表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/603

~ハッサムの独白~

~ハッサムの独白~


 僕たちマリンケ族はその容貌から忌み嫌われている。肌は白く眼は赤い。幽鬼みたいだと言われ続けていた。しかも、この白い肌は太陽の光に弱い。だから全身を隠す必要がある。


 顔を隠し、体を隠し、太陽の下に出たがらない。『普通』と違うからこそ拒絶されてきていた。そんな中、ドカーケの執事が人を優秀な人材を探しているということで僕に白羽の矢があたった。偶然だった。


 オールバックの切れ長の目をしたその男性は僕を値踏みするように見た。


「まあ、及第点ですかね。後はこれから鍛えればなんとかなるでしょう。あのお嬢様にはちょっと自分に近しいものがいた方がよいでしょうしね」


 気になるセリフを吐かれたが、僕は登用された。ドカーケで働くものは皆恐ろしく強い。


 だからドカーケには絶対に逆らわない。それが一族のルールだ。近づいただけでわかる。この執事も部屋の隅にいるメイドもヤバい。一瞬で僕を殺せるだけの強さがあるのがわかる。一体僕のどこを見て雇い入れようと思ったのだろう。


 魑魅魍魎が凄む世界だと思っていたら僕が護衛する相手は本当にただのお嬢様だった。というか、どこにでもいる少女って感じだった。


 多分、僕の容姿を見て忌み嫌うんだろうなって思っていたら「白い肌ってきれいだと思うよ」と言われたのだ。そんなこと言われたのは初めてだった。


 どこに行っても蔑まれ、嫌われ、努力しても容姿から、太陽が苦手なこの体質から評価もされない。それなのに、このお嬢様は僕を普通の人と同じように接してくれたのだ。


 僕からしたらこのお嬢様の思考が不思議でいびつだった。でも、この不思議なお嬢様はドカーケの領主なのだ。領主が僕を普通に扱うため、他の人も同じように僕に接してくれる。


 うれしかった。こんな事今までなかった。しかも、僕たちが隠れ住んでいる所をつなぐ道を作ると言い出したのだ。まあ、ちょっと『オンセンガイ』というのが何を意味するのか僕にはわからなかったけれど。


「なので、話しをつけてきてほしいの」


 そう言われた。偏見もなく、普通に僕たちに仕事を依頼してきたのだ。しかも、僕たちが得意な土魔法を使った道と新たな街の建設という一大ビックプロジェクトをだ。


 僕はお嬢様が書いてくれた手紙をもって故郷である地下街に戻っていった。なぜだかこの人のために頑張ろうって思えた。それは僕を否定しなかっただけじゃない。何かを感じたからだ。この人なら、キールお嬢様なら何かを変えてくれる。そう思えたのだ。



 僕たちの故郷に名前はない。もし、名付けるのならマリンケ族の街なのかもしれない。といっても、地下に広がる洞窟を広げたその場所は初めて来た人には入り口すらわからないようになっている。かっこよく言ったけれどただの秘境だ。


「それで、そのお嬢ちゃんが言うには我々に土魔法で道路整備と新たに街を作る依頼なのじゃな。だが、儂ら土魔法は使えるが今まで道路や街など作ったことがないぞ。その点はどう考えておるのじゃ?」


 僕たちは日常的に土魔法を使っている。それは洞窟を広げる、補修するためだ。だが、道路も建物も作った経験はない。けれど、キールお嬢様はその点も考えてあった。


「クルル商会経由で技術者が来るんだ。その人たちと一緒に作業をする。その技術者は僕たちやドカーケの人たちに技術を継承させるために来るんだ。だから、今回の作業を経験すれば今後は僕たちだけで工事を行うことができる。そして、この工事は結構長期間にわたって行われるんだ。だから、ある程度安定した収入が得られる。更に、この近くに街を作り、僕たちの一部がそこで働くことができるんだ。もう、こんな洞穴で生活しなくて済むんだよ」


 キールお嬢様が渡してくれた手紙にもそう書かれてあった。


「我々を安くこき使うのだろう。我々は奴隷じゃない!」


 このマリンケ族には長老と呼ばれる人が5人いる。そのうちの一人のノンリケが「奴隷だ」と騒いでいる。この人は娘が外の世界に行って戻ってこなかったこと、探しに行ったときに差別を受けたことが原因だ。


