~終焉のはじまり ポードック~
~終焉のはじまり ポードック~
用が終わったからっていきなり放り出された。ってか、ひどくないかい?
「まあ、私たちの国に帰りましょう」
妹にそう言われた。そうだな。兄上が一人で頑張って復興しているのだ。ここには騎士として強いジャスティンも知恵者でもあるイストーラもいる。
少しは復興の役に立つだろう。
そう思って、ノークランド王国を目指して移動をした。
後少しでノークランド王国にたどり着くと言う時に大規模な地震に出くわした。いや、地震を感じたのは世界が揺れたからだ。だが、揺れているのは地面じゃない。この世界全てが揺れている。
そんなことってありえるのか?いや、今まで『ありえない』と思うような出来事をいっぱい見て来たではないか。
それにこんな地震だけでありえないなんて思うわけがない。そう高台から見たノークランド王国が瓦礫の国に成り果てていたのだ。
「兄様。兄様は無事なのでしょうか?」
妹が慌てている。私の兄でもあり、ノークランド国王として即位した兄のことを言っているのだろう。
生きていて欲しい。だが、この状況だ。どこかに避難をしてなければ助かっていないだろう。何があったのだ。
「とりあえず行こう」
俺がそう言ったがイストーラは「少し離れた所から様子を見た方がいいです。それに情報を収集する意味でも周辺の村に先にいきましょう」と言って来た。
この状況を見て、生存者がいる可能性は低いかもしれないが、誰か生きているものがいるかもしれない。
特に王城の地下には避難するための地下通路もあれば退避場所もある。ひょっとしたらそこに生存者がいるかもしれない。
そういう思いからイストーラの進言を却下してしまったのだ。失敗だったんだろうな。
イストーラは納得はしていなかったがついて来てくれた。先行はジャスティンが行ってくれた。
王都は血と埃の臭いが充満していた。後は人の肉が焼けた酸っぱいなんとも言えない臭いがしていた。
へどろのような、気持ち悪い臭いが充満している。だが、物音ひとつしない。敵も居なければ生存者もネズミ一匹たりともいないのだ。それだけ短時間に広範囲を焼き尽くしたのがわかる。
こんなの人の魔法で出来るものでもない。いや、あの人たちならあり得ないことでも出来るかもしれないが、あんな人外な存在がそうそういっぱいいてたまるかよ。
王城に近づくと更にひどい状況だった。街中はまだ人のそれとわかる焼け焦げた物体があったが、王城に近づくと人の形ではなく、影やすすで人だったものというのがわかる感じだった。
王城近くが一番高温だったのだろう。鉄製の門扉も一部溶けているし、城壁も所々砕け落ちている。
「これはまるで神話や伝承にある神の裁きのようですね」
そうジャスティンがぼそっとつぶやいた。そういう伝承は聞いたことがある。だが、今は神話の世界じゃない。人の治世の時代だ。
「進もう」
落ち着いたら供養をしたい。そう思って王城の中に入っていった。
王城は屋根も吹き飛び吹きさらしになっていた。瓦礫がいたるところに散乱していて、その瓦礫に下敷きになったものの一部が見え隠れしていた。
幸か不幸か個人の特定ができるような後は残っていなかった。これが見知った顔の死体ばかりが並んでいたらもっと滅入っていただろう。
謁見の間近くは少しだけ形が残っていた。ここは魔法で防御結界が施されていたからだ。テレジア様が召喚した英霊が最高傑作の防御結界だと言っていたのを思い出した。
謁見の間は赤い絨毯も玉座の一部、そしてノークランド国旗の一部が残っていた。
玉座の奥に地下に通ずる道がある。そこに駆け寄った。扉は閉ざされていた。叩くが中からの応答はない。いや、分厚い扉だ。音が聞こえるわけがない。
開閉するための仕掛けはすでに壊れている。剣で周囲を削りゆっくり、扉をずらしていく。ノズルが見えた。これをまわせば扉を開けられる。
ゆっくり、ゆっくりまわしていく。ジャスティンも手伝ってくれた。妹は茫然として泣き崩れており、イストーラは周囲をずっと警戒していた。
扉を開けてはしごを降りていく。光をともすが下から物音は聞こえない。
