~ガノとの戦い~
~ガノとの戦い~
ゲームで出てくる『ガノ』は太った少年だ。騒がしいけれど、強くなく、おななもぽよよんとしている。
だから、徐々に防御力を上げる代わりに素早さが落ちると、攻撃を避けて反撃するという簡単なお仕事になるのだ。
いわゆる嵌め殺しだ。だが、目の前にいる『ガノ』は違う。
まず、アスリート体系の男性だ。それも、ごついのではなく、絞り込んでいて素早さがありそうだ。
実は『ガノ』の攻略には注意点がある。『ガノ』が防御力アップをはじめに使ってこなかったらリセットをするのが好ましいのだ。
素早さが落ちていない『ガノ』は倒しにくいのだ。そして、目の前の『ガノ』はかなり早く動けるみたいだ。そういう依り代を選んだのがよくわかる。
まあ、ユキシールは性格悪いからな。というか、中身も外側もどっちもきついキャラだ。
ガノのスピードに乗った攻撃はマナナンガルが作ってくれた魔法の防御壁で防ぐことができた。
さて、この相手をどう倒そうか。そう思っていたら、朽ちた遺跡の奥からスケルトンナイトが大量に出てきた。
「あらあら、キールちゃん。相手は物量作戦を希望みたいね。お母さんちょっと頑張っちゃうよ」
そう言いながら光る英霊を召喚し、特攻させている。個人戦でも、お母さんに勝てる人は少ないが、こういう人数がある程度いる戦いになると無類の強さを誇るんだよね。
「ふむ、早いが重さのない剣撃だね。それに防御が弱い」
お父さんはすでにガノを抑え込んでいる。
「キールはあの遺跡の奥に用があるんだろう。ならば行ってくるがいい」
お父さん。ありがとう。私が進もうと思ったら手を引っ張られた。相手はエンデュミオン様だ。
「え?エンデュミオン様?どういうことですか?」
「ああ、君が行く必要はない。あの遺跡の中はトラップがいっぱい仕掛けられているし、スケルトンナイトやグールなども数多くいる」
エンデュミオン様が私の顔近くにモニターを映し出してくれた。確かに敵が多い。
「でも、この奥にはシルヴィアが捕らえられているし、ヴィストールも助けたいの」
ヴィストールを助ける理由は王都の防衛用としてだ。まあ、薬が抜け切れる3か月ほどは戦力にもならないだろうけれどね。
「あの遺跡の奥にシルヴィアって子はいないよ。どうやらどこかに連れ去られたみたいだね」
エンデュミオン様のセリフを聞いてリッカも頷く。
「ええ、私はシルヴィア様を探していました。けれど、見つけることができず、そして、あのリック様が戦われているあいつに取り押さえられました」
なるほど。確かいスピードが落ちていないガノに勝つのはゲームでも苦労したものね。私も10回くらい挑んでようやく勝てたし。
「わかったわ。でも、ヴィストールは助けたいの。だから、あの奥に行かないと」
「だったら、そいつだけここに連れてくればいいんでしょ。僕は早くキールとデートがしたいんだよ」
エンデュミオン様が指をぱちんと鳴らしたら、目の前に拘束されたヴィストールが現れた。
「これで問題はなくなったよね。ならば後はダンジョン内は浄化するだけでいいよね。紅蓮の炎よすべてを焼き尽くすがいい!『終炎』」
エンデュミオン様が詠唱までして発生させた炎だ。その炎は勢いよく朽ちた遺跡の奥に向かっていく。
というか、ちょっと威力強めじゃない?まあ、ダンジョンってちょっとやそっとの攻撃で壊れないので有名だけれど、大丈夫かしら?
そう思っていたらすさまじい音がしたと思ったら入り口が壊れたのだ。
「ちょっと、エンデュミオン様?私の目にはダンジョンが壊れたように見えるのですか?」
「うん、そうだね。ちょっと老朽化していたみたいだね。思ったよりぼろかったみたい」
んなわけあるか!
ダンジョンですよ。神が作った遺跡ですよ。どれだけ高威力の魔法をぶつけても壁や床、天井に傷一つ付かないんですよ。
それを崩壊させるってどれくらいのレベルの攻撃だったんですか?
