104 スカイ・エルフ
魔鳥の群れを追い払った第一部隊だったが、先頭を飛行するアーネストの飛竜に巨大な鳥が近づいた。
「あの鳥、大きすぎない? 飛竜が小さく見える」
「奥地にはああいうのもいる」
「飛竜は堅くて食べるのに適してはいない。だが、丸飲みするなら関係ない」
大きな鳥はアーネストの飛竜を丸飲みするように大きく口を開けて近寄るが、飛竜はそれをかわしながら飛行を続けていた。
「倒さないのかな?」
「話し合っているようだ」
赤いローブと着たフィアーと青いローブを来た者が向かい合っていた。
「どっちがあの鳥を倒すかどうか?」
「かもしれない」
やがて、フィアーが顔の向きを変え、大きな鳥に向かって手を伸ばした。
すると、大鳥の頭部付近が爆発。
それと同時に大きな雷も直撃。
無残な姿になった大きな鳥は重力に従って落ちていった。
「二人で倒すことにしたのか」
「どっちが倒すか決められなかったせいかな?」
「さっさと倒してほしいと思い、アーネストが二人で倒すよう提案した気がする」
かなりの確率でそんな気がする。
そう思いながらリオンとジスは頷いた。
「青いローブの者は雷の魔法を使うのか。強そうだね?」
「スカイ・エルフのようだ」
魔法を使った時にフードが取れ、プラチナブロンドのエルフであることをジスは視認した。
「スカイ・エルフか」
スカイ・エルフは天空に浮かぶ島々に住んでいる部族。
古い体系の魔法を使いこなし、解毒魔法や浄化魔法も得意としている。
また、移動する時は翼が生える魔法か、翼がある魔物を使うのが基本情報。
「ヴァルールにもいるのかな? 僕は話を聞いただけで会ったことがない」
「天空に浮かぶ島々に行かないと、スカイ・エルフに会うのは難しい。天空に浮かぶ島々がどこにあるのかもわからないけれどね」
「ジスでも知らないんだ?」
「外部の者が来ないように、スカイ・エルフたちは天空に浮かぶ島々を隠しているらしい」
やがて、前方に明るい場所が見えた。
「何だろう? 周囲と色合いが違う」
「花畑だよ」
ジスが答えた。
「魔境の奥にはところどころ花畑がある。浄化草の割合が多いと空気がいい。転移魔法で行き来すれば簡単に来ることができる。魔力消費がすごいけれどね」
「来たことがあるみたいだね?」
「別の花畑ならある。セレスティーナを連れていったこともあるよ。ここだけは人間でも絶対に平気だろうし、魔物の種類も限られていて対応しやすい」
「奥地の割に安全ってこと?」
「空中で高度を保つならね。地中にいる魔物が飛び出て来るから注意だ。見た目の印象からいっても警戒が緩むけれど、弱肉強食の場所であることを忘れてはいけない」
花畑を出れば強い魔物が多くいる。
面倒なのは虫。とにかく数が多い。
昼間は暗がりに潜んでいるが、夜になると活動を始めることをジスは説明した。
「大量の虫に狙われた動物は数秒で死ぬ。防御魔法を切らしてはいけない」
「ジスの魔法にかかっているってことか」
「大丈夫だ。絶対に切らさないよ」
飛竜は花畑を乗り越えて進む。
大きな湖のようなものが見えてきた。
「湖の側に降りる。必ず焼け跡地のような場所に着陸しろ。飛竜から降りることも、水を飲ませることもできない。湖は毒で汚染されている。小さな虫であっても危険だ。防御魔法のかけ直しは慎重に行うように」
通信機からの通達があり、アーネストの飛竜が湖へと向かっていく。
「湖の付近を捜索する感じかな?」
「かもしれない。焼け跡地という指定があったのも気になる。事前に離着陸場所の確保をしていたようだね」
第一部隊は湖を取り巻くようにある焼け焦げた場所に着陸した。
「ここはかつて魔人が利用していた場所の一つだという情報がある。そこでこの付近に魔人に関係するものがないかどうかを確認する」
各中隊は南北東西の四カ所に分かれて捜索を開始。
木が邪魔になるため、魔法で対処してもいいことが通達された。
「木を伐ってもいいみたいだけど、魔人の家って木の上にはない感じ?」
「魔人の家は石造りだと母が言っていた。だが、フォレスト・エルフの町で父が建てたのは木造の家だった。絶対かどうかは知らない」
「フィアーに聞けば早いような」
リオンはそう思って周囲を見回した。
「あれ? いない?」
ジスが浮遊魔法で浮き上がり、周囲を確認した。
「アーネストの飛竜がいない。あの三人の姿もない」
「フリューゲル、アーネストは?」
「指揮官からの通達中に飛んでいった」
フリューゲルは角の感覚でアーネストたちの様子に気づいていた。
「どっちに?」
「湖の方だ。だんだんと小さくなって見えなくなった」
遠すぎて見えなくなったと普通なら考える。
しかし、リオンは転移魔法の可能性もあると感じた。
「湖の上を飛んでいったんだよね? 陸の上ではなく?」
「そうだ。逆側に行くのかもしれない。それなら湖の上を通るのが最短だ。ただ、これほど大きな湖だと大型の魔物がいる可能性が高い。突然、水中から襲われたらどうするのかと思いながら見ていた」
「確かに」
「あの三人なら大丈夫そうだけどね」
ジスが浮遊魔法を解いた。
「それでどうする? 隊長はリオンだ」
東方面を捜索する隊長にはリオンが指名されていた。
「フリューゲルはどう思う?」
「低空飛行は団体行動に向いていない。魔物がどの程度いるのかわからないことを考えると、飛竜を歩かせて捜索したらどうだ?」
「湖の周辺はそれでもいい。でも、森の方は無理だよね?」
「風魔法の使い手に伐採を頼む手もあるが、魔力負担が多くなる。飛竜に指示してなぎ倒したらどうだ?」
「さすがフリューゲルだ」
なぎ倒すという力技があることにリオンは気づいた。
「翼を傷めるようなことはできないだろうし、足で蹴り倒すってことだよね?」
「しっぽも使える。細い木が多そうだけに大丈夫だろう。飛竜にも防御魔法をかけておけば怪我をすることもない」
「じゃあ、東方面の捜索隊は飛竜に乗ったまま歩行で行う。邪魔な木はなぎ倒そう」
リオンの決定に竜族たちは大賛成だった。
「飛竜で暴れまくるぜ!」
「なぎ倒しまくりだ!」
「楽しくなるぞ!」
竜族のテンションはかなりの高さ。
「竜族は独特だ」
「これも種族の違いだね」
リオンとジスは苦笑した。