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37.(上級レア)チャイロジャイロの妹と牧場の日常

『思ってたのと違う……』

 サイレンスアローがつぶやいたセリフだが、俺も全く同じ印象を受けた。


 つい先ほど、チャイロジャイロの妹である一角獣をチケット召喚したんだが、連動召喚が起こり、前に引いたレア一角獣と共に現れた……ところまではいいのだが……


『わ、私でも……10センチメートルの角しかない私でも、オークス馬になれるでしょうか!?』

「あ、うん……努力次第だと思うよ?」

 オートジャイロに詰め寄られた真丹木調教師は、どこか困った表情のまま頷いていた。

『が、が、頑張ります!』

「う、うん……頑張ろうね」


 チャイロジャイロは、昼寝や食事が好きという動物らしい一角獣だ。

 だから、妹のオートジャイロも同じようなノホホンとした一角獣なのかと思っていたら、何だか想像と違う、妙なやる気オーラを纏った牝馬ちゃんが出てきてしまったのである。

『オークス行くよオートジャイロ!』

『もちろん!』


 それだけでなく、兄チャイロジャイロはとてもバツが悪そうな顔をしていた。

 妹と友達の一角獣牝馬が、走り込みの練習を始めたため、自分だけ牧場で寝っ転がりづらくなったのだろう。

『だー、なんでこの牧場には怠けウマがいないんだ!?』

 怠けウマはいなくても怠け者ならいるぞ……お前の目の前にさ。アサヒナレンっていうんだ。競走馬としても登録できるなこの名前。あれって9文字まで登録できるし。ははははは……。



 俺はサイレンスアローを見た。

「コースはお嬢ちゃんたちに使ってもらうとして、少し温泉でゆっくりするか?」

 そう提案すると、サイレンスアローはにっこりと笑った。

『いいね! お供するよ』


 露天温泉へと向かうと、俺はサイレンスアローの身体をお湯できれいに洗ってから、湯船へと案内した。

 サイレンスアローは腰を落ち着かせると、気持ち良さそうに微笑んでいた。


「これでアローもG2馬か……」

 そう呟きながらサイレンスアローの体つきを眺めてみた。

 確かにサラブレッドだから人間よりは圧倒的に大きいのだが、俺自身もたくさんのウマを見てきたからだろう。何だか少し筋肉の付いた仔馬のようにも見えてくる。


 サイレンスアローは苦笑した。

『あ、いま……仔馬みたいな格好してるのに……とか思っているでしょ!』

「なんでもお見通しか……」

 そう答えると、サイレンスアローは前脚で湯船を蹴って、俺の顔にお湯をかけてきた。

「こら、お前……!」


 サイレンスアローは子供のように笑うと、その瞳に青空を映した。

『次はホープフルステークスに挑もうと思うんだ』


 ホープフルステークスという言葉を聞き、俺は予定表を思い出した。

 この大会は2歳最強の中距離走馬を決めるシロモノだ。今のサイレンスアローなら……エントリーすれば確実に参加できるだろう。


「わかった。俺も応援するから頑張れよ!」

『うん。多分だけどギャロップジミーも出走してくると思うけど……次も小生が勝つ!』


 俺はサイレンスアローの首筋や、たてがみを撫でながら言った。

「お前が元気に戻ってきてくれれば、俺はそれだけで満足なんだ。だから、ムリをしない程度に頑張ってこい」

 

 そう伝えると、サイレンスアローは『うん!』と言いながら微笑んだ。



 翌日からサイレンスアローは、坂道コースを中心に走り込みを行うようになった。

 体力だけでなく脚力も高めたいらしく、プールも活用して水圧を最大出力で泳ぎの練習をこなしたりもしている。

 恐らく、ギャロップジミーとの戦いに備えているんだろうな。


 そんなことを考えていたら、真丹木調教師もやってきた。

「朝比奈オーナー」

「なんでしょうか?」

「スポーツ新聞の記者が、あなたとサイレンスアロー君にインタビューをしたいと言っていますが……」


 俺はサイレンスアローを見ながら答えた。

「悪いけどお断りさせてもらいます。今は……アローにとって大事なときなので……」

 そう伝えると、調教師も納得の様子で頷いた。

「わかりました」


 真丹木調教師は、スマートフォンを出しながらダンジョンゲートから出た。マスコミにお断りの電話を入れているのだろう。

 ん、これは……真丹木調教師が置いていった競馬雑誌か。コンビニとかで見かけるシロモノだけど、表紙にサイレンスアローが映っていると、何だか夢みたいに感じる。


 どれどれ……どんなことが書かれているのだろう。

 手に取ってみると、中にはサイレンスアロー特集と一緒に、なんと謎のオーナーブリーダー、朝比奈怜という特集まで組まれていた。


【ダンジョンにミニトレセンを作り出す驚異のアビリティ『ガチャ&ミッション』】

【日本で最も謎の多い……若きオーナー 朝比奈怜とは!?】


「…………」

 えー、さぞかし皆さんにとっては、意味不明な存在に見えるでしょう。

 しかし、オーナーブリーダーとは名ばかりで、毎日MPを使って飼い葉を出したり、涼花と一緒にサイレンスアローたちの毛並みを整えたり、納屋の掃除をしたり、放牧エリアに散らばっている馬糞を片付けたりしているだけの、ただの若造ですよ。はい……


 そんなことを考えていたら、チャイロジャイロの妹、オートジャイロが声をかけてきた。

『オーナー! お腹すいたー! ごはん食べたーーい!』

「はいはい、お前は頑張ったから豆たっぷりのご飯にするぞ!」

『わーい!』


 間もなくサイレンスアローたちも集まってくると、バナナをトッピングしろだの、カルシウムを増やせだの、レタスをしゃきっとさせろだの、青菜は別のバケツで出せだの、細かく刻んだニンジンを混ぜろだの、豆は大豆がいいだの、いつも通りの注文をしはじめた。


「おめーらが、滅茶苦茶な注文を付けまくるから、行動力(MP)が減ってしょうがねえだろ! つべこべ言ってないでさっさと食え!!」

『じゃあ、バナナトッピング、カルシウムマシマシ、レタスシャキ、青菜別置き、ニンジンなし、大豆入り、ウマゴヤシ増量、ミルク追加でおかわりー!』


 これが食欲の鬼サイレンスアローである。

【某時刻 某所】

 ある新聞社の中では、会議が開かれていた。

「朝比奈怜……わずか26歳にして、牧場のオーナーブリーダーになった男」

「しかし、彼の経歴は全くもって謎に包まれています」

「ええ、地元の中学、高等学校を卒業し上京するも、フリーターをしています」


 新聞社の社員たちは深く考え込んだ。

「フリーターがブリーダーに……いったい、彼の身に何が……いや、そもそもどんな人物なのか?」

「学生時代の友人に聞いてみたところ、これと言って目立った生徒ではなかったようです」

「そもそも、友人自体がほとんどいなかったみたいですからね」


 編集長の席に座っている男性も腕をこまねいた。

「……ガチャ&ミッションの申し子か。なんとしても、次の記事は彼にスポットライトを当てるぞ!」

 彼は立ち上がった。

「ユニコーンに好かれる謎のオーナー……朝比奈怜! わが社の総力を挙げて取材だ!」

「はい!」

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