「な、な、なんだそりゃ!」
似たような叫びをした人が近くにいたみたい。ってか、全然気配察知できなかった。声をした方を見ると、死術師がそこに立っていた。
「そいつを拘束して!」
だが、拘束する前に転移されてしまった。残されたのは外に出ていたスケルトンナイトとガノだけだ。
「おい、お前ら。俺様が相手してやろうと思ったが、今日は見逃してやろう」
うん、見逃さないからね。すでにお父様がロックオン状態だし。
「ちょ、ちょ、待って。多勢に無勢ではないか。これは騎士として恥ずべき行為だろう。一騎討を所望する!」
というか、ずっとガノの相手はお父さんしかしていない。ダリアはすでにお茶の用意をしてくれている。どこからテーブルと椅子を持ってきたのだろう。
そして、その手伝いをリッカがしている。さっきまで捕らえられていたのに、ごめんね。
しかもすでに、お茶を飲み、マナナンガルはお菓子を食べているし、エンデュミオン様は座りながら本を読んでいる。
「なんじゃ、遊んでほしいのかい?そこまで子どもでもあるまい。そやつと戯れておるがよいわ」
マナナンガルがそう言いながらピンク色のマカロンを食べている。
「あの、私もいただいていいのでしょうか?」
シャーロッテがおどおどしながらそう言っている。まあ、目の前に黒い魔力の帯でぐるぐるに拘束されているヴィストールもいるしね。
ヴィストールは目が血走っているが、どうやら麻痺をかけられているのか声を発することができないみたいだ。目だけで何かを伝えようとしているのだけれど、血走った目を見ながらお菓子は食べたくないな。
「そうだね、ではスリープ」
エンデュミオン様が魔法を発動させる。すぐにヴィストールは眠りについた。
「これで大丈夫だね。では、戦いを見ながらお茶と行こうか」
うん、何か違う。というかちゃんと透明の結界で土埃すらこっちに来ないのはわかるけれど。なんだかこれって、目の前で起きている事柄なのに、画面越しに見て、距離ができたようにしか感じないのよね。
それに、お母さまも座りだしてお茶飲んでいるし。
「ほら、私の英霊ちゃんたちが戦っていますもの。あの子たちもキールにいい所を見せたいんだよ思いますよ。応援してあげてね。でも、多分お父さんはキールちゃんの応援があると頑張ると思うわよ」
ちょっと待って。運動会でお父さんが参加するとはわけが違うのだからね。一応、死術師が召喚できる20名のうち最弱とは言え、ガノは強いんだから。
まあ、お父さんの方が強いのはわかるけれど。なんだかすごいプレッシャーがある。応援しないといけないの?お母さんだけじゃない、ダリアもリッカも私を待っている。
シャーロッテだけがおどおどして親近感がわく。でも、エンデュミオン様が私の背中をぽんとたたいたのだ。これはもう言うしかない。
「お父さん、頑張って!瞬殺が見たいの」
私がそう言うと、お父さんは「任せておけ!」とものすごいいい笑顔で手を振ってくれた。
あれ?少し前って鍔迫り合いしてなかった?
「ふ、なめられたものだな。俺も英雄と呼ばれた男だ。お前だけなら倒す方法なんていくらでもあるんだぜ」
ガノがお父さんを煽っているが、多分瞬殺されるはず。
「悪いな。うちの娘は瞬殺を希望しているんだ。そういや、お前はすでに死んでいるんだよな。その肉体はどうなんだ?」
「憑依をしているが、この体はもう俺のものだ。この体の意思は俺が喰らったからな。だから、俺が死んだらこの体も死ぬ。もう一体化しているからどうしようもない」
「そうか、ならば倒しきるのがその体の持ち主にもいいというわけか。安心した」
というか、普通に話しているけれど、ものすごい剣撃の応酬中なんですけれど。二人とも大丈夫ですか?
というか、お父さんの体が揺らいだ。あ、これ、スキル発動する奴だ。目を見開いて確認、確認。
けれど、次の瞬間、ガノは全身切り刻まれていた。それも、原型が残らないくらい斬られていた。
「キール。どうだったかな?」
「何をしたのか見えませんでした。でも、スキルを使ったのだけはわかりました。わかった瞬間にはすべて終わっていましたが。でも、その体を失っただけで、ガノはまた体を手に入れたら私たちの前に現れると思います。だって、すでに死んでいますから、倒す方法がないんですよね」
自分で言いながらふと思った。ユキシールも似たような状況なのではないのだろう?
そして、その状況に似ているのは私も同じだ。
「エンデュミオン様。それでシルヴィアはどのあたりにいるのか教えてもらえませんか?」
そう言うとエンデュミオン様は空を指差した。
「ふはははは。予備の体を用意しておいてよかった。お前らこれで終わりだろう」
話し口調からガノだとわかる。だが、その体はシルヴィアのものだ。
「どうすればいいの?」
私が焦っていたらエンデュミオン様がこう言って来た。
「そうだね、キールが戦うといいよ。早くしないと憑依が定着しちゃうと引きはがせなくなっちゃうよ。5分。それ以上かかったらあの子は諦めるといいよ」
5分ね。私にしかできない事。中身はすでに死んでいる。ならば使うのは『乙女の聖剣』だよね。
あれ、体から出て来るときものすごく気持ち悪いんだよね。私は気持ち悪さを押さえながら『乙女の聖剣』を取り出した
第2ラウンドいきますか。