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~アイルの敗戦~

~アイルの敗戦~


 サシュル領に来たのはヨシュアからの依頼だ。シンフォニア領の事も気がかりではあったが、ヨシュアが大丈夫だと言うのならそうなのだろう。


 ヨシュアの視点は私より広いし深い。それに、私ではあの「ララ」という少女の相手が出来るように思えない。


 あの少女は何かが違う。キールともあの時のアンネとも違う。なんとも違う得体のしれない恐怖があった。


「大丈夫だよ。僕が何とかする。それに、このセントラルシンフォニアの改革を行うのなら、ハッサムが居れば何とかなるし、アンネもリッカもいる。だから安心して行ってきて」


 キールがサシュル領に行った時にすでにヨシュアにはそういう未来が見えていたのだ。私にはない視点だ。


 ヨシュアからの依頼は『サシュル領で異変が起きていないか』だった。ヨシュアは何度か「ララ」と話しをしている。


 ヨシュアは優しいし女性から人気なのだが、いかんせん当人に自覚がない。言い寄られた時には少し指導をしている。


 何度も、何度も伝えたが改善されない。だから、強く出たら脅えられてしまった。これはまずい。そういう思いもあったので私はサシュル領に行った。



 サシュル領は牡蠣が有名だ。おいしいものを食べたらそれだけで悩みは吹っ飛ぶ。だが、何かがおかしい。そう思っていた。おいしいのだが、街の中になんだか殺気があるのだ。不穏な空気が流れている。住人にゆとりがないのだ。


 これがヨシュアが言っていた異変なのだろうか?食べ歩きをしていて思った。悩んでいる店と閑散としている店の差が大きいのだ。閑散としている店がおいしくないと言うとそんなことはない。


 行列ができている所の食べ物を食べるとおいしかったけれど変なアラートが流れた。


「レジストしました」


 このアラートが出たと言う事はここの食事は私にとって何か悪いことが起きそうになっていて、それを防いでくれた証拠だ。


 だから、私はこのサシュル領で食べ歩きをする時は閑散としている店を選んで食べるようにした。


「この店こんなにおいしいのにどうしてお客さん少ないんですか?」


 店主にそう話しかけた。食べたものは牡蠣をバターとガーリックで炒めたものだ。それだけで十分おいしい。


「そりゃ、最近新しくできた店にお客がみんな行っちまうからだな。一回食べたがありゃヤバい。だが、なんというか作られたおいしさというか何かがおかしいって感じるんだよな。ただの負け惜しみかもしれないがな」


 並んでいる店で食べると変なアラートが出る。アラートが出ない所の料理の方が体にいいに決まっている。


 ここの食事を一部アイテムボックスに入れておこう。今度小腹がすいた時に食べればいい。


「ここの店はおいしいです。私が保証します。この街に居る間はまたきますのでよろしくお願いします」


 こんなにおいしい店はそうそうない。どうにかしてシンフォニア領で再現できないか色々考えていた。


 シンフォニア領にも小さいが港はある。ちょっと使うには色々としがらみがあるが、キールならなんとかしてくれると思っている。


 なんとかなったとしても、名産は大事だ。牡蠣はおいしいがおなじ料理だとインパクトがない。こういう発想は私にはない。ただ、このサシュル領にあるおいしい料理をすべて食べればそれ以上をキールに考えてもらえばいいだけだ。


 そう思っていたが、キールとシルヴィアが休みの前日に食べた牡蠣にアラートが出たのだ。そこからキールが動き出した。


 一日動いてわかったこと。それは、あのめんどうなラスティア商会が関係しているというのだ。


 ラスティア商会のおかげでヨシュアは商会の会頭をしている。あいつらがフィーバルに何もしなければヨシュアはシンフォニア領の騎士団長に推薦できたのに。


 いや、そのポジションは私がなるほうがいいのかもしれない。そのほうが両親が喜びそうだ。まあ、旧シンフォニア家を慕っているものはすべて両親に着いて行っている。今、シンフォニア領に残っている人たちは日和見な人たちか、上が誰になっても関係なく自らの仕事をする人たちか、権力に付き従う者かどれかだ。


 キールならそういう人たちも飲みこんでどうにかしようとするんだろうな。私はそう思うと心が狭いんだろうな。今回の怒りは色々だ。キールは『食べ物の恨み』と言って来たが、ラスティア商会はイーストエンド領にも入り込んでいるみたいだし、イーストシンフォニアにも末端の商会が大きな顔をしている。


 ラスティア商会のせいでどれだけ苦しめられたことか。これは私怨だ。わかっている。けれど、キールは私に『いいわけ』をくれたのだ。ならば、私は今日一日であいつらを追い詰めないといけない。


 力で潰すことは簡単だ。だが、それだと、またあいつらは私と言う存在がいなくなったらまた、このサシュル領にやってくるだろう。


 だから、根本を潰さないといけない。勢いよく馬車から飛び出たが案が浮かばない。魔法鳥をヨシュアに送ったら、ララから返ってきた。なぜにララ?


