表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子  作者: 美雪
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/114

21 理想と現実



 翌日。


 レイディンとセレスティーナは現実を知った。


 それはアーネストが城に住んでいないこと。


 朝食を取った二人はすぐにアーネストの住んでいる家へ向かった。


「ここが兄上の家か」

「普通の一軒家ですわね」


 ドアをノックすると、出たのは猫耳の少年――リオンだった。


「おはよう」


 レイディンとセレスティーナは好印象を演出するため、にっこりと微笑んだ。


「兄上がここに住んでいると聞いた。会えるよね?」


 レイディンは見えない圧をかけた。


 リオンは何も言わずにバタンとドアを閉めた。


「……無理ってこと?」

「鍵をかけていませんわ」


 少しすると、慌ててアーネストがドアを開けた。


「すまない! 伝えていなかった!」


 アーネストは自分の家について二人に教えていなかったことに気づいた。


「ここが私の家だ!」


 今更ですよ、兄上。


 遅いですわ。


「中に入ってくれ。朝食はもう食べたのか?」

「食べました」

「食べましたわ」

「では、お茶を出す。ミント! レイディンとセレスティーナが来た!」

「ええっ!」


 驚く声のあとにミントが姿をあらわした。


「いらっしゃいませ! すぐにお茶をご用意いたします!」

「悪いな。運ぶのは私がする」

「リオンにさせます。アーネスト様はお二人をソファに案内してください!」

「そうだな!」


 慌てて戻るミントを見て、レイディンとセレスティーナは顔を見合わせた。


「兄上、もしかして、ミントはこの家に住んでいるのですか?」

「通うのが大変だと言われてしまい、住み込みになった。自分の家もある。本業は薬師で、店を構えている」

「そうなのですね」

「もしかして、アーネスト様の恋人ですの?」


 セレスティーナはズバリ聞いた。


 すぐにアーネストの顔が真っ赤になった。


「違う! ミントは食料担当者だ!」

「そうですか」

「わかりました」


 レイディンとセレスティーナは、アーネストが奥手で純情で無自覚で恋愛要素がない人物であることを知っている。


 深く詮索しないことにした。


 二人がソファに座ると、リオンがお茶の入ったカップを二つ持ってきた。


 何も言わず、テーブルの上に置く。


「リオンは冷静というか慎重というか……言葉が少ない。目つきが鋭いのは猫族だからでもある。気にしないでほしい」


 警戒されている。


 警戒されていますわね。


 レイディンとセレスティーナはリオンの態度を正しく読み取った。


「大丈夫だ。私はここにいる。王都には戻らない」


 アーネストがそう言うと、リオンは小さく頷いた。


 あー、そういうことか。


 連れ戻しに来たと疑われているのですね。


 むしろ、逆。アーネストにはずっとヴィラージュにいてもらい、自分たちも一緒にいたいというのがレイディン、セレスティーナの願望だった。


「リオンとキティにとって私は親代わりの家族だ。二人の両親は弱い者や子どもたちを逃がすために魔物と戦い、名誉の戦死を遂げたようだ」

「そうでしたか」

「立派なご両親でしたのね」

「一応、兄弟姉妹がいるのだが、厳しいので戻りたくないと言っている。まあ、猫族の村に行けばいつでも会える」

「猫族の村!」

「近くですの?」


 レイディンとセレスティーナの目がキラキラと光った。


「近くだ。魔ウサギを管理している。今日はヴィラージュを案内する。その時に寄ろう」

「ぜひ!」

「楽しみですわ!」

「朝食を食べてくる。少し待っていてほしい」


 アーネストはリオンを連れてキッチンへ戻った。


「楽しみだ」

「そうですわね」


 レイディンとセレスティーナはお茶の香りを確かめた。


「昨夜の水もだけど、このお茶も香りがいい」

「私もそう思いましたわ」

 

