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~報告と褒章~

~報告と褒章~


 チョコレートを作った翌日、メドフェスはユーフィリアを連れて『ラーフェス奴隷商会』に向かった。


 けれど、誰かを連れ帰ってくることはなかった。理由を聞くと『その日に決めて連れて帰るのはしてはいけない事です。相手に要望を伝えて、それに見合うものを人選してもらう。これこそが貴族が行う商法です』とメドフェスに言われた。


 う~ん、面倒だなって思った。けれど私のサポートとしてはまだまだ人が欲しい。人手が足らなさすぎるんだ。世の中にあるチート作品に言いたい。一人で出来ることなんて限られてますからね。ここにある『学校』の草案だってそうだ。


「メドフェス。学校の草案なんだけれど、教えるのは『文字』と『算術』はわかるのよ。ユーフィリアが監修しているから『体術』は必須なのもわかる。貴族と会うから『礼儀作法』まではわかるのよ。まず『魔術』って適正があるものとないものに別れると思うの。それなのに必須にするのはどうなのかな?後この『用兵術』って何?」


 学校を作るのだからシラバスを作ってもらった。どういう事を学べるのかわかった方が子どもの未来も広がるはずだ。


 知識の習得というのは職業の選択を広げることにもなるし、未来を想像できる。でも、私は別に軍師とか求めていない。孔明とか官兵衛とかを別に求めていないからね。


 ってか、どこかと戦争でもするの?私乙女ゲームに転生したはずだよね?


「兵法は全てに通じます。問題ありません」


 ユーフィリアがいつの間にか背後にいた。気配すら感じなかった。これが暗殺術なのか。


「メイドだからですよ」


 耳元でささやかれた。というか、これユーフィリアが私を殺す気になったらいつでも殺せますよね。殺る気にならないでね。


「わ、わかりました。お任せします」


 これ、逆らっちゃ駄目なやつだ。ユーフィリアの目が輝いている。


「お任せください。完璧な新兵、いえ神兵を育てますから」


 いや、求めているのはそこじゃないからね。ドカーケ領内の識字率を上げたいだけだから。これは言っておかないといけない気がする。


「人には向き不向きがあるからね。それに全員を徴兵したら領地の生産が追い付かないでしょ。私は『学校』の卒業生の中から優秀な人を登用したいだけなの」


「競争ですね。かしこまりました。ご安心ください。さすがお嬢様。レベルの高い『訓練』を行い『選抜』いたしますからご安心ください。ふふふ」


 ダメだ。ユーフィリアの顔がどこか遠くを見ている。助けを求めるためにメドフェスを見た。あなたがこれから作る『学校』の『校長』をするんですからね。


「ご提案するであります。この『学校』の名称をどうするのかをお嬢様に決めていただきたいであります。ただの『学校』では領民に示しがつきません」


 ダメだ。メドフェスもこんな感じだった。でも、確かに名称は大事だ。それに下手に『学校』や『学園』という言葉が王都にまで広まったら変な意見を言ってくる人もいるかもしれない。


 でも『寺子屋』とかだと伝わらないし、何かいい表現ないかな?英語にする?スクール?なんかテンションが上がらないな。


 子どもたちのための場所。


 そういえば、外来語で「キンダーガーテン」ってあったよね。ドイツ語だと「子どもの庭」って意味で幼稚園や小学生の低学年とかの意味だったよね。


「そうね、『キンダーガーテン』にしましょう。『子どもたちの庭』って意味よ」


「箱庭ということですね。社会の縮図を学ばせるにはいい言葉です。ご安心ください」


 ユーフィリアが言うと全然安心できない。だが、これ以上伝えるといい結果にならないとしか思えない。そう思っていたら来客があった。


「カチュア様とターメリック様が来られました」


 そう、一つはチョコレートについて、もう一つは明日の謁見についての話しだ。ターメリックと二人で会うのが怖いからカチュアに同席をお願いしたのだ。


 なぜかターメリックの私への信愛度が上がっているのだ。私何かしたのかしら?なぞだ。でも、ターメリックは絶対に略奪したら駄目な相手だ。クルル商会を敵にまわしたらドカーケ領はなりたたない。


