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朝はパンとコーヒーで  作者: 春夏 秋冬
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1話「新しい街の見慣れた景色」

カーテンって買わなきゃいけない物なんだって、一人暮らしを始めた夜に気づく。

東京だってこういうアパートの周りは夜は暗くて、静かで、地元とあまり変わらない。

違うのは匂いと、空気、それにパンとコーヒーが違うんだ。


朝が来ると目覚まし代わりの朝日が眩しく照らす、

古くも新しくない、木造二階建てのアパートの二階の角部屋、の隣の部屋。どうせなら角部屋が良かったのになんて思いながら、雑多に置いた段ボールの1つをテーブル代わりに朝食をとる。

今までの僕は家で朝食は食べなかったのだが、新しい街で勝手も違うから、昨日のうちに朝食用のパンとコーヒーは購入済みだ。


朝食を終えた後は少し散歩に出た。

昼間の新宿とは違い、この町は静かで東京に来たことを忘れさせる。でもやっぱり地元とは空気が違うから、東京なんだと、期待と不安が入り混じった気持ちになる。

アパートの前を流れる神田川沿いをぼんやり歩く、時々すれ違う年齢も様々なランナーや、自分と同じように散歩をしている人たちとすれ違う、その度に軽く会釈を交わし口の動きに合わせ、小さな声で挨拶も交わす。

聞こえないのが申し訳なくてイヤホンを片耳だけ外し、また歩く。

今日は引っ越しの片づけと区役所に行く用事しかない、まだ時間はあるから歩みを更に進めていく。


30分ほど歩いただろうか、川沿いの道から車道が横切る道へ出る。

まばらに通る車を見ながら、左右どちらに進むか、それとも戻るかを考える。

「まだ時間はあるし、もう少し歩いてみるか」

右か、左か、首を振り進むべき道を定める。

「よし、右だな。なんかぐるっと回ればアパートのほうに行けるかもしれないしな。」

人通りも少なくなってきた、片側だけ外したイヤホンを耳に装着して、」また歩き始める。


少しすると開店前の本屋を見つけた、家からは少し遠いけど雰囲気の良い本屋だ。

天気の良い日には足を延ばしてみようと思う。

また進むと今度はお肉屋さん、コロッケやメンチカツ等も売っている。少し腹は減っているが朝にはちょっと重たい、またの機会にしようと思う。

その先にも店が並ぶ、時間がもう少し後ならきっと賑わっているのだろう。今日の予定がすべて終わったら来てみようかな、なんてことを考えてると、ふと、目を奪われた。

洋風で、綺麗で、どことなく古い感じの扉、看板も出ている。僕が吸い込まれるようにそのお店の前に立つ。

「喫茶店か、モーニングが500円・・・よし」

朝ごはんに、スーパーで買った食パンを、一枚食べてはいたが入ることにした。


カランカラン

「いらっしゃい」

白髪で髭を生やしたマスターと思わる男性から声を掛けられる。

「あの、一人なんですが、いいですか?

