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~イーストエンド領での冒険譚 ヨシュア03 side~

~イーストエンド領での冒険譚 ヨシュア03 side~


 まさか、アイルのスキルと記憶を狙っていたヴァーミリアンが現れると思っていなかった。しかも、敵ではなく味方としてだ。


 アイルを見ると信用していないのはわかるし、スキルと記憶を奪われたユーフィリアの落胆ぶりを見ているから簡単に受け入れられないのもわかる。


 だが、目の前に現れたあの四角い顔が現れて敵意を向けてきた。何人かは頭を押さえてうずくまっている。記憶を一部でも奪われる恐怖は強いし、その恐怖が伝播していくのだ。


 記憶を奪っているみたいだが、どうやら重要な記憶ではなく相手に恐怖を与えることを目的にしているみたいだ。


 前に会っている時は我々と争うつもりはないと言っていたが、現状を放置すれば皆の士気が落ちる。それに、ヴァーミリアンを信用しているわけでもない。だから、近くで見張りながら共闘することを決めたのだ。


 そこまでの説明をアイルにはできていない。後で説明をする必要があると思った。


「こちらはあなた方に敵意はないのですがね。私が用があるのはあそこにいるイーストエンド侯爵の子息だけだ。いや、イーストエンド侯爵がなくなったからそこの少年が今はこの領地の責任者か」


 やはり、こいつの狙いはゾゾイか。我々が巻き込まれたのはわかっているが、今回の目的の一つとしてこのゾゾイを味方にすることだ。だからこそ、この戦いを受け入れたのだ。


「ふ~ん、僕に用があるんだ。無差別に記憶を奪い証拠も奪っておいて、敵意がないとか言われてもね」


 いや、明らかにこの四角い顔の男はゾゾイにだけ敵意を向けているだろうが。こっそりあなた方の中に自分を入れるよな。


 ゾゾイが立ち上がり手をあげる。空気が変わった。


「しかもさ。ちょっと偉そうだよね。僕は確かに子どもだし、大人には敬意を払った方がいいのかもしれないけれど、ちょっと領主への敬意というもの知ろうか」


 ゾゾイがそう言うといきなり空気が変わった。気が付いたら跪いていた。はじめは重力操作のスキルかと思ったが違う。重力操作だと人以外にも影響があるが、人にしか影響が出ていない。試しに小石を拾い落としてみたが重力操作のような影響は受けていなかった。


 ゾゾイのスキルがよくわからないが、人の精神に影響を与えるもののようだ。ヴァーミリアンをみるとこのスキルについて把握していなかったようだ。


「だからなんだというのだ?」


 片膝をつきながら四角い顔の男がそう言っている。ゆっくりだが立ち上がっている。なんとなくこのゾゾイのスキルについてわかってきた。精神への影響だが、使い勝手のいいスキルではないみたいだ。おそらく言霊使いだと思われるが、意識をすれば解除もできるようだ。意識したおかげで私も動くことができた。


「さて、話しを聞かせてもらいましょうか?」


 立ち上がり、歩いて移動をする。ある程度この四角い顔の男とは距離をあける。こいつのスキルの発生は距離と周囲からの支援だ。


「会話だと?」


 四角い顔の男が訝しげにそう言ってきた。手が止まったという事は少なくとも話しを聞く姿勢があることがわかった。


 ちょうど、ゾゾイの精神攻撃のおかげでヴァーミリアンの動きが止まっているのもよかった。


「ああ、そうだ。私たちは今回のイーストエンド侯爵の殺害の犯人をワガロンドが首謀者だと告発する予定だ。外交的には大問題になるだろうが、ダスティ王国として距離そして、時間を稼ぎたいのではないのか?」


 今のダスティ王国はかなりきな臭い噂が多い。あれだけ戦闘国家と言われていたのに、ここ最近大人しすぎるからだ。つまり、国内がガタガタなのだろう。


「ロンベルト王国としてはどうするつもりだ?参戦するのか?」


 四角い顔の男が食いついてきた。敵意は感じられない。記憶を奪うような精神攻撃も受けていない。


「もちろん正当な主張はする。だが、攻め入るとしても2年後だ。2年の月日は稼げるだろう」

「その根拠は何だ?」


 そうなるよな。だが、こちらにも手はある。


「正当な血族の帰還だ。2年後にダスティ王国の正当な血筋が現れる。そして、その時にはダスティ王国には正当な血筋はいなくなっている。そういうことだろう?」


 この情報の確固たる証拠はどこにもない。あるのはキールお嬢様が残してくれたメモだ。

 メモにはこう記載されていた。


・ダスティ王国の内乱はかなりの情報封鎖がされているから手出しはしないこと

・記憶を奪うスキルのものが出てきたら戦わずに交渉すること

・奪われた記憶は戻らないので注意すること

・ダスティ王国の内乱は2年で終息するが、王族は死に絶え担ぐ王がいなくなる

・シレンティア王女殿下の子供が2年後に誕生する


 このメモだ。


「どうしてそれを知っている?完璧な情報封鎖をしているというのに」


 四角い顔の男が慌てている。そりゃそうだろう。こいつが延々と記憶を奪い情報封鎖をしているのだ。そりゃどこからも情報なんて漏れるわけがない。


「知らないのか?我らの主君であるシンフォニア男爵は未来予知ができる。すでにダスティ王国の未来は予知されているんだよ。そこで交渉だ。あんたは時間を稼ぎたい。そうだろう?」


