~ユーラシア王国の変革物語03 モカグリーン~
~ユーラシア王国の変革物語03 モカグリーン~
精霊の森について相手がネームル教だと知った。私はネームル教について調べていたのだ。調べるキッカケはキールがネームル教の人間を仲間に入れるという指示をしたことだ。
ネームル教は世界の破滅を望んでいるが大きく二つの流派があるみたいだ。
一つはこの世界は不浄に満ちていて破壊をし、再生を行うと言うかなり過激な思想を持つものたちだ。そして、この思想を持つものが大多数なのだ。
だから、ネームル教を見かけたら全面戦争になる。
だが、過去接触を図ってきたネームル教はこの思想ではない。彼らは不正を行っている権力者を排除するだけでこの世界が浄化できると考えており、まだ不正を行っていないものに接触を図り共に不正を行うものを排除することを考えている。
こちらのネームル教はまだ会話が成立するのだ。つまりネームル教の中で会話が出来る方ならば戦いの理由さえわかれば争いは回避できるのだ。
今までそんなことを考えたことはなかった。だが、無駄な争いは避けた方がいい。
なぜこんなことを思い出したかというと、精霊の森で出会ったものが紫のローブを着ていたからだ。
私はメリドに任せて欲しいと伝えた。
「ネームル教のあなた達がここで何をしているのですか?」
声をかける。だが、目の前に居た者たちは無言で攻撃してきた。あ、これは会話が成立しない方のネームル教か。
相手は5人。それも、ばらばらに動いている。一人は奥に向かっていった。
「メリド。奥にいったのだけお願い。手前の4人は倒すから」
「了解。というか、いいのか?」
「奥のだけ強さが違ったから。手前のなら大丈夫」
実際奥に向かったやつだけは別格に強い。あれはなんだか嫌な魔力を有していた。
「呪法『常闇』」
4人の視界を奪う。常闇は相手の視界だけを奪う魔法だ。木に登りながら移動している4人にとって視界を奪われるのは恐怖だろう。
次に麻痺をかけるとそのまま地面に落ちて行った。4人が地面に落ちると一気に白骨化した。生命力が奪われると聞いていたが、速度が予想と違ったのだ。
前を見るとメリドが魔法で遠距離から戦いながらこちらをちらちら見ていた。4人が一気に白骨化したのを見てメリドも相手の紫のフードを被ったものも固まった。お互いに思っていたのと違ったのだろ。
だが、紫のローブは小さな笛を取り出して吹いたと思ったらいきなり笑い出した。
「やはり、この地は我等にこそふさわしい。お前らには悪いが死んでもらう」
会話をしてきたが、滅びを望んでいることからどうやらネームル教の中では主流の考えのものなのだろう。それにローブも一色だ。金の淵はない。
そう思って見ていたら何か様子がおかしい。周囲が白くもやってきたのだ。周囲を見るとどんどん靄が濃くなり周囲が確認できなくなってきた。
「モカグリーン。近くにいろ。この靄は魔力を帯びている」
メリドが横に来て私を心配してくれた。それだけでうれしい。
「わかった。はぐれないように手をつないでいい?」
少し攻めてみた。だが、手首をつかまれた。思っていたのと違うけれどうれしかった。
もやが少し晴れてきた。そこには白い狐のようなお面を被った白いしっぽが9つある白い和装の女が目の前に居た。
見た瞬間に気絶しそうなくらいの魔力を感じた。なんだこれ。
「迷い人よ。ここは人が立ち入る場所ではない」
それはわかる。石畳に朱色の鳥居。木で作られた建屋。奥には幼子が手毬で遊んでいる。だが、その子供も狐の面をつけている。
異空間。まるで今までいた世界と違う世界に迷い込んだようだ。
「立ち去りたいのだが、ここがどこなのか、どうやってこの場にたどり着いたのかがわからない。ただ、少し前に笛の音を聞いた。それは関係あるのか?」
