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~初冬のドカーケ~

ここから第2章のつもりです・・・

~初冬のドカーケ~


 私はそこそこ有名な企業のCSR担当として勤務していました。といっても、森林保全活動という名目でかなりの期間森や村に滞在していました。


 おかげで自然の事に詳しくなりました。たくましくもなりました。間伐のため、木を伐採していたらその木の下敷きになったと思ったら、乙女ゲームの『剣と魔法のストーレンラブ』という世界に転生しました。


 転生したのは、悪役令嬢の取り巻きの一人でもあり、断罪イベントの時に切り捨てられるトカゲのしっぽ切り要員である『キール・テル・ドカーケ』でした。


 学園は追放され、3年間私は領地運営に携わるはずでした。けれど、私のミスから王都に召喚されるは、領土とは真反対と言ってもよい南の港町があるルークセニヤ領に連れて行かれるわ、気が付いたら『男爵』から『子爵』に出世するわよくわからないことばかりです。


 そんなこともありましたが、久しぶりにドカーケ領に戻ってくることになりました。馬車の中には私の専属メイドでもある鬼教官の『ユーフィリア』がいます。黒髪をきっちと分けた完璧超人です。容赦とか手加減という文字を知らない人です。にこやかに笑っていますが、ユーフィリアの笑顔は恐怖しかありません。


 その横には30代前半、茶色い髪を一つにまとめたメガネを掛けた女性『リーン』が座っています。


 私の中で『リーン』は普通の人です。唯一安心できる人です。馬車の中にはリーンの子どもが3人いますが疲れているのか眠っています。ってか、この揺れる馬車の中で眠れる強さがうらやましいです。昔の私は死にかけたというのに。


 馬車の扉が叩かれる。外にいるのは縁あって私の騎士になった『アイル』だ。アイルは『剣と魔法のストーレンラブ』の主人公だ。ルーファス王子の攻略に失敗して僻地の領主の奴隷となったのだ。オレンジのショートヘアーのかわいいと美人の間の様な顔立ちだ。


「もう少しで『サウスドカーケ』に着きます。ご準備ください」


 今はどうやら普通アイルのようだ。カーテンを開けてアイルの表情を見る。


 なぜかバナナを頬張っている。まあ、アイルは気が付いたら食いしん坊キャラになっているのだ。


 後ろの馬車には『メドフェス』とカチュアが手配してくれた2名の男女が居る。『フィーバル』という若くてかっこいい男性と『ロッテン』という可愛い女性だ。恋人同士の二人だ。


 まだ若いこの二人だが私はこの二人を見てびっくりしたのだ。知っているからだ。


『剣と魔法のストーレンラブ2』の攻略対象だ。といっても、学生ではなく学園に訪れる商人という二人だ。というか、この二人が居なくなって大丈夫なのだろうか?


『剣と魔法のストーレンラブ』というゲームの基本は『略奪愛』だ。攻略対象にはすべて婚約者もしくは恋人がいる。略奪する前にある程度周囲を固め、自分に味方するものを増やし、相手を孤立させる必要があるのだ。


 ちなみに、このフィーバルを攻略するには、特定の商品を決まった量以上購入する必要がある。ただし、恋人であるロッテンに対して何のフォローも対策もしていないと、略奪した後にロッテンが雇った『暗殺者』に殺されるのだ。


 といっても、この二人はメインキャラじゃないので、扉絵コンプのために攻略するくらいだ。そんなに難しくない。


 ロッテンがフィーバルに愛想を尽かさせればいいのだ。ロッテンは色々とミスをするドジっこキャラのような感じだ。そのミスは大体フィーバルがフォローするのだが、フィーバルより先に主人公がフォローを続ければよいのだ。


 大きなミスは3年間で12回。ロッテンは結構なドジっこさんだ。このミスをフォローすればロッテンはフィーバルに愛想をつかす。その後に必要な量のアイテムを購入すればいいのだ。