この梯子を降りてもまだ下には扉がある。扉の前には衛兵が扉を塞ぐように横たわっていた。体は焼け焦げている。ここまで熱が届いたということか。この奥にある扉はオリハルコン製だ。
魔法的処置はまだ生きている。ということはこの奥には熱は届いていない。生きていて欲しい。そういう一縷の望みを込めて私は扉に手を掛けた。
扉を開けると、そこには憔悴しきってはいたが、兄を含め10人が生き残っていた。
「生きているぞ!水だ、水を!」
俺は叫んだ。生存者がいたからだ。魔法的に守られている場所だったにも関わらず、10人の皮膚はやけどのような症状が出ていた。
ポーションをふりかけ、ゆっくり飲ませ回復する様子を見ていた。扉は念のため締めておいた。また、攻撃が来るかもしれないからだ。
「ああ、ポードックか。どうしてここに戻ってきた?」
「心配だったからだ。兄さん。何が合ったと言うのだ?」
周囲のものも徐々に回復をしてきた。
「天使だ。天使の大軍が我が国を襲ってきたのだ。我等は成すすべなく蹂躙された」
思った。この国にいても助からない。この国には人の理を離れた強さを持った者がいないからだ。
「兄さん。ロンベルト王国に向かいましょう。あの国は人ならざるものにも対抗できる強さを持った者がおります。見てきたでしょう。この国を取り戻す時の理不尽的な強さを」
そう兄に伝えた。
「それは、ちょっと困るんだよね。ってか、まさか生き残りがいるとか、聞いてないんですけど」
間延びする声がした。どこからやってきたのだ。振り返ると紫のフードを被ったものたいつの間にかこの場にいた。
「ネームル教が。何のようだ!」
私は振り返り剣を向けて。すでにジャスティンは紫のフードに剣を突き刺していたが、剣は突き刺さることなく、手前で剣先から砕けていた。
この世界との断絶。俺はこの状況を知っている。ロンベルト王国で出会った魔女がこういう感じだったからだ。
俺らではこいつには傷一つつけることはできない。
「君はわかったみたいだね。抗うことの無意味さを。さあ、この世界に終焉と破滅を」
そう言って紫のフードの男は両手を広げた。
「どうして、この世界を破壊したがる?」
「決まっているじゃない。失敗作だからだよ。だから作り直す。それだけさ。まあ、君たちのようなNPCやただのキャラクターにとっては関係ない事さ。ただのデータなんだからさ」
意味が解らなかった。
「にげろ!」
兄がそう言いながら紫のローブの男に掴みかかった。その瞬間兄は世界との狭間に触れたのか弾き飛ばされた。
「まあ、君たちが生きていても死んでいてもどうでもいいんだけれどね。でも、面倒だからここで消えてくれないかな?」
紫のローブの男はそう言って手のひらに光の塊を出現させた。あれはやばい。あんなの喰らったら一瞬で消えてしまう。
だが、その光は掻き消えた。イストーラが奥にある何かを操作したのが見えた。
「ここは魔力を打ち消す魔方陣が敷き詰められています。魔法は発動できません。今のうちに逃げましょう」
そう言うと地面に穴が開いた。紫のローブの男だけは魔方陣に絡め取られているが、それ以外は下に落ちて行った。
落ちた先は湖のような場所だった。水がある程度深いおかげで助かった。しかも、この湖はただの水ではない。回復効果があるのがわかった。
「イストーラ。助かった」
「いいえ、まだ喜ぶのは早いです。あちらを見てください」
イストーラが指差した場所には紫のローブを被ったものが複数立っていた。すでにジャスティンはそのローブを被った物に斬りかかりに行っている。今いるものは斬り倒せるものたちだった。だが、人数が多すぎる。
「イストーラ。君だけは逃げろ!」
「それはうれしい提案ですが、私だけが逃げても意味はないです。それに、生き残るのなら王族である必要があります。このノークランド王国を復興させるのなら」
そう言ってイストーラにキスをされた。
「お慕いしていました。今生で願いが叶うとは思っていません。後はお任せください」
そう言って、イストーラは岩に隠れていたレバーを引いた。俺と兄、妹だけがどこかに転移させられた。王族のみを対象としたものか。
俺はむせび泣いた。俺はイストーラに生きていて欲しかったのだ。