「準備は大丈夫よね?」


 そう言うと私の横にずっと立っていたアイルが「あれ、やっぱり出すんですか?」と言って来た。チョコをつかった新製品だ。アイルに作ってもらい試食をしたら全部食べそうになったのだ。


「もちろんよ。レシピもまとめている。この話しをする時はメドフェス。あなたには横に控えていてもらいます。私が間違えたと思ったら合図ください」


 恩を売る。


 それは後で返ってくるものが大きいからだ。カチュアは私を助けてくれた。


 そして私がグルニクス侯爵に道路新設の際に連絡をしていなかったミスをなかったことにしてくれた。ガラ・リース・グルニクルからの手紙でそう書かれてあった。


 ダンデ茶は売れ行きもいいし、ドカーケ領として冬の間にできる産業として助かっている。マヨネーズは製法を伝えただけだが、料理がかなり変わった。けれど、それだけだ。


 領地運営を考えた場合、時間もお金も人も足りない。


 今回メドフェスが『ラーフェス奴隷商会』を訪れた。そのことはすぐにカチュアにも話しがいったみたいだった。人については簡単にはいかない。それにこの世界では私の発想や知識はかなり特異だ。


 おそらくカチュアは誰か送り込みたいって言ってくるだろう。受けるべきか、断るべきか。多分、『剣と魔法のストーレンラブ』の考えから行くと受けるべきなんだろうな。


「お邪魔しますわ」


「忙しいところ押しかけてもうしわけないな」


 カチュアとターメリックが部屋に入ってきた。理知的な二人が並んでいるとそれだけで威圧されてしまう。どうせ私は頭よくないですよ。


「いえいえ、ちょうど試作品もあるので食べてもらえたらと思っていました」


 そう言って準備していたチョコレートを使ったお菓子を出した。卵アレルギーの王子もいるから卵を使わないケーキを作ったのだ。


「どうぞ。これは卵も使っていないケーキです」


 出したのはガトーショコラもどきだ。どうしてもどきかというと食べたけれど思った感じにならなかったからだ。


 ただ、試食したアイルもユーフィリアもリーンも絶賛をしていた。というか、この3人はいつだって絶賛する。


 お母様は「卵使ったほうがおいしいと思うわ」と言われた。そりゃそうですよ。知っています。

 このガトーショコラもどきの作り方はこんな感じ。


 すりおろした長いも、きび砂糖、塩をアイルが力いっぱい混ぜて、水と熱で溶かしたチョコレート(っぽいもの)を入れて更に混ぜていき、馴染んだ所にどんぐり粉を入れて混ぜていく。


 そこに砕いたチョコを混ぜて生地が完成。丸い型に流していき輪切りにしたバナナを並べてオーブンで焼いていく。


 焼きあがってから一晩寝かせ、粉糖を上から振りかけて完成。


 まあ、混ぜる工程でまた修行モードになったのは内緒です。ってか、このガトーショコラにアイルがはまったのだ。


「流石に卵は避けたのね。それで、これがレシピってわけね。どう作れる?」


 カチュアは後ろに控えている自分のメイドに渡している。


「おそらく問題ないかと」


「ならいいわ。今度のお茶会で使いましょうか。キールが教えてくれたチョコレートとともに使うからいい宣伝になると思うわよ。でも、いいの?あれは売れるわよ。絡まなくて」


 カチュアはガトーショコラを食べ終わりそう言って来た。


「流石にドカーケ領を絡ませようとすると場所が遠すぎますから。輸送だけで費用がかさむだけです。そこはレイリア様とカチュア様にお任せいたしますわ」


 そう、その二人で『采配』をしてもらうのが一番だ。


 まあ、すでに骨子はレイリア様から手紙でいただいていますし、その中で協力してもらう貴族たちには、ドカーケ家がこのチョコレートの発案であることは伝え済みであるとも聞いています。


 今まで接点がなかった家にも恩が売れるということだ。そういう配慮ができるレイリア様はすごい。


 中立派も交えている。確実に今後取り込む予定なんだろうな。まあ、私にはそう言う派閥争いはよくわかりませんし、わかりたくもないです。


「無欲なのもいいですけれど、あまり何も求めて来なければ不信がられますわよ。そうそう、ちょっと小耳にはさんだんですが『ラーフェス奴隷商会』にそちらの家臣が行かれたんですって?なんでも変わった経歴の人を求められているとお聞きしましたわ。言っていただければ私の家からもお手伝いとして何名かドカーケにお出し出来ましてよ。今までの事もありますし」