 これもキールお嬢様が残した膨大のメモの中に書いてあった。ダスティ王国は今2つに割れている。簡単に言うと現体制支持と改革派だ。


 現体制は腐敗しているのではなく、洗脳されているのだ。そして、その洗脳に気が付いたものが洗脳を解いていっているのだが、ここで洗脳されていたとはいえ、その時の記憶がある貴族や王族はどう行動したがるのか?


 自死を選んだものが多いのだ。おかげで、現体制を支持しているものは、この四角い顔の男が記憶を奪った現体制の生き残りだ。


 だが、洗脳されていたからとはいえ、虐げられていたものや、親族を殺されたものたちもいる。追及をしても知らないと言われるのだ。


 まあ、実際に記憶を奪われているからその首謀者は知らないが正解なのだがな。


 この記憶を奪うスキルには問題がある。あまりにも強い記憶や、その記憶が人格形成に深くかかわっているものは奪えない。


 解りやすく言うと子や恋人、親族を殺され、復讐しか生きる支えがない者たちの記憶は奪えないのだ。だから、ダスティ王国は荒れている。


 俺はその状況をこの四角い顔の男に語った。


「なるほど。そこまで我らの国のことを知っていたか。シレンティア王女殿下はタイミングもあって抜け出せた」


 あのシレンティア王女殿下は殺されるというフラグがあったのだろう。だからそのフラグをへし折って生き残ったのだろう。まあ、はた迷惑な存在ではあるがな。


「だが、シレンティア王女殿下は王の器ではない。その子は王としての素質があるというのか?」


「まだ、産まれてもいないからな。知らぬとしか言えないな。だが、その王はロンベルト王国がバックアップする。どうだ。お前は自分がした過ちに気が付いているのだろう?」


 この四角い顔の男は自分が行った過ちを気が付いている。


 現政権を維持するために、そこに居た者たちの記憶を奪うことは目の前の問題を先送りにしただけだった。


 なぜなら被害者がいるからだ。そして、その被害者の記憶は奪えない。だからこそ大きな溝が出来てしまった。


「なるほどな。それで、この欲望の街でお前は何を探しているのだね?」


 ゾゾイが会話に参加してきた。面倒なことになったな。


「この地にあるはずだ。確実に記憶を奪う魔道具が」


 その魔道具で被害者の記憶を奪うのか。こいつは本質の解決ではなく奪う事でしか解決を考えていないのか。


「あれはお前が思っているようなものではないぞ。記憶を奪うというかすべてを奪うものだ。残るのはただの廃人だ。まあ、それを無理やり動かす方法もあるがな。そう、お前たちが売りさばいていいた『魔薬』を使えばできるぞ」


 ゾゾイの言葉を聞いて四角い顔の男が天を仰いでいる。


「自我を保てぬというのか?」


「命令なら聞くね。ただ、複雑な命令は無理だよ。そういうレベルの人が欲しいのならそれこそ、奴隷市場でそれっぽいのを買って顔を似せた方がまだ使えると思うけれどね。どっちみち詰んでいるだよ。ダスティ王国はね」


 ゾゾイが笑いながらそう言った。この四角い顔の男が解決方法を考えたわけではないだろう。こいつには同情したくなる。母国のピンチなので切羽詰まり大局が見えていないのだろうな。


「ならば、どうすればいい?」


 そこで他人にぶん投げるのか。もうダメだな。こいつは。


「それは知らないよ。大人が考える事でしょ。僕にとってはどうだっていいことだよ。まあ、そこの人が言うように2年経てばロンベルト王国がホワイトナイトとなってダスティ王国に凱旋するんだろうね。それに僕たちも正直時間はほしい。そうでしょう?」


 ゾゾイがそう言ってこっちを見て来た。そういえば、このゾゾイについて要注意だとキールお嬢様のメモにもあった。本当にこいつをナッカは味方に加えるつもりがあるのか?制御できるとは思えないぞ。


 まあ、スウがいればなんとかなるか。


「そうだな。2年か。その期間をもらい受けよう。それでワガロンドについてだが」


 四角い顔の男がそう言った瞬間影が揺らいだ。


「来たようだね」


 アイルが楽しそうに笑っている。修行の成果を試したいと言っていたからな。ここは任せるか。


「アイル。任せたよ。あれの相手を」

「もちろん」


 アイルは影に向かって突っ込んでいった。だが、私も知らなかった。影は一つではなかったのだ。



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