表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/603

~レガンス・フルベの独白~

~レガンス・フルベの独白~


 何度も見る悪夢がある。それが現実でないことはわかっているのだが、リアルすぎる悪夢なのだ。

 その内容はいつだって同じだ。だが、この夢について語ることはないと思っていた。


 私はマリンケ族の落ちこぼれだ。弟のハッサム・フルベは土魔法が使える。本当ならばマリンケ族の街からハッサムは出る必要はなかったのだ。ただ、私と妹のニュクス・フルベの二人が土魔法の適性がなかったため、二人分の生活費を稼ぐためにハッサムはマリンケ族の街を出たのだ。


 悪夢では、そのハッサムは傭兵となり、激戦の中死亡するのだ。


 タイミングも悪かった。ハッサムが死亡した前後、マリンケ族が住んでいる付近にはサバクトビバッタが大量発生し、食糧が減ったのだ。その食糧危機はマリンケ族だけではなくドカーケ領にも及んでいた。


 だから、私もニュクスも奴隷として売りとばされたのだ。その後、マリンケ族の街近くに温泉が見つかり、その温泉の近くの施設で働くことになるのだ。


 貴族に体を使い接待をする。そういう仕事をしている中で、徐々に地位があがり、一つの宿場を任されるようになる。さらに、代官の愛人となることで、代官補佐と言う立場にまでなれたのだ。


 だが、代官補佐になったと思ったら、ユーラシア王国に攻め入られ私は軍を指揮下が、罠、伏兵、裏切りにあい、妹とともども捕えられ、犯され、最後に斬首されたのだ。


 悪夢はいつもこの流れを繰り返すのだ。



 ありえない世界だ。ハッサムはドカーケの希望と言われたキールお嬢様の護衛騎士として仕えているし、サバクトビバッタもキールお嬢様が護衛騎士であるアイルに命じて対応を終わらせている。


 温泉街は確かに作られているが記憶にある温泉街はどちらかというと小規模であった。今ドカーケに存在している温泉街は街並みも違えば、ここにいる貴族も違う。


 いや、そもそも、ドカーケは食糧難に陥っていないし、この付近を治める人間に腐敗したものが送り込まれていない。


 私の心の中にある不安が悪夢を見せるものだと思っていた。だが、妹のニュクスも似たような、いや、ほとんど同じ内容の夢を見ていたのでびっくりした。


「ひょっとしたら、キールお嬢様が回避してくれた世界なのかもしれませんね」


 妹であるニュクスがそう言った。笑い飛ばすことは簡単だ。けれど、何度も見る夢の世界をキールお嬢様が回避してくれたのだと思うと感謝しかない。


 夢の中の私はいつだって笑っていなかったのだから。



 その大恩あるキールお嬢様から手紙をいただいた。内容はこのドカーケを囮にして敵をおびき出すと言うものだ。


 行いたくはないが、相手の勢力が整いすぎると負けてしまうから行わなければならないと手紙には合った。そして、このドカーケ、特に温泉街の先に作った砦が主戦場になるとあった。


 夢の中でも私は戦場で指揮をしていた。夢で見た場所は現実の砦や城壁よりもみすぼらしいものであった。だが、今は違う。ドカーケ領には戦いたいものが多い。それに、もう一つある。


 ランベル様が生きているのだ。悪夢では、ランベル様や強者と呼ばれる人が戦死していたのだ。あの人たちが戦死することなど想像できないが、そういう世界もあったのだと思う。


 だが、安心はできない。キールお嬢様からは死ぬ運命だった人は死にやすいから注意が必要とあった。


 私も妹も夢の中で何度も死んでいる。だからこそ、夢の中で受けた罠や裏切りに注意をしている。今、この温泉街にもあやしい貴族がいないこともない。だからこそ、今回そういうあやしい人はどうでもいい場所に配置をしている。


 衆人環視があり、かつ、被害が出にくい場所に配置したのだ。それに、悪夢の時と違う。準備だって出来ている。この付近はドカーケ戦役の時にマナナンガルさん達が大量にトラップを仕掛けてくれたのだ。


 そのトラップは使い切ってしまったが、お願いをしたら再度設置してくれたのだ。


「まあ、この場所はキールお嬢様にとっても大事みたいだからのう。だから、トラップを再度仕掛けてやったのじゃ。じゃが、良いのか?お主は戦うというタイプではないと思うのじゃがのう」


 マナナンガルにそう言われた。確かにドカーケにいる人の中で私は珍しく非戦闘員だと思っている。レベルもまだ70台だ。他領なら話しは違うかもしれないが、ドカーケ内にいるとレベル100以下は非戦闘員とみなされる。それに、私が習得で来たスキルも戦闘向けではないのだ。だからマナナンガルにそう言われたのだ。


