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プロローグ01 屋上にて

 入学式。

座席は指定。偶然にも、俺の隣にはぶつかった女子。

熱い視線を感じた。地味な女子のもの。


 俺はときどき横を向き、女子を見た。

山吹さくらがそこにいないかという淡い期待を寄せて。

だけど、1度でもそんなことはなかった。


 俺が見る度、そこにいたのは地味な女子。

バッチリ目が合うと、顔を真っ赤にして下を向いた。




 はじめは少し気になる程度だった。

いつのまにかどうでもいい存在になっていた。

ぶつかった女子は、俺にとっては地味過ぎた。



 教室。

ホームルームで自己紹介。席順は出席番号順。

入学式での席をマイナーチェンジしただけ。


 俺の隣にはぶつかった女子。相変わらず視線を感じる。


 けど、自己紹介が終わったあと、俺の興味は完全に失せていた。


 だって、ぶつかった女子の自己紹介が、あまりにも地味だったから。

山吹さくらだったら、私生活でもそこまで地味じゃないと思った。


 本名が、佐倉菜花というらしい。

今後、積極的に関わろうとは思わない。


 それよりも、他の友達を作ろうと思った。




 放課後。

帰り支度をしていたとき、佐倉が俺のところにきた。


「あのぉ、坂本くん……ちょっと、いい、かな……。」


 思い詰めたような表情をしていた。

不可抗力とはいえ、キスはキス。

しっかり謝って、お互い忘れて、後腐れなくする。

俺には、それくらいのことをする義務がる。


「……ちょうど良い。俺も、佐倉さんに言わないといけないことがあるから……。」

「じゃあ、こっち……。」


 佐倉について移動。佐倉のステルス性能を見せつけられた。

職員室に難なく忍び込み、屋上の鍵をゲットしたのだ。


「こっちです」

「あっ、あぁ……。」


 佐倉って、存在は地味だけど、行動は大胆。

俺は、ただ黙ってついて行った。




 屋上。青春のイベントスペース。

かなり密室に近い状態だ。


 こんなところに人を連れ込むなんて。

ひょっとして佐倉は俺に惚れたんだろうか。

入学式でもホームルームでも、俺に熱い視線を投げかけていたし。


 それならそれで行動を変えねばならない。

佐倉の言うことを聞きつつ、しばらくは様子を見よう。


「確かめたいことがあるの……2つ……。」

「なっ、なんだ? 言ってみて……。」


 予想と少し違うのは、2つってところ。

キスしたかどうかは確かめて当然。

そのあとに俺が謝ればすむ。楽勝楽勝。


 あと1つ確かめたいことって何だろう。

俺は割と真剣に考えていた。でも、思いつかなかった。


 佐倉はほっと一息吐いたあと、意外な1つ目を言った。


「どうして私の正体を見破ったの?」

「正体って……。」


 何のこと?


「と、とぼけないで。私が山吹さくらだってこと……。」


 今、なんて言った?




 山吹さくら。




 ハッキリそう言わなかったか。随分あっさりと。

俺、どうすればいい。


 ここは、絶対に嫌われないようにするってのが鉄則。

でも、どう答えていいか分からない。正解があるのかも分からない。

だから、思ったままに答えた。


「あー、それね。ほら、キスのあとの佐倉は、山吹さくらそのものだったから」

「やっぱり、そうだったんですね……。」


「いやー、ごめんなさい。不可抗力とはいえキスなんかしてしまいまして……。」

「うん……。」


「ほっ、ほら。このことは誰にも言わな……。」

「……あのっ。もう1回、キスしませんか? ダメですか?」




 えっ? 今、なんて……。




 目の前にいるのは地味な佐倉菜花。

だけど、超絶人気アイドルの山吹さくら。


 俺の憧れの人。

俺を東京へと引っ張り出した人。


 俺はその女体の口からキスの催促をされている。

それも、俺の謝罪を食い気味に遮って。


 俺は混乱してしまい、何も言えなかった。


「……。」

「お願いです。試してみたいんです。キスを!」


 佐倉は鬼気迫る勢いで俺に唇を突き出していた。

それは山吹さくらの持つさくらリップとは違う。

今朝のことを無かったことにするどころか、再現しようとしていた。


 こうなると俺は弱い。

佐倉菜花の申し出を受けることにした。


「じゃあ、とりあえず1回」

「はい。ありがとう」


 佐倉の声は何故かかわいらしかった。


「あっ、時間測っていい? 30秒……。」

「えっ?」


 一瞬、意味が分からなかったが、佐倉に同意した。

佐倉のガラケーが、30秒毎にときを知らせた。


 俺の正面に佐倉が立った。その瞳は真剣。

少し涙目で、深く黒く輝いていた。


 表情は相変わらず地味でかたい。


 キスするときくらい笑ってくれてもいいのに。

さくらスマイルとはいわないまでも、少しはかわいくなると思う。



 でも佐倉はそんなに器用に振る舞えないのかもしれない。

あるいは一生懸命笑っているのかもしれない。

そういう意味では俺も同類。



 俺は、文句を全部押し殺して、佐倉にしっかり向き合った。

そして次のピッのときにキスをした。

 

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