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~ヨシュアの独白02~

~ヨシュアの独白02~


 こんなはずじゃなかった。確かに何度も仕事で一緒に行動することが増えた。


「おいおい、ヨシュア。それはまずいだろう?年齢的にも、立場的にも」


 同僚のアーベルトにそう言われた。わかっている。まずい展開だ。だが、俺だってまだ半信半疑だ。


「それで、この夏祭りで警備をするはずの俺らの中で一人休暇申請して、そういうことするってどういうことなのかな?」


 横にいたサイーズにもそう言われた。


「ああ、悪いって思っている。けれど、これを受けなきゃ俺は男じゃないだろう」


 夏祭り。他領からも人が来ているため警備隊を構築して巡回をすることが決まっている。そのトップは俺ら衛兵を鍛え上げているメリアンネだ。


 隻眼になったため、現役を引退したはずなのに、スティーブが復帰させたのだ。そりゃ、実力は誰もが知っているし、戦力や指揮能力だけを考えたら最良だろう。


 だが、メリアンネは加減という言葉を知らない。その一端はキールお嬢様が提示した『スキル習得』についてと『レアアイテム獲得』の二つからだ。


 地獄の訓練で俺ら衛兵のレベルは99まで跳ね上がった。そこからは修練でしか強くなれない。そう思っていた。


 だが、キールお嬢様は不思議なことを言い出したのだ。


「レベルアップもいいけれど、スキル習得が一番よ。そうね、私が知っているものはここに記載したから試してみるといいわ」


 キールお嬢様がメリアンネにそう言ったのがきっかけだ。メモの中にこういうのがある。

相手の攻撃を反撃せずに10回受け続けると、『防御力向上』というスキルが手に入るのだ。


 実際に行ったら全員スキル習得ができた。今までスキルとは修練の先に偶然得られるものだと思っていた。だが、こういう法則性があったのだ。


「ふむ。10回で覚えるのなら、50回、100回と試したくなるものだな」


 メリアンネがそう言いながら俺を指名した。50回を経過しても何も覚えなかったのに、100回目でスキル『防御力超向上』を習得してしまった。


 多くの同僚ににらまれた。何故かというとみんな習得させられたからだ。こんな感じでスキル習得のための実験が訓練に組み込まれたのだ。


 例えば、岩山を素手で100回殴ると習得できる『鉄拳』とか、毒攻撃を100回受けることで習得できる『毒耐性』とか。


 もう、特訓なのか何かわからないことを最初にやらされたのだ。ちなみに、一人だと寂しいだろうということで、キールお嬢様の騎士の一人であるアイルが一緒に同じことを行ってくれている。


 かわいい女の子が耐えているのだ。だから、俺も弱音を吐くことはできなかった。


「実はこれ、キールからの指示でもあるんです。秋の大戦までにスキルの底上げをするように言われているので。あ、そうそう。今度これやりましょう」


 そう言ってアイルが出したメモを見て俺は卒倒した。


「衆人環視のもと男女でキスをする。取得スキル『鉄の心』」


 いや、おかしいでしょ。ってか、アイルさん。確かに一度口移しで薬を飲ませたことがありますが、これはダメでしょ。


「私が相手じゃダメですか?」

「いや、ダメじゃないが、年齢とか立場とか・・・」


 俺とアイルの年齢差もあるし、俺は衛兵でアイルは騎士だ。立場が違う。


「私はヨシュアさんの気持ちが知りたいです。よかったら今度の夏祭りにこれをやりたいです」


 ってか、夏祭りの衆人環視ってあれだろう?マジでない。ってか、心が折れそうだ。


「そりゃ、アイルみたいなかわいい子ならうれしいが、俺でいいのか?」


 年も離れているし、収入だっていいわけじゃない。こんなドリームがあっていいはずない。これは夢か?


「ヨシュアがいいのです。私はこのドカーケに来て色々とわかりました。駆け引きとかでもなく、相手の身分で決めるのでもなく自分に素直な気持ちで選ぶのが一番だと。一番はキールに言われたからですけれどね。だから、私は純粋な気持ちです。受け取ってください。当日待っています」


