１２．ゴール前の猛攻
ゴブリンたちの競馬場のコースを６頭の駿馬たちと、一角獣のサイレンスアローが走っていた。
３番人気のゴブリンナイトが先頭で馬群をけん引し、３番手という絶好の位置に１番人気のあるゴブリンパラディンと４歳馬のペアが走り、最後尾にサイレンスアロー＆三矢本涼花がいる。
『……コースの大半が下り坂だから、思った通りペースが速くなりがちだ』
サイレンスアローは最後尾から、ライバルたちを品定めするように眺めていた。
先頭からサイレンスアローまでの距離は１５メートルほどだ。その様子を眺めていた観客ゴブリンたちの中には、不安そうに眺めるヤツが目立つ。
確かにサイレンスアローの小さな馬体を眺めていると、だんだんと不安になってくるだろう。
先ほども言ったが、大学生と高校生がしのぎを削り合うレースの中に紛れ込んだ中学１年生のようだ。レースには実は牝馬が１頭混じっているのだが、彼女だって４４０キログラムある。
「馬体重３２５キログラム……これがどう響いてくるかだな」
スマートフォンの解説によると、日本で最小の競走馬の体重でも３３０キログラムだという。サイレンスアローは更に５キログラムも軽い。
こうして見ていると、同じウマとは思えないほどの体格差だ。
いま先頭が１０００メートル通過した。サイレンスアローは相変わらず最下位。
先行するウマたちはすでに汗を流しながら、ラストの直線コースを睨んでいるが、サイレンスアローだけは淡々とコースを走っている。
先頭が１２００メートルを通過。サイレンスアローは相変わらず最下位。
次々とゴブリンナイトたちは天馬乗りの姿勢を調整しながら、すでにラストランに備えているようだ。ウマたちも汗ばんでいるのか、少しずつ体毛が光りはじめている。
先頭が最後の直線に入った。ゴールまであと３１０メートルだ。
次々とゴブリンナイトたちはウマに鞭を入れ、ラストランの指示を出した。そしてサイレンスアローに視線を向けると……何と微笑を浮かべている。
『しっかり掴まっててね！』
そう叫ぶと同時に、いままさにレースが始まったかのような足さばきで猛追をはじめた。
残り２９０メートルのところで６番手に上がり、残り２７５メートルで５番手に上がり、残り２４０メートルのところで４番手に上がり、そのままゴール前の急坂へと突入した。
ここでサイレンスアローは、耳を大きく絞ると、こめかみに血管を浮き上がらせた。
鼻の穴を大きく開いてゴールを睨むと、更に４脚が怒涛の勢いで地面を蹴り進んでいく。
残り１７０メートルのところで３番手に上がると、残り１４０メートルで２番手に上がり、トップのたたき合いに参加した。
すでに先頭はゴブリンパラディンが掌握していたが、サイレンスアローが角を青白く光らせて攻めかかってくると、目を剥いて驚いていた。
すかさずパラディンは鞭打って、ウマに強力なスパートを催促したが、サイレンスアローの脚力の方が優勢だ。
残り７５メートルで、２メートル以内まで接近し、残り４５メートルで１メートル以内まで入り込み、残り１５メートルで並びかけ、ゴールポストを通過した時には、頭ひとつサイレンスアローが抜けた状態でゴールした。
サイレンスアローは、大きく息を吸いながら少しずつペースを落とすと、ゴブリンだらけの会場からは多くの歓声が響いていた。
審判役のゴブリンたちも頷くと、１着の場所にサイレンスアローの馬番号を置き、勝利が確定したことを告げている。
同時にスマートフォンが鳴ると、ミッション達成の通知が届いていた。
ミッション ホースレースに参加しよう 達成！
ミッション ホースレースで１着を取ろう 達成！
ミッション ホースレースで合計５００万円以上の賞金を獲得しよう 達成！
ミッション ホースレースで合計１０００万円以上の賞金を獲得しよう 達成！
ミッション 追い込みスタイルで勝利しよう 達成！
ミッション 鬼山競馬場で勝利しよう 達成！
全てガチャコイン１枚の達成報酬だが、すでにある達成報酬と合わせると１５枚になる。これなら確実に涼花のスキルのブーストも得られるだろう。
サイレンスアローたちも、ゴブリンパラディンから賞金や賞品を受け取っているし、これで問題は……ん？
よく見ると……森の中から一角獣が競馬を……いや、そいつはじっとサイレンスアローのことを眺めると、静かに立ち去っていく。
まあいい。とりあえず無事に勝ったんだし、今日はサイレンスアローや涼花をねぎらうとしよう。
【作者からのお願い】
ここだけの話……今のダンジョンレースは競馬場でお馴染みの技術、モンキー乗りが確立していないので、全員が天馬乗りでレースをしています。
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