101 誘導員
「誰と一緒なんだろう?」
「アーネストが参加するとは聞いていない。リオンは知っていたのかな?」
「聞いてない。今、初めて知った」
だが、アーネストであることは疑いようもない。
ヴァルールのイベント担当者を乗せる役目を頼まれたのだろうとリオンは推測した。
「魔法の鳥を送ってみよう」
ジスは魔法の鳥で交信を試みた。
『アーネストも参加していたのか。同乗者は誰かな?』
すると、アーネストからも魔法の鳥が飛んで来た。
『二人が会いたがっていた人物だ。イベント担当者として参加している。身分や種族は秘密にしてほしいが、名前を呼ぶのはいいらしい』
『調査員のフィアーだ。二人が参加してくれて嬉しいよ。但し、言動には特に注意をするように。ヴァルールの統治者が誰かなのかは安全上の理由で非公開になっている』
「調査員は大公だ」
リオンはジスに教えた。
「大公が自ら指揮するイベントか」
「このイベントの魔境捜索というのは建前で、本当は魔人捜索なのかもしれない」
リオンはそう思った。
「参加者の条件がおかしかった」
ほとんどの条件は魔物討伐における募集と同じだが、魔物討伐者のラインセスを持っていない一般人でも申し込むことができた。
移動を担う魔物の操縦者、戦闘員を支える非戦闘員、学者などの調査を目的とした専門家が申し込めるようにするためだと言われていたが、リオンは別の狙いもあると感じていた。
「魔人はいないわけじゃない。正体や所在を隠しているだけだ。そこで、魔人が興味を持ちそうなイベントを考えたんじゃないかな?」
魔人たちが奥地を離れたのは毒竜によって危険地帯になったから。
危険な場所だとわかっている場所に、わざわざ転移魔法で行くわけがない。
しかし、魔人より弱い種族が多く参加するヴァルールのイベントに便乗すれば、安全なルートを通って奥地に向かうことができ、現在の状況を知ることができる。
「イベント参加者の中に紛れてしまえば、魔人であることを隠せる。そう思った魔人が参加するかもしれない」
「一人ぐらいならいるかもしれないね」
「大公が直々に担当しているのは、参加者の中に顔見知りがいないか確認するためかも?」
「さすがリオンだ。そうかもしれないね」
「僕の推測があっているとは限らない。ただ、アーネストは間違いなく重要なことを知っている気がする」
「そうだね」
やがて、森林地帯の中にぽっかりと開いた穴のような空間が見えて来た。
「あれはなんだろう?」
「広範囲の魔法でえぐった跡のようだ。飛行時間からいって、あそこで休憩かもしれない」
ジスの予想が当たった。
アーネストは操縦していた飛竜を森林地帯の中にある空き地のような場所に着陸させた。
「さっさと着陸した方がいいかな?」
「第一小隊を待つ気はない。第三小隊の全員が私と同じ気持ちだよ」
ジスが飛竜を着陸させると、やや後方の位置を飛んでいたフリューゲルたちも次々と着陸した。
そして、すぐに召喚した飛竜を召喚枠に戻した。
「素早い。呼吸のようにスムーズだ」
「竜族は飛竜の扱いに慣れているからね」
「アーネスト! 参加していたのか!」
フリューゲルは驚いていた。
「ヴァルールの調査員を乗せることになった」
アーネストはフリューゲルだけでなく、リオンとジスにも説明するように答えた。
「その竜族は知り合い?」
フィアーが尋ねた。
「竜王の甥のフリューゲルだ」
「着陸も飛竜を戻すのも素早かった。優秀そうだね?」
「リオンの小隊にいる。何かと心配だろうが、小隊長を守るのは基本だ。少しは安心してほしい」
「リオンの方が小隊長だったのか」
ジスが所有する黒い飛竜を先頭にして、後続の飛竜は隊列を組むように飛んでいた。
どう見てもリオンかジスのどちらかが小隊長で、同じ小隊にいる者の理解力と飛行技術が確かなのも明らかだった。
「第三小隊は僕とジス以外は竜族だ。飛竜も各自で所有しているし、竜騎士の割合も多い」
「そうか。だが、ここで再編成がある。あとから来る指揮官が通達するだろう」
「そうなんだ?」
大公のフィアーは身分を隠すために調査員になり、指揮役は別の者が務めるのだろうとリオンは思った。
「魔境の奥へ行くほど大気中の毒素が増える。防御魔法がないと、飛竜は危険を感じてルートをはずれてしまうだろう。飛竜にも参加者にも防御魔法が必須だ」
「僕は魔法を使えない。もしかして、ダメな感じ?」
「パーティーを組んでいるだろう? ジスがかければいい。魔法具でもいいが、奥へ行くほど強力な防御魔法が必要になる。無理だと思うならここに残ればいい。先に進んで無理だと思った時点でここに引き返すこともできる」
現在いるのはイベント用の野営地として作られた場所。
周辺にいる魔物は強いが、空気は安全。
先へ進むために必要な能力がない者や不安な者は、野営地の留守番役として残る。
そして、このあとに到着する第二部隊以降への説明役や連絡役を務めることをアーネストが説明した。
「野営地にいる者が多い場合は、付近の魔物を積極的に討伐してもらう。先に進んだ者も何かあればここに戻ってくる。怪我人や病人が出た場合は交代だ」
「ここが飛竜団の臨時拠点ということか」
次々と第一部隊の飛竜が着陸した。
その中には第一部隊の指揮官が乗った飛竜もいた。
「第一部隊が全員到着したので通達する。私は第一部隊の指揮官ディザスターだ」
ディザスターの意味は大災害。
指揮官の名前がわかった途端、第一部隊中に大きなざわめきが走った。
「すごい名前だね?」
リオンがそう言いながらジスを見ると、困惑した表情が浮かんでいた。
「この先はだんだんと大気中に含まれる毒素が増え、通常生物が生息できない領域に入る。呼吸を守るための防御魔法が必須だ。自分だけでなく飛竜、防御魔法が使えないパーティーメンバーに対しても必ず魔法をかけるように。それができない場合はこの野営地に残ってもらう」
アーネストがリオンたちに説明したことと同じ内容が通達された。
「魔境の奥へ行くと、空を縄張りにする魔物が多くなる。飛竜であっても攻撃されるため、空中戦に参加できない者は連れていかない」
事前に告知したように、移動に利用する魔物は随時活用する。
飛竜一匹に対する乗者数は三人までに限定、そのメンバーで臨時パーティーを組む。
パーティーメンバーは操縦者、攻撃者、防御者のどれか一つを務めるだけの能力が必須で、一人だけに負担がかからないよう役割分担をする。
飛竜が墜落する可能性を考え、パーティーには予備の飛竜を召喚できる者を入れることも通達された。
「フリューゲル、組んでくれ!」
「頼む!」
「フリューゲル様、ぜひ一緒にパーティーを!」
三人でパーティーを組むことがわった途端、竜族たちはフリューゲルと組むために殺到した。
だが、フリューゲルにも組みたい相手がいた。
「リオン、ジス、組まないか?」
「嬉しい。ジスもいい?」
「もちろんだ」
リオン、ジス、フリューゲルの三人でパーティーを組むことが決まった。