 やはり来たか。思っていた通りの展開だ。ある程度の情報を渡すことが条件となる。おそらくダンデ茶の独占生産はなくなるだろう。あれは別にドカーケ領でなくても作れるからだ。


「いいのですか?それでは何名かご協力いただければと。現在領内の取り組みの一つをこのメドフェスに任せようと思っていましたので、その手伝いが出来るものが居ればと」


 そう、新たに作る学校『キンダーガーテン』の建設するときの管理に使おう。工場も近くに作るけれどそっちをメドフェスが中心になって行えばいいしね。


 メドフェスを見ると頷いている。問題ないようだがそこが無難なのかもしれない。


「そう、なんだか楽しそうなことをしようとしているのね。色々と学ばせてもらうわ。でも、非効率過ぎじゃない?」


 カチュアの効率重視だ。だからこそ私の行動に納得がいかないのだろう。けれど、効率だけを重視してしまったら『剣と魔法のストーレンラブ』はうまく行かないのだ。特に信愛度が低い相手の場合はだ。


「私はカチュア様のように頭の出来が良くないですから。それは学園にいた時にご存じだと思いますわ」


「ええ、本当に。学園にいたあなたは『そう』でしたわね」


 カチュアの笑顔が怖い。だが、ここは笑い返すだけで精一杯だ。これ以上はまずい予感がする。


「それで、ターメリックも用事があるのよね」


「ああ、そうだ。明日の事だ。明日謁見で報告をするが、今回の責任者はキールだ。だが、横にルークセニヤ公爵もいる。すでにチョコレートのサンプルはルークセニヤ公爵夫人にも渡っているし、レイリアはカルディア公爵から今後のカカオの収穫とチョコレートの生産についてすでにどこで何を行うのかの計画も立てられている。つまり、ルークセニヤ公爵には恩を売り済みだ。だから、明日ルークセニヤ公爵は報告会には列席者として参加となる。あくまで報告はキールと僕とで行うから」


 ルークセニヤ公爵が報告者として列席した場合、官位から報告を行うのはルークセニヤ公爵となる。私とターメリックはただ後ろに控えて頭を垂れているだけだ。


 そのほうが気楽でよかったんだけれどな。って、言ったら怒られそうなので笑顔、笑顔。


「まあ、ターメリック。気を使っていただいてありがとうございます。それで報告はターメリックが行うのですか?」


「いえいえ、私はあくまで監査として立ち会っただけです。報告はキールが行ってください」


 緊張するからイヤです。絶対にイヤです。といっても、駄目なんですよね。わかりました。諦めます。


「ありがとうございます」


 そう、私はまだダンジョンコアがどれだけ価値があるのかあまりわかっていなかったのだ。だって、イベントだと王へ献上して終了の一文だけだったからね。



 謁見の間に続く控室は前に来た時と場所が違うのでかなり緊張している。


 後は着慣れないドレスを着ているということもある。ユーフィリアがかなり張り切っていた。ちなみにスカートの中に短剣や暗器があるんですけれど、これは普通の事なんですかね?


 横にいるターメリックは帯剣もしていなければ武器らしいものは何も身に着けていない。しかも王城は結界が張られていて攻撃魔法が使えないのだ。


 回復魔法や補助魔法は使えるのだが、遅延魔法が働いているため発動にも時間がかかる。


「もしもの時のための暗器です。乙女の必須アイテムです」


 ユーフィリアに言われて身に着けているけれど、これってばれたら絶対にヤバいと思うんだけれどな。


「どうした、緊張しているのか?」


 目の前にターメリックのアップがあった。ちょっと近いんですけれど。本当にまつ毛とか長いしきれいな顔している。中性的な顔立ち。きりっとした目。その青い瞳に見つめられると心が奪われそうになる。


