初めてではありませんが、初めてを愛しの旦那さまに捧げます
「我を満足させることも出来ぬのか、この役立たずが」
寝台で頭を下げる男性に、容赦なく怒号を飛ばす美しい女性。
薄明かりの中、清廉な男性は衣服を纏っていない。
ああ、これは。
そこでシーンが切り替わる。
「其方の行為はワンパターンで、もう厭きたわ。やはり善いのは顔だけだったな」
先程の美しい女性がまた、すらりとした足を投げ出し寝台に横たわっている。
しかし女性の前にいるのは、先程と同じ男性ではない。
更にシーンが切り替わる。
例の美しい女性は、今度は寝台ではなく玉座から見下ろしていた。
「其方のように目つきが悪く我を慕わぬ者は好かん。用が無いなら我に寄るでない」
歪んだ表情で、厭味ったらしく男性に冷たい言葉を投げつける。
この男性は確かに三白眼で目つきが悪いが、桁外れの美形だった。
大体目つきといえば、女性のほうがよっぽど嫌な目つきをしている。いくらとびきりの美人でも人を見下すような表情、とにかく腹が立つくらい見ていて感じが悪い。
しばらくその女性が様々な男性に罵声を浴びせる映像が流れ、消えた。
そして無限の白い空間が広がる。
「どう思われますか?」
どこか遠いところから女神さまの声が聞こえた。
今見た映像のことを言っているのだろうか。
権力者だか何だか知らないが、随分と横暴な女性だった。
「酷い映像です。一妻多夫の国かなんかなのでしょうか?」
逆にそう質問してみる。
私には最も縁のない話だ。
「そうです。では、この場所とわたくしのことは覚えていますか?」
「はい、勿論です」
私は即答する。
この場所に来たのはこれが2度目。
1度目に来たときに、こと細かく自分の状況を説明してもらった。
説明というより、記憶を辿ったと言った方が正しい。
私は吉井佳乃、東京在住。容姿に恵まれず、男性とまともに触れることなく五十過ぎで亡くなった。
寿命や病気ではなく、川で溺れている見ず知らずの子供を助けて溺死したらしい。(その辺の記憶は曖昧だった。)
それで生前の境遇を気の毒に思った慈悲深い女神さまが、今度は恵まれた世界に転生させてあげましょうと言ってくださったのだ。
「わたくしは約束通り貴女を転生させました。ですがそのまま放置してしまったのが悪かったのか、気づいたら貴女はわたくしへの感謝すらない酷い性格に」
「え?」
女神さまは話を続ける。
「わたくしは幸せを実感できるよう、きちんと前世の記憶を残したまま貴女を転生させたのです。しかしどうやら幼少期に頭を打ったらしく、その時に前世の記憶をなくしてしまったようで」
「えっと? 女神さま?」
「百聞は一見に如かず、ですね」
女神さまはそう言って可愛らしく咳払いをする。
すると、私の前に突然大きな鏡が現れた。
「はあ!?」
思わず大声を上げる。
鏡に映っていたのは、あの美しいけれど非常に感じの悪い、例の映像の女性ではないか。
記憶にある五十過ぎて死んでしまった、醜い私ではない。
切り揃えられた前髪が特徴的な、群青色の長い髪。滑らかで傷一つない白い肌。一際目立つ形のよい大きな胸は弾力があり、腰は妖艶に括れている。
その鏡の中の美女がどんぐり眼でこちらを見ていた。
「と、どういうことでしょうか?」
私は女神さまに尋ねる以外ない。
「幸せそうでもないですし、あまりに性格が悪かったので、先ほど無くした前世の記憶を戻しました。そうしたら今度はすっかり転生後の記憶を忘れてしまって」
「つまり、あの映像の高慢ちきな女性は私ということですか?」
「ええ、その通りです。あれは、転生後の貴女なのです。生まれた環境でこうも人格が変わるとは、人とは恐ろしいものですね。穏やかに見えましたが、やはり内心では男性に対する恨みつらみが相当あったのでしょう」
そんなことを言われても、なんと返していいのか分からない。
私とはあまりにもかけ離れているし、とにかくあの女性が自分だという実感がない。
