~智の令嬢カチュアがやってきた~
~智の令嬢カチュアがやってきた~
目の前に根っこごと掘り出されたタンポポがある。
「獲ってきたがこんなもの一体何にするというのだ?」
畑の片隅にもあるたんぽぽだ。森の中に群生地帯があったとアイルから教わった。
「まず、葉茎と根っこを切り離すの。こう手に持ってぽきっと折れる所が境目なの」
という感じで教わったのを思い出した。あの時の農家の方本当にありがとう。ちなみにたんぽぽの葉は食べることもできると言ったらアイルが驚いていた。
「これ、食べれるのか?知らなかった」
塩茹ですれば食べられるのよね。ちょっとほろ苦いけれど。後でそれも作るかな。
「次に水洗いして土を落とすの。あ、その細い根は取り除かないでね。そんなに強くこすると細い根がなくなっちゃうから気を付けて」
「うん、難しいな」
アイルのステータスが高いからこういう細かい作業は得意じゃないみたい。
「あ、私がやります」
そう言ってスウが手伝ってくれた。スウもアイルと一緒に森に行ったみたいだ。
「この根っこをカラカラになるまでザルの上に乗せて天日干しするのよ」
「生活魔法で乾燥させればいいんじゃないの?」
アイルがそう言って一気にタンポポの根っこを乾燥させる。ってか、なんでそんなにさらっと生活魔法が使えるのよ?
「いや、必要だから再取得した。一部必要なスキルはスティーブ殿が解放してくれたからな」
ってか、スティーブ。知らない所で何しているのよ。ちょっとは教えてくれたっていいじゃない。というか、すぐにカラカラになったタンポポの根が出来た。
「後はすり鉢で細かくするの。もしも生乾きならペースト状になっちゃうから気を付けないといけないの」
ってか、手に取ったけれどほとんど水分が残っていなかった。おそるべしアイル。そして、アイルのステータスの高さを感じさせるすり鉢の動き。手の動きが早すぎて追いつかない。
「次はフライパンで乾煎りするの。こまめに混ぜながら焦げ付かない程度にね。ある程度焙煎した方が味に深みが出るのよ」
そう言ったのにアイルはフライパンで炙りながら上から生活魔法の火を追加する。
「こっちの方が早いだろう」
もう、魔法なんて大嫌いだ。
「粗熱が取れるまで冷ましたら密閉できるように移し替えて保管ね」
生活魔法の冷却で一気に粗熱を取られた。もうわかっていた。こうなるって。アイルなんて嫌いだ。
「後はティースプーン1杯分を取りだしドリップすればタンポポコーヒーの出来上がりよ」
というか気が付いたら横にダリアもいた。すぐにティーセットが用意される。
「なかなか素朴な苦みがある良いお茶ですね」
「ほんのり甘さがありますけれど、私はもう少し甘味が欲しいですね」
「うむ、これは良いものですね」
アイル、スウ、ダリアからのコメントをもらう。あれ?なんで私の分が無いの?