「値段はここに書かれてある通りだよ。どちらかというと金額は通常より少し高めに設定されているよ。だから安くこき使うことはないと思う。それにキールお嬢様は偏見を持っていないんだ。それは会ってくれたらわかるよ」


「ならばなぜここに来ないのだ。それこそが我らを見下している証拠ではないか」


 ノンリケがそういってきた。正直僕はこのノンリケが嫌いだ。何かにつけて否定しかしない。それにノンリケは太っているのだ。この食糧が足りないとみんなが苦しんでいるのにも関わらず、一人だけどこからか食糧を確保しているのだ。嫌な噂もよく聞く相手だ。


「そう言うでない。我らには食糧難という問題がある。聞くところによるとドカーケも似たような状態であったはずなのに、新たな領主になって改善されたと聞く。その収入だが、食糧で収めてもらうよう調整してもらえないだろうか?」


 最長老であるブブロがそう言ってきた。ブブロは杖を手に持っており、長く白い長髪の男性だ。


「もちろん、その対応も可能とキールお嬢様には言われています。ただし、短期的には食糧でよいのですが、中長期的には金銭がよいとも言われていました」


 キールお嬢様の考えはたまにわからない。けれど、支援とは自立をさせることが目的だと言っていた。いまいちこの辺りはよくわからなかった。


「少ない食糧でこき使い、その食糧に依存させるというのか。悪魔かそいつは!」


 ノンリケがそう言って机を叩く。僕はキールお嬢様が作ってくれた書類をみんなに渡す。


「この資料は何だ?」

「キールお嬢様が作られた書類です。見てください。まず、一人土魔法者を派遣することで得られる金額です。そして、お金ではなく食糧にした場合のレートも用意されています。主食となるどんぐりパン、ほかにも野菜や肉なども設定されています」


 そう、僕はこの資料を見た時にびっくりしたのだ。どうしてここまで細かい資料を作っているのかと聞いたら「こういう事を事前に決めておけば問題が起きにくいから」と言われた。


 キールお嬢様の仕事量はかなり多い。一つひとつの仕事に結構細かい資料を作られているのだ。負担を少しでも減らしたい。


「ふん、書類などどうでもなるだろう。それとも精霊契約までするとでも言うのか?できぬだろう」


 精霊契約は魔力がこもった紙に記載をして契約をする方法だ。この方法で契約をした場合、履行されなかった場合、最悪死ぬこともある。つまり命をかけることができるのかという意味になる。


「ええ、キールお嬢様はその提案もされています。ただし、初めての運用のため期間は1年。その後運営をして問題があればお互い協議の上で内容を精査すると言われています」


 そう、キールお嬢様はこの展開も想像していたのかもしれない。


「な、なんだと。領主自ら結ぶと言うのか。そこまで我らのことを考えてくださっているとは。しかも、この金額、レートかなり高く設定されておるのう」


 長老のブブロは大きく目を見開きながら書類を見ている。


「ふむ、しかも送り出す人数にも制限をかけておる。その理由は我らの生活を守るためという。ハッサム。この街の人数を伝えたのか?」


「はい、伝えさせていただきました」


 そう、土魔法が使えるすべてのものを送り出してしまってはこの街がうまく回せなくなる。そんな僕たちすべてのことを考えて計算されたのだ。


 この街では土を耕すにも魔法を使わない限り厳しい。なにせ岩盤だからだ。土魔法で成分を変えて畑にしているのだ。だが、一定期間で岩盤に戻ろうとする。だから定期的に土に魔力を付与させないといけないのだ。


「ふん、うますぎる。好条件過ぎるのだよ。何かあると思うのが普通だろう。地上人は油断ならぬ者たちばかりだ。それに、我らの中には土魔法が不得手なものもいる。そのものたちを切り捨てろとでもいうのか?」


 キールお嬢様は土魔法があまり使えない人たちのことを考えてある。書類にもそれは書いてあるがノンリケは書類をほとんど見ていない。他の長老は書類を細かく見ているのにだ。


「ノンリケ。お主の意見もわかる。では、こうしよう。その領主であるキールをこの場に連れて来るがよい。そこで判断をしよう。それに契約を締結するには当人がここに来ないわけにも行かぬだろう」


「かしこまりました。では、雪が溶けたらキールお嬢様とここに戻ります」



 交渉はうまく行かなかった。けれど、キールお嬢様は怒りもせず、楽しそうにこう言って来た。


「私も行こうと思っていたの。丁度良かったわ。じゃあ、春になったらいきましょう。北の要所に行った後に行くから準備しておいてね。あ、先方にもちゃんと伝えておいてね」


 もめた事を伝えた。それなのに、その場に行くことを楽しみだと言ってくれている。


「だって、ハッサムの故郷でしょ。行ってみたいじゃない。それにハッサムはちゃんと仕事をしてくれたわ。感謝の思いしかないわよ」


 気になったので聞いたらこう言われた。反則だ。なんでそこで笑顔で僕を見るんですか。僕にどうしろって言うんですか?