 だが、私は別にフィーバルを攻略したいわけでもない。だが、ドカーケ領内でミスを12回もされるのも困る。まあ、私以外がフォローをすればいいだけだしね。しかも、同じ人がフォローしなければいい。問題ないと思っていたけれど、あんな展開になるとは思ってもみなかった。まあ、それは別の話しです。はい。


「お嬢様、着きました」


 馬車を降りるとそこには、冷血漢の執事の『スティーブ』。ユーフィリアの母親でもあるメイド長の『ダリア』。先行して先に帰っていた『アン』、『ロイ』、『ルース』と十人衆が居た。


 そして、中央に前はいなかった英雄と世間で言われていて、辺境伯という地位についている『ランベル・テル・ドカーケ』が立っていた。


「おじいちゃん」


 私はおじいちゃんに向かってダッシュして抱きついた。おじいちゃんは長い白髪を一つにまとめていて、少し白い眉毛が端だけ伸びているけれど、かっこいいのだ。彫は深く年を取っているけれど背筋も伸びていてしっかりしているのだ。


「キール。ひさしぶりじゃの。元気にしておったか」


 おじいちゃんは私が抱きついているけれど気にせずにそのまま持ち上げてくれる。この年で高い高いをされると思っていなかった。


「お帰りなさいませ。お嬢様。業務の引き継ぎを行いましょう」


 スティーブは相変わらず冷静だ。横を見るとアイルは妹のスウと話している。ユーフィリアはアンと話している。


「あれ?なんだかロイたちの雰囲気が変わった気がする」


 私がそういうとおじいちゃんがこう言って来た。


「ああ、そいつらはちょっと鍛えてやったぞ。まあ、まだまだじゃが、あれくらいの強さなら大丈夫だろう。ドカーケに来るのだから最低限鍛えてやらねばな。そうじゃユフィ」


 おじいちゃんの雰囲気が変わった。私はすでにおじいちゃんから降りている。


「お嬢様はこちらへ。些事なことは現場に任せるのが一番です」


 スティーブにそう言われて私は館の中に入った。なぜかユーフィリアが見たことがないくらいに震えていた。おじいちゃんのこと苦手なのかな?


 気が付くと私の横にはアイルが立っていた。


「もうちょっとスウちゃんと話していてもよかったのに」

「いえ、お気遣いなく。私はキールの騎士ですから」


 アイルはそう言っているが多分ユーフィリアと離れたかったんだろう。気が付くと反対側にはアンが立っていた。


「アン、特に変わりはなかった?なんだか顔色が優れないようだけれど大丈夫?」


 アンの表情が険しかった。実家はどんぐり粉を使ったどんぐりパンを販売している。もうドカーケ領にはなくてはならないパン屋だ。


 実家は働き手が足りないと言う事は聞いている。だからアンが辞めたいとか言われたらどうしようって思っている。


「大丈夫です。この数日で自分が至らないことを痛感しただけです。もし、宜しければ後でユーフィリア様をフォローしてあげてください」


 私のフォローが必要だとは思えないけれどな。ユーフィリアはいつだって完璧だもの。


「まあ、私のフォローがいるとは思えないけれど、何もなかったのならよかったわ。それで、スティーブ。ダンデ茶についてだけれど、おそらく春からは独占製造は出来なくなると思って。といっても『ダンデ茶』はドカーケブランドとしてすでに確立は出来てるだろうけれどね」


 すでにカチュアから問い合わせが来ている。ダンデ茶のニーズが高いので違う領地でも製造を行いたいと。この冬の間のバブルだと思っておこう。


「手紙では知ってはおりますが、その判断と対応については本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」


「ええ、大丈夫よ。だからダンデ茶を入れる缶にドカーケの紋章を入れる、味に特徴としてフレバーを追加することを依頼していたのよ。製造は独占できるものじゃない。ただ、私たちには先行して実施したノウハウがあり、発展させることが出来る。そうじゃなきゃ生き残れないの。それにこれはクルル商会だけじゃなく、レイリア様、というかカルディア公爵からの要望よ。断れるわけないじゃない」


