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10 猫族の村



 アーネストはキティとリオンを連れて、二人を送り出した獣人の村へ行くことにした。


 猫族の二人は人間が視認しにくいほど早く走ることができる。


 相当な距離を短い時間で走ることが可能だった。


 しかも、アーネストが加速魔法をかけている。


 村へ着くのは早かった。


「あっ!」

「戻って来た」

「成功?」

「いや。失敗だ」

「人間を連れて来た」

「懐柔された?」

「裏切り者?」


 村にいる猫族たちがざわついた。


「私はヴィラージュの新しい領主アーネストだ。村長はいるだろうか? 何度も子どもを送り込まれるのは困る。暴力には反対だ。話し合いたい」


 すぐに村長が現れた。


「あんたが新しい領主? 若いって聞いていたけれど、確かに若いねえ」


 吊り目をした若い猫族の女性がアーネストの全身をくまなくじっくり見つめた。


「私はアーネストだ。君の名前は?」

「関係ない。村長だよ」


 そして、


「姉様」

「姉様」


 キティとリオンが村長を指差した。


「そうなのか。ということは、私の子ども……にするには大きいか」

「何言ってんの?」


 アーネストはキティとリオンを自分の子どもにしたことを話した。


「正式な手続きをしたわけではないが、養い子というものになる。両親の許可がほしい」

「両親なんかいないよ。魔物と戦って死んだ」


 猫族は多産だけに村人が増えやすい。すぐに食料が不足してしまうため、ある程度人数が増えたら村を分ける。


 弱い方がより弱い魔物がいる地域に移住するという形を取っていた。


 キティたちの両親は弱い方で、移住を強いられた方。


 村から追い出されるようにして移動する時に強い魔物に遭遇。


 両親たちが戦っているうちに、長女が臨時のまとめ役になって弱い者や子どもたちを連れて逃げた。


 そして、新村長になり、新しく作り上げたのが現在の村。


 しかし、村から追い出されたのは弱い猫族ばかり。そこそこ腕の立つ者は、両親と共に残ったために恐らくは戦死。


 なんとかギリギリの生活を送っていたが、弱い魔物が減ってきている。


 村人の数も少し増えてしまっているだけに、困っていることがわかった。


「あんたのせいだ。柵を作って、捕縛した魔ウサギを独占しようとしているんだろう? そのせいでうちらが魔ウサギを狩ることができない」


 このままでは飢えて死ぬしかない。


 抗議を伝えるため、新しい領主を狙って怪我をさせることにした。


 命を狙ったわけでもなく、子どもだけに処罰は甘くなる。注意されるだけで済み、言うことを聞かせるために食べ物もくれる。


 子どもたちに少しでも食べさせたいということで送り出したこともわかった。


「つまり、食料が多くあれば私を狙わないということか?」

「うちらの安全も重要だよ。村を襲撃されたら困る。なのに、村の位置を教えるなんて、呆れるしかないよ!」


 村長はキティとリオンを睨みつけた。


「二人を怒らないでほしい。私の大切な子どもたちだ。猫族の事情はわかった。だったら、私と一緒に住まないか?」


 村長はいぶかしげな視線をアーネストに向けた。


「求愛かい?」

「いや。村ごと引き受ける。私たちの決めたルールを守ってくれるなら、一緒に生活することが可能だ」


 魔ウサギの放牧体制を整えたものの、魔ウサギの繁殖力があり過ぎて管理が大変になっている。


 そこで猫族の力を借りたい。手伝ってくれれば、対価として魔ウサギを分けることをアーネストは伝えた。


「危険な森に行っても魔ウサギは少ないのだろう? だったら、柵の中にいる魔ウサギを適度に狩るのを手伝ってほしい。その分、管理に回していた人員を農作業や別のことに回せる」


 村長は黙り込んだままアーネストを見つめるだけ。


「農作業というのは野菜作りのことだ。小麦も作っているが、多くはない。いずれ草原を小麦畑に変えたいと思っているが、今ある植物をなくして、魔物に荒されないよう工夫しなければならない」


 アーネストはミントに作ってもらったサンドイッチを取り出した。


「これは人間が作っている野菜や小麦で作ったサンドイッチだ。このようなものをたくさん作って皆で食べられるようにしたい。良かったら味見をしてくれないか?」

「毒入りじゃないだろうね?」


 村長はサンドイッチを受け取り、くんくんと匂いを嗅いだ。


 ガブリ。


 豪快な一口。


 そして、


「美味い」

「だろう? だが、それをヴィラージュに住む全員が毎日食べることはできない。私は領主としてヴィラージュに住む全員が日々の食事を食べることができるようにしたい。猫族も一緒に食べよう。無理にとは言わないが、人間の住んでいる領都の方へ移住してくれるとありがたい。協力者と領民では扱いが異なる。領民の場合は、協力者よりも分け前が多くなる」

