~スティーブの独白03~
~スティーブの独白 03~
止める間もなくキールお嬢様は飛び立ってしまった。おそらくそれが最善なのだろう。我々はキールお嬢様には予知のスキルがあると思っている。そうでなければここまでのドカーケの発展はないし、ここ最近の動きは特におかしい。
英雄であるランベル様が戦死するイメージはわかないが、キールお嬢様の行動から、並大抵のことでは『ランベル様の戦死』は覆せないのだろう。そして、ランベル様ですら倒せない相手が北にいるのなら、ドカーケは攻め滅ぼされてしまうだろう。絶対に阻止しないといけない。
だからこそ、最高戦力であるキールお嬢様が北の要所に行かれるのはわかる。わかるが、現状のこのドカーケもかなりカオスな状態だ。それに我々に与えられた命令は3つだ。マナナンガルの死守、フォレストフロッグの皮で防御布を作る、そして死ぬなだ。
我らドカーケの民は皆、戦い死ぬことを美徳としている。それなのに死ぬなと言われたのだ。本当にキールお嬢様は厳しいことを言われる。
「では、配置を伝える。悪いが再度振り分けをさせてもらう。我々は絶対に誰も死なずに勝利しないといけないからだ。ダリア、ユーフィリアはマナナンガルの護衛だ。護衛しながら市内全員をまともに戻していけ」
「「はい!!」」
いつの間にか人が集まっている。今までドカーケは過剰戦力だと思っていたが、それは違ったのだ。ぎりぎりの戦いだ。いや、勝てるかもわからない。キールお嬢様は『これ』を見越していたというのか。ならば、応えねばならない。気合いが入ると言うものだ。いや、私だけでない。他のものもモチベーションは高い。
「次にナッカ、スウは本丸待機だ。そこで情報を集めつつ指揮をしろ。どこに敵が出現したのかを確認し、人を動かせ。手が足りない時だけセントラルドカーケ内のみ移動可能だ。だが、絶対に出るなよ。お前らは切り札だからな」
それに、何かあった時にナッカが居なければドカーケは本当に終わってしまう。口には出せないが、最悪は常に想像しておかねばならない。
「わかりました。市内は動いていいんですね」
「それは楽しみですわ」
おいおい、二人とも絶対に大人しくするつもりないだろう。まあ、キールお嬢様からもしもの時の対応を一番聞いているのはスウだ。ならば大丈夫だろう。それにスウがいる限りナッカは安全だ。
「モカグリーンは学校のお友達を連れてフォレストフロッグ狩りだ。といっても、モカグリーンは剥がされた皮を乾かす作業だ。呪いの魔法に水分を奪うやつがあるだろう。あれを魔力が切れるまで使いきれ」
モカグリーンの目は輝いている。こいつは戦いに向いているのだ。
「ああ、ジャネットとメリドは別行動だ。メリドは乾いたフォレストフロッグの皮をマナナンガルの近くに運べ。お前は空間移動ができるだろう。それでピストンだ。どうせお前はマナナンガルが心配だから戦場に出ても使い物にならんだろうしな」
「ふざけるな。俺だって戦える」
メリドは若いな。すぐに挑発に乗る。
「そうか、ならばセントラルドカーケが落ち着いたら他の街に向かって移動してもらおうか。モカグリーン、マナナンガルと3人でだ。大変だぞ。姫を守りながら民を殺さずに制圧しなきゃならないのだからな」
「ああ、やってやる。マナにかっこいい所を見せてやるのだからな」
わかりやすい性格だ。それに、マナナンガルが居なければ住民を元に戻す事もできない。今回の戦いのキーはどうしてもマナナンガルをどううまく使うかだ。
「ならばドカーケの精鋭部隊は外にいるモンスターの掃討とあの暴徒の鎮圧だ。おそらく殺すことはキールお嬢様は望まれていない。気絶させればいい。何かよい案はあるか?」
そう言うと手を挙げた者がいた。カチュアだ。
