23 押しかけ同居
レイディンは多くの騎士をヴィラージュに長期滞在させるのは無駄で負担を増やすだけでしかないと考え、強盗団から回収した貨幣で大量のワインを買ってくるよう命じた。
セレスティーナも同じ。自分の護衛を伝令として父親のところへ送り、生活資金としての王国貨幣や物々交換のためのワインを届けるよう言いつけた。
そして、二人は魔境生活を堪能すべく、アーネストの家に同居することにした。
セレスティーナはミントと仲良くなりたいこともあって一階、レイディンは風魔法についてエアリスと話したいこともあって三階に部屋をもらった。
セレスティーナに部屋を譲ったアーネストは二階に移った。
「今日はどうするのですか?」
朝食の席でレイディンは尋ねた。
「今日は果樹園の方へ行く。収穫を手伝う」
レイディンたちを案内した時に収穫のことをきいていたため、アーネストは手伝おうと思っていた。
「収穫を手伝ってくれると嬉しい」
「わかりました」
「何事も経験ですわね」
「お土産をお願いします」
ミントがメモを渡した。
「在庫が少ないので」
「わかった」
「ミントは行きませんの? 食料担当のはずでは?」
セレスティーナは気になった。
「そうですけれど、もらいに行くだけなら私でなくてもいいので」
ミントが食料調達の全てをするのは大変になってしまう。
本業である薬師の仕事と掛け持ちをしているのもある。
運ぶだけのようなお使いの多くはリオンに頼み、ミントは自分で買い出しにいかないとダメなものを優先していることを説明した。
「獣人やエルフは人間と価値観が違います。買い物に行かせると、問題が起きやすくて。できるだけ良いものを安く手に入れたいのもあります」
ミントは食材選びにこだわっている。安くても品質が悪いのは買わない。
だが、リオンやキティ、エアリスにはそういった感覚に差がある。
ほしいものを買って来ること自体はできるが、ミントが納得の値段と品質かどうかはわからない。
むしろ、高めで少し傷有りのようなものを平気で買ってくるだけでなく、何が問題なのかもわからない。
「お買い得品を見極める才能がないんです」
ミントからすると、絶望的なまでに。
「ミントは旅をしながら勉強をしていた。知識が豊富で、薬だけでなく食料についても非常に詳しい。食事にもかなりこだわっていて、新しいレシピを考えながら試行錯誤している」
「確かに食事は美味しい」
「そうですわね」
「言っておくが、ミントが作るレベルの食事をヴィラージュの全員がしていると思ってはいけない。たぶんだが、ミントはヴィラージュで一番の食料担当者だと私は思う」
「アーネスト様は優しいです。もっともっと頑張ります!」
ミントは嬉しくなった。
「飲食店を出したら繁盛すると思うのだが、それはしたくないらしい」
「どうして?」
レイディンは不思議に思った。
「大変だからです」
同じ料理を大量に作るか、何度も作らないといけない。
売り上げを考えると、食材に妥協しなければならない。
一日中食事を作って後片付けをして下準備をするだけの日々になってしまう。
本業は薬師。食事を作るのは自分が生活するためや美味しいものを食べたいからで、稼ぐ手段とは思っていないことをミントは説明した。
「食材調べやレシピ作りは趣味というか個人研究みたいな感じなのです」
日本食のお店作ったら、他にいるかもしれない転生者に、隠れ転生者だとわかってしまいそうですし……。
それがミントの本音。
「でも、兄上の食料担当だよね? それで稼いでいるわけだよね?」
「いいえ。報酬はないです」
最初は危険な森へ行く時に同行するということで、報酬をもらっていた。
だが、森へ行く必要がなければ、危険手当がない。三食作るだけでは、大した報酬はもらえない。
だったら、ミントの食事もアーネストたちと同じ、住み込みで安全に眠れる場所を確保できる方がよっぽどいいということで交渉した。
「アーネスト様は領主なので、ヴィラージュの食料は手に入れ放題なんです。しかも、一番いいのをもらえます。新しいレシピを自己負担なく研究できます」
ミントが自腹で買うには高い食材を使い、レシピの研究をしながらさまざまな美味しいもの作りに挑戦できる。
報酬以上の価値がある大特典だとミントは思っていた。
「ヴィラージュは魔物が出ます。人々の結束が大事だとわかっているので、領都内の治安はそれほど悪くないです。でも、女性の一人暮らしは何かと心配なので、アーネスト様の家に住み込みの方が安心できます。私は魔法が苦手ですし、護身術も全然なので」
「あー、なるほど」
「女性ならではの悩みですわね」
「セレスティーナは関係ないよね? 相手を氷漬けにできるし」
「まあ、私は魔法がありますので特には」
「羨ましいです。私ももっと魔法が使えたら良かったのですが」
悪役令嬢はほぼチート。容姿端麗、魔法の才能も魔力もある。
ミントはセレスティーナに会うことで、悪役令嬢のすごさを感じていた。
「あら、でも、ミントには調理スキルがありますわ。私、調理スキルはありませんの。凍らせるのは魔法スキルですしね」
「薬も作れる。すごいよ」
「ありがとうございます。セレスティーナ様もレイディン様も優しいです。高貴な方々は違いますね!」
ミントはそう言いながら、席を立った。
「お茶を淹れますね。花茶と草茶、どっちにしますか?」
「花茶」
「花茶」
セレスティーナとレイディン。
「草茶」
「草茶」
エアリスとリオン。
「花茶にゃ!」
キティ。
「今日は花茶がいい」
アーネスト。
「では、私は草茶ということで」
ミントは二つのポットを用意して、それぞれにブレンドした茶葉を入れた。
「花茶も草茶も人によってレシピが違う。ミントのブレンドした茶葉はとても人気らしい」
「薬師なのに、一番の人気商品はブレンドした茶葉なんですよねえ」
ミント特製のお茶が配られた。
「美味しい」
「王都でも売ったら大人気ですわ」
「ミントの草茶が一番美味しい」
「うん」
「うまにゃ」
「ミントの茶が最高だと思う」
ミントの才能を誰もが感じ、認めていた。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
魔法が使えなくても、ちゃんと私……頑張れてる。
ミントは幸せそうに微笑んだ。




