表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/603

~商会との打ち合わせでセクハラ体験~

~商会との打ち合わせでセクハラ体験~


 レッドアイ商会。


 多くの場所に支店がある大きな商会らしい。といっても、百貨店みたいな感じじゃなく、スティーブの話しを聞いていると商社みたいな感じだと思った。


 商会自体にも店舗はあるがそれは大きな都市に限る。ドカーケ領のような売上が見込めないような場所には事務所のようなものと、発注書があるだけという。


 といっても、ドカーケ領は売るものがほとんどない。野菜が安く買いたたかれるくらい。買うものの方が多い。大量にあるじゃがいもは人気じゃないからすてられるくらい領内にあるけど買値が付かないのだ。おいしいのに。


 羊も結構いるけれど、羊毛は都心には人気がそこまでない。都心はそこまで寒く無いからだ。放牧と言うか勝手に育っているのを刈り取っているのだ。


 ドカーケ領としては生活品を定期的に購入する。だからレッドアイ商会との商談は年に2、3回くらいらしい。だから今回の商談は領主代行に私が着任した挨拶程度と相手は思っていたのかもしれない。


「これは、お噂で聞いていたよりおきれいな方ですね。私は、レッドアイ商会で東方エリアを担当していますガルム・ルキアスと申します。以後お見知りおきを」


 ガルムは中年で太っていて、少しおでこが広がっている男性だ。口調は丁寧なのだが、話し方はねっとりしているし、なんだか目線がやらしく感じる。


 私の顔から体をなめまわすように見られている。セクハラだと叫びたい。


 でも、この世界にコンプライアンスがあるのかもわからなければ、そういう相談窓口があるのかもわからない。多分ないだろうな。


「ガルム殿。本日は商談がありお越しいただいております」


 スティーブが私の不快な気持ちを汲んでくれたのかすごいオーラがでているのがわかる。多分、漫画だったら『ゴゴゴゴッッッ!!!』という感じの効果音が付けられてそうだ。


「スティーブ様。また何か入用ですかね」

「いえ、購入ではありません。これからのドカーケ領は商品や技術を売っていくのです。まずはこちらを見ていただきたい」


 そう言って、手押しポンプ、複式簿記の技術を伝える。さらにスティーブはマヨネーズも提案している。


 確かにマヨネーズは料理に革命をもたらすだろう。でも、これは気を付けないといけない。そう、絶対に誰かがこの利権を奪いに来る。信愛度の低い相手が特にだ。


 レイリア・ルン・フォルデ・カルディアも確かに脅威だが、この場合もっと脅威になる相手がいる。


 カチュア・ユニ・クルルだ。智の令嬢と呼ばれる彼女の卒業後はクルル商会を盛り立てるのだ。カチュアの父はすべての商会を取りまとめている会頭をしている。ただ、他の商会と違うのは相手が貴族限定の商会だということだ。


 だから、ドカーケ領にはクルル商会はない。


 手押しポンプは農業が主体のレイリアの親族がおさめているカルディア領から広めてもらおうと思っていたが、マヨネーズは貴族にも気にいられるはず。


 だからこそ気を付けないといけない。貴族が知らず庶民が知っているなどただの火種なだけだ。その情報発信がドカーケ領となれば何らかの攻撃を受ける可能性が高い。

 

 カチュアに対してすぐにでも手紙を書くか。多分、サンプルもつけて送付すればカチュアなら意図を理解するだろう。


 そういう意味ではマヨネーズはレッドアイ商会ではなくまず、クルル商会に提案するのがいいはずだ。そう思っていたらレッドアイ商会のガルムがこう言ってきた。


「そうですね。私の判断では付きかねますが、一気に3つと言うのは困りますね。どれか一つに絞ってくれませんか」


 助かった。私はそう思った。カチュアの信愛度が低いと起きるイベントは経済的な攻撃が大半だ。


 それも個人だけじゃなく領土が人質になるのだ。領主代行の私は絶対に避けないといけないイベントだ。


「では、手押しポンプでお願いいたしますわ」


 私は言い切った。そう言いながらスティーブを見る。スティーブは目を閉じているが何も言わない。沈黙を肯定とガルム殿は取ったらしい。


「では、こちらで。この技術をお売りになりたいとのことですが、一体いくらで考えられているのでしょうか?」


 そこからの交渉はすごかった。ふっかけるスティーブと躱すガルム。私はただ茫然と見ているだけだった。ただ、実際着地は決めていたのでそこに落ち着くものだと思っていた。だが、ガルムは違った。


「その金額は即決できませんね。一度中央に持ち返らせてもらいましょう」

「では、図面とサンプルはお渡しできませんね。よい結果をお待ちしています」


 そう、今回の商談で結果が出なかったのだ。ガルムが立ち去ってから私はスティーブに話した。


「どうしてマヨネーズも出したのですか?あれは貴族にも気に入られるはずです。レッドアイ商会よりも、学園で出会ったカチュア・ユニ・クルルを経由してクルル商会に連絡を先に入れた方が安全です。それも、どこかの有力な貴族の夜会でふるまう食事に出すのがよいと思いますわ」


