46.だいたいサイレンスアローのせい
一角獣サイレンスアローは、この日……放牧エリアでくつろいでいた。
「今日は休憩か?」
『今日は軽めのトレーニングだよ。近々開かれる、共同通信杯に出走する予定だからね』
共同通信杯。
グレードスリーにランクされる、東京競馬場1800メートルのレースか。
何か、アローなりの計算でもあるのだろうか?
「なにか狙いでも?」
『狙いってほどでもないけど、ジミーやランナー以外にも優れた一角獣になりそうなライバルがいたら、勧誘しておこうかと思ったんだ』
「ユニコーンが増えるのは、俺たち人間としては嬉しいが……お前にはライバルが増えるだけのデメリットしかないんじゃ……?」
俺としては当然の疑問を返すと、サイレンスアローは意外そうな顔をした。
『そんなことはないよ。ここだけの話……ウマをユニコーンにすると、経験値のようなモノがはいるからね』
「ゲームチックだな」
そう言葉を返すと、サイレンスアローは頷いた。
『経験値が一番イメージに近いものだからね。普通のレースに勝つよりも、かなり得るモノが大きいんだ。このことに気が付いていない一角獣も多いけどね』
ギャロップジミーやシリウスランナーとのやり取りを思い出すと、ウマを一角獣化させることは、失敗することもあるはずだ。
なかなかハイリスクに思えるが、アローがここまで言うのだから、かなりのリターンがあるのだろう。
「なるほど。ちなみに……共同通信杯が終わったら、次は中山の弥生賞か?」
『いいや。そのあとは小生は2か月近く放牧して、そのあとは東京で開かれる青葉賞ダービートライアルに出走するつもりだよ』
俺はあまり競馬には詳しくないが、確か中山競馬場で皐月賞という、大きなレースがあったはずだ。
優駿よりも前だった気がするが、参加しないのだろうか?
「皐月賞は?」
『あれは、ジミーとランナーがいるから、一角獣に相応しいウマがいればわかるよ』
な、なるほど。
つまり、強い一角獣になるウマを見つけてクラスチェンジさせた方が経験値が大きいのか。
そこまで考えていると、サイレンスアローは満足そうに俺を見ていた。
「な、なんだよ……?」
『いや、さすがはレン兄さん……他の人が気付かないところに気が付いたなって思ってさ』
「と、とにかく……共同通信杯に出るんだろ? しっかりと調整しとけよ!」
「うん!」
そして、大会予定日が近付いてくると、真丹木調教師が持ってきた出走表を見て、俺とサイレンスアローと愕然とした。
出走を希望するウマが殺到して、枠ギリギリの18頭がひしめいているのである。
「この大会……こんなに人気あるんですか?」
真丹木調教師に聞いてみたが、彼はそんなはずはないといいたそうに首を振った。
「確かに、幻の馬と呼ばれた名馬を偲ぶレースではありますが、26頭もウマが出場を希望する大会ではありません。12頭参加していれば多いくらいです」
確かに26頭も集まって来るなんて、いくら何でも普通じゃないな。
俺は真丹木さんに、恐る恐る聞いてみた。
「理由は……」
「恐らくですが……」
どうやら、俺と真丹木調教師の意見が一致したようだ。
サイレンスアローはウマをユニコーン化する力があるため、是非とも自分たちのウマを見て欲しいという、馬主と調教師たち……場合によってはウマ自身の思惑がありそうだ。
真丹木さんと苦笑していると、珍しく汗をたっぷりと流したチャイロジャイロが歩いてきた。
『アロー。共同通信杯だけど、オイラも出るからお手柔らかに頼むよ』
そういえばジャイロは、運良く日本のトップ騎手である武田騎手に乗ってもらえるという幸運にめぐまれたんだった。
サイレンスアローとチャイロジャイロでは、能力が違い過ぎるのだが、武田騎手がどこまでジャイロの潜在能力をひきだすのか……個人的に興味のそそられる一戦だ。
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ちなみに、サイレンスアローの一角獣レベルはS+。
チャイロジャイロの一角獣レベルはレア+です。
間には、Sランク、上級レア+、上級レアの3つの段階があります。
ウマ7騎手3という言葉もあるホースレース。
日本トップジョッキーの武田は、この実力差をどう埋めるのか……こうご期待!