 内容はこうだ。


「サシュル領の異変は根本解決に時間がかかる。ただし、今回の問題を解決するだけなら手はある。海側に建てられている倉庫街。そこに『6』と大きく書かれている倉庫にある白い粉を燃やす事。それで終了だ。ただし、それ以外は燃やすと周囲一帯が火事になるから注意するように」


 その後にヨシュアからも魔法鳥がやってきた。


「倉庫街にはラスティア商会のものはほとんどいないが、無理に探さないように。どうやらかなりマズイ相手がいるらしい」


 ヨシュアは私の強さを知っている。知った上でマズイ相手がいるので探すなと言って来た。ならば戦わないことが正解なのだろう。


 ただし、どうしてシンフォニア領にいるララとヨシュアがその情報を知っているのか。ヨシュアに未来予知のスキルはない。ならばララにあるというのか?


 いや、そう何人も未来予知のスキルを持ったものがごろごろ現れても困る。ならばキールがララに状況を説明したのだろう。


 あの二人はシンフォニア領地の運営で毎日やり取りをしている。ありえそうだ。夕焼けがまだ明るいが私は倉庫街に向かって移動した。



 倉庫は間違えが起きないように大きく文字が書かれてある。積荷を間違えてしまったら大問題になるからだ。


 だが、隠れいていてわかったことがある。ラスティア商会のものがほとんどいないと言っていたが、倉庫近くには10人くらい武装したものが護衛としているし、明らかにまずそうなやつもいる。


 ネームル教だ。20人くらいいる。その中で金の淵が描かれた紫のローブを着ているヤバい強さのやつがいる。英雄ランベル様のようや強さではない。異質な感じがするのだ。


 まるで、あれはこの世界とは別の理で生きている感じだ。あれは絶対に勝てないし、気づかれたら逃げることも簡単ではないだろう。


 あの理不尽さはキールの婚約者の魔王エンデュミオンに匹敵する可能性がある。倒せないし、気づかれないようにもしないと行けない。ネームル教相手だから地下を使うという選択も取れない。


 ならば、この一体をすべて焼け野原にしてしまうか。他の倉庫については中に何があるのかなんて知らない。だが、火事になることだってたまにはあるだろう。そのたまたまが今日起きたことにしよう。篝火に燃えやすそうな布に油をかけて木造の倉庫に火を近づける。


 その様子を見ながら徐々に離れていく。あの紫のローブの相手に注意しながら。


「困るんですよね。こういう事をされたら」


 後ろから声がした。振り返ると金色の淵の紫ローブが後ろにいた。


「な、なんで?」


 ずっと注視していたはずだ。だが、少し火をつけるために目を話したら後ろに現れたのだ。やばり、動けない。冷や汗が止まらない。


「とりあえず、世界を救済するためにあなたは不要です。このまま死んでもらいましょう」


 紫のフードが少し風で動いた。その時顔が見えた。目を閉じた彫の深い男性の顔だ。だが、その額の上に一本の角があった。人でない。モンスターでもない。それに顔色も青い。なんだこいつ。動け、動け。


 私は動かない体に、足に、指に力を入れた。力をいれてわかった。これは恐怖ではない。魔力で私の体の動きを押さえつけているのだ。


 ならだ、魔力を体中に無駄なく流し込めばいい。


「無我の境地!」


 体中に魔力が行きわたる。紫ローブの男の手刀をかわす。


「ほう、あの状態から逃げ出すか。面白い。まさかネグルド司祭を認識できない所に送った相手とは思えないが、何か知っていそうだね。殺すのは辞めて生け捕りにするかな」


 紫ローブの男がたんたんとそう言って来た。ゆっくり動いているはずなのに、なぜか私の足が動かない。無我の境地で全身に魔力を纏っているのに動きが遅いのだ。


「スキル昇華『アイル!』」


 私自身を昇華させる。ステータスを一気にあげることができる。動くことができた。だが、どうして私はこんなにも遅くしか動けないのだ。周囲を見ると時間の流れがゆっくりになっていた。


「気が付いたのか。君はすごい。この領域まで強く鍛えているなんて。でもね、世界を救済するのに、その強さは不要だ。そうだ。力をそぎ落とすため右上でも切り落としておくか」


 紫のローブ男は右手の手刀に魔力を込めている。白く光るその手刀はどんな名刀よりも切れ味が良さそうだ。


 逃げられない。いや、それはわかっていたことだ。どうする。気が付いたら体を転げさせえていた。


「まだそんな風に動けるんだ。すごいね。びっくりだよ。君は一体何もの?この世界にいていい存在じゃないんじゃないの?」


 勝てない。そう思った時足下が光った。そのまま私の体はどこかに投げ捨てられた。



「アイル、大丈夫?」


 気が付いたらキールに抱きしめられていた。


「ごめんね。なかなかこっちに呼び寄せられなくて」


 キールが抱きしめながら不思議な事を言っている。


 そんな普通じゃないことなんて魔王エンデュミオンしかできない。私は魔王と目があった。その目はまるで私を石ころと同じような存在として見ていた。


 私はこの男がいまだにわからない。ただ、わかったことは今回はなぜか助けてもらえたということだ。もっと強くならなければ。


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