~状況を整理しましょう~
~状況を整理しましょう~
知らない間にアイルが大人になっていた。というか、どうやら知らなかったのは私だけみたいだった。周囲の気遣いだったみたい。お子様ですみませんね。
「それで、アイルを連れて行っても問題ないことはわかったけれど、これからどうするの?このままというわけにはいかないでしょ?」
カチュアがそう言ってきた。
「そうね、まず情報が足りないの。それに色んな事が起こっているけれど、何か色んな思惑が入り混じっているような気がするのよね」
今起きていることでわかっている事。
・学園で女子生徒の行方不明者が出ている
・王都付近でモンスターが大量発生している
・ポーションが不足している
この3つが起きていることだ。
1つ目の行方不明者については、『剣と魔法のストーレンラブ2』にあるイベントだ。
2つ目のモンスターの発生も、『剣と魔法のストーレンラブ2』に元々あるイベントだ。
ただし、この二つとも時期が異なるはずだが、前回のドカーケ戦役の事を考えると強制的にどちらかのイベントを発動させたのだと思う。特にモンスターの発生イベントはゲーム開始時のイベントだ。経験値稼ぎのイベントなのだが、この時期に発生となるとモンスターのレベルもあがっているのだろう。
なんて面倒なことをしてくれたのだろう。
そして、3つ目。これがやっかいだ。ポーション問題が発生するイベントは『剣と魔法のストーレンラブ2』ではなく3rdで起きるイベントなのだ。
まあ、このポーション不足のイベントの発生は主人公もしくは、悪役令嬢である『ユキシール』のどちらかが、このロンベルト王国の薬草を大量に生産しているダッシュベル領の子息であるゲイボルク・フォン・ダッシュベルと接触することが条件だ。
このダッシュベル侯爵は、第三王子派閥なのだ。だから、『ユキシール』が学園に入学前に接触すれば、このイベントは確かに前出しで発生させることは可能なのだ。
だが、まだゲイボルクは当たり前だけれど、学園に入学していないし、第一王子派閥である私たちがダッシュベル侯爵と接点を持つことや、現地のダッシュベル領で起きている問題を解決する手段がない。
この3つ目については正攻法では解決ができない。でも、似たイベントはあるのだ。実は『剣と魔法のストーレンラブ2』には追加パックがある。
追加パックでは錬金術師であるパラチェルソというキャラが出てくるのだ。このパラチェルソを主人公であるアンネが攻略する過程で新しいポーション作成が可能になる。
この新しいポーションは安価でかつ効果が高いのだ。ただ、パラチェルソはかなり扱いが難しい攻略キャラで、ルートも色々あるのだ。
一人の攻略対象を色んなルートで攻略し、その攻略ルートでエンディングが変わるというちょっと新しいシステムが導入されたスピンオフだ。
もちろん、それまでの2ndのキャラも同様に色んなアプローチが増えたのだが、基本的に2ndは難易度が低いため、こういう難しいキャラが追加パックで出されたんだよね。
ただ、問題は王都の城下町の一角にこの錬金術師がいることだ。アンネも色々あって行動に制限つけられているし、王都内に拠点と呼べるものがない。
私が王都に入れたら問題ないのに。というか、そんなにすぐに私は拘束される可能性が高いのかな?
「カチュア。私が王都に入ると拘束されると思う?」
「そうね。拘束というか、ユーラシア王国の人たちと同じ場所で監視付きの生活になるかと思うわ。それだけユーラシア王国よりの施策を打ち出してきたでしょ」
ユーラシア王国が抱えている問題はフェアトレードでないことが原因だ。まず、ロンベルト王国内で低賃金もしくはきついと言われている労働を担っているのがユーラシア王国の人間が多い。
それに、ユーラシア王国から女性をロンベルト王国に多く招き入れていることから、ユーラシア王国では人口の男女比がおかしいのだ。
そして、その男女比を解決するために、ロンベルト王国内の2男、3男あたりの行き場のない貴族が婿としてユーラシア王国に入っているのだ。
ユーラシア王国出身の男性は出世できない。女性はロンベルト王国の貴族を迎え入れていく。そういう流れが出来てしまっていたのだ。
ユーラシア王国では食べていけない男性貴族の2男、3男はロンベルト王国に来て下働きをすることも多い。
血の相互関係という名目だが、これだと、ゆっくりとユーラシア王国が侵食されていくだけだ。
それに、取引額もフェアじゃない。ロンベルト王国が有利になる契約ばかりだ。だから、ユーラシア王国では不安の声が上がってきているが、大変脱穀作業などは風車を使って簡易にするなど、キールが取り組んできたので、徐々に改善をしていく予定だったのだ。
だが、当たり前だが、既得権を放棄するものも出てくる。そういう人たちはどうにか現状維持を続けたがっている。
今の問題が起きている状況はそういう人たちにとって良い状況なのだ。自分所の娘が行方不明でさえなければ。
