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110 本当のことを知りたい



 夜中。


 ヴァルール宮での関係者会議が終わったアーネストは家に戻って来た。


 大掛かりなイベントが成功するかどうかは、ヴァルールや世界の行く末に関わる。


 強いプレッシャーを感じたが、取りあえずは無事終えることができた。


 成功して良かった……。


 そう思いながら自分の部屋に向かったアーネストは、ドアの前で立ち止まった。


「……」


 開けるべきだとわかっているが、開けたらどうなるのだろうかという気持ちもあった。


 アーネストは深呼吸をしてドアを開ける。


 予想通り、部屋の中にはレイディンとリオンがいた。


「おかえりなさい!」

「おかえりなさい」

「ただいま」


 アーネストは微笑んだ。


「待っていてくれたのか。嬉しいが、夜中だぞ? 早く寝た方がいい」

「大丈夫。どうしても兄上と話したいことあって」

「僕も」

「そうだろうと思った。参加することを事前に伝えていなかったからな」


 アーネストは今回のイベントについての話だろうと思った。


「リオンとは同じコースだっただけに参加した理由を説明したが、レイディンには伝えていなかった。それについては悪かったと思っている。だが、私と同じコースがいいと言われそうな気がして話せなかった」


 アーネストは調査官たちが乗る飛竜を操縦する役目を頼まれた。


 野営地に到着するとより奥の方へ行くための再編成が行われ、飛竜の乗員が三名になることもわかっていた。


 レイディンが飛竜コースに参加しても、アーネストの飛竜には乗せられない。


 リオンとジスと組んで参加しても、再編成においては予備の飛竜が必要になってしまうため、レイディンは別の者と組むことになる。


 何よりも、歩行ルートで参加するパーティーにレイディンがいないと、セレスティーナの負担が大きくなってしまう。


 エアリスの本業は錬金術師。風魔法を使えるが、他の者を守るために十分な技能があるとは言いにくい。


 知り合いのダークエルフも参加すると聞いて護衛を頼むことにしたが、職業は戦士。状況によっては魔導士でなければ対処しにくいかもしれない。


 緊急避難が必要になるかもしれないため、転移魔法が使用できるレイディンには歩行コースで参加してほしかったことをアーネストは説明した。


「フィアーにレイディンの実力を知られたくなかったのもある。利用価値があると思われてしまうだけだ」

「僕を守るための判断ということか。ありがとう、兄上」


 レイディンは良き弟としての笑顔を浮かべた。


「だけど、イベントの前に教えてほしかった」

「すまない」

「兄上は責任感が強い。問題があっても一人でなんとかしようとするから心配なんだよ」


 アーネストは優しいからこそ一人で苦労を抱え込むタイプであることをレイディンは知っていた。


「今回のイベント、本当の目的は毒竜のところへ行くため?」


 アーネストにとって予想外の質問だった。


「魔境中に品種改良した浄化草の種を撒いて自生させればいい。魔境の空気が良くなって、今よりも奥地へ行きやすくなる。それはつまり、毒竜を倒しに行けるってことだ!」

「毒竜を倒すには毒竜がいる場所まで行かないといけない。でも、普通に行ける場所じゃない」


 転移魔法が使える魔人でないと、強い魔物と遭遇してしまう。


 空気中の毒素も強く、強力な防御魔法でも完全に防ぎきれない。


「毒竜のいる場所へ行くには転移魔法でないと難しい。でも、行ったところで現地の空気が猛毒状態だと即死だ。だから、魔境全体の空気を浄化しながら、奥へ行くための中継地点を作る。今回はそのためのイベントってことでいいのかな?」


 アーネストはどう言葉を返していいのかわからなかった。


「もうさ……隠すのやめない? 兄上が本当のことを話してくれないと困る」

「どういう意味だ?」

「婚約破棄も僕やセレスティーナのためだよね?」


 レイディンはそろそろきちんと話しておこうと思った。


「兄上がイザベラの本性を見抜けないわけがない。辺境に行くことになったって言えば、すぐに離れていくのもわかっていたはずだよ。転生者かもしれないって報告があったけれど、頭がおかしいだけかもしれない。王国にとって害ある存在はいらない」


 アーネストは視線を逸らした。


「兄上は魔境が広がることで魔物の被害が増え、人々が安心して暮らせる場所が減っていることを心配していた。何とかしたかったんだよね? でも、僕がヴィラージュへ行くことには反対だったんだよね?」


 レイディンは魔法を適度に調整することができない。


 魔物と一緒にヴィラージュ領の自然環境も壊滅させてしまう。


 そうなれば、結局は誰も住めなくなるというのは同じだった。


「母上は僕を魔境に行かせたくない。絶対に反対するのがわかっているから、王太子にして留守番役を任せたんだよね? 大変なことも危険なことも全部自分が片付ければいいと思ったんだよね?」


 アーネストはため息をついた。


「でも、僕は兄上と一緒に大変なことや危険なことをしたい。魔境で魔物と戦ったり、いろいろな種族の人々と交流したり、領地の立て直しだってしたかったのに!」

「口で言うほど簡単ではない」


 竜のように魔法が効きにくい魔物もいる。


 他種族との交流によって不和が生じ、争いに発展してしまうこともある。


 領地の立て直すにも、人手や物資はかなりの不足。手に入るものだけで工夫していくしかない。


「ヴィラージュは端とはいえ魔境だ。突如、奥地から魔物が来ることもある」

「わかっているよ。でも、兄上と一緒ならどんな状況でも諦めない。困難も試練も乗り越えていける。僕の寿命の方が絶対に長いから、兄上が生きているうちに兄弟の思い出作りをしないとダメなんだよ!」


 兄弟の思い出作り……。


 アーネストにとって想定外の言葉だった。

 

「兄上が養い子にしたリオンとキティとも仲良くしたい。何でも相談に乗るからって言ったら、今回のイベントの話になってさ。最終的には毒竜を倒すためじゃないかってことで意見が一致した」

「魔境の空気に毒素が含まれているのは毒竜のせいだよね? アーネストが知っているなら教えてほしい。守秘義務があるなら守るよ」


 リオンは真実を知りたかった。


「わかった」


 アーネストは二人に話すことにした。


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