「もちろん宜しいですよ、お好きな席にどうぞ」

店を見渡す、奥のテーブル席には常連と思われる男性が座っている、新聞を読みながらモーニングを食べている、服装から察するにタクシーの運転手だろう。

カウンターには妙齢の女性が一人。スーツ姿で肩ほどまで伸びた髪が少し印象的だった。


僕はテーブル席に座る。タクシーの運転手と思われる男性とは、テーブルを二つほど挟んだ席だ。

ジーパンの後ろポケットに入れた、文庫本と財布を取り出し席に座る。

メニューを眺めていると、店主が水を運んできてくれた。

「ご注文はお決まりですか?」

「モーニングをお願いします、ホットコーヒーで。」


かしこまりました、と言ってカウンターの奥に入る男性。

そんなに大きくないお店だから一人で切り盛りされているのだろう。

オムレツを焼くいい匂いがしてきた。

「それにしても、落ち着く良い喫茶店だな。」

僕は地元に居た頃は実家暮らし、それでも朝は喫茶店でモーニングを食べていた。

両親が共働きで朝が早く、帰りも遅い。僕の朝は、ダイニングテーブルに置かれた、一日分の食費を受け取ることから始まる。

いつも一人で食べるご飯は味気なくて、コンビニでパンを買って食べても美味しくない。

小学生のころからそうやって過ごしていたから、食事時間は好きじゃなかった。

そんな時に出会った喫茶店のマスター、コンビニで買ったパンを食べながら登校する僕に声をかけてくれた、次の日から僕の朝食はその喫茶店のモーニングだった。


その時のお店とは似ていないけど、空気は一緒だった。

受け入れてくれている、その気持ちになれる場所だ。


「お待たせしました、モーニングです。」

厚いトーストに控えめなオムレツ、それにサラダがついてる。

読みかけの文庫本に栞を挟み「いただきます。」

美味しくて、暖かくて、ほっとする、そんな味だった。


「ごちそうさまでした。」

「お会計は600円になります。」

「とても美味しかったです。また、来ます。」

「またのご来店、お待ちしております。」


カランカラン

「この街にこんな喫茶店があったんだ、コーヒーも美味しかったな。」

また来ようと心に決め、再び歩き出す。

「あれ、ここは」

少し歩くとアパートと駅の分かれ道についた。

「これなら喫茶店までは家から5分で着くな」

少しのつもりの散歩が一時間半ほどになってしまったけど、良いお店に出会えてよかった。


予定を済ませるため区役所やホームセンターへ出向く。

必要な買い物を済ませアパートへ帰宅したころには夕方だった。

朝が多かったので昼を抜いた、帰宅と同時に腹の虫がなく。

「腹減ったな」

朝見かけた肉屋さんのメンチとコロッケを買いに行ってみようと思い立つ。

幸い昨日の夜に買ったビールが冷蔵庫で冷やされている。


財布を持って肉屋さんに向かう、朝とは逆方向に歩くと、朝の喫茶店が見えてくる。

一度行っただけのお店だけど、知っている場所がある、それだけで新しい街が自分の街に変わった気分になった。

さらに数分、歩いていると肉屋さんが見えてきた、店の前には主婦らしきご婦人が二人、一人は小学生ほどの子供を連れていた。


「合挽を200gと牛の細切れを200g下さい。」

「あいよ!」

威勢のいいやり取りが聞こえてくる。

「ママ!あたしつくね食べたい!」

子供が夕飯のメニューに口を挟む、きっと父親や、他の兄弟達からもリクエストはあるのだろう。

悩んだ末につくねを三本、購入して店を後にした。


「すいません、メンチとコロッケを一つづつお願いします。」

「あいよ!お兄さん、見ない顔だね」

「昨日、この街に引っ越してきました。」

「そりゃあいい!うちのメンチとコロッケは飛び切りうまいよ!ぜひまた来てくれな」

「はい、また来ます。」

「おまちどうさま、コロッケとメンチで210円になります、おまけでひとつ、から揚げ入れといたから食ってくれな!うちの娘の試作品なんだよ、良かったら次ぎ来た時に感想聞かせてくれ!」

「ありがとうございます、ありがたく頂きます。ではまた。」


少しほっこりさせてくれた店主に感謝しながら家路を急ぐ。

あつあつの揚げ物の匂いが早く早くと腹の虫を鳴かせる。


アパートに入り、電気をつける。

誰もいない部屋にただいまは言わない。

まだ無いテーブルの代わりに、段ボールの上に購入品を置く、ソースが無いことに気付いたが、肉屋のコロッケとメンチは何もつけなくても間違いなく旨いハズだ。

冷蔵庫からビールを取っり「いただきます。」

ただいまは言わないけど、いただきますは言うのか、と心の中で自分にツッコミをいれ、コロッケを一口かじる。

「うまい!」

さらにビールを流し込む。お世辞抜きで本当にうまい、今まで食べてきたコロッケの中でも一番うまいと思う。

メンチも頂く、これもうまい、さながら某サラリーマンになった気分で一人飯を楽しむ。

「これが試作品のから揚げか」

大ぶりなから揚げが串に三本刺さっている。サービスと言われたが、これだと一本150~200円くらいするのではないか。なんだか得したような、申し訳ないような気分で口に運ぶ。

「え・・・旨い。」

これまた今まで散々食べてきたはずのから揚げが、まるで始めた食べたもののように旨い。

「次からはこのから揚げともう一品、もしくはから揚げ二つでもいいな。」

僕は夜の定番を見つけた。

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