~木材を確保しましょう~
~木材を確保しましょう~
「あれは劣悪な環境でしたね」
ユーフィリアが偵察をしてくれた。というか、メイドって一体何なんだろうって思うようになった。
「どうするのがいいと思う?」
「強引に突破しちゃダメなのかな?」
アイルさんや。食いしん坊キャラから次は猪突猛進キャラに変わってますよ。まあ、アイルの今のステータスで暴れたらだれも太刀打ちできませんけれどね。
「少しは考えなさい」
あ、ここに太刀打ちできる人がいたわ。ユーフィリアが脳天チョップをしたら大きなたんこぶがアイルの頭にできていた。
「当人たちが自発的に動かないと変化できないですしね」
劣悪な環境だからすべてを破壊するというのは強引だ。なぜならこのマリンケ族の街には彼らの仕事は必要なものだからだ。
土魔法が使えないけれど手先は器用。だから衣服を作ったり、農業に必要な農具を作ったり、小麦や木の実をすり潰すなどの作業をしているのだ。
「というわけで、まず手作業からの脱却ね」
すでに脱穀などで使っている自転車もどきを提案するのだ。もちろん、あのでぶっちょ長老のノンリケではない。話しがわかる、最長老のブブロにだ。
「試作機って用意できるかな?」
作り方はアイルがすでに覚えている。というか、アイルってスペックはむっちゃ高いのよね。ただ、どこか残念さがある。なぞだ。
「ああ、あれですね。簡易版ならちょっと離れたところの森の木を使えば作れますよ。ひとっぱしりしてきましょうか?」
ってか、この近くに森はないはず。ちょっと離れたがどれくらいなのか気にしちゃダメらしい。
「では、時間制限を設けましょう。今から30分で森に行って必要な木材を回収してきてください。アイルとキールお嬢様の二人の勝負です。スタート!」
え?ユーフィリア。何言っているの?というか、すでにアイルいないし。
「負けた方は1日強化訓練しますからね」
いや、そういう事はもっと早く言ってね。というわけで、私も猛ダッシュで森に向かいました。ステータスは確かにアイルの方が高い。
それは事実だ。元々の基礎値が違いすぎるんだ。でも、ステータスだけが全てじゃない。私には知識もあるし、スキルもある。この近くに確かに森はない。でも、木材になる木ならばすでにあるのだ。
「というわけで、木材が必要なの購入させて?」
私はマリンケ族の街の中にある場所を尋ねていた。尋ねられた方は焦っている。
「ど、どうして。この場所に?」
目の前にいるのはノンリケだ。ノンリケは奴隷売買で得たお金でこの街に必要な木材や苗なんかも購入している。
ただ単に私腹を肥やしているだけじゃないのだ。なぜ知っているのかはもちろんゲームで知ったからだ。このマリンケ族との道を開通すると色々と発生するイベントがあるからだ。結構後味が悪いイベントなんだ。
ノンリケが行っていたことを知れるのは、すべてが終わってからだ。そう、ノンリケが罰せられた後に知れるのだ。
悪人だから倒した。でも、倒した後に色々と情報が出て来る。と言う感じのイベントだったんだよね。
「探知魔法で知りました。というか、私は木材を購入したいのです。ちょっと試作機を作りたいので。さっき、商談を持ちかけて来られたのはこの事だと思っていたのですが違いましたか?」
目の前にいるのは全裸の女性を首に巻きつけている半裸のノンリケだ。確かにノンリケは集めた土魔法が使えない女性に手を出している。けれど、その理由は後からわかることだ。それに無理やりではない一応同意があるのだ。
ここに居る女性は土魔法が使えないから、自らの体を使うしか生きる道がないと思っているのだ。その考えは洗脳だったのかもしれないし、街全体でこの子たちを追い込んだからなのかもしれない。でも、この行動はここにいる少女たちが他の選択肢を知らないからだ。
教育とは自分の未来の選択肢を増やす事だと言った人がいる。
閉ざされた社会、偏った知識は悲劇を産みやすい。
私はここにいる子たちに、もっと色んな未来があることを見せてあげたいし、教えてあげたい。
それは力任せではうまく行かないし、無理やり連れ出したらそれこそ、悪評がたってしまう。駆け出しの悪役令嬢が本物の悪役令嬢になってしまう。あ、私はもう令嬢じゃなく領主だった。まあ気にしたら負けだ。
「た、確かに、声をかけさせていただきましたが、いきなり扉を開けられればびっくりします。少しお待ちください。準備いたします」
ノンリケがシーツを巻きつけながら話してくる。確かにふとったおっさんの裸なんか見たくはない。
「商談ができる人なら誰でもかまいませんわよ。それこそ、数がかぞえられればそれで問題ありませんし。商談に土魔法の有無は関係ありませんから」
ここにいる人たちは土魔法が使えない人たちだ。そして、このマリンケ族の街では土魔法が使えないものに価値がないと思われている。