メリドが毅然とした態度で目の前にいる9つのしっぽがある狐にそう確認する。私の手首をつかんでいるが、その手は震えているのがわかる。
私は恐怖から声を出すことができなかったけれど、メリドは違う。震えながら立ち向かっているのだ。しかも少し前に出て私を庇ってくれている。
「笛の音か。ならば過去の盟約が関係しているのかもしれぬな。ならば、お主たちのどちらかは解放してやろう。もう片方はここに残りしばらく働いてもらおう。さあ、選ぶがよい」
「ならばモカグリーンを戻せ。俺が残る」
メリドは間髪入れずにそう答えた。
「ほう、何をするのかも、どれくらいの期間この場に留まるのかも聞かずに判断するのか?」
「問題ない」
メリドのその凛々しい顔を見て私はやはりこの人を好きになってよかったと思った。
「それに、その気になればこの場から抜け出すことは出来る。ここは異様な空間ではあるが、理が異なる世界ではない。このように魔法も使うことができる」
そう言ってメリドは手の平に小さな火を出す。攻撃魔法ではなく灯りをともすだけの魔法だ。ゆっくり火は上にあがっていく。見えにくかったこの世界の境界が見えてきた。周囲は白い靄に囲まれている。
「ほう、妾の機嫌を損ねるか。ならば二人でこの世界から抜け出せるか試してみるがいいわ!」
狐の面が変わった。目の周りが赤くなり、怒りの表情に見える。
「大丈夫だ。この場は抜け出させてもらう。ただ、あの狐はそう簡単に逃げさせてくれなさそうだ」
狐面が変わった時から周囲の雰囲気が変わったからだ。なんというか、空気がぴりぴりしている。魔力制御がうまくいかない。なるほど。こう来たか。
「モカグリーン。お願いがある。この地に『呪い』を付与してくれないか」
メリドが何を思ってそう言ったのかわからないが、呪術は魔法と本質が違う。おそらくこの状況でも発動できるだろう。
「呪法『腐食』」
地面を腐らせる呪術だ。ゆっくり石畳の下にある地面が紫色に変色し出す。
「おい、何をしている!?」
「このまま地面を腐食させてこの世界に穴をあける。そこから出ればいいのだろう」
そこまではできないだろう。ただ、この場所で生活をしているのならこの呪いはかなり辛いだろう。特に『腐食』はただ土を腐らせるだけではない。そのまま呪いを付与するため作物は育ちにくくなるし、その土地で育つ草木は毒性を帯びるのだ。
焦土作戦などの時に使うのだが、メリドはこの呪術を覚えてくれていたみたいだ。
「そこまでの力はないだろう。ただの嫌がらせだな。だが、これくらいなら浄化できるわ」
狐面の女はそう言って魔法を発動させようとするが、今この空間は魔法を使いにくい状況である。それはこの狐面の女もかわらない。
この状況なら私は『腐食』の方が強い。
「モカグリーンこの付近一体に『常闇』をかけてくれ。広い範囲で、精度は低くていい」
「わかったわ。呪法『常闇』」
周囲を黒い靄で覆い尽くしていく。メリドが魔力を練っている。かなり繊細な事をしている。
「転移するから捕まれ」
そう言われたから私はメリドに力いっぱい抱きついた。
「に、逃がすか!」
メリドの転移魔法が発動する。しかもメリドは周囲に『遅延魔法』を発動させている。遅延魔法はその付近にいる自分以外のものの魔法の発動時間を遅らせるというものだ。
転移してきた先は精霊の森。だが、あの一人だけいたネームル教のものがどこにいるのかわからない。
「とりあえず、あいつが来るまでに準備をしておく」
狐面の女は強い。だから事前準備が必要だ。
「ならば、この付近の木々を弱らせればいいのでは?狐面の女と言えどもこの地の地面に触れたらダメージを受けるだろう」
私はそう伝えた。だが、わかっていなかったのだ。あの狐面の女がどういう存在かということを。




