20 ようやく来た!
「兄上ーーーーー!!!!!」
兄弟再会の時が来た。
「レイディン?」
アーネストは目を疑った。
「そんな、まさか、父上が許すはずがない……」
「母上のおかげです!」
国王は愛する王妃に首ったけ。
どうしてもヴィラージュに行きたいというレイディンのために、国王を説得した。
「王妃が? なぜ?」
「それはもちろん、僕が可愛いからです」
レイディンは母親である王妃と取引した。
王妃が望むのは王都での国造り無双。レイディンが望むのは魔境での兄弟無双。
全く問題がなかった。
「補給物資をなかなか送れなくてすみません」
「届いていたが?」
「いいえ。兄上の所へ届いたのは一部です。強盗団に奪われていました」
レイディンは何度も補給物資を送った。
その噂を強盗団が聞きつけ、狙い、奪うようになった。
強盗団を討伐して新王太子の名声を上げるという理由をつけ、レイディンは王都を出立。
強盗団を討伐したあと、そのままヴィラージュに来た。
「もう大丈夫です。強盗団は討伐したので」
「そうか」
「奪われたものも可能な限り取り戻したので、兄上に届けようと思って」
「わざわざレイディンが来てくれるとは思わなかった。心から感謝する。だが、王都に比べると何もない場所だ。贅沢なもてなしはできない」
「気にしないでください。僕の方こそ、兄上に補給物資をしっかり届けることができなくて申し訳なく思っています」
「レイディン……」
「兄上……」
「私もおりますのに!」
我慢できなくなったセレスティーナが叫んだ。
「ところで、魔物はどこにいますの? ちゃっちゃと氷漬けにしてきますので、教えてください!」
「僕と兄上の感動の再会を邪魔するばかりか、魔物まで奪う気か!」
「強盗団を倒す時は足止め程度しかできていません。その分、魔境で活躍しなければ気がすみませんわ!」
「僕だって物足りなかった!」
「拠点を燃やして豪快に笑っていましたわ!」
「あれは王太子らしく振る舞うためだ! 心の中ではこれだけかと思っていた!」
「どうみても悪人面でしたわ!」
「セレスティーナこそ悪役令嬢顔だ!」
「二人とも、相変わらずだな」
幼い頃から喧嘩する二人を見てきたアーネストにとって、その光景は微笑ましいものだった。
「取りあえず、騎士たちも疲れていることだろう。城に行こう。部屋を用意させなくてはいけない」
アーネストは二人をなだめ、ヴィラージュ城へ案内した。
「こんなにワインが! 王国貨幣もこれほどあるとは!」
「強盗団から取り戻しました」
強盗団は奪った品を売って儲け、王国貨幣を溜め込んでいた。
レイディンはそれらを全部回収して、アーネストへの補給物資として渡すことにした。
「帰るために必要なもの以外は全部差し上げます。食料を分けていただきたいのですが、こちらで補給可能でしょうか?」
ヴィラージュ領には孤立した都市が一つあるだけ。
領都ではあるが、物資が常に豊富にある保証はなく、伝令で王都に戻ってきた騎士からも、非常に厳しい環境であることを聞いていた。
「大丈夫だ。保存食も作らせている。食料は問題ないが、酒がなくて困っていた」
「兄上はお酒を飲まないですよね?」
「夕食の時に話す。まずは休んでいてくれ。私は部屋の掃除を手伝って来る」
「わかりました。僕は休みます」
掃除を手伝う気はないとも言う。
「セレスティーナ」
「私、掃除はできません。公爵令嬢ですので」
セレスティーナもきっぱりと掃除を拒否した。
「夕食のデザートにシャーベットかアイスを出したい。冷やすための部屋がほしい」
「即席冷凍庫の作成ですわね。構いませんことよ」
それならいいとセレスティーナは思った。
「でも、材料はありますの?」
「大丈夫だ」
比較的近い村からニワトリや牛を買い取り、飼育していた。
「卵は多くあるのだが、牛乳は貴重だ。ヤギ乳も少ない」
「馬ではなく牛を連れて来た方が良かったようですわね」
「ヴィラージュには王都にはない食材が多くある。二人の口に合うことを願うばかりだ」
「ご心配なく。魔物の丸焼きが出てきても驚きません」
「私もそう思っておりますの」
「私もここへ来たばかりの時はそうなりそうだと思っていたが、意外と……まあ、楽しみにしていてほしい」
アーネストはにっこりと微笑んだ。
夜。
ヴィラージュ城に多くの人々が集まり、王都から来たレイディンとセレスティーナたちの歓迎会が行われた。
ヴィラージュへの輸送物資を狙って奪っていた強盗団が討伐されたことも伝えられ、人々はレイディンとセレスティーナたちを勇者として讃えた。
「僕がほしかったものがここに……」
熱烈な民衆の歓迎。勇者として讃えられ、満足感と達成感を得ること。