「だったら、私が行く案はなしね。学園の誘拐問題についてはスウとナッカにお願いしているの。けれど、そうね。この機会にちょっとこちらも動けるなら動いておきたいわ。行方不明の3名の家族に接触はできるかしら?どこの派閥が多いの?」
ゲームではそこまでの関係性は書かれていなかった。いや、どこかにあるのかも知れないが、私は見落としている。だって、知らないんですもの。
「そうね、一人は第三王子派閥、後の二人は第一王子派閥よ。どこから会っていくのかしら?」
「もちろん、第三王子派閥の人ね。おそらく爵位が男爵とか、領地運営がうまくいっていない所なんじゃないのかしら?」
切り捨てられてもいい所。そういう所の可能性が高い。
「そうよ。ジャメール男爵の男爵令嬢が最初に行方不明になったの。この令嬢は目立たないようにひっそりとしていたみたいなの」
それはスチールで覚えている。こげ茶色の髪を三つ編みにしている子だ。そばかすがあり、前髪が重い感じの子だ。
「ジャメール領ってどういう感じなの?」
どこら辺にある領なのかもわかっていない。聞くと本当に小さい2つだけ街がある小さな領だという。少ない平地と山に囲まれているのどかな領だという。
山は整地が結構されているみたいで、シルバーウルフが多く出るらしく、その毛皮が名産らしい。
「ああ、見たことがあるわ。でも、流行ったのって少し前よね」
「そうね、毛皮は冬の寒い時期にしか使われないし、冬の間しか使わないから、痛みもしない。上級貴族はもっといいものを使うから、下級から平民には広まったみたいだけれど、買い替えが起きるほど痛まないので困っているみたいよ」
毛皮製品だとどうしようもないわよね。おそらく頭打ちだ。それはジャメール男爵も感じているのだろうな。だから、流通量が減っているのだろう。
「食糧は結構潤沢なのかしら?」
ほかの角度から調べてみる。
「そうね、平地が少ないから小麦の収穫量は少ないけれど、山を開拓して畑を作っているので野菜などは多く輩出しているわよ。そういう意味ではそこまで困窮はしていないみたい。ただ、領地を広げられるだけのゆとりはないけれど、その分の人員も不足気味だから。こればっかりはジャメール男爵じゃないとわからないわ」
なるほど。大きな問題はないけれど、現状から発展も望めないという所か。現状維持か発展か。それは私にも判断つかないな。
「家族構成はどうなの?娘が一人行方不明なんでしょう?」
「そうね、そこは結構問題になっているみたいなの。子供は男性一人、女性一人。でも、男性はちょっと病弱らしく、社交界にも出てきていないわ。年は現在9歳かしら」
ちょっと待って。ということは、普通に行けばその男性は『剣と魔法のストーレンラブ3』の時に主人公たちと一緒の学年になる。
「その病弱な男性って学園には行けるのかしら?というか、本当に今、ジャメール領にいるのかしら?」
私は『ユキシール』を過小評価しない。私なら『絶対にやる』ことは「すでに手を付けている」と思っている。
私の行動を見て、『ユキシール』はモブキャラでも鍛えれば使えると思ったはずだ。ならば、第三王子派閥で扱いやすそうなものを手元に招き寄せている可能性は高い。
しかも、どうにでもできる男爵の子供だ。あのルークセニア公爵なら『おもちゃ』だと言って『ユキシール』に差し出している可能性がある。
「ちょっと調べてほしいの。そのジャメール男爵子息がどこにいるのか。というか、ルークセニア領にいるのかどうかを」
私がそう言うとエンデュミオン様が手をあげてこう言ってきた。
「そうだね。調べるのも手間だろう。その子供なら南にいるよ」
やっぱりそうか。ならば、ジャメール男爵は跡取りである子息を奪われ、子女も行方不明となっているのか。
ならば、騒ぐのも無理はない。
「ジャメール男爵を取り込むのは子息が人質に取られているから難しいかもしれない。けれど、恩を売るのは悪いことじゃないでしょう。手紙を出しておいてほしいの。それと、もう一つ。カチュアにはお願いしたいことがあるのよね。買いたい商品があるの。これからいうリストをできるだけ誰にも気づかれないようにある程度の数量を手配してほしいの」
そう、新しいポーションを錬成するのに必要な素材だ。高騰する前にある程度の数量の確保が必要だ。
「一体何をするつもりなの?」
「アンネ。あなたに仕事よ。一人と男を落としてきてほしいの。有望株だからちゃんと落とせたら結婚相手として認めてあげるわ。玉の輿になれるチャンスよ」
私がそういうとアンネは目を輝かせてやる気に満ちていた。
「絶対にものにします。その人、お金持っているんですよね」
「お金を産み出す事も可能な、錬金術師よ。その人を捕まえてものにしなさい」
私がそう言うとカチュアもユーフィリアもびっくりした顔をしてこう言われた。
「「キールも大人になったのね?」」
あ、そういう意味じゃないから。二人の言葉で自分の発言をどう取られたのかがわかった。気が付いたら顔が真っ赤になっていた。
「そういうキールもかわいいな」
エンデュミオン様、茶化さないでください。
これからのパラチェルソの攻略はアンネにかかっているのだ。ちょっと心配。