1.危険な能力
人生をやり直したい。貴方はそう思ったことはあるだろうか?
俺はある。というか、いままさに……やり直せるのなら、やり直したいと強く願っている。
俺はたったいま、安アパートから追い出された。
6か月のあいだ家賃を滞納していたからだ。ゾンビウイルスが流行ってからというもの、バイト先の仕事がなくなり、そして7か月前に俺はフリーターですらなくなった。
もちろん新しい仕事は探した。派遣もやったが、その時の重労働で腰をおかしくしてしまい、今では少しでも重いモノを持ち上げるだけでも苦労する状況だ。
故郷まで帰れるのなら帰りたい。だけど、俺の故郷は関東から遠く離れた場所にある。
家に戻るだけでもかなり金がかかるし、厳しい両親のことだ……妙なことを言って上京しておいて、今さら戻って来てなんなんだと、様々な嫌味を言われることくらい目に見えている。
「つまり俺……26歳にしてホームレスになったのか……」
そう呟いて初めて、俺は公園に寝泊まりする人たちのことを理解した気がした。
彼らだって生まれながらの浮浪者じゃない。世間という巨人が少し姿勢を変えたときに、運悪く巨人に弾き飛ばされる場所にいた人たちなんだ。
「チッ……」
こんなはずでは……そんな思いがこみ上げてくると、俺は思わず舌打ちをしていた。
「おい、てめえ……俺様にケチ付ける気か?」
その言葉を聞いて俺はハッとした。なんと近くにチンピラが4人もたむろしていたのだ。俺は慌てて弁解しようとしたが、元々が人見知りをする性格だ。急に言葉が出てくるはずがない。
「…………」
「なんとかいえコラ!」
チンピラの1人は、近くにあったビール瓶を抜き取ると、振り上げながら怒鳴ってきた。
その姿を見て脅威を感じて反射的に逃げ出すと、チンピラたちは怒鳴り声をあげながら追ってきた。
「待てコラァ!」
「追え!」
とはいってもここは市街地だ。警察署も近くにないし、下手に飛び出せば車にひかれる危険性もある。
辺りを見ていると、ちょうど土手があった。
俺だってあまり体力はある方ではないが、チンピラたちからは煙草の臭いが嫌というほどした。普段から喫煙をしているのなら、土手を駆け上がればこいつらも諦めるかもしれない。
勢いよく土手を駆け上がると、チンピラの半分が嫌な顔をして止まろうとしたが、ビール瓶を握っているチンピラと、モヒカンカットの奴はそのまま追ってきた。
くそ……しつこい奴らだ!
土手の上まで駆け上がった俺は、今度は土手を駆け降りることにした。
距離さえ開いてしまえば、さすがにこいつらも追うことを止めるだろう。そう思ったのだが、こいつらはしつこく俺を追ってくる。
一体何なんだこいつらは。舌打ちをされたくらいで……頭がどうかしてるんじゃないか!?
「待てこらぁ!」
くそ、ならば……橋の下を通り抜けてから、また土手を駆け上がるか。
そう思いながら走ると、橋の下はぬかるんでいて、ほとんど歩けるような場所はなかった。
しまった……自分から人の気配がない場所に来ちまったのか!
「ま、待ちやがれ!」
チンピラとの距離も、残り30メートルといった感じだ。
相手もバテてはいるが、追いつかれるのも時間の問題だ。どうしよう……
そう思いながら辺りを見回していると、陸橋の影になっている場所に不自然な空間があった。
「なんだ……これ?」
空間に亀裂と言うのか、透明なガラスが割れたかのように空間が砕けていて、その内側からは全く違う場所の空気が流れ出ているような、そんな気配が立ち込めている。
得体の知れないものだから、入ることを思わずためらったが、チンピラの足音が近づいてきている。
もう……15メートルくらいしかない。
俺は目を剥くと、そのまま空間の中へと飛び込んだ!
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――――
――
―
その空間の先は雑木林になっており、俺は辺りを見回したが、すぐに走ることをやめた。
さっきのチンピラたちが追ってくるかもしれないが、ここは幸いにも隠れられる場所はたくさんある。
どこかに身を潜めてやり過ごせるだろう。
茂みの影に身を潜めて入り口を睨んだが……チンピラたちが追ってくる気配はなかった。
追うのも面倒になって諦めたのだろうか。それとも俺が、この変な割れ目のような場所に入ったのを見て不気味に思ったのだろうか。とにかく、諦めてくれたのなら好都合だ。
身体の力を抜くと、俺は何かに寄りかかっていた。
恐らく細い若木辺りが体を支えてくれているのだろう。それにしても……少し暖かい感じもするな。
――初日ログインボーナス Sランク以上確定 神獣呼び寄せガチャチケット
何だか妙な幻聴が聞こえてきた。だけど……ガチャか。昔はそういうゲームにはまったりもしたな。遊べるモノならまた遊びたい。
――ガチャを回しますか?
はい。と冗談で答えたら、脳裏に新たな言葉が伝わってきた。
――S+ 一角獣サイレンスアロー
え、S+って、どれくらい強いんだ……なんて思っていたら、背後から声が聞こえてきた。
『変わった姿……文献で見たニホンジンの姿に似ている』
え……? と思って振り返ると、そこにはウマのような姿をした生き物が立っていた。
なぜ、ウマと言わなかったかといえば、額に25センチメートルくらいのドリルのような角が生えていたからである。
『君はニホンジンか?』
「う、うん……」
そ、そうだけど……? と思っていたら、そのサイレンスアローという栗色の一角獣は、いきなり角を構えてきた。
『伝説の勇者を何人も世に送り出す民族じゃないか! 是非、お手合わせ願いたい!』
「え……?」
何が起こっているのか理解が追い付かない俺とは違い、一角獣は恐れや、それを乗り越えようとする決意が入り混じった表情をしていた。
『構えて、嫌だと言っても力ずくでいくよ!』
そう叫ぶと、一角獣は有無を言わさずに襲ってきた!
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