18 ドワーフの洞窟
後日、ニンウィーの案内でアーネストはドワーフ族が住む洞窟へ向かった。
「種族によって住む場所が全然違う」
アーネストは驚くほど巨大な洞窟に驚いていた。
「昔は小さな洞窟だったけれど、ドワーフが掘りまくって大きくなった」
ニンウィーはそう言ったあと、
「おーい! ウサギ族のニンウィーだ! 誰でもいいから、ドワーフ出て来いー!」
洞窟の奥へ向かってニンウィーは叫んだ。
すると、小さな影がひょっこり岩陰から姿をあらわした。
「族長に会いたい。人間のアーネストが注文したいものがあるらしい」
ドワーフはじろじろとアーネストの次に腰に下げた魔剣を見つめた。
「すごいのある」
「魔剣のことか?」
アーネストは気づいた。
「大丈夫だ。攻撃しない」
「嘘だ。攻撃できる」
「ドワーフ族と仲良くしたいと思っている。攻撃しない」
「だったら武器、渡せ」
アーネストが魔剣を腰から外そうとすると、ニンウィーが止めた。
「ダメだ。奪われる。贈り物だと思われる」
「それは困る。贈り物にはできない」
「その剣は僕のものでもある!」
リオンが牙をむき出して威嚇した。
「アーネストが死んだら僕の剣だ! 約束している!」
「複数の所有者がいるのか。面倒だ。やめた」
ブツブツいいながらドワーフは歩いていく。
「対価は族長と話し合って決めればいい。それまでは何も与えない方がいい。ドワーフはケチだ。無償であげても、無償で何かをしてくれることはない」
「わかった」
アーネストは頷いた。
「ニンウィーがいて良かった」
「ウサギ族はドワーフ族と取引しているからな。任せておけって!」
ニンウィーは得意そうに胸を張った。
しかし、ドワーフの族長は貨幣を作ることを渋った。
「食料いらない。金属がほしい」
ドワーフは金属が大好きな種族。
金属製品をほしいなら、別の金属か金属製品を渡せということだった。
「困ったな」
アーネストたちが所有する金属は武器や防具、生活道具といった必要品。
素材としての金属は少ない。
ドワーフは住処が鉱山。大量の金属を保有している状態だった。
「魔剣をよこせ。そしたら、考える」
「考えるだけで作ってくれない。渡したらダメだ」
ニンウィーが助言した。
「ウサギ族は金属を持っているのか?」
アーネストはどうやってニンウィーがドワーフと取引をして剣を手に入れたのか不思議だった。
「ウサギ族は薬と交換している」
ドワーフは金属を加工する際にやけどや擦り傷などの怪我をしやすい。その症状に効く軟膏と交換で、金属製品を手に入れていることがわかった。
「でも、真似しないでほしい。ウサギ族と取引をしてもらえなくなるのは困る」
「もちろんだ。ということは、金属以外でもドワーフの役に立つものであればいいということか」
「そうだな」
「エアリス」
「なんだ?」
「エルフ族はドワーフ族と取引をしているのか?」
「いや、仲が良くない。エルフの金属製品は高度な錬金術で作る。ドワーフの品は重い」
「それが普通だ。エルフの金属が軽いだけだ」
リオンが言った。
「取りあえず、何か交換してくれそうなものを考えてくる」
その時、
「ボロボロにゃ」
キティがドワーフの服を見てそう言った。
「ドワーフだからな。服にこだわるわけがない」
「随分汚れている。洗濯しないのか?」
「ドワーフは袋に穴があいたような服を着ている。金属加工は得意だけど、服を作るのは苦手みたいだ」
「帽子も同じ」
「確かに。革製品だろうか?」
「たぶん、交換品じゃないか?」
「だったら、服や帽子ではどうだろうか? 族長であれば、他のドワーフよりも良い服や帽子をつけた方がいい気もする。人間も王は豪華な衣装を着る」
族長は考えた。
「どんな服と帽子だ?」
「試作品を作って持ってくる。それでよければ、取引をしたい」
「考えておく」
アーネストは帰ると、早速ミントに相談した。
「服と帽子ですか? さすがに大変です。何万着も必要なわけですよね?」
「硬貨百個につき服一枚といった感じで交渉しようとは思っている」
「そうですか。でも、たくさん布地が必要そうです」
「ドワーフはとても小さい。幼子程度の身長だ。布地は少ないと思う」
「太いけどな」
「小さくて太い服ですか。取りあえず、仕立屋に行くとよさそうです」
「わかった」
アーネストは仕立屋に行き、事情を説明した。
「百枚以上とか……さすがにちょっと大変です。オーダー服ですよね?」
「見た感じ、フリーサイズのような服でいいと思う。チュニックだ。腰のところを腰紐で縛っていた」
「紐じゃない。あれはただの縄だ」
リオンが言った。
「縄? ベルトではなく?」
「縄だった気がする」
エアリスも思い出しながらそう言った。
「でしたら、お洒落な腰紐なんてどうです? その方がたくさん用意しやすいです。色違いも揃ってますし」
「なるほど。相談してみよう」
アーネストが見本の腰紐や腰帯を持って行くと、ドワーフは強い興味を示し、ほしいと言い出した。
「腰紐や腰帯と交換ならいい」
「ありがたい。だが、これは価値が高い。同数交換はできない」
「何個ならいい?」
「実は店の者に値段を聞いたのだが、結構多い」
通常の腰紐は千ヴィル。色違いは二千ヴィル。腰帯は一万ヴィルすることがわかっていた。
「さすがにそれだけ作るのは大変だと思う。そこで腰紐は貨幣百個、色違いは二百個、腰帯は千個でどうだろうか?」
一ヴィルの領貨を作ると数が多くなってしまう。
そこで十ヴィルの領貨を作ってもらい、発注する個数を少なくすることをアーネストは考えていた。
「百個か」
「ちなみにこれぐらいだ」
アーネストは見本として王国貨幣を持ってきた。
「十ヴィルの王国貨幣だ。これと同じようなサイズで、模様が違うものがいい」
「小さい」
「薄い」
「これを百個?」
「簡単だ!」
ドワーフは喜んだ。
「それでいい。作る」
「まずは見本を作ってほしい。それでいいということになれば、ほしい腰紐や帯に応じた数と交換する」
「わかった」
「但し、これは特別な貨幣だ。私以外の者との取引では作らないでほしい。私の領地だけで使う特別な品だ」
「皆、そう言う」
「自分だけのものがほしい」
「これはアーネストのものだ」
「アーネストだけに作る」
「ありがたい」
「アーネスト、服もほしい」
そう言ったのは族長。
「族長は立派な服を着る。帽子は特別な者だけだ」
「わかった。族長用の服を作ってもらえるか聞いてみる。帽子も同じく。ただ、サイズがわからないと難しいと言われた」
「調べていい?」
リオンが巻き尺を取り出した。
「いいぞ」
族長のサイズをリオンが調べ、仕立屋に伝えることにした。