「さあ、戻りましょう。今度こそ幸せを噛みしめながら、2度目の人生を謳歌するのです。それと、今度こそわたくしへの感謝も忘れないように」
「まさか私、さっきの映像の世界でこれから生きていくんですか?」
「そうです。問題はありません」
「困ります。問題ありまくりです。今の私はあの女性としての記憶が無いんですよ?」
「それはなんとでもなるでしょう。貴女を助けてくれる者は大勢います」
そんな……。
あんな性格で誰が助けてくれるというのだろう。
「何しろ貴女はあの国の女帝なのですから」
「え?」
それが女神さまと交わした最後の言葉だった。
◇◇◇
「女皇陛下、陛下、目を覚まされましたか?」
眼鏡をかけた理知的な男性が私を覗き込んでいる。
起き上がろうとすると、「そのままで。頭を強く打っておられます」と男性は言った。
その言い方と風貌から、お医者様だと思われた。
別にどこにも痛みはない。
「身体はなんともありません。あなたはお医者様ですか?」
私は横になったままの状態で尋ねる。
「陛下、一体どうされたのですか?」
「え?」
「戯れにしても口調が普段とまるで違いますが」
それはそうだろう。あの女性はどういう話し方をしていただろうか。
「わ、我は平気じゃ。其方のことをし、知りたい、です?」
「は?」
目の前の男性は驚いた表情で固まっている。
やはりダメだ。無理がある。
もうここは正直に話そう。
「……実は、これまでの記憶がないのです。私は誰で、あなたはどなたでしょうか?」
男性は戸惑いながらも、クロン・コウと名乗った。思った通り私の専属の主治医だった。
私の名はリアーナ・マディラニア・サラス。現在21歳。
両親を暗殺され(物騒すぎる)、僅か17歳でこの国の女帝になったらしい。
起き上がり周りを見回すと、美少年たちが大きなうちわで懸命に私を扇いでいる。
「クロンさん、彼らは?」
「陛下専属のボーイです」
「ボーイ?」
「陛下のお世話をする使用人です」
専属の使用人?
私はこんな年端もいかない少年たちに、一体何をさせていたのだろう。
「ちょっと皆さん、こんなこといいからもっと自分のしたいことをしてください!!」
私は大きい声で思わずそう叫んだ。
少年たちは顔を見合わせ困惑している。
私は寝台から下りて、1人の少年の前に立つ。
「あなたには何かやりたいことはないのですか?」
「僕は陛下に直に仕えられることを誉れに思っております」
彼は震えながら言った。
「この国が好きなのですね」
少年は頷く。
「だったら私じゃなくて、もっとこの国のためになるようなことを頑張ってください。勉強して官僚になるとか他にも何かあるでしょう。そうやってこの国を支えてくれるほうがずっと嬉しいです」
「陛下が望むのであれば」
緊張が解かれ、少年の表情が緩む。
「皆さんももう行ってください。私は大丈夫です。何か困ったことがあればいつでも相談に乗りますから」
少年たちは、私に向かって深く礼をすると各々部屋を出て行った。
とはいえ、今は私の方こそ誰か相談できる人が必要だった。
「できれば落ち着いた年配の女性で、私に色々と教えてくださる方がいると助かるのですが」
「……本当に、戯れではないのですね」
クロンさんはまじまじと私を見つめながらそう言った。
「あの?」
「すぐに手配しましょう」
クロンさんは微笑む。
不意に、女神さまに見せられたとんでもない映像が脳裏をよぎる。
だって様々な男の人たちを罵倒していたのは、まさにこの場所、この寝台ではないか。
「クロンさん、私は結婚しているのでしょうか?」
「はい?」
「ま、まさか私は複数人と?」
「いえ、陛下の皇配はロシエル様、お一人です」
「皇配?」
「正式な伴侶です。男妾はいくらでもおりましたが、子ができたのならいざ知らず、妾を皇配にしてもあまり意味がありませんので」
「つまり、ロシエルさんとの間に子が?」