「洗脳されていようと人でしょ。ならば眠らせればいいのでは。ちょうどいいものを持っているわ。風向きがよければだけれど眠り茸の粉があるのよね。嗅ぐと速攻で眠りにつくわよ。面白そうだから入手しておいたの」
安いものじゃない。値段を知っている。それに持っている袋から推測するにかなりの量だ。
「ならばジャネットと行け。ジャネットなら風の精霊魔法で風向きを変えられるだろう」
「可能。それにそこは安全」
ジャネットは不思議な奴だ。だが、おそらく危険な場所をすでに察知しているだろう。
「ジャネット。どこが危険だと思う」
ジャネットが指さした場所はサウスドカーケ近く、カシャーク領の近くだ。
「まさか、このタイミングでカシャーク子爵が動くというのか。最低だな」
隣の領土だが、あいつは本当に最低な奴だ。洗脳されているのかもわからないがな。
「後、アイルは間に合うと思うか?」
ジャネットとスウに向かってきいた。
「当たり前でしょ。私のお姉ちゃんよ。今も前線にいるに違いないわ」
「アイル、危険。でも、なんとかなる、はず」
間に合うと信じよう。はじめにキールお嬢様から聞いた時まったく意味がわからなかった。だが、あのお嬢様は意味のないことをするわけがない。アイルもそう信じて行っているのだ。
「ドカーケの精鋭部隊はモンスターの一掃だ。お前らならあの量倒しきれるだろう」
モンスターの量は1万を超えている。先ほどキールお嬢様がある程度一掃したといえまだまだ多いだろう。だが、関係ない。我らはこういう時を待っていたのかもしれない。だからこそ鍛えていたのだ。誰よりも強くなることを。キールお嬢様に恩を返すことを。
「あら、だめよ。あなたは総指揮なんだから。私が出るわ」
言葉だけで背筋がぞぞっとした。妻であるメリアンネがいつの間にか背後にいた。
「いいのか?メリアンネ」
「もちろんじゃない。私のかわいい教え子たちよ。せっかく鍛えたんですもの。活躍させてあげないとね。うふふ」
確かにメリアンネのおかげで衛兵は皆強くなった。
「衛兵すべてに神代魔法をかけ終わったのじゃ。次は市内じゃな。どう動けばいい?」
マナナンガルは黙々と魔法を行使している。こいつは魔力切れを起こさない不思議な生き物だ。
「そうだな。うん?ようやく来たみたいだ。遅かったな!」
目の前にセアドが現れた。
「キールお嬢様はどちらに?というか、私は何をすればいいのですかね?」
セアドは若いが喰えない相手だ。こういう時は頼りになる。
「広場にテントを張る準備をしろ。それまでは一人ずつだが、神代魔法で町中の人間を正気に戻していく。それを手伝え」
言いながら無茶だと分かっている。
「それは構わないのですが、動けるようになったものはどうすれば?武器でも持たせて戦わせましょうか?おそらく状況を話したら戦いたいものは多いと思いますよ」
言われて思った。今のドカーケがあるのはランベル様とキールお嬢様のおかげだ。その二人の危機だというのなら動くものは多いだろう。
「任せる。武器については」
「後で請求させていただきますよ。生き残れたらですがね」
セアドはへらへら笑っている。そう言えば、こいつもかなりの強さだ。
「ああ、そうだ。キールお嬢様から伝言だ。『誰一人死ぬことを許しません』だから絶対に生き残れ。しかも『誰一人』だからな」
そう言うとセアドから笑顔が消えた。
「そうですか。残念ですね。この機会に隣領の『あれ』を抹殺しようと思っていたのに」
セアドもカシャーク子爵に苦しめられているのがわかる。
「まあ、『あれ』が誰一人の中に含まれているのかは知らないがな。とりあえず、行動は決まった。各々持ち場に移動するように。絶対に『死ぬなよ』キールお嬢様命令だからな」
「まあ、キールお嬢様の命令ですからね」
「絶対守らないと」
そう簡単な戦いではない。だが、ここが踏ん張りどころだ。アイルを待つだけだ。
キールお嬢様が言うには、アイルが成功するのかがカギなのだから。