 カルディア公爵はこのロンベルト王国の宰相だ。その宰相直々に打診されたのだ。受け入れる以外の選択はない。


 それだけダンデ茶の人気が高いのだ。独自ブランド化と新製品の提案。この二つがレイリア様からの依頼だ。


 まあ、私の望んでいたコーヒーからはまだ遠いんだけれどね。このダンデ茶というのはタンポポの根を乾燥、焙煎して出来るタンポポコーヒーの事だ。


 コーヒー豆が取れなくなった時に代用品として飲まれていたこともあるのがタンポポコーヒーだ。前世ではいつだってコーヒーを飲んでいた私にはちょっと物足りないけれど代用品にはなってくれている。


「わかりました。それで、ダンデ茶で潤っていたドカーケ領の収益の代わりには何を行うのですか?マヨネーズは売れてはいますが、あれも他領で生産されています。独占製造、販売は出来ていません」


 マヨネーズについても私が食べたかったから作ったのだ。この世界は料理がまずおいしくなかった。だから徐々に改良をしているのだ。


「ええ、考えているわ。行う事。一つは領内の識字率を上げて教育を行うの」


 これはメドフェスに言われたのだ。領内に店舗や商売をしているものは多い。でも、単純な計算は出来ても、複雑な計算ができないものが多い。だから目先の利益しか見えていないものも多い。


 それに算術がきちんとできていないから損をしているものも多い。だから識字率を上げて、最低限の算術を学べる場所を作るのだ。


「あの、『キンダーガーテン』という計画ですか。ユーフィリアからも手紙をいただいております。領内の未来を考えるのならばよい施策だと思いますが、今の我々には未来への投資ではなく、来年の収穫の方が大事です」


 収穫について。私は調べてもらっていた。なぜドカーケ領は他領より収穫量が少ないのか。土壌が痩せている、平野部が少ないということをスティーブは言っていた。だが、調べると改良ができると思っていたんだ。


「そう、農業改革を私はしたいの。といっても、おそらくすべての場所で取り入れるのは抵抗があると思うの。ダリア地図を出してちょうだい」


 実はすでにアイルには事前に話してある。やりたいことは理解をしてくれたけれど、その理由までは理解を得られてはいない。


 でも、社会人をしていた時もそういう事はあった。全部伝えると企画は通らない。だからわかってもらえるように形や表現を少し変えて報告し、後で軌道修正をして正しい方向に持って行く。今回も同じだ。


「今回、土地がやせていて畑としてうまく機能をしなくなったという休耕田を使います。しかも、収穫量が少ないと言われている『ノースドカーケ』のこの北にある部分を使います」


 そう、ドカーケ領のうち収穫量がまだ多い南にある今いる『サウスドカーケ』では実現は難しいだろう。だから、収穫量が少なく土地がやせてうまく行っていない場所で実験を行う。


「そして、この業務に当たってもらうのが先行してきてもらった十人衆です。彼らに田畑の管理と周辺の開墾をお願いしようと思っています。行うことはこういう内容です」


 調べていてわかったことがある。毎年同じ場所で同じものを育てている場所は少ない。

 

 それは土地が豊かだと言われているカルディア領でも同じだ。ロンベルト王国の大半で活用されている農法はヨーロッパの『三圃制』だ。


 この『三圃制』とは畑を3つに分けて、それぞれ冬穀用の畑、夏穀用の畑、休閑地とし、この役割を3年かけて順繰りにローテーションしているのだ。つまり、3年に1度は休ませないと土地がおとろえてしまう。そういう土壌なのだ。


 なのに、ドカーケでは領地が少ないため、この休ませるということを行っていない。そのため、土壌が痩せ衰えており、小麦の生産が落ち込んでいる。その土地をどうにかするために肥料を使ったりもしているが、なかなか改善できていない。


 だとしたら、歴史に沿って農法を変えればいいのだ。今回休耕田を使うのは誰もつかっていないこともあるけれどある程度の広さがあるからだ。


 ヨーロッパでも起きた事だけれど、農地は個人が管理しているため細かく分かれている。一度成功例を作って、農地整理を行うのだ。個人が持っている土地を再編する。これをするためにまず実験をして成功をさせないといけない。