「仕方がないから領民になってやるよ。あたいは村長だから、皆の食べ物を確保する手段を考えなくちゃいけないんだ。でも、人間に隷属はしない」

「大丈夫だ。だが、領都にいる全員がこのことに賛成するかどうかはわからない。私の方から話す。何日ぐらいで移住できるだろうか?」

「数日以内かねえ」

「わかった。受け入れられるようにしておく。何人いるのか教えてもらえないか?」

「百人はいない。森へ行ったきり、帰ってこない者もいる。死んだかどうかわからない」

「それなら、移住したことがわかる立札を村に作ってほしい。そうすれば、移住後に戻った者も、仲間がどこにいるかわかる」

「あんた、若いのに頭がいいねえ。領主なだけあるわ」


 アーネストは猫族の村長との話し合いを終え、領都に戻った。


「ということで、猫族が引っ越してくる。魔ウサギの管理も狩りも楽になるだろう」


 喜ぶ者もいれば、不安を感じる者もいた。


 しかし、領主はアーネスト。


 魔ウサギの放牧体制を整えたのもアーネスト。


 文句は出なかった。


「何かあっても、丁寧に説明してほしい。ルールを教えなければ、守ることはできない。ルールを理解した上で、それでも守らない場合は私に言ってほしい。村長と話し合う」

「それって、猫族の村が新しくできるってことですか?」

「そうだ。百人以内らしいが、行方不明者もいて正確な人数がわからない。領都内に住居を確保するよりも、すぐそばに村を作った方がいいと思う」

「猫族の村ってどんなだ?」

「さあ」

「普通の家なのか?」

「基本的にはテントだと思います」


 ミントが言った。


「移動しながら住む種族はテントが多いと聞いたことがあります。定住化が進むと木製の家を建てるとか」

「さすがミントだ。物知りだな」


 アーネストに褒められ、ミントは嬉しくなった。


「猫族の村はテントもあったが、魔物に襲われた時に多くの荷物を失ったそうだ。強い猫族は戦死。弱い者や子どもだけでなんとか生き延びている。食料不足に陥り、どうしても子どもに食べさせたくて、私を狙ったこともわかった。なんとかして助けたい」


 アーネストの説明を聞き、人々は心を動かされた。


 だがしかし、領都も食料が豊富とはいえない状況。


 多くの猫族が移住したせいで、自分たちの食料がなくなるのではないかと心配する者も多くいた。


「大丈夫です!」


 ミントが声を張り上げた。


「アーネスト様のおかげで、魔ウサギを放牧できるようになりました。猫族に手伝ってもらった方がたくさんの魔ウサギを管理できて、数を増やせます」


 ミントは食料担当者。


 日々の食事を作るだけでなく、より多くの食料を確保していくための取り組みにも協力したいと思った。


「いずれは草原を小麦畑にしたいという構想もあるそうです。でも、すぐに食料を調達できる案ではないのも確かです。そこで、アーネスト様は森に行ってパオンの木とバタータの木を探してください。一から育てるより、移植の方がすぐに供給力を増やせます」


 森で見つけて植えたパオンの木やバタータの木は枯れていないどころか、次々と新しい実をつけている。


 魔境にある植物の生命力は強いため、うまく根付きそうだとミントは思っていた。


「わかった。明日、探しに行く。木材も調達してくる」

「普通の木と一緒に切ってしまわないようにしてくださいね?」

「大丈夫だ。キティに匂いを確かめてもらえば、近くにあるかどうかわかる。今日は草原を刈って空き地作りをしてくる」


 アーネストはそう言うと、手をつないでいたリオンからそっと手を離して頭を優しく撫でた。


「留守番を頼む。ミントを手伝ってほしい」

「わかった」

「キティも一緒に」


 アーネストは抱っこしていたキティをゆっくりと降ろした。


「手伝えることがあれば、挑戦してみてほしい」

「味見するにゃ」


 アーネストとミントは優しく微笑み、その光景に人々も笑みを浮かべた。


 僕も味見を手伝いたい。


 リオンはそう思った。





 領都のそばに猫族の村ができた。


 猫族の村を領都内とするか外にするかは意見が分かれているが、とにかくできた。


 これまで通り、猫族は独自で食料を入手する努力も継続するが、アーネストが作った魔ウサギの放牧も手伝う。


 また、狩りに行かない者を中心として、新しく移植したパオンの木、バタータの木の栽培や小麦や野菜といった農産物の生産にも力を入れていくことになった。


 これらの取り組みがうまくいけば、危険な森へ行って食料を調達しなくてもいい。


 アーネストが領主になったことで、ヴィラージュが魔境の名を返上できるかもしれないという希望が人々の胸に宿っていた。


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