49.新機能を発見したレンたち
俺は放牧エリアを確認した。
よし、我らがエース一角獣サイレンスアローは、牧草の上に転がって4本の脚をブラブラとして遊んでいる。チョウチョも顔に止まっているし、しっかりとおくつろぎモードのようだ。
コイツは共同通信杯が終わったあと、16頭のライバルのなかから1頭を選んで、ウマから一角獣にクラスチェンジさせていた。
そのウマは、ギリギリ5着に入るのがやっとだったが、馬主や調教師が熱心に調教しているところと、本人の性格が一角獣に相応しいというところが、サイレンスアローの心を掴んだようである。
なお、3着のウマには性格面でのテコ入れ、4着のウマには重賞戦を1つ勝ってくることを、それぞれの宿題として、アローは東京競馬場を後にした。
「後から考えると、なかなか上から目線なことを言ってるんだけど、コイツが話していると……不思議とそう感じないんだよな」
そうつぶやくと、一緒に牧場の雑草抜きをしていた涼花も頷いた。
「多分だけど、それを身につけていないと後から本人が困ると思うことを、アローちゃんなりにアドバイスしているからじゃないかな?」
「ああ、なるほど……」
雑草を抜き終えると、俺は伸びをした。
この作業が終わったら次は牧場の馬糞を片付ける仕事だ。それが終わったらアローたちに飼い葉を出し、俺たちも食事をしたら、午後はプール調教だ。
いつも通りに仕事を進め、やっと自分たちの食事だと気を抜いたとき、ふとあることに気が付いた。
そういえば真丹木調教師の話だと、トレーニングセンターのプールって……地下のフロアから、ウマが水中でどう脚を動かしているのかわかるそうだ。
俺は箸をおくと、試しに自分のスマートフォンを見てみた。
すでにガチャを卒業した俺にとっては、単なる電話に過ぎない代物だが、それでもじっくりと調べれば何かがわかるかもしれない。
涼花は不満そうに俺を見た。
「もう、食べるときくらいはスマホを置こうよ……」
「ごめんごめん、少し気になることがあってさ」
「気になること?」
「うん。トレーニングセンターのプールって、地下フロアから水中の様子がわかるだろ?」
「そ、そうだね……」
涼花は、もしかして……といいたそうな顔をすると、食べ終わった食器に軽く水を張ってから、俺の隣まで歩いてきて、スマホ画面をのぞき込んで来た。
「プール自体は、こうやって操作すれば見ることができるんだよ」
「……な、なるほど」
少し眺めている涼花だが、少しすると口を開いた。
「なんだかスマホのカメラ機能を、少し変化させたような画面だよね」
「確かに……」
試しに、スマートフォンの向きを変えてみると……画面の向きも変わった。
「こっちの方が見やすいかね?」
「そ、そうだね……」
「なにか、他に機能はないのかな?」
『小生に内緒で、2人でなに楽しそうにしているのかな~?』
小生の一人称でお馴染みの、サイレンスアロー君の登場だ。
俺はすぐに、プール調教で水中が見れないかを聞いてみると、サイレンスアローは『なるほど……』と頷きながら答えた。
『確かにそういう機能があったとしても、おかしくはないよね』
「そういうわけで、試行錯誤をしているんだが……」
『ちょっと見せて』
3人でじろじろとスマホの画面をのぞき込んでいると、通りかかったマティスとマティソンが、何やってるんだ? と言いたそうな顔をしながら通り過ぎて行ったが、そんなことを気にしている場合ではない。
しばらく眺めていると、サイレンスアローが言った。
『ねえ、今……水中に潜ったよ?』
「あ、ああ……どうやったんだ俺?」
「ええと……ちょっと貸して!」
涼花は俺のスマートフォンを手に取ると、指先を器用に動かしながら、スライドさせていき……画面が水中へと入って行った。
そして、画面上に並んでいるアイコンの1つを選択すると、機能の1つ【追尾】という項目に手を伸ばした。タッチすると【対象となるウマがいません】と表示されていたが、俺とアローは確かな手ごたえを感じていた。
「よし、この機能を調教中に使ってみよう!」
『そうだね!』
午後になると、真丹木調教師が来てくれたので、俺たちは早速……さっきの新技を試してみることにした。
まずはグランパレードに、プールで泳いでもらったところで、俺は先ほどの機能である追尾を用いてみた。すると……サイレンスアローと涼花が「おお!」という声を上げていた。
俺のスマホ画面には、前脚だけで水を蹴っているグランパレードの姿が映っている。それも彼の動きに合わせるように、画面は水の中を進んでいくから、どんな問題があるのか一目瞭然だ。
『パレード! 後ろ脚を使ってないでしょ!』
『え!? どうしてわかったの!?』
このスマホには、録画という項目もあったので、俺はその一部始終を記録してから、グランパレードに見せてみた。
『おれ……こうやって泳いでたのか……』
「ああ、あまりたくさんの映像をためることはできないから……今のうちにしっかりと見ておいてくれよ」
『う、うん!』
この新機能を見つけたおかげで、プール調教もより充実したモノになるだろう。
この調子で、少しでも一角獣たちをサポートしていきたいものだ。
【某時刻 某所】
鹿毛色の牝一角獣が草を食んでいると、鼻歌が聞こえてきた。
『……?』
彼女は誰の声かわからずにキョトンとしていたが、やがてそれが愛する白毛一角獣シルバーデアデビルのものだとわかると、表情を変えていた。
『あ、あなた……ずいぶんとご機嫌ですが……なにかあったのですか?』
そう聞かれると、デビルは察しが悪いなと言いたそうな表情で答えた。
『わからぬのか? 皐月賞が1日ずつ近づいているだろう』
『さ、皐月賞……? と言っても……』
鹿毛色の一角獣は、困り顔になって答えた。
『問題のアキヌフォートの仔は出走しませんよ?』
『他に2頭。等しく才を分けた猛者がいる』
その言葉を聞いて、鹿毛色の一角獣は目を丸々と開いた。
『ま……まさか!』
デビルは名前の通り、悪魔のような形相で言った。
『どちらも我が覇道の前に立ちはだかる猛者……今からレースが見たくて見たくて仕方ない!』
『…………』
その表情を目の当たりにした鹿毛色の一角獣は、咥えていた野生のニンジンを口から落とした。