「というか、顔近いです。違う意味で緊張します」


 つい声に出た。


「それは失礼。ただ、緊張はほぐれたみたいだね」


 ターメリックの笑顔を見てドキッとした。この人に恋をしてはいけない。それは絶対だ。


「だからと言って、カチュアという婚約者がいるターメリックがしていいことじゃないです。変な噂が立ったらどうするんですか?」


 このドキドキは恋じゃない。焦っているだけだからね。


「カチュアなら大丈夫だよ。それに本気になったらキールはどうにかする方法を考えるでしょ」


 そう言ってターメリックは私の近くに体を寄せてきた。ちょっと待ってよ。どうにかするって、どうすればいいのよ。


 クルル商会を抜きに貴族とのやり取りは出来ない。クルル商会以外に窓口を作る?いや、現クルル侯爵はそんな簡単な人じゃない。


 報復を絶対にしてくるだろう。そもそも『剣と魔法のストーレンラブ』のターメリック攻略ではカチュアが自主退学をするのだ。


 そして、その事を重く見たクルル侯爵がカチュアを駒としてしか使わなくなる。だからターメリックが攻略できるのだ。


 現在の状況だと、カチュアは学園を卒業し、『マヨネーズ』に『ダンデ茶』という新商品を国中に提供している。そして、現在『チョコレート』に『ガトーショコラ』という商品が追加されている。


 つまり、クルル侯爵としてはカチュアは金の卵だ。簡単に切り捨てられない。


 その発案が私だとしても、商流に乗せることをしているのはクルル商会でありカチュアだ。発案だけで流行は作れないんだ。


「無理です。どうにかする方法は思いつきません」


 レイリアが協力してくれたらなんとかなるかも知れない。だが、レイリアとカチュアの仲を裂くイベントはカチュアとルーファス王子が一緒に居るところをレイリアが偶然見かけること、ルーファス王子とカチュアとの信愛度が上がることが条件だ。


 学園にいた時ならいざ知らず、すでに第一王子として公務をしているルーファス王子とカチュアが二人で行動すること自体ありえない。


 絶対にルーファス王子には護衛が付くし、公務や夜会ではルーファス王子はレイリアをエスコートしている。つまり学園を卒業した状態だと『詰み』の状態だ。


「今はそういうことにしておいてあげるよ。どうやら時間みたいだね。行こうか」


 そう言ってターメリックが手を差し出してきたが、私は手を取らなかった。もし、誰かに見られたら怖いからだ。


 この『剣と魔法のストーレンラブ』という世界は誰かがどこかで見ていると考えないといけない世界なのだから。


「ええ、行きましょう」


 それにこれから私は一人で戦わないといけないんだから。



 はい、そういう強い心で向かいました。謁見の間は広いです。王の前で跪き頭を垂れています。


 周囲には大勢の人がいます。むっちゃ見られています。聞こえてもいます。「男爵風情が」とか「あの子学園を追放された子でしょ」とか「卒業もしてない半端ものなのに」とか聞こえてきてます。多分聞こえるように言っているのもわかります。