「毒見ですから」
アイルにそう言われた。腹が立ったので自分でカップを取りに行った。自分で飲んだがおいしかった。
ちなみに、その日の夜はタンポポの葉ときのこを炒めたものを食べた。
数日後。
畑の近くにあったタンポポは全て刈り取られ、森にあったタンポポの群生地帯も刈り取りが終了したらしい。
ただし、すべて刈り取ると後が大変なので、ある程度の量は残していると教わった。
ちなみに、アイルから「少量ならば生活魔法でもなんとかなりますが、あの量は厳しいですね」と言われたので素直に天日干しをしている。
そして、タンポポの葉を使った料理も増えたし、収穫してあまったタンポポの葉は領民に食べ方も伝えて広めた。根っこはドカーケ領に納めるよう指示もしている。
領土内はいつだって食糧不足だ。だから、領民もタンポポの葉を食べることに抵抗がなかった。それにレシピも提供したのもよかったみたいだ。
タンポポコーヒーは量も試作段階なのでそこまで量はまだないのでひっそりと楽しもうとしていた。そう、私は油断をしていたのだ。
そろそろ天日干しも終わりいい頃合いだと思い焙煎をし始めた所でドカーケ領に来客があった。
青い髪のツインテールをした女性。このドカーケ領に似合わないくらい高いドレスを着た女性。少しだけ猫を思わせるような愛くるしい顔立ち。先がとがったメガネをした理知的な顔立ち。
そう、智の令嬢「カチュア・ユニ・クルル」がやってきたのだ。
カチュア・ユニ・クルル。
貴族向けの商工会の会頭を父に持つ商人の娘である。だが、カチュアの父はその実績から侯爵相当の地位でもある。
この相当というのは、あくまでの地位の高さを意味するものである、領土を分けられているものではない。
だが、今迄の実績と王家に対する多大な寄付から侯爵相当としての地位を有しているのだ。
カチュアには弟がいるが、商才はカチュアの方が高いと言われており、学園卒業後にカチュアはクルル商会を盛り上げるのだ。
それはシーズン2以降もプレイヤーはクルル商会のお世話になるし、その時に登場するのがカチュアである。
カチュアとの信愛度が高いと特別な商品を誰より先に手に入れることが出来るのだ。だからこそカチュアとの関係は非常に重要だ。
逆に信愛度が低くなると領土が大変なことになる。購入する商品の値段があがる、納品量が減るなどだ。ドカーケだと一回値段が上がるだけで死活問題になる。
まさかレイリアより先にカチュアが動くと思っていなかった。いや、カチュアの方が身軽だから動けたのか。油断していた。
「あら?何やらよい香りがいたしますね。これの香りは一体?」
カチュアは機械的な話し方をする。あまり抑揚がないのだ。そして感情を表に出さない。だからわかりにくい。
唯一の癖はメガネを触る、取るがある。メガネを取って拭きはじめると機嫌が悪い証拠。だからカチュアの動きをよく見る必要がある。
「ようこそ。ドカーケ領へ。この匂いは試作品のお茶です。今丁度焙煎が終わった所ですので試作品のお茶を飲みながらお話ししましょう」
「ええ、商談ならいいですわよ。この『マヨネーズ』はどれくらいご用意できるのですか?あら、このお茶。色が黒いのね。でもいい香り。うん、素朴な苦みにほのかな甘み。悪くないわね。でも色が黒々しすぎているかしら」
この国でよく飲まれているのは紅茶やローズティーだ。色の黒いタンポポコーヒーはなじみがない。
「そうね、ミルクと砂糖を入れるとまた味わい深いですわよ」
そう言ってミルクと砂糖をカチュアに渡す。かなり多めにミルクを入れてみた。色だけじゃなく味もまろやかになる。
「これはいいね。今度のお茶会で使ってみようかしら。ちょっと贈答品として渡したいからいくつか用意してくれないかしら?」
このセリフは聞いたことがある。というか、珍しい品を手に入れた時に渡した時に起きるイベントだ。そして、カチュアの機嫌がいいのもわかる。
「ところでこのお茶の名前はなんていうのかしら?」
私は考えた。タンポポコーヒーと言ってしまうと似たような商品をすぐに作られてしまう。そうなるとクルル商会は利益を出せない。カチュアの行動原理はわかりやすい。いかに利益がでるのか、どうかだ。
「これは『ダンデ茶』と言います」
この世界ではタンポポの名称はそのままタンポポだ。タンポポは英語だと「ダンデライン」だからダンデ茶としてみた。
