも許さない。必ず守る。それがこの森に住むフォレスト・エルフの総意だ」
「わかった」
アーネストは頷いた。
「私たちは隣人であり、友人だ。何かあれば遠慮なく言ってほしい。友人の力になりたい」
「アーネストは偉大な人間だ。人間のことだけを考えない。より多くの種族のことを考え、自然との共存を見据えている」
「買いかぶりだ。私はヴィラージュに住む人々を守りたいだけだ」
「自らの力に驕らないのも良い。エルフには難しいことだ」
アーネストは温かい笑みを浮かべた。
「エルフリードこそ、偉大なエルフだ。長き命を紡ぎながら多くの英知を育て、受け継いできた。その話を聞くことができて良かった。心から感謝する」
「やはり、話して良かった」
アーネストとエルフリードは握手を交わす。
人間とエルフが種族を超えて理解し合い、手を取り合える証だった。
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