 ええ、卒業してませんよ。追放されましたからね。だから王都は居心地が悪いから嫌なんですよ。


「面を上げよ」


 私は跪きながら顔だけを上げた。


「ルークセニヤ領への視察ならびダンジョンコアの回収大義であった」


 ロンベルト王がそう言って来た。今回は本題のみだ。


「「はっ」」


 私と左横にいるターメリックはそれだけを発する。余計な事は言わない。聞かれてもいないのに語り出すのは不敬に当たるからだ。貴族ってめんどうだよね。


「ダンジョンコアをこちらに」


 側近と思われる人が台座に乗せたダンジョンコアをロンベルト王に近づける。ってか、そのダンジョンコア持っている人ってターメリックの父親であるラーフィル公爵じゃない。


「このダンジョンコアはどうなのだ?」


 ロンベルト王がラーフィル公爵にそう尋ねる。


「濁りもなく、魔力をかなり帯びているダンジョンコアでございます。洞窟などに設置すればすぐにダンジョンとなり利益を得るでしょう」


 ダンジョンの利点は多くの人が知っている。


「ドカーケ男爵。このダンジョンコアをどうするのが良いと考えておる?ドカーケ領で使うか?」


 え?それ私にふります?使い方なんか王が決めればいいじゃない。ってか、ドカーケ領に持ってこられても管理できませんからね。絶対に。


「畏れながら、我が領では受け入れる体制も管理もできません。王の直轄領でご活用されるのがよろしいかと愚考いたします」


 もう、焦ったよ。焦った。こんな質問来るなんて思わなかったからね。


「ほう、辞退するか。まあよい。褒美について考えておる」


 そう王が言うとラーフィル公爵とは反対側に立っていたレイリアの父であるカルディア公爵がこう言った。


「ドカーケ男爵ならびにラーフィル公爵子息のターメリックよ。褒美を授ける。キール・テル・ドカーケ男爵を子爵位に陞爵とし、ターメリック・ラ・シン・ラーフィルに男爵位を叙爵とする」


 え?いきなり子爵になるの。それとターメリックは男爵に?まあ、親がまだ現役だから新たにと言う事なんだろうけれど。


「「はっ、ありがたき幸せでございます」」


 まさか爵位が変わるなんて思っていなかった。ってか、爵位が変わるけれど領地が変わるというわけでもない。


 ただ、爵位が変わると国からの給金が上がるのだ。その分納税も上がるのだが。


「成り上がりが」「あんなやつが子爵だと」「ターメリックが男爵なのはわかる」


 色々声が聞こえてくる。というか、ターメリックが男爵になるのは理解されるんだ。これはやっぱり親の力か。権力か。それとも容姿か。どうせ私はモブキャラですよ。


「これからも励むがよい。以上だ」


 その言葉で閉会となった。家に帰るとすでに知らせが行っていた。



「キールちゃんが子爵になるなんてね」

「そうだな、父親より出世するとは大したものだ」


 ん?父親より出世?どういうこと?私がきょとんとしているとユーフィリアがこう言って来た。


「キールお嬢様が男爵となられた時は『叙爵』です。つまり新たに男爵となられました。お館様であるリック様も男爵ではありますが、こちらは英雄であるランベル・テル・ドカーケ様の『辺境伯』を引き継ぐ前ということで、あえて『男爵』で止めているだけになります」


 ん?全然わからない。というわけで整理してもらいました。


 おじい様のランベル・テル・ドカーケは辺境伯で『侯爵』と同等の地位。(そうだったの?)


 お父様のリック・テリ・ドカーケは『男爵』の地位にあるけれど、いずれ『辺境伯』の地位を承継するため『男爵』で止めているらしい。


 私、キール・テル・ドカーケは『子爵』の地位にある。


 ということらしい。知らないことだらけだ。


「んで、私が新しく『子爵』となったらどうなるの?」


 いまいちそれがわかっていない。だって、ドカーケ領の運営をするのは私なんだしさ。


「そうですね、王都に子爵用の家を設ける必要がありますね。でも、空きがないのと、3年間は王都に拠点を設ける必要がないので、今から3年後には『子爵家』としてふさわしい家を建てて、お披露目の夜会を開く必要があります」


 ユーフィリアに言われたけれど、3年後でしょ。まだまだ先じゃない。


「いえ、場所の確保が大切です。すでに良い場所は埋まっておりますので新たに王都周辺を開拓する必要があります。土地だけでも決めておく必要があるかと思います」


 めんどうだ。


「キールちゃんが困らないよう私がやっておくから安心しておいて」

「お母様。本当にありがとうございます」


 私はお母様に抱きしめられながら助かったと思った。なぜなら王との謁見の最後にこうグルニクル侯爵から言われたからだ。


「ドカーケ領で新たな道路建設を行う報告をいただいております。春には視察に参りますので準備を。視察は我が息子である『ガラ・リース・グルニクル』と、監察官として『ターメリック・ラ・シン・ラーフィル』男爵が行く。日程については追って連絡とする」


 そう、もうターメリックと会う事もないと思っていたのに、ターメリックがドカーケ領に来るのだ。それともう一人。『速』の攻略対象である『ガラ・リース・グルニクル』もドカーケ領にやってくる。


 学園を追放されたからもう攻略対象と接点を持たないと思っていたのに。私に平穏は訪れないのか。


 とりあえず、春までに対策を考えよう。私はそう決意したのであった。すぐに決意した心は折られたのだが。それはまた別のお話しです。


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