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107 炎の魔導士と氷の魔導士



「まさかこれほどの団体になるとは思いませんでした」


 ミントが参加するのは歩行ルート。


 てっきり歩いて行くのだと思っていたが、実際はアーネストがつけた護衛――四人のダークエルフが用意した荷馬車に乗せてもらっていた。


「こっちに乗りたければいつでも言ってくれていいよ」


 レイディンが乗るのは魔馬。


 乗馬の練習を兼ねて、キティも同乗していた。


「私の方でもいいですわ」


 セレスティーナが乗るのも魔馬。


 手綱は並行して歩くダークエルフが握り、安全に配慮していた。


「大丈夫です。むしろ、ずーっとこのままなのでしょうか? 私は旅をした経験があるので、長距離を歩いても平気なのですが?」

「自分のペースで歩けるわけじゃないから」


 歩行ルートの参加者数は多く、後ろの方になるほど詰まりやすく止まりやすい。


 それを回避するために複数ルートが設定され、乗用や荷物を運ぶための魔物を所持している者が前の方に配置された。


「一番先を行く者が最も魔物に遭遇するとは限らない。中間にいる者が遭遇したり、狙われたりすることもある。緊急時を想定すると、馬車に乗っていた方が安全だよ」

「でしたら、キティも馬車の方がいいのでは?」

「そろそろ戻る?」


 レイディンはキティに尋ねた。


「つまらないにゃ」


 出発する時はキティも馬車に乗っていたが、退屈すぎてレイディンの馬に乗せてもらっていた。


「こっちの方がいいにゃ」

「まあ、何かあったら馬車に」


 レイディンは途中で言葉を止めた。


「セレスティーナ、魔物が近づいている。一時の方向だ」

「承知しましたわ」


 すぐにセレスティーナは氷の魔法を発動させた。


 急激に伸び始めた氷が魔物の方向に合わせて壁を作り始めた。


「他の者が気付く前に片付けてくる」


 レイディンは浮遊魔法で浮き上がった。


「火は使うな」


 ダークエルフのリーダーを務めているクロムが声をかけた。


「気を付けて使う。キティを頼む」


 レイディンは不敵な笑みを浮かべると、魔物の気配がする方へ向かった。


「まあまあな数だ」


 群れを作る魔獣は個体単位でみると、脅威ではない。


 しかも、地上にいるため、空中にいる相手への攻撃がしにくい。


 一気に範囲魔法で片付ければ楽だが、レイディンが得意とするのは火魔法。


 森林火災を発生させてしまうわけにはいかない。


「風魔法でもいいけれど、たまには直接焼こうかな」


 レイディンはそう言うと、全身に炎を巻き付けた。


「最近はかなり調整できるようになってきた!」


 レイディンは唸り声を上げる魔獣がひしめく地上に降り立った。


 それが合図とばかりに次々と魔獣が飛び掛かるが、レイディンの纏う炎が一気に膨れ上がる。


 魔物は自ら炎の中に飛び込んだのと同じ、一瞬で焼き尽くされた。


「僕に軽々しく近寄るなんて、身の程知らずだよ」


 レイディンの赤い瞳が溢れる魔力によって輝くと、魔獣は恐怖に支配されたかのように硬直した。


「今更後悔しても遅い。魔獣が後悔するのかどうかは知らないけれどね?」


 レイディンは炎を纏わせた腕を振り上げる。


 一方的で無慈悲な時間が始まった。





「私も攻撃を担当したいですわ」


 ミントとキティが乗る馬車の周辺に防御用の氷壁を張り巡らせたセレスティーナはぼやいた。


「上にもいる」


 クロムが頭上を見上げた。


「攻撃してきませんわ」


 現在いるのは長木の森。


 背の高い木が多く茂っており、その上の方に魔物がいる。


 しかし、地上にいる生物を襲って来るのは食事の時間だけ。


 無意味な殺戮を望む類の魔物ではないということだった。


「魔物は本能のままに生きる。いつ食事の時間になるかわからない」

「私をけしかけていますの?」

「息抜きだ。一人でも行けるだろう? ミントとキティは俺たちが守る」


 セレスティーナはミントとキティを見た。


「私たちは大丈夫です!」

「ダークエルフ、親切にゃ」


 それはセレスティーナもわかっていた。


 見た目の雰囲気は物騒。


 リーダーのクロムは不愛想で言動も少ない。


 だが、ダークエルフたちは非戦闘員のミントとキティを粗雑に扱うことはなく、かなりの配慮をしていることが明らかだった。


「ミントとキティは水晶人形のように扱えと言われている」

「お宝にゃ?」

「壊れ物注意?」


 キティとミントは顔を見合わせた。


「私のことは?」

「運動ならいい。レイディンも同じだ。経験を増やす機会になる」

「アーネスト様はいつだって絶対的な保護者ですわね」


 転生者であるセレスティーナから見ても、アーネストは子どもの頃から見た目よりはるかに大人だった。


 王太子で義理の母親である王妃から厳しい魔法の指導を受けているとはいえ、あまりにも子どもらしくない。


 同年齢とも思えなかった。


「まあ、運動も魔力消費も適度にしないと健康に悪いですし、どんな魔物がいるのか見てくるのも」


 セレスティーナの言葉が止まる。


 突き上げた手の先に形成されたのは巨大な氷の傘だった。


 ボトボトボトボトボトボト……。


 上から降って来た魔物が氷の傘に当たった。


「嫌ああああああああああああーーーーーーーーーーーー!」


 セレスティーナの叫び声が響き渡った。


「へ、蛇ですわああああああああーーーーーーーー!」

「木の上にいる魔物だ」


 クロムは冷静にそう言うと、ニョロニョロと動く蛇の頭を剣で突き刺した。


「食事の時間になったらしい」

「確かに蛇です。多いですね?」

「毒があるにゃ」

「そこにいろ。片付ける」


 ダークエルフたちは淡々と付近の蛇を仕留めていくが、セレスティーナは一歩も動けなかった。


「最悪ですわ……他の魔物であれば良かったのに……」

「セレスティーナ様は蛇が苦手みたいですね」

「ダメにゃ?」


 ミントとキティは平然としていた。


「なぜ二人は冷静ですの? 毒蛇ですのよ?」

「旅をしていると、蛇ぐらいは普通に出ますよ? 正直、魔物の割には小さいですよね?」

「子どもの蛇にゃ?」

「確かにそうですわね……」


 セレスティーナも小さな蛇が突然大量に降って来たことに驚いたが、そのことに対する違和感を持ち始めた。


「これって大きくなるタイプですの?」

「魔物は食べただけ大きくなる生物といっても過言ではない。これだけの子どもがいるからには、親はかなりのサイズだろう」


 つまりは巨大な蛇が木の上にいるということ。


 セレスティーナはゾッとした。


「嫌ですわああああああーーーーーーーーー!!!!!!」


 セレスティーナは両手を上げた。


 長木を凍り付かせながら氷の魔力が上へと昇っていく。


 そして。


 バキ、バキ、バキ、バキバキバキバキ……!!!


 木が折れるような重苦しい擬音が響き渡ったあと、少し離れた場所に落下して来たのは氷漬けになった巨大な蛇だった。


「親っぽいですね」

「カチカチにゃ」

「これ以上蛇が増えないように、元凶を倒しただけですわ!」


 セレスティーナは当然とばかりに叫んだ。


 一番強い親蛇を、魔馬に乗ったまま一歩も動かずに倒す氷の魔導士。


 ダークエルフたちがセレスティーナに一目置くだけの理由ができた。


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