レイディンはヴィラージュに来て本当に良かったと思った。
セレスティーナも高貴な血筋の令嬢らしく微笑んでしたが、氷魔法で無双する満足感はこれからが本番だと思っていた。
「乾杯しよう」
まずはヴィラージュで一般的な飲み物で。
「甘い。ジュースですか?」
「とても良い香りですわね」
「これは花の汁を混ぜた水だ」
ヴィラージュでは果物の栽培が少なく、飲料はほぼ水。
それに自生している花や植物の香りをつけたり、汁を混ぜたりした水が多くある。
「ヴィラージュは水が綺麗だ。城の飲料水は地下水を利用しているが、地元の者は川の水も普通に飲んでいる」
「僕が飲んだらお腹を壊しそうです」
「王都育ちですものね」
「飲料水用の場所なら大丈夫だ。王都の水よりも綺麗で美味しい」
川の水については飲料水として引き込む場所と生活水として引き込む場所がある。
飲料用の場所の水なら問題ないことをアーネストは伝えた。
「ミントが腕をふるってくれた。たくさん食べてほしい」
「ミントというのは?」
「召使いですの?」
「食料担当者だ。食べ物についての知識を教えてもらったり、私の食事や森へ行く時の弁当を作ってくれる」
「調理人ですか」
「揚げ物が多いようですわね」
大量の揚げ物の山があった。
「人数が多い時は揚げ物が簡単らしい」
「揚げるだけですからね」
「そのまま油に入れるだけですものね」
「細長いのはパオンという実だ。味はパンに似ていて、焼いたら焼きたてのパン、揚げたら揚げたパンと同じような味になる。黄色い粒は甘味料だ」
それはつまり……揚げパン?
コッペパンを揚げて砂糖をまぶしたようなものということ?
「あっちの山は全てバタータだ。バタータはじゃがいもと同じだと思えばいい。そのまま揚げたもの、細長く切って揚げたもの、薄くスライスして揚げたものだ」
ジャガイモ? つまりあれは……!
素揚げイモ! フライドポテト! ポテトチップス!
隠れ転生者の二人は目を輝かせた。
「サラダも新鮮だ。この地方の野菜やハーブが多いが、エルフにも人気の香草を使っている。とても美味しい」
本物のエルフがいるね!
間違いなくエルフがいますわ!
レイディンもセレスティーナも、アーネストの側に座っている猫耳と細長い尻尾を持つ幼女と少年、尖った耳を持つ銀髪の美青年、ウサギのような白く長い耳を持つやんちゃそうな少年のことが気になって仕方がなかった。
「兄上、食事も興味深いのですが、側に座らせているのは?」
「随分若い者もおりますけれど?」
レイディンもセレスティーナも、この世界にエルフや獣人がいること自体は知っていたが、転生した場所は人間の国、しかも王都育ち。
エルフや獣人に会うのは初めてだった。
「家族と友人だ。非常に親しくしていて、毎日一緒にいる。各種族の代表も兼ねて近くに座ってもらった」
アーネストはキティ、リオン、エアリス、ニンウィーを順番に紹介した。
「猫族を養い子にするとか」
「エルフの友人にウサギ族の友人までいるとか」
レイディンとセレスティーナは悶えたい気持ちを必死に抑えつけた。
「猫族、フォレスト・エルフ、ウサギ族、ドワーフ族のおかげでヴィラージュの安全性と食料生産力、利便性が高まっている。この噂を知り、ヴィラージュへの移住者が増えてくれたらと思っている」
「移住します!」
「私も!」
レイディンとセレスティーナはすぐさま名乗りを上げた。
「気持ちは嬉しいが無理だ。二人には王国の将来がかかっている」
どうでもいいです。
どうでもいいですわ。
二人が心の中でつぶやいたことは同じだった。
「実を言いますと、僕はしばらくこちらにいます。魔境の拡大は王国の危機も同然。王太子として、それを防ぐための手立てを考えるのは当然の務めです」
レイディンはいかにも正論らしい理由を考えてきた。
「私も微力ながらお手伝いいたしますわ。宰相の娘としても公爵令嬢としても当然の務めですもの」
「だが」
「大丈夫です。父上のことは母上が支えます。わがままをやめ、王妃として正しく王国を導くことを約束してくれました」
「王妃様はやる気満々です。国王陛下も喜んでいますし、止められませんわ」
「王妃が……」
「問題が起きた場合は僕が戻って諫めます」
「そうですわ。王太子であるレイディン様の判断にお任せすべきかと」
「……そうだな。王太子はレイディンだ」
アーネストは弟に任せることにしてヴィラージュへ来た。
その判断を正しいと信じ、貫くことにした。
「ヴィラージュの姿を知ることは、王国の現状を知ることにつながるのは確かだ。安全に気をつけながら滞在してほしい」
「もちろんです」
「当然ですわ!」
永住したい!
絶対に帰りませんわ!
レイディンとセレスティーナの心の内をアーネストは知らなかった。