 行うのはノーフォーク農法だ。世界史を学んでいると、農業革命のことは学ぶはずだ。


 今、ロンベルト王国で行っている三圃制農業(春耕地→秋耕地→休耕地)の輪作法だとどうしても1年土地を休ませている。けれど、このノーフォーク農法なら同一耕地でかぶ→大麦→クローバー→小麦を4年周期で輪作するので生産量が増大するのだ。


 歴史をなぞる行動を取る。それが成功への近道のはずだ。


「それはわかりました。この4年周期で行うメリットは何ですか?」


 スティーブの目が輝いている。


「まず、土地の問題もありますが、作物を変えることでその土地に根付く害虫対策にもなります。同一の作物ばかり育てていたら害虫もその場所に根付いてしまいます。


 けれど、毎年変えることで土地の改良だけでなく害虫対策にもなります。また、家畜用の餌を増やすことで『ノースドカーケ』の畜産業を安定させます。


 年間を通じて食べるものが安定すれば畜産業も安定します。今は食べさせるものが無いと言う理由で家畜の量も制限しています。これが落ち着けば畜産業も発展するはずです。特に牛乳やチーズ、バターに卵などが安定供給できるようになると食事は豊かになります」


 というか、私が食べたいのよね。クリームシチューとか食べたい。


「なるほど、この農法を導入すること、畜産業を発展させることが狙いですね。それであの新しく来た10人を使うのはいいですが、いつまで使う予定ですか?」


「もちろん1年よ。その間に引き継げるよう現地の人と交流をさせてほしいの。おそらく手が空くと思うから開墾もしてもらうの。


 それに、森の中に入ってモンスターの討伐やどんぐりやそのほかのものを採取してきてほしいの。


 開拓し、結界石を置き領地を広げる。広げた場所や森の中の安全なルートを確定させて地元に引き継いでもらいたい。


 もちろん、『ノースドカーケ』が成功したら同じようなことを他の街でも行ってもらうから。10人はすでにノウハウがあるから新しい所では実戦ではなく指導だけをする。


 つまり2年目は5人ずつに分かれて『ウエストドカーケ』と『イーストドカーケ』に行ってもらう予定。


 最後はここ『サウスドカーケ』と言いたいけれど、その時にはもう一つ街が出来ているはずよ。だから3年目も同じく5人ずつに分かれてもらうわ」


 すでにある程度の未来は出来ている。そう税金の免除は3年だ。その間に農業改革と食事改善をある程度進めておきたい。


「わかりました。1年で結果が出なければその企画は修正いたします。限定的に承認いたします。つぎにこのクヌギの木を使ったしいたけ栽培というのがよくわかりません」


 このしいたけについてもすぐに開始したい案件だ。


「これは実験です。食べられるキノコを自ら栽培できれば食事改善につながりますよね。だから実施です。


 実施してから収穫まで2年かかります。準備して木を置く場所を決めるだけです。管理は確かに必要ですが、順調にいけばそこまで手がかかるものでもありません。これはあくまで成功したらラッキーな程度で思ってください」


 実は原木からのしいたけ栽培ってそこまで詳しくないんだよね。菌床とかも現代だと用意されて穴開けて入れるだけだったし、どこまで成功するのかわからないんだよね。


 とりあえず、何パターンか実験をしてどれかうまく行けばいいなって軽い考えの程度だけれど、2年かかるから早めに行わないとどうしようもない。


 というか、相変わらずスティーブは容赦がない。なんでこんなに色々聞いて来るんだろう。まあ、アイルみたいに「まあ、やってみればいいんじゃない?」みたいな軽いノリで始めてくれたら楽なのに。


「とりあえず、議論が長引いているので一旦お茶にしませんか?」


 ダリアが気を使ってお茶を出して来てくれた。ハーブティだ。


「ダリア、これ見つかったの?」

「ええ、森にありましたよ」


 そう、求めていたものが森にあった。そうローズヒップがあったのだ。新しいお茶がドカーケ領に現れた。ただ、数が少ないのでひっそり飲もうと決めたのだ。



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