そういう閉じた社会だ。ここに居る人たちは自分たちが無価値だと思っている。ちょうどいい機会だ。まずは、そうじゃないって思わせないといけない。
「あなた、数はかぞえられるの?」
私はベッドの隅で立ち尽くしている少女に声をかける。ピンク色の髪にウェーブがかかったかわいらしい少女だ。
「は、はい。かぞえられます」
「なら、この子でいいわ。数も試作機を作るだけだからそんなにいらないし。値段は市場価格でいいのかしら?」
私はノンリケにそう伝える。あ、しまった。少し『威圧』をかけてしまった。繊細だけれど、このスキルは結構使い勝手がいいから使いたくなるんだよね。
「も、もちろん。か、構いません。どうか、お許しください…」
なんだかノンリケが突っ伏している。まあ、承諾は得られたからいいか。
「あなた名前は?」
私はピンク色の髪の少女に声をかけた。
「メイロンといいます。わ、私で本当によろしいのですか?」
メイロンは12歳くらいだ。ノンリケはロリコンじゃなかったみたい。実際に首に巻きついていた子は私より年上に見えたしね。その当たりはちゃんと考えているらしい。
「問題ないわよ。後でちゃんと帳簿も渡すしね。それでいいでしょ。ノンリケさん。ちなみに、周囲も見させてもらいましたよ。なかなかな労働環境のようで。また、こちらに来ますのでよろしくお願いします」
私はそう言って扉を閉じた。ちょっと『威圧』しすぎたかもしれない。まあ、ゲーム内だとイベントの後に余罪も含めこのノンリケは死罪になるのだ。
正直、死罪にする必要はあったのだろうか?まあ、ドカーケ領になってからも人身売買をしていたことを重く見た感じなんだろうな。忖度ってカンジだったのかもしれない。実際そのあたりはさらっと一文で終わっていたけれどね。
突き進んでいくと木材が保管されている場所に着いた。そこから5つほど木材を選ぶ。粗悪品が混ざっているかと思ったがそんなことはなかった。変なものはなかった。他の商品を見てもだ。
「これは代金よ。これはチップ。メイロンが持っていなさい」
そう言ってメイロンにもお金を渡したが困っていた。
「私たちはお金をいただいても使う時がありません」
そうか。この場所から出る時は売られる時か。ポケットを探すと飴しかなかった。大阪のおばちゃんみたいだけれど仕方が無い。
「じゃあ、この飴をあげるよ。舐めるとおいしいよ」
ミルキーを再現したかったんだけれど、近いけれどこれじゃない感がある飴だ。アイルはかなり気に入っていたけれど、私は物足りない感じだ。
「お、おいしい」
「よかった。あんまり量はないけれど、他の人にも配ってあげて。今度この飴の大量生産も考えているんだけれど、人がいないのよ。誰にでもできる作業なんだけれどね」
実際、このミルキーもどきは人気になると思う。けれど、大量生産するにはどうして手作業が付いてしまう。機械化とかは私には知識がないからな。思いつくのは流れ作業で行うことくらいだ。
「それって私でもできる作業なんですか?」
「もちろん、できるわよ」
そう私がいったらメイロンがものすごい笑顔になった。目が輝いている。なんか偶然っぽい流れだけれどこれは成功なんじゃない?
確かに飴は嗜好品だ。だから販売するなら貴族向けになる。形や包装なんかにも気を使わないといけない。
それにまだ牛乳が安定的に手に入るわけじゃない。できればチーズの大量生産をしてグラタンを食べたい。グラタンもこの世界にないんだよね。絶対に再現したい料理だ。
そう、このマリンケ族の街の近くで作りたいのは酪農業なのだ。今回、冬を乗り越えられるだけの食糧を確保できた。おそらくアイルが木材を伐採しにいっている近くなら草原もある。あの付近で酪農をするのだ。乳牛かヤギか。色々試してみる必要がある。
一度酪農事業の手伝いもしたんだよね。どこまでできるかわからないけれど排泄物から肥料も作っていきたい。
多分、このマリンケ街の土は肥料を使えばもっと収穫量が上がるはずなんだ。って、いってもそういう土壌改良イベントがあるんだよね。主人公の知力が一定以上なら成功するという今の私でクリアできるのかわからないイベントがだ。
こういう知識ってどこから入手しているんだろう?やっぱり学園の図書館かな?そう色々考えていたらメイロンが私の服の袖を引っ張ってきた。
「あの、お姉ちゃん。ありがとう」
あ、そうか。この子も戻らないと行けないんだ。私も木材を担いで移動することにした。ってか、乙女が木材を背負って移動している姿ってどうなんだろう?
気にしないことにした。
ちなみに、勝負はもちろん負けました。ってか、戻ったら木材でアイルがすでに試作品を作り始めていた。どんなスピードで動いているのよ。
「こうピュっと動けばいいんですよ」
そう言われたけれど意味が解らなかった。縮地っていうスキルらしい。いや、ここって乙女ゲームの世界だよね。