「すべての人が前線で戦うわけでもありません。私は後方から指揮をします。それに、どこにどれだけの兵を送り出すのとか判断する人が必要ですから」


 私が習得したエキストラスキルは「鷹の目」というものだ。魔力でできた鷹を空に飛ばして、その鷹の視界を共有するというものだ。


 この魔法の鷹の便利な所は攻撃されても死なないということだ。こちらから攻撃もできないけれど、偵察ということならどこにだって行けるのだ。それこそ、魔力の続く限り。


 そして、もう一つ便利な所はこの魔法の鷹は透明になれるし、大きさも変えることができる。


 敵地に侵入する時は蚊のような大きさまで小さくすることができる。あくまで見つかりにくくすることができるというだけであり、見つからないわけではない。


 実際に、魔王にも魔女だけでなく、ドカーケにいる人の大半には発見されるというものでしたが、小さくしたことにより倒しにくいと言われました。



 けれど、ドカーケ全域が黒いドーム型の魔力で覆われた時は焦りました。


「敵がやってくる場所はわかっているのだ。事前に準備ができる。このドームが解除されてから周囲の偵察を行い、適切な人員配置を行う」


 といっても、私の指揮下で動くのは一般兵だ。将校クラスは勝手にうごく。彼らはランベル様かナッカ様以外には従わない。そして、彼らから自由に行動することの許可をいただいている。


 だから、私は何もできないのだ。そう、ダリア様が亡くなられたのと知った時でさえもどうしようもできなかった。


 だって、あんな規格外の相手に一般兵をぶつけてもただ死ぬだけだからだ。だからベルフェール帝国の兵士たちが動くのを待っていたのだ。


 周囲を観察しているとこのドカーケの呪いを解呪した3人がセントラルドカーケ近郊にいるのがわかった。おそらくそのままこちらに移動してくるだろう。


 彼女らを受け入れたら攻勢を開始しましょう。ちょうど相手もいい感じで城壁に近づいて来てくれていますもの。


 投石機とかも用意しているみたいですけれど、ここの城壁は高いですし、防御結界も張っています。そうそう簡単に破れないでしょう。それに、やはりあの位置に陣を構えましたか。楽しみですね。


 目の前にベルフェール帝国の兵士が5千名程度いる。まあ、このまま何の宣言もなしに突っ込んでくるのでしょうね。


 そう思っていたら3人がやってきました。疲れている様子はありませんが、少しだけ休憩をしてもらいましょう。


「あなたたちを待っていました。これで攻勢にようやく出られます」


 私はそう言って妹にお茶の準備を指示する。


「あんなに兵士がいるのに大丈夫なのですか?それにこんな所で優雅にお茶など飲んでいる場合ではありません」


 確かこの子はユーラシア王国のモカグリーンとかいう少女だったはず。


「ええ、問題ありませんわ。私はどこにいても全体を見渡せていますから。では攻勢開始です。あ、そこの窓から戦局も見れますよ」


 そう、この司令塔は城壁から少し離れているがかなりの高さがある。だから周囲を見渡すには良い場所なのだ。


 通常落とし穴というのはその場所に踏み込んだら落ちるものだと私は思っていた。だが、マナナンガルさんが作ってくれた罠は違う。魔力を流せば発動するのだ。それも、私の様な魔法を使えない微弱な魔力の持ち主の魔力でもだ。


 それも発動をこの司令塔にボタンを設置してくれたのだ。まあ、私は複数の鷹の目を飛ばしているので、司令塔から行う必要はないのだが、キールお嬢様は「形式美は必要なのよ」と言われた。


