103 空中戦
第一部隊は誘導員を守る先行中隊、指揮官を守る調査中隊、野営地を守る拠点中隊に再編成された。
リオン、ジス、フリューゲルのパーティーが配置されたのは先行中隊。
アーネストの飛竜を護衛する役目を担うことになった。
「視界が悪い」
事前通達されたように待機中の毒素だけでなく濃厚な魔力も増えていき、視界がかなり悪くなった。
「飛行速度も速い。魔物に気づきにくいかもしれない」
ゆっくり飛行すると魔物に狙われやすいため、アーネストの飛竜はかなりの速度で飛行していた。
「大丈夫だ。探知魔法を展開している」
操縦役はフリューゲルに任せ、ジスは防御役を務めながら索敵魔法を使っていた。
「小型の魔物がいるだろう? 群れのようだが」
フリューゲルは召喚者として自分の飛竜の感覚をある程度共有することができる。
竜族特性の角があることもあり、付近に小型の魔物が飛行していることを感じていた。
「攻撃してこなければ無視すればいい」
「侵入者への警戒はするだろうが、飛竜だからな。攻撃してくるかどうかわからない」
「獰猛な類であれば、襲ってくるのは時間の問題だ。その場合は先制攻撃した方がいいけれどね」
「俺もそう思う。先行中隊は何もなくても、調査中隊が狙われるかもしれない」
そして、数分後。
「指揮官より通達。襲撃された。魔鳥だけに数が多い。全員で撃退せよ」
通信機から指示が出た。
「やはり後ろが狙われたか」
「指揮官を守らないだな」
フリューゲルは飛竜を旋回させた。
ビュンッ!
その横を凄まじい速度で黒い飛竜が飛んでいった。
「アーネストだ」
「急旋回させたね」
「急げ!」
フリューゲルの気持ちに応えるように飛竜が速度を上げ、ジスも加速魔法でサポートした。
「私は魔力を温存したい。攻撃はできるだけリオンに任せる」
「了解」
フリューゲルの飛竜は全速力で調査中隊の援護に向かった。
大きな飛竜と小さな魔鳥の群れが入り混じった状態での空中戦が展開されていた。
「飛竜に乗っている者だけが狙われている」
魔鳥は飛竜を無視し、その背中に乗っている者だけを狙って攻撃していた。
「賢いというべきか、愚かというべきか」
「撃つよ」
リオンが構えたのは、ジスが用意した氷の弓。
爆弾弓のように使用する時に魔力調整をしながら込めるタイプではなく、すでに弓に込められた魔力を使うタイプだった。
「これだけ多くいると、魔力を使い切ってしまうかもしれない」
「遠慮なく撃てばいい」
ジスが答える前に、リオンは連続射撃を開始していた。
その矢に射抜かれた魔鳥は瞬時に氷ついて落ちていく。
爆弾弓を使うと着弾と同時に爆発が起き、大気が乱れて視界も悪くなる。
味方にその影響が出てしまわないようリオンは氷の弓を使い続けた。
「この距離でも一撃必中だ。さすがだね」
「魔法の矢だからだよ。普通の矢じゃ空気抵抗で飛ばない」
「戦線に合流する! 指揮官の場所は?」
「二時方向だが味方が多い。四時方向が狙われている」
「先に四時方向を支援しよう。フリューゲル、適当に飛んで」
「飛竜に近いのは俺がやる」
フリューゲルは飛竜を斜めにすると、魔鳥に狙われている飛竜の救援に向かった。
周囲にいる魔鳥に矢が当たった瞬間、凍り付く様子を見た者は驚いた。
「凍った!」
「魔法ではなく矢だ!」
「速い!」
魔鳥が大量だけに範囲魔法で一掃するのが有効だが、魔鳥の距離が近いと自分や飛竜の一部も魔法の効果範囲内になってしまうせいで使えない。
防御魔法を無視して群がろうとする魔鳥に単発魔法や武器で応戦しつつも、うまく対応できない。
そんな状況がリオンたちの援護で変化した。
「指揮官の様子を見にいこう」
ジスの誘導によってフリューゲルが飛竜を操る。
「見つけた。私が対応する」
ジスが魔法を使った。
「これは何だ?」
「結界?」
「いや、防御膜だ!」
飛竜の背中に乗る指揮官たちを包み込む小さな防御膜が生じた。
膜の外側に触れた途端、魔鳥が感電して落ちていく。
「あれは雷系の防御魔法? 反撃で倒せるから効果的だね」
「思ったよりも暇だ」
最も魔鳥が多い場所に向かえば、フリューゲルの飛竜に乗る三人も狙われる。
ジスは自分たちを襲って来る魔鳥を魔法で追い払うつもりだったが、フリューゲルが飛竜を操縦しながら周囲にいる魔鳥を撃退していた。
「フリューゲルが座ったまま槍を投げて攻撃するとは思わなかったよ」
しかも、槍は召喚物扱い。
投げて攻撃したあとは一旦召喚枠に戻し、手元に再召喚していた。
「威力もありそうだね?」
「一番の利点は片手で扱えることだ。弓は両手が必要だろう?」
「飛行中に最も有効なのは魔法だけどね」
「操縦しながら片手間に魔法を撃つのは難しい」
「技能次第だ。個別に撃破するだけだと減らしにくいよ?」
「飛竜の近くで範囲魔法を使うのは危険だ」
「そうだね」
リオンは爆弾弓に持ち替えると、はぐれたように飛んでいる魔鳥を狙って撃った。
ドカーン!