 そうしないとこの「剣と魔法のストーレンラブ」の世界だと誰かに足元をすくわれる。スティーブは納得していなかったが私が押し切った。


「もっと有意義なものを開発するということで納得しただけですからね」


 そう言われた。この「剣と魔法のストーレンラブ」に無くて、前の世界にあったもの。それで再現しやすいものから考えていこう。だって、私には前世の知識があるんですもの。なんとかなる。


 実際そう思っていました。でも、違った。次に会ったウルグ商会の担当は違った。


 ウルグ商会はこのドカーケ領だけではなく、すぐ近くのクロービア領も商圏だという。クロービア領は寮で私と同室だったソフィアの家が治める領地だ。クロービア男爵領は領土こそ狭いが国土は豊かだ。そして特筆するのは小麦ではなくオリーブとトマトの名産地でもある。


「その手押しポンプは素晴らしい。販売先をこのドカーケ領だけでなく、クロービア領でも行わせてもらいたい。レッドアイ商会に声をかけていることはわかっている。だが、この2領でだけはうちで取引をさせてくれ」


 目の前にいるのは青い髪をした目が大きくまだ幼さの残る青年だ。彼はセアド・ウルグ。そうウルグ商会の会頭の孫だ。孫といっても20歳。16歳から大人として扱われるこの世界では十分な経験を積んだ商人でもある。


「多分あなたたちならレッドアイ商会だけでも交渉は終わらせることができるだろう。だが、俺は交渉をしたい。この手押しポンプを使用することで作業効率があがる。つまり手が空くはずだ。その空いた時間で開墾をしてほしい。その開墾に協力をしよう。出資もする。人夫も出す。だが、その土地で獲れた作物の1部はうちに降ろして欲しい」


 開墾。


 それはドカーケ領の一番の問題だ。人がいないからできていない事。というか、周囲の森が広くまた、その森にはモンスターが多いからなかなか開墾が進まないのだ。


 だが、費用があれば傭兵や冒険者を雇うこともできる。村人は戦うことに特化していないから身の危険があるので森に入りたがらない。住民を守るためにすべての都市に城壁があるが、開墾をすると城壁も必要になる。


「それは城壁も作るということですか?」


 城壁を追加するのはかなり大変だ。並大抵のことではない。それに資材もかなり必要だ。


「簡単な土壁があれば当面大丈夫かと思います。皆様は土魔法使いに心当たりがあるんじゃないですか?」

私はハッサムを見た。マリンケ族は太陽の光に弱い。そのため地中で生活をしている。限られた土地で栽培できるものを食べているがマリンケ族は基本的に貧困に喘いでいる。だが、マリンケ族は皆土魔法が得意だ。


 でも、セアドはどこから情報を得たのだろうか?いや、マリンケ族は土魔法が得意なのは一部では知られている事だ。


 ということは、このセアドはその情報を持っていて、広まっている悪い噂や偏見ではなく、有効性だけを見抜いて提案してきているのだ。セアドは商人として優秀なのだろう。安心できそうと思った。


 でも、本来ならマリンケ族と交流を持ち、土魔法で道路を新たに作ってもらうことで、マリンケ族が裕福になる。そして、族長の息子が学園に行けるくらいになるのだ。そう、『剣と魔法のストーレンラブ4』に出て来る攻略対象として。


 このシーズン3の時に途中に街もなく、道路もつながっていない不便で人が未踏と言われている地区にあるマリンケ族の集落とセントラルドカーゲを繋ぐのだが、このマリンケ族の集落の近くに温泉がわき出るのだ。


 それが観光名所となるため、ドカーゲ領は潤うのだ。そうだ、観光名所になるのならすべての道路も整備しなきゃだね。宿場も必要になるし、これはお願いしておかなきゃだ。思ったらすぐに指示を出す。だって、忘れるからだ。


「開墾はわかりました。けれど、今ある街の拡張ではなくセントラルドカーゲとこちらにいるハッサムの故郷とをつなぐ道。そしてその場所に宿場を造ることを推し進めたいです。ただし、こちらからクロービア男爵には先にお伺いを立てます。けれど、販売時期についてはこちらできめさせていただきます。これが条件です」


 私がそう言ったら、いつも不動のハッサムが私に向かって動こうとした。だが、アイルが靴の踵をあわせて音を立てた。


 その音でハッサムの動きはとまった。来客の前で護衛が動くことは来客に対して非礼どころか攻撃の意思ありと取られることもある。


 同じく動こうとしたのはスティーブだ。


「レッドアイ商会はよろしいのですか?」


 小声でそう言って来た。よろしくはない。だが、これは勝機だ。絶対に勝ち取らないといけない。


「レッドアイ商会には即決しなかったので条件がかわったといいましょう。私からレイリア様に手紙を書きます。あの方ならうまくまとめてくださるでしょう」


 私はこの選択がもたらす結末が何を連れて来るのかを理解していなかった。まだこの時は。


「スティーブ後はよろしくね」


 私はこの時ソフィアに久しぶりに会いたいということと、あの氷のレイリア様が喜ぶ展開にするにはどうしたらいいかしか考えていなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