23.レンの牧場
5月1日。
俺こと朝比奈怜は、腕を組みながら自分の牧場を眺めていた。
高床式倉庫4棟。物置用のログハウス小屋4棟。一角獣やウマが使っている納屋3棟。
それとは別に、俺たち人間の生活する事務所と寝床を有する、レア建物【大型ログハウス】がある。
そして、なんと言っても目立つのは広々とした放牧エリアだ。
そこには背の低い草が一面に生えており、牡馬や一角獣と、牝馬たちが時間ごとに交代する形で使っている。
『こおらあー、ちゃんとお前もトレーニングしろ! 食っちゃ寝ジャイロ!!』
『やめろー、モショモショするな〜』
その牧場エリアの柵の向こう側には、俺が以前に出した芝の練習用コースが伸び、更に外側には、Wチャンスポイント100で交換した【ウッドチップの練習用コース】が芝コースを囲むようにある。
「父上、マティソンは今日こそ父を超えます!」
「張り切るのもいいが、ウマの体調も気にしてやれ! そんなに張り切りすぎるとバテてしまうぞ!!」
他にも牧場には、屋外設置用の高機能トイレや【かけ流し露天温泉】、その横の崖際には、ウマたちの脚力を鍛えるための【練習用の急坂コース】も備えている。
この1か月で、ここまで発展したわけだが、俺は満足していない。
Wチャンスポイントは、また100まで溜まっているが、【プールトレーニング施設】を新調するか【発馬機ことスターティング練習用ゲート】を新調するべきか、悩んでいるのである。
ちょうど弟分こと、一角獣サイレンスアローが来たので聞いてみることにした。
「なあ、サイレンスアロー……次の新設備なんだが、プールとゲートのどっちがいい?」
サイレンスアローは画面をちらりと見ると即答した。
『プールだね。ゲートは写真や構造を聞けば、小生にとってはそれほど難しくはない』
アローはそういうと、俺のスマートフォンの画面のアイコンを見た。
『ガチャコインも前回分の3枚が残っている。日本の競馬場で出走すれば、その勝ち鞍に応じたガチャコインも貰えるだろうから、それを稼いで練習用ゲートを新調すればいい』
その答えを聞き、俺は頼もしいと思いながらサイレンスアローの首筋を撫でた。
「さすがは、俺の弟分だ!」
『こーらー、くすぐったいってば〜!』
小柄なサイレンスアローでも、顔は俺の肩から腰くらいの長さはあるため、じゃれ合うと大きさの違いを実感する。
「ところで、日本の競馬場に出走するということは、いろいろと手続きが必要だよな?」
『その点なら抜かりはないよ。涼花ジョッキーに必要書類は提出してもらった』
涼花は、サイレンスアローの専用騎手として登録したと聞いている。
ダンジョンゲートが出現しなければ、こんな使用用途限定の騎手は現れなかっただろう。
その後サイレンスアローは、1週間ほどでゲート試験と呼ばれるモノを楽々クリアし、調教師を通して出走手続きまで済ませてきた。
「お帰り! 記念すべき初戦は、どこの競馬場で戦ってくるんだ?」
『函館競馬場だよ。1800メートル戦で洋芝をしっかりと学習して、9月に行われる札幌2歳ステークスを睨む』
競馬場と一口に言っても、拡張コースがあったり、ゴール前に坂道がなかったり、カーブが多かったりと、それぞれに特徴があると聞いている。
まあ、デビュー戦前に4歳馬をやっつけているコイツなら心配もないだろうが、念には念をという言葉もあるから……一応は言っておくか。
「競馬場のこともよく調べておけよ。真丹木調教師さんに前もって確認することも忘れないようにな」
『もちろん。今から函館競馬場の初勝利ボーナスと、札幌競馬場の初勝利ボーナスが楽しみだね!』
どうやら、サイレンスアローは競馬場初勝利ボーナスを早くもゲットする気満々のようだ。確かにこいつなら……危なげなく勝てるかもしれない。
【作者より】
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次回はいよいよサイレンスアローの日本での初陣、新馬戦になります。