味方を巻き込むのを防ぐため大きな魔法を使う者がいなかったこともあり、突然の爆発音は周囲の人々だけでなく魔鳥も驚かせた。
そのせいで群がるような攻撃をしていた魔鳥たちが散開するように距離を取る。
すかさず、
ズバーン!
ジスが雷撃を横に走らせ、相当な戦果を挙げた。
「攻撃は任せるって言ってなかった?」
「できるだけだよ。追撃のチャンスだったしね」
「効率がいいのは歓迎だ。ところで、指揮官は無事か?」
「しばらくは防御膜がある。魔鳥は手出しができないよ」
ジスが答えていると、雲を吹き飛ばすような大爆発が次々と起きた。
「あれは?」
「わざとだね」
「魔鳥の戦意を喪失させて、退却を促すためだろう」
フリューゲルが言ったように、魔鳥たちはつぎつぎと飛竜から離れ去っていく。
これ以上狙っても無駄だと判断したようだった。
「あれはフィアー? それとも青いローブの者かな?」
「さあね。どちらも魔法は得意そうだよ」
飛竜に乗る三人は操縦役、防御役、攻撃役の役割分担をすることになっている。
誘導員のパーティーにも当てはまるかわからないが、アーネストが操縦者とすれば、フィアーと青いローブの者で攻撃役と防御役を分担するはずだった。
「指揮官より通達する。魔鳥の撃退に成功した。先行中隊は誘導員の飛竜の後方で飛行位置を修正しろ」
通信機からの通達と同時に、黒い飛竜が大きく旋回していく。
「アーネストだ」
「誘導員とその飛竜が最も大変だろうね」
最も危険な先導役を務めつつ、何かあれば後方に戻り、対応が済むと真っ先に戻らなくてはいけない。
「若いのを手に入れたおいて正解だよ」
アーネストは竜王から感謝の証として若い飛竜を贈られていた。
「若い飛竜を手に入れてもうまく扱えるかは別だ。アーネストは本当にすごい」
若い飛竜ほど操縦者の指示を聞きにくい。
短期間で通常飛行を指示するだけでも大変だというのに、アーネストは危険地帯を飛行させ、空中戦さえこなせるほどに飛竜を使いこなしていた。
「竜族であっても飛竜と強く意思疎通できる者は限られている。角もないのに驚くしかない!」
「飛竜の操縦に角は関係ないよ」
「必須ではないのはわかっている。だが、あると便利だ。周囲の状況も把握しやすい」
「魔法でいい」
フリューゲルの表情に不機嫌さが宿った。
「それはいろいろな魔法を使えるジスだからだ」
「僕はフリューゲルの角が羨ましい。かっこいいし便利だと思う」
リオンがそう言うと、フリューゲルは笑みを浮かべた。
「私はリオンの俊敏さが羨ましい。竜族も弓は得意だが、あれほど正確で速くはない」
「私がリオンに加速魔法をかけたからだよ?」
「ジスはすぐに自慢したがる」
「事実を述べたまでだよ」
今度はジスの表情に不機嫌さが宿った。
「ジスから氷の弓を貸してもらえてよかった。誤射しなければ周囲を巻き込まずに済むし、使いやすかった」
すぐにリオンはジスの弓を話題にした。
「とても便利な弓だろう? 込める魔力によって矢の属性が変わる」
リオンはピンと来た。
「もしかして、セレスティーナに頼んだ?」
「私が依頼したら必ず魔力を補充することを条件にして、イヤリングを渡した」
弓に魔力を込めるだけで魔法のイヤリングが手に入るというのは、セレスティーナにとって簡単な条件。
ジスはいつでも氷の弓を保有できるメリットがある。
「さすがジスだ。良い取引をしたね」
「そうだろう?」
ジスは嬉しそうな笑みを浮かべた。
三人パーティー。
良い雰囲気を作ることでもリオンは活躍中だった。