「鍛えればいいんです。自らの体を」


 後ろから声がした。ユーフィリアさんがいつの間にか後ろにいた。この人怖いんだよな。気配がまったく感じないんだ。


「弱いままでいいのですか?ハッサム、あなたは護衛でしょ。ならば自らを鍛えなさい」


 そこから僕は接近戦と土魔法を使った複合的な戦い方を叩きこまれた。ユーフィリアさんの特訓は地獄だった。


 いや、その地獄を上回る特訓をその後ノースドカーケで経験したのだ。『英雄』ランベルの特訓という名の真の地獄を。


 休憩することも、寝ることも、食事すらも必要としない、ただ戦うことだけに特化した訓練。何度も死ぬと思った。


 だが、攻撃を受けても瞬時に回復させられるのだ。魔法を使っても回復する。疲労感すらもない。


 精神だけが擦り切れる。強制的に僕は強くなった。強くなってわかったことがある。


 ドカーケにいる人たちは皆おかしいくらい強い。過剰な戦力。一体キールお嬢様は何を目指されているのだろう。


「その時が来ればわかりますよ。私たちはただ、『その時』を待てばいいんです」


 ユーフィリアさんがそう言ってくれた。横で同僚のアイルが笑っていた。このアイルも良くわからない人だ。ふざけているようにも見えるけれど、しっかり考えてもいる。


 ただ、食べることが好きなのだけはわかる。このアイルがいるからドカーケの食べ物がおいしくなったのも事実だ。陰ながら色んな実験をしているのを知っているし、その結果が出ているのも知っている。


 というか、アイルは護衛任務を放置して厨房や街にいることが多いんだよね。おかげで僕がキールお嬢様と一緒に居ることが多い。まあ、僕よりもはるかに強いユーフィリアさんも一緒にいるから何が起きたとしても安心だけれどね。


「もっと、精進してくださいね」


 だから、ユーフィリアさん気配を消して背後に立たないでくださいね。毎回心臓に悪いんですから。


「いや、ハッサムって顔隠れているからわからないんですよね。心拍音くらいでしか感情が把握できません」


 ってか、そこで判断されるの!


 雪も溶け、移動することになった。


 メンバーは英雄であるランベル様。この人はすぐに修行をさせたがる。そして、キールお嬢様に近づくと殺されそうになる。


「貴様は護衛だ。だが、土魔法使いならある程度離れていても護衛できるだろう?」


 ものすごい覇気で睨まれた。気絶するかと思ったが頑張った。


 後は、ユーフィリアさんとアイルだ。アイルは気が付くといつも何かを食べている。こっそり手に持っているのは試作品だ。少しずつ何かを変えては試食しているのだ。


 後はこの前から私設兵に組み込まれた50人の猛者たちも同行している。何回かこの人たちと訓練に参加させられたけれど、こんな感じになりたいとは思えなかった。まあ、犯罪奴隷だから仕方ないのはわかるが、ランベル様の容赦がまったくなかったのだ。


「お前らは処刑されても文句が言えなかった立場だ。だが、キールの温情で生かされておるのじゃ。血の一滴、肉の一片になってもキールの望みのために働くのじゃ」


 ランベル様のきびしい特訓で彼らは洗脳されていった。もう、屈強な兵士になっている。そう思っていました。


 でも、北の要所は違いました。あそこは人の形をした別の生き物がいました。空を翔ける人がいるんです。それも普通に。空気を蹴るとか言われてもわかりません。


 それに戦っているモンスターが強すぎる。キールお嬢様と逃げるように北の要所を出て行った。


「あの場所を守るにはもっと違うものがいる。でも、『アレ』を作るのはちょっと抵抗があるんだよな」


 なんかつぶやいていたけれど聞かなかったことにしよう。キールお嬢様はたまにかわった発想をして、何かとんでもないものを作ろうとする。


 大体、その発想に振り回されるのはアイルと僕だ。そして、生まれ故郷。マリンケ族の街についたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