「いいえ、違います。陛下はまだお子に恵まれておりません。若いですし、焦る必要もないでしょう」
「ではどうしてロシエルさんを正式な伴侶にしたのでしょうか?」
あの高慢ちきな私、あんな多情な性格なのに、ロシエルさんのことだけ特別に思っていたのだろうか。
「ロシエル様とは完全な政略結婚です。研究者であり軍師でもあるロシエル様と、宰相を務めるロシエル様のお父上の力が無くては現状この国は回りませんので」
そうか、恋とか愛とか関係ないのか。
でも恋愛経験が一度もなかった私には、それくらいの少し距離のある関係がちょうどいいのかもしれない。
複数人の旦那がいるなんて聞かされるよりはずっといい。
「陛下は別人のように御成りです。非常事態と言えましょう。ロシエル様を呼んでまいりましょうか?」
クロンさんはそう提案した。
「はい、お願いします」
私は答える。
はっきりと答えはしたけれど、不安ではある。
私の旦那さまは一体どんな人なのだろう。
政略結婚とはいえ、できることなら仲良くやっていきたい。
「あの、クロンさん。服を着替えたいのですが。それと、この部屋じゃなくて別の部屋で会うことはできますか?」
「お加減がよろしいようでしたら、謁見の間にお越しください。先ほど希望されました年配のメイドをすぐに呼んでまいりますので」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、クロンさんは目を見開いてまた私の顔をまじまじと見つめる。
「慣れませんね」
そう言って部屋を出て行った。
落ち着いたご年配の(といっても死んだときの私と同じくらいの年齢かと思う)メイドがやってきて、着替えを手伝ってくれた。
ダリさんといって優しそうな雰囲気の女性だ。彼女になら色々相談できそうだ。
ダリさんに案内され、謁見の間にやってくる。
この場所にも見覚えがあった。
今、私が座っているのは玉座で、あの例の私の厭味ったらしい表情を思い出す。
正直、こんなところに座りたくはない。
気づけば、私の前で男性が片膝をついていた。
この方がロシエルさんだろうか。
「顔を上げてください」
男性は顔を上げるも、視線を逸した。
「私の顔など見たくもないでしょう」
「え?」
この男性にも見覚えがある。
あ!!
あの映像に映っていた三白眼の超絶美形男じゃないか!!
もっと近くでよく見たい。
私は玉座から下りて、目の前の彼に視線を合わせる。
「本当に綺麗な方ですね。あなたが私の旦那さまだったのですか」
「は? 陛下、可笑しくなられたのですか」
「そうですよ。記憶喪失です。クロンさんから何も聞いていないのですか?」
「頭を打ってどうのこうのとは聞きましたが、意味が分からず適当に流してしまいました」
傍で話す彼の声がまた心地いい。
私には勿体ないくらい魅力的な旦那さまだった。
「ロシエルさん、以前は失礼なことを言って申し訳ありませんでした」
「陛下が謝罪を? いや、そんなことより記憶があるのではないですか」
「そういうわけではないのです。客観的に見た記憶の断片と申しますか、私であって私でないと申しますか」
「もう報告は十分。陛下のお身体がご無事で何よりです。記憶も何れ戻るでしょう」
ロシエルさんはそう言って立ち去ろうとする。
「どこへ行かれるのですか?」
「私は職務に戻ります」
「仕事が終わったらまたお会いできますか?」
彼ともっと色々なことを話したい。
「どういう意味でしょうか」
「えっと、夜にでも」
「夜?」
驚いた顔で私を見ている。
「何か不都合でも?」
「夜に会う必要はないでしょう。子作りなら妾と励んでください」
「な、何を……」
私は口を開けた状態で彼を見つめ返す。
「陛下、何故そんな目で見るのですか?」
「ロシエルさんは私が他の男性とそういう関係を持って、何とも思わないのですか?」
「何を今更。政は宰相のお陰で安定していますから、陛下は存分に妾と子作りに励んでください」