 顔を赤らめたアイルが立ち去って行った。夏祭り。アイルは休みだが、俺は普通に仕事だ。だから、休暇届けを出さないといけない。


「ああ、いいぞ。キールお嬢様から聞いているからな。だが、許可は出すが同僚の説得は自分でしろ。衆人環視だからごまかしは聞かないからな」


 恐る恐るメリアンネに休暇申請したら普通に承認された。ってか、キールお嬢様が何を言ったのか気になる。というわけで同僚に説明をしたのだ。


「俺らの天使であるアイルもヨシュアのものか」

「俺らの癒しはどこに」

「今ヨシュアを倒してしまえばなかったことになるんじゃないのか?」

「おお、そうだ。そうだ。倒してしまおう」


 悪乗りをした同僚が挑んできたが、「お前らうるさい」というメリアンネにみんなぼこぼこにされた。もちろん俺も巻き添えだ。解せぬ。


 メリアンネは限界突破しているから強さは人外なんだよな。まあ、俺らも一般人から見たら似たようなものだが、このドカーケに至っては一般人もレベルは高い。


 英雄に憧れてやってきたものが多いのと、教えることで身に着くスキルがあるためだ。教える時は相手をちゃんと判断しないとあぶない。取り締まる俺らが苦戦するようなことは避けないといけないからだ。そんなイベントは前まではなかったが今はある。


 そう、夏祭りだ。とうとうやってきてしまった。といっても、昼間はただ広場に出店が出来て、櫓があり、みこしを担いで騒ぐという感じだ。この夏祭りの本番は夜だ。


 まず、花火というものが空に打ち上げられる。それが打ち出される付近に舞台があるのだが、アイルが指定してきた場所はその舞台のそでだ。


 みんながその舞台近くに集まり、誰も見たことがない花火をみようとやってきている。その舞台にあがりキスをするというのだ。


 夏祭り自体がドカーケで行うのははじめてだ。そして、花火というものはキールお嬢様の要望で作成をしたが、これまたはじめての試みだ。今、特設会場となっている広場の部隊付近は予想以上に人が集まっている。ただ、アーベルトやサイーズたちがうまく誘導している。


 特にロープで区画をわけているのはキールお嬢様からの提案だったが、かなりうまくいっているみたいだ。


 後はスリや痴漢などの騒ぎはちらほら起きているが、犯行を行ったものは皆が他から来た者たちばかりだった。


 そりゃそうだ。このドカーケで犯罪なんてしたら死よりも怖い目に合うからだ。今回の犯罪者に温情はかけるなとキールお嬢様から言われているので、現行犯で捕まえたものは明日まとめて北の要所送りだ。あの場所で価値観すべてを壊してもらうがいい。


 俺は舞台の右側。向かいにはもじもじしているアイルがいる。いつもよりかわいいな。服装もおしゃれだし、いつもと違ってきれいに髪がセットされている。


「心の準備はできていますか?」


 ふいに後ろから声をかけられた。振り向くとそこにキールお嬢様がいた。おいおい、気配察知のスキルを持っている俺が気付かないってどういうことだ。


「ヨシュアはまだまだ鍛え方が足りないようですね」


 すぐ近くにユーフィリアもいた。こいつはまだわかる。気配遮断のプロだ。だが、一体どういう訓練をしたらキールお嬢様みたいな化け物が産まれるんだ?お前は一体何をしたんだ。


「今は一つのことに集中した方がいいですよ」


 耳元でユーフィリアにささやかれた。いつのまに間合いがこんなに詰まっていたんだ。殺される。その恐怖しかなかった。


「今日のアイルは一段とかわいいね。朝からすっごい頑張っていたから。ヨシュア。ここから見てますね」


 キールお嬢様にそう言われた。背中をたたかれた。その衝撃で一歩前に踏み出してしまった。すでに俺は舞台の上だ。


「おぉぉ!!」

「待ってました!」


 花火開始のための何かだと勘違いされている。そう思った。反対がわからアイルが舞台に出てきた。


「ヨシュアさん。私と付き合ってください。好きです!!」


 アイルの大きな声に会場が静かになった。空気が思い。無茶苦茶視線を感じる。今まで感じたことがないプレッシャーだ。アイルの顔が不安いっぱいに見える。覚悟決めるか。


「ああ、俺でよければ。その横に立たせてくれ」


 そう言うとアイルは満面の笑顔にかわった。その目から涙が流れている。そっと指で涙をぬぐう。


「キス、キス、キス」


 舞台の最前列は警備隊がいる。そこにいたのはアーベルやサイーズたちだ。いつも見慣れた同僚だ。


 そして、その後ろにはメリアンネもいる。仕方がない。アイルを抱き寄せる。小さく「あっ」って声が聞こえたがそのまま抱きしめキスをした。


 背後で大きな音がなった。夜空が明るくなった。


「皆さん、サプライズがありましたが、時間になりましたので花火の打ち上げが始まります。どうぞご覧ください!」


 キールお嬢様がいつの間にか舞台にあがっていて説明をする。見えないように親指を立ててサムズアップしてきた。すごい演出だな。


「アイルは私の大切な友人です。絶対に幸せにしてくださいね」


「ああ、俺の命をかけても守り抜いてやるよ」


 このセリフがフラグになるなんて、俺はまだこの時知らなかった。


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