 確かにこの場所で戦場を見渡しながら対応するのは優雅だ。というわけで、一つ目のボタンを押した。



 ベルフェール帝国が陣を構えていた本陣と攻城兵器が一気に落とし穴に堕ちたのだ。攻城兵器が落ちた穴はただ深いだけの穴だ。だが、本陣が落ちた穴は違う。


「おい、なんだこれ」

「倒せ、なぜ、こんな所にパイルヒドラがいるんだ」

「こいつは毒持ちだぞ。注意しろ」


 落とし穴の下にパイルヒドラを配置していたのだ。定期的にえさをあげないといけないのが難点ですけれど、意外となれるとかわいいものです。


 まあ、あのクラスになると単独で撃破できる人は少ないでしょうね。あら、ユーフィリア様がすごい表情で外を見られていますわ。


「いいね、いいね。こういうの。まだまだあるのだろう。次のそのボタンはどうなるんだ?」


 絶世の美少女がそう言って来た。ああ、この美少女はララという子だ。キールお嬢様から要注意人物と聞いております。変な行動を取るが気にしないようにと。


 ええ、私よりも強い方ですし、それに、変な感じがする方でもあります。敵対せずにやんわりと流していきましょう。


「そんなに気になりますか。まあ、二つ目のボタンはまだ早いかと思いますが、見たいと言う希望もありましたので押しますね」


 ボタンは押す前に外に音が流れる。音はさっきとは違う。だが、何かが起きるとベルフェール帝国の兵士も身構えている。


 安心してください。罠は全て落とし穴ですから。今度は城壁近くの地面が窪み兵士が転げ落ちて行きました。


 梯子をかけて登ろうとしていたみたいですけれど、この高さを登るのは危ないですよ。それに、城壁近くの落とし穴の下は堀で水が張っています。


 ただ、ちょっとその水の中にはちょっとばかり凶暴なサメという生き物がおりますの。


「お、いいね。いいね。水が張っていて生き延びたと思ったら人喰いサメがいるとか。それに、あの壁。反り返っているから簡単に地上にもあがれない。なかなかえげつない罠だよね」


 ええ、これで、本陣、それと城壁に近づいていた兵士たちは無力化できました。まあ、生きているかと言われるとわかりませんが、これはベルフェール帝国が挑んできた戦争です。情けは不要ですよね。


「ねえ、その次のボタンは何なの?」


「これはちょっと時間がかかるのです。まず、サイレンを鳴らさないといけませんね」


 そう言ってサイレンを鳴らすと城壁にいた兵士が一気に場内に移動を開始した。今目の前にいる敵は本陣と堀の間にいるものと逃げようとしているものたちだけだ。


 サイレンが鳴り終わり、鷹の目で周囲の確認も終わった。


「では、押しますか」


 次のボタンを押すと城壁の一部からノズルが出てきて。一気に火を噴き出した。


「へ~火炎放射か。でもそれじゃ、すべての敵は倒せないよね」


 ララが面白くなさそうな顔をしている。


「あれは上に意識を向けるだけのものです。すでに、罠は発動していますわ」


 目の前で起きているもの。それは流砂だ。というか、地面に穴があき、人がどんどん吸い込まれて行っている。吸い込まれた先はゴールデンスライムの巣です。


 ちょっとマナナンガルさんが改良したスライムさんなので、敵兵の武器や防具は解かされているでしょうし、バッドステータスとして麻痺が付与されているでしょうね。


「さあ、あらかたの敵は無力化できました。では、みなさん。残っている将校を刈り取ってください」


 私はマイクを使って告げると城門があき、一気に人が飛び出して行った。あらあら、予想以上に兵士が出て行ってしまいましたね。でも、大丈夫です。


「では、ちょっと皆さんにお願いがございます。この温泉街の中にどうも、よからぬ動きをするものがいるのです。そのものを捕縛してきてもらえませんか?」


 私がそう言うとララがにやりと笑った。


「それって、多分、無理を言ってこの温泉街に別荘を作った貴族の館だったりするのかな?」

「それはベルダンド男爵という方です。ご存知ですか?」


 ララなら色々知っていてもおかしくないとキールお嬢様が言っていた。


「まあ、知っていると言えば知っているね。それで、その周囲の警戒は誰が行っているのかな?」


 なんだかララの顔が一気に真剣な表情になった。


「ローガストという人物が10名ほど仲間を連れて囲っています。けれど、皆さまにお願いをしたい相手は他におります。おそらくこの場にやってくるはずだとキールお嬢様が言われておりましたので、その相手をお願いしたいのですよ」


 私がそう言うとこの司令塔の前に人が浮かんでいた。ああ、もう来てしまいましたか。以外と早いですわね。


「ようやく見つけたね。このベルフェール帝国第3魔法師団師団長のレーニル・ボルッティから逃げようなんて無理なことだから」


 まあ、そう言っていますけれど、見た目はガラクタの塊なんですよね。ただ、ここで爆発されたら困るんですよね。私の鷹の目を誤魔化せるほど、このレーニルの魔力は強くないみたいですし。


「ああ、こいつの相手なら任せてもらおう」


 ユーフィリアさんが気合いを入れて外に出て行こうとしています。ここ地上600メートルくらいの高さいですよ。窓を開けないで欲しいのですけれど。


「とりあえず、時間稼ぎで十分ですからね。私の鷹の目はベルフェール帝国の帝都も見ていますから」


 そう、今ベルフェール帝国の帝都はすごいことになっていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