「私は、旦那さま以外の方とそんなことをするつもりはありません」
「旦那様? 私のことでしょうか。傍に寄るなと言うくらい嫌っているのに?」
「嫌ってなど……」
彼は過去の私のことを言っているのだろう。
「まあ、子作りも本来私の責務なのでしょう。陛下が望むのであれば応じます」
望むのであれば……。
政略結婚なのだから、愛情がなくて当然だ。愛してもらおうなんて思うこと自体図々しい。
それにこれまでの私の暴言、暴挙。
分かっている。
私にはロシエルさんに愛してもらう資格なんてない。
ただ、愛されなくとも私が一方的にロシエルさんを追いかけることは自由だろう。
これが異性にに心を奪われるということなのだろうか。
初めての感情だった。
その後、ダリさんに宮殿を案内してもらったり食事を摂ったりしていたらすっかり夜になってしまった。
自室に戻ると、寝台の傍で男性が座礼をしていた。
「どなたですか?」
「本日は俺が夜伽を務めます」
彼の顔にも見覚えがある。映像で例の私が罵倒を浴びせていた青年の1人だ。
「前回の不手際を挽回させてください」
不手際?
気になりはしたけど、夜伽の不手際なんて詳しく聞きたくもない。
私は別の根本的な質問をする。
「失礼なことをお聞きしますが、あなたは私の男妾なのですか?」
「はい。小さな村出身なのですが、陛下に見初められまして皇宮に上がらせて頂きました」
「ごめんなさい。もう私に妾は必要ありません」
「陛下、記憶を無くされたという噂は本当だったのですね」
「はい。えっとお名前は?」
「チサンです」
男性が名乗った。
「チサンさん、もしここで働いてくださるなら妾ではなく別の仕事をお願いしたいです」
「別の仕事?」
「えーと、それはこれから探します。今、この世界を勉強中なので、すぐにこれとは答えられないのですが」
チサンさんは笑った。
「……申し訳ございません。貴女は本当に陛下なのですか? 記憶が無いとはいえ、あまりに以前と違いすぎて」
「ですよね。暴君すぎて自分でも引きます。あ、記憶はないですが以前の自分の横暴ぶりは知っているのです」
「陛下、俺はここを離れ故郷に帰ってもよいでしょうか?」
チサンさんは思い詰めた表情でそう言った。
「故郷に?」
「はい。今の陛下だから告白しますが、俺には将来を誓い合った幼馴染がいたのです。彼女は俺が陛下に捨てられて戻ってくるのをずっと待っております」
「捨てます!! 即、捨てます。早く故郷に帰ってあげてください」
「 陛下、感謝いたします」
彼は涙ぐんだ。
それから私は、他の男妾をすべて切った。
切ったところで別段私に縋る者はいなかった。つまり、権力と恐怖で支配していたに過ぎなかったということだ。
よかった。痴情の縺れなんて冗談じゃない。
過去の私を無かったことにはできないけど、少しだけ心がすっきりした。
私はダリさんにこの皇宮のことを教わりながら日々を過ごす。
宰相であるロシエルさんのお父さんにも会えた。今の私に驚いていたけれど、こんな私にも敬意を払い色々教えてくれた。
何れ少しずつ政についても学んで行けたらいいなと思っている。
主治医のクロンさんとは診察もあり、毎日のように会っていた。
「陛下さえよければ、辞めさせていただきたいのですが」
ある日、突然彼が言いにくそうにそう言った。
「どうしてですか?」
「前から市井に降りて、貧しい患者を診てあげたいと思っていたのです」
「それは素晴らしい考えだと思います」
私は軽く両手を打った。
「それで、陛下の次の主治医ですが、私の叔父はどうでしょう。信頼できる者は限られておりますし、私の叔父もこの国で最高クラスの名医です。ただ、高齢ではあるのですが」
「いいじゃないですか。経験豊富で安心感があります」
「……本当に何も覚えておられないのですね」
「え?」
「私は狡い男です。陛下、長い間お世話になりました。どうかロシエル様とお幸せに」