「なんか変わった名前ね。でもいいわ。このダンデ茶を王都で飲んでいる人もいないし。後は気に入られるかね。何かこのお茶に逸話とかないのかしら?」
私は記憶の中にあるタンポポコーヒーの効能を思い出した。元々タンポポ自体はハーブとしても利用されていたので薬用効果があったはずだ。
確か利尿作用があって、後は母乳の出が良くなったはず。だからふくらはぎのむくみを取るとかにはよかったはず。後はダイエット効果もあったかな。なんてことを思いながら伝えたらカチュアからこう言われた。
「なるほどね。そういう事なら売り先も結構確保できそう。これはマヨネーズとともにいいかも。でも、このマヨネーズはお茶会には不向きよね。これって簡単に言うと新しい調味料ということでしょ」
カチュアがメガネの淵を触りながら独り言を言っている。これはいい傾向だ。
「ちょっとした軽食をお持ちしました」
ダリアがそう言ってフライドポテトを持ってきた。手元には小さいガラスボールにマヨネーズが入っている。
「これは何?」
「これはジャガイモをスライスしてあげ焼きした『フライドポテト』というものよ。塩とパセリをかけてあるの。そのままでもおいしいけれど、マヨネーズをつけて食べるとおいしいのよ」
本当ならクッキーとかを出せたらいいのだけれど、ドカーケ領では小麦粉は貴重なのだ。そんなお菓子に使うくらいならパンにする。
まあ、これもアイルとスウに言って森に大量にあるもので代用を考えている。ただ、いきなり色んなことをやり出しても手が回らない。
今はタンポポコーヒーの製造だけで手いっぱいだ。これがお金になるとわかったらもっと人手を割いてもらえると思うけれど今のアイル、スウの二人では出来ることは限られている。
カチュアが考えながらフライドポテトに手を付ける。イメージはファストフードのポテト。細く長い形にしている。そのままでもおいしいけれどマヨネーズをつけると更においしくなる。難点は手が塩と油で汚れることだ。
だが、すぐ近くに手を拭くための白い布をおいている。紙ナプキンは流石にこの世界にはないのでおしぼりの様なものを用意したのだ。ただ、生地の関係上巻くことができなかったので畳んでおいている。
「これおいしいね。なるほど、お茶会だからスイーツを用意しないといけないわけではないか。この『フライドポテト』の作り方を後でうちのものに教えて。それとそれ用のジャガイモについてはどこかの商会を通じて購入するわ。このドカーケにも商会はあるでしょ。どこが懇意にしているの?」
カチュアは人差し指をまげて眼鏡のブリッジを押し上げている。これはかなりテンションが高い。成功したかな?
「ウルグ商会とレッドアイ商会ですわ」
「ウルグ商会じゃちょっとうちと王都向けのお付き合いはできないわね。レッドアイ商会を通じて購入するわ。担当を送るから後はその担当と話して決めて。これで商談成立。まあ、色々と思う所はあるけれど及第点ね」
「それはありがとうございます」
人を褒めることを基本しないカチュアが及第点を出すのだ。これはカチュアにとって最高級の褒め言葉だ。
「でも、非効率なことをするのね。領主になったのならもっと内需に目を向けた方がいいわよ。後、それとレイリアから手紙を預かっているから。では、私は王都に帰るわ」
そう言ってカチュアは去っていった。
「あれでよかったのですか?」
アイルがそう言って来た。ちなみに、部屋の奥にスティーブがずっと控えていたことにも気が付いていた。
「ええ、完璧よ。これでマヨネーズとこのダンデ茶はうまく行くはずよ」
そう、私は忘れていた。「剣と魔法のストーレンラブ」のシーズン3に出て来るキャラとイベントを。
シーズン3の攻略対象にルーファスの弟であるハイネル第3王子がいる。このハイネル王子は卵アレルギーなのだ。
そして、お茶会をする時に卵を使用していないスイーツを持って行かないとバッドエンドになるというイベントがある。
マヨネーズには卵が使われている。もし、ハイネル王子がマヨネーズを食べてしまったら。その責任は誰に向かうのか。
そう、私とドカーケ領になる。バッドエンドは確か王子暗殺未遂ということで斬首刑だったはず。
でも、そのことを私が思い出すのはもう少ししてからだった。だって、私は浮かれていたのだから。




