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消えた星5つの料理店

オチは最後のお楽しみ。

 その青年の趣味は、美味い料理店を探し、巡ることだ。最近は、もっぱらグルメサイトの口コミにお世話になっている。


 今日も出張のついでに、馴染みの無い街を歩きながら夜の食事処を探していた。


 いつも通りグルメサイトでこの辺りの店を検索すると、なにやら星5つの店が近くにあるらしい。


 口コミでは「この店以上に美味い店は無い」とか「想像を絶する美味さ」だとか、皆口を揃えて美味いと絶賛している。しかも低評価が見当たらない。この評判を目にした青年は、あまりの高評価に心打たれ、次第にその店のことしか考えられなくなってしまった。


 いてもたってもいられず、ついに青年は導かれるようにその店に向かって歩き始めた。


 スマホのマップを片手に歩いていくと、一軒の料理店が見えてくる。

 看板から察するに、パスタ専門店のようだ。

 よほど繁盛しているらしく、店の前には人が行列を成していた。口コミを見たのだろう、並ぶ客は皆楽しみだといった様子で並んでいる。

 青年も列に加わると期待に胸を膨らませながら自分の番を今か今かと待った。

 そして、ついに青年の順番が回ってきたらしい。青年は呼ばれるやいなや嬉々として入店した。


 料理店は先に食券を買う形式であった。種類は少なく、ナポリタンなど一般的な物ばかりだ。無難に先に目についたカルボナーラを選ぶと、会計ボタンが出てくる。ボタンは長押しをするタイプらしく、金を投入した後しばらくボタンを押すと釣り銭が返ってきた。


 食券の半券を店員に渡すと、空いた席に案内される。

 しばらく待っていると良い香りを放つカルボナーラが目の前に出された。


 早速口に含んでみる。……青年は一口食べて、このパスタが自分の心を射抜いたことが分かった。濃いチーズにどこか自分好みのニンニクが効いた味だ。そして奥深いコクをも感じられる。

 とても魅了されたのか、青年は無心で徐に頬張る。そしてペロリと完食した。


 ーーすると、完食したのを見届けたかのように店員が声をかけてきた。


「お客様、お食事はお気に召しましたでしょうか?」

「……とても美味かった。グルメサイトの口コミを見たけど、期待を遥かに超える美味しさでした」


 青年は店を褒め称えるかのごとく、ありったけの称賛の言葉を考えて伝える。店員は大変嬉しそうにお礼を言った。

「ありがとうございます」


 さらに、青年は席が埋まった店内を見て感心したように呟く。

「それにしても繁盛しているな……」

 そんな青年の呟きが聞こえたのか、店員は和かに答えた。


「グルメサイトの集客力の賜物です」

「あぁ、あのグルメサイト……高評価がつくと客が増えますからね。……そうだ、私もこの店の味に感動した1人です。高評価をしておきますよ」

「なんと、ありがとうございます。とても励みになります!」


 店員は嬉しそうに再び御礼を言った。


 青年は満足して店を出ると、早速店に星5つの高評価をつけて投稿した。

 どう考えても星5つに値する味だと評価したからだ。



 ーーそして、暫く経ったある日……


 青年はあの味が忘れられず、再びサイトを検索することにした。サイトが残っていたことに安心したため、再び訪れてみると……店があった場所には店の面影は無い。いくら探しても店は見つからなかった。どうやら無くなってしまったらしい。


 あれだけ繁盛していたのに、潰れてしまったのかと、青年は酷く肩を落とした。もっと通っていれば良かったとも後悔したのだった。


 その後、あの味が忘れられない青年は店の支援を視野にも入れつつ、店の消息や消えた原因を必死に探した。しかし、探せど探せど店の詳細は謎に包まれるだけで、元従業員一人さえ見つけられない状況である。


ーーーーーー


 さて、一方の店では、青年が始めに来店した後にこんな会話がなされていた。



「グルメサイトの影響もあり、客は増え続けている。これで私も一山当てれそうだ」

 オーナーである中高年の男が、1人会計報告を見て微笑んでいた。


 しかし、そこに慌てて細身の若い店員が駆け込んで来る。


「オーナー、大変です! 最近パトロールが厳しくなってきたそうです! 俺たちのことも嗅ぎつけそうですよ!」

「なんだと! ちっ、これまでか。まぁいい、老舗である証拠と星5つは沢山貰ったんだ。この辺で一回店を閉めるか。……もう少しいけると思ったんだがな」


「もういいじゃないですか。この時代でまだ個人の好む味覚を分析、再現する技術が発達してなかったおかげで、俺たちの味覚調整剤が活かされたわけなんですし」


「まぁ、そうだな。まさか入り口の券売機で指先から個人的な味覚の診断をされているなんて、だれも思っちゃいねぇ」


「分析された好みに調整された味覚調整剤を大量に入れた料理なんですから。グルメサイトで星5つを押すくらい美味しく思うのは当然でしょうね」


 ふふんと鼻で笑いながら店員は続ける。


「これで、"星5つを100年前に貰っていた老舗"としての威厳を残したまま未来に帰れますよ」


「良い宣伝材料を手にできたな。俺らみたいな老舗詐欺や、過去への味覚調整剤の乱用はよくある話だからな。早くとんずらするに限る」



 そして翌朝、店は消えていた。

 まるで店ごとどこかに移動したかのようにすっぽりと姿を消したのであった。



ーーそう、店が消えた謎は青年には解くことが不可能な領域だったのだ。

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