クロンさんはそう言って、深々と頭を下げた。
本当に深々と。
彼が少し淋しげに見えたけれど、私は何も言葉を返すことができなかった。
◇◇◇
私が私としてこの世界に戻り一ヵ月。
記憶喪失の新しい私を受け入れてくれた宰相の計らいによって、ここ最近はロシエルさんと一緒に食事が摂れるようになった。
本当はそんなまどろっこしいことをしなくても、ロシエルさんは私の命令になら文句も言わず従ってくれる。
けれど、命令で人を動かしたくはない。
ロシエルさんは、相変わらず私と視線を合わせようとはしなかった。
今も一方的に私が声をかけるだけで、それに対する最小限の返事しかしない。
ただ、この日は違っていた。
「陛下、いつの間にか主治医を変えたのですね」
食事を終えると、ロシエルさんの方からそう声を掛けてきた。
「はい。クロンさんは市井の患者さんを診たいそうです。立派なお考えですよね」
ロシエルさんは黙って私を見ている。
どうかしたのだろうか。
彼はしばらくして再び口を開いた。
「お気に入りの妾すら手放すとは」
「妾? クロンさんが、私の妾ですか?」
ロシエルさんは頷く。
「私は、主治医であるクロンさんのことまで妾にしていたんですか?」
「気に入れば陛下が役職になって構うはずもないでしょう?」
ああ、そうだったんだ。
少し引っかかっていたのだ。
あの時彼が言った狡いという言葉の意味が、ようやく分かった。
クロンさんは私との関係を最後まで知らせず、黙って去ってしまった。
けれど決して狡くはない。
言っても言わなくても私はクロンさんを快く送り出したし、言わなかったのは何も知らないままの方がいいというクロンさんの優しさともとれた。
「クロンだけではなく全ての男妾を切ったと聞きました。……先程から黙っていますが、今更惜しくなったのですか?」
「いいえ、まさか。私はロシエルさんがいればそれでいいのです」
「陛下、本当に以前の陛下とは違うのですね」
「はい。ロシエルさんのことをお慕いしています」
私の言葉にロシエルさんは目を見開き、何度か瞬きを繰り返した。
「長年生きてきて、初めて告白しました。は、恥ずかしいです」
私は両手でぱたぱたと自分の顔を軽く仰ぐ。
片思いだとしても、以前から自分の気持ちはきちんと伝えたいと思っていた。
「前に私の子が欲しいと言いましたよね」
ロシエルさんが小声で言った。
「え? はい。まぁ」
確かにそのようなことを言ったが、少しニュアンスが違う。
「妾と作るつもりがないなら仕方がないでしょう。今宵、私が応じます」
「応じ? 義務でも命令でもありません」
「分かっています。ですが、その、どう言ったらよいのか分からなくて」
心なしかロシエルさんの頬が赤い。
彼は言葉を続ける。
「初めて自分の意思でそうしたいと思いました」
嬉しくて私はロシエルさんに飛びつく。
今、あの忌まわしき寝台の上にロシエルさんと2人でいる。
そして今日からきっとこの寝台は忌まわしきものではなくなる。
「ロシエルさん、私たちは夫婦です。これからは陛下と呼ばず私を名前で呼んでください」
「リアーナ……様」
「様も入りません」
「リアーナ」
「ちょっとだけ夫婦らしくなりましたね」
私は笑った。
「本当に触れて構わないでしょうか?」
ロシエルさんは真っ直ぐに私を見ている。
「初めてなので優しくしてください」
「初めて?」
「記憶がないので、ロシエルさんが初めてです」
「そうですか」
ロシエルさんは微笑む。
「できるだけ優しくしますが、私も慣れておりません」
そう言って、ロシエルさんが優しく私の頬を撫でた。
彼の口づけは、たどたどしくも温かかった。
女神さま、私は今、幸せです。
心の中で呟くと、「おめでとう。末永くお幸せに」と女神さまの明るい声が聞こえたような気がした。
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