 二人はカップに口をつけた。


「美味しい。花の香りが広がって、気分がとても良くなる感じだ」

「ヴィラージュの飲食物については問題なく馴染めそうですわ」


 レイディンとセレスティーナは頷き合った。





 魔物の放牧場と通常動物の飼育場、猫族の村、果樹園、ツリーハウスの村、菜園、ウサギ族の村、小麦畑を順番に見学したレイディンとセレスティーナはただただ驚いていた。


 アーネストが優秀なことはわかっていたが、これほどしっかりと領都の補給体制を整えているとは思ってもみなかった。


「さすが兄上です……」


 感動しつつも、自分も一緒に手掛けたかったというのがレイディンの本音。


「素晴らしいですわ!」


 魔境の拠点として十分整っているとセレスティーナも思っていた。


「だが、問題がある」

「魔物ですね!」

「魔物ですわね!」


 レイディンとセレスティーナは声を揃えて言ったが、ハズレだった。


「貨幣が不足している」


 ヴィラージュ領は人口が少なく、他の地域との取引も最低限。


 そのせいで王国貨幣を手に入れることができない。


 現地は物々交換や小麦の札を貨幣代わりに使っていたため、今後のことを考えて領貨を発行することにした。


 しかし、領貨を作るのはドワーフ。


 ドワーフと取引するための商品が必要で、最も多くの貨幣と交換できる酒が不足していることが説明された。


「お酒ですか」

「作るには材料も人も時間も必要ですわね」

「運ぶのが簡単そうではある。補給物資に王国貨幣があるだろう? それでワインを調達できないかと思った」


 そして、それをドワーフに売り、領貨を作ってもらう。


「王国貨幣を運ぶよりもワインを運んだ方が、領貨のためにはいいわけですね?」


 ワインを買いつけにいく手間も時間も費用もかからない。


「領貨を増やさなければ、貨幣制度による経済活動が日常的にできないようですわね」


 レイディンとセレスティーナはすぐに状況を理解した。


 だが、アーネストの案だけでは解決しない。


 補給物資として持ち込んだ王国貨幣がなくなれば、他の地域から酒を調達できない。


 それまでに十分な量の領貨をドワーフに作ってもらうことができるかどうかもわからない。


 そして、ヴィラージュが安全になり発展して人口が増えるほど、領貨の需要が高まる。


「何か売れませんか? 魔物から得られる素材とか」

「実は……魔物の討伐はほとんどしていない」


 領都や付近の草原や森にいるのは魔ウサギを始めとした弱い魔物だけ。


 高く売れるような素材は手に入らないばかりか、素材はほぼ現地の人々で消費されてしまっている。


 他の地域に輸出する価値も余剰分もなかった。


「一度だけ飛竜が来た」

「飛竜ですか!」

「さすが魔境と言われるだけありますわ!」


 二人は大喜び。


 だが、一度だけだとアーネストは念を押した。


「魔剣で倒し、浮遊魔法をかけて領都から離れた場所に置いておいたのだが、いつのまにかなくなっていた」


 飛竜からはさまざまな素材がとれる。鱗はとても高価。他の領で売れると思ったが、倒したはずの飛竜の死体がない。


 誰も知らないと言っている以上、アーネストは全員を信じ、それ以上は調べないことにした。


「魔境には人間が把握していない種族もいる。その中には魔物を操るような種族もいるらしい」


 飛竜が何者かに操られて飛んで来たという推測。


「変に関わると、人間にとっては危機的状況になりかねない。詮索しない方がいいとエアリスに言われた」

「そうでしたか」

「まあ、飛竜を操ったり死体を消してしまえるほどとなると、それなりの能力者ですものね」

「魔境には魔物が多くいると聞き、私は凶悪な魔物が領都のすぐそばに出没するのだと思っていた。だが、凶悪な魔物はもっと奥へ行かないといない。警戒心が強く、会いたい時には会えず、会いたくない時に会うような感じらしい」

「なるほど」

「都合よくはいかないということですわね」

「魔物も自然の一部だ。人々の生活を脅かさないのであれば、無理して倒す必要はない」

「そんな!」

「なんてこと!」


 レイディンとセレスティーナは叫んだ。


「僕は王国の未来のために魔物を倒し、魔境の広がりを防がなければなりません!」

「そうですわ! 魔物を倒さなければ、魔境の広がりを食い止められませんわ!」

「魔境の広がりは特殊な植物の広がりから始まる。それを防げば、魔境の広がりを阻止できそうな気がしている」


 領都の周りは完全に草原。


 その部分をできるだけ通常植物の生息地にする。


 全てを小麦畑や野菜畑にすれば、草原の魔境化を防げるのではないかと考えていることをアーネストは説明した。


 魔物相手に無双したかった二人は、理想と現実の差を感じた。


「でしたら、レイディン様が燃やせばいいのでは?」

「草原や森を焼くだけなら簡単です」

「簡単ではない。魔物だけでなく、獣人やエルフも草原や森に住んでいる。自然の恵みは生きるために必要だ。草原も森も魔物もいなくなると、ここでは生活できない。他の地域から必要なものを全て運んでくるわけにもいかないだろう?」


 魔物がいないと困るとか。


 王都とヴィラージュの差を感じますわ……。


 またしても二人は、理想と現実の差を感じた。


「考え過ぎても仕方がない。人々の生活と安心を守るのが優先だ。少しずつ整えていけばいい。魔物討伐も必要があればする」

「そうですか」

「必要があればですのね」


 二人はがっかりした。


「午後は森へ行かないか?」

「行きます!」

「ぜひ!」


 二人はすぐさま元気になった。


 午後の予定は森の散策に決まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