我が手に勝利を! 〜 連敗魔神は迷走中 〜
わたしの名はA
しがない派遣講師だ。
なぜかイロモノというかチガウモノというか…… 。バケモノ、人外と縁がある。入社試験する会社を間違えたかもしれない。
光るブロックで出来た迷宮でデスゲームして、生き残ったら、ピクピク動く生皮の雇用契約書に血判して仮入社とか、たしかに怪しかった。
珍しい経験ができるのはたしかだが。気がつくと魔法とか異世界にも馴染 ──、
── あ、すみません。
ちょっと現実逃避しかけました。
現役の魔神様にお会いするのは初めてなもので。いゃぁ、すごく大きい。
それで黒服の貴方様が、電話でお話しした側近の── 大悪魔? それで今回のご依頼は、ファンタジーな『メテオストライク』の概略と使用上の注意? で、よろしかったでしょうか。
‥… 。
あってる? よかった。
メテオストライクは大好きです。
『大地は鉄槌に打ちひしがれん』
『この』フレーズは、ソードワールドRPGのとあるシナリオ集の中で、魔法装置にそえられた警句の一部です。
古代魔法王国の最終兵器とはメテオストライクでした。
究極の攻撃魔法なのです。
メテオストライク ── 空の彼方から燃える岩が飛来し、大地を打つ!!
高熱の衝撃波はあらゆるものを吹き飛ばし、焼き払う…
おや、魔神様。身を乗り出して?
そういうのが欲しかった?
な、なるほど。
どちらかと戦争でも?
え、仇敵打倒の切り札──
メテオを個人に撃つんですか??
………それはまた、オーバーキルな。
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……… (ひそひそ)ええ黒服様、そうです。
『ファンタジーなメテオストライク』は、神話伝説ベースでお話しさせていただきます。ゲームやマンガ、アニメのエンタメ作品を例えに出すと著作権侵害、あと、ネタバレやらかしそうなもんで。
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(げほん)メテオストライクの神話伝承の事例を上げましょう。
世界の神話伝承のメテオストライクは、天空は神の領域とか天罰のイメージがあるからでしょうか。
実行者は大抵「神」です。
インドの中東部に暮らすムンダ族・サンタル族には火の雨の神話が多く伝わっています。
── 曰く、神は人類を地の塵から造ったが、すぐに人類は邪悪になって働かなくなり遊び呆けてしまった。
神は彼らを滅ぼすことに決めて火の雨が天から下されたので、すべての人が死んだ…… (ただし、二人の男女を除いて)
旧約聖書にかかれた悪徳の町・ソドムとゴモラの滅亡は広く知られています。
「天からの硫黄と火」。その正体には諸説あり、火山噴火説も論じられていますが、「天から」とわざわざ示されて地震や火山が記述されないので … わたしは隕石説(隕石災害説)です。
あと振り返った人が塩の柱になったというくだりは神罰ではなく、塩=黒ずんだ岩塩で、黒焦げた焼死体のソフトな表現じゃないかと思いますね。
旧約聖書には、ほかに「ヨシュア記(10.11 )」にヨシュア(モーセの後継者)が約束の地エルサレム をめぐって先住民と戦ったさい、
【 (敵軍が)イスラエルの前から敗走し、ベト・ホロン の下り坂にさしかかったとき、主は天から 大石を降らせた。(略)…… 死んだもの はイスラエルの人々が剣で殺した者より も多かった。(新共同訳) 】。
…… と、メテオ・ストライク?が記述されています。
さらに、古代エジプトのパピルス文学のひとつ『難破した 船乗りの話』という物語には、人の言葉をつかう蛇が登場して星降りの災禍を語ります。
いわく『一つの星が天から落ちて、まわりに燃えついた』、『彼ら(ほかの仲間)はみな焼けてしまった。それが一かたまりの灰になっているのを見たときには、わたしは気 を失って死ぬかと思ったものだ』
…… 賢き蛇は、落ちた星のために60匹を超える仲間を無くし、ただ一匹生き残ったのです。
(「隕石の伝説・伝承」天文教育 2010 年 11 月号(Vol.22 No.6) より )
お分かりでしょうか?
メテオストライクは大量破壊魔法! 地上を焼き払い、都市を破壊し、軍隊を滅ぼします。
あ。エンタメ作品の中には、巨人やドラゴンといった桁外れのサイズの敵を狙う例もありますが………
………もしかして、魔神様の仇敵とは大怪獣?
ちがう?
感覚が鋭い、逃げ足が早い。なるほど。
そのくせ、何かと言うと凶悪な光線技をぶっ放して、治癒魔法も得意?
ずいぶん万能ですね。
一撃で倒さないと返り討ちにされるんだ。
うーん。でも、メテオの精密狙撃とは…また……………
あ、そうだ!
自分自身をメテオのターゲットにして魔法を発動させると、ものすごく正確に誘導できるみたいです。
── 自殺の手引き?
そんなつもりはないんですが、確かに危険極まりないですね。
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それはそうと………
「天から降る石(炎)で、人や生き物が焼け死ぬことがある」という観念は、旧約聖書の民や古代エジプト人の空想でしょうか?
あるいは古代世界で、火の玉になった隕石が地面を焼くことが知られていたのかも?
古代エジプト人は、リビアングラスという石英ガラスを宝石のように磨いて、装飾品やお守りにしました。ツタンカーメン王の副葬品からもスカラベなどが見つかっています。
じつはリビアングラスは、砂が高熱で溶けてできた天然のガラスで、隕石がサハラ砂漠上空で炸裂したさいに作られたといわれます。
古代中国は、火球になって落ちる隕石を「天狗」と呼び、史書に詳しく記録しました。
古代エジプト人も長い歴史上、何度かサハラ砂漠に落ちる小さな隕石(火球)を見たでしょうし。砂漠に点在するリビアングラスと火球を──、
あ、はい。
ガラスの話はその辺にしろ?
メテオストライクを迎撃する話があれば知りたい?
え? 迎撃ですか?
うーん。SF、パニックジャンルだとメテオの阻止は定番ですが。神話伝承だと── 隕石阻止じゃないかと個人的に思うのは「パエトン」という物語です。
ギリシャ神話の「パエトン」の物語は、愚かな子どもが天の秩序を乱し、世界を渇きと大火事が襲う話です。
パエトンは半人半神の男子で、太陽神アポロンの子どもでした。
しかし、友人から本当に神の子なのかと疑われて、偉大な父のもとを訪ねました。
かれが願ったのは、太陽の戦車を操り父のように空をかけること。
願いは受け入れられますが、パエトンは天をかける馬たちを御せず、太陽の戦車は大暴走。大地は高熱に灼かれます。
世界のそこかしこで火の手が上がり、北アフリカは砂漠に変わり、川という川が干上がります。
最高神ゼウスはついに雷を放って戦車を止めますが、パエトンは地上へ落ちて命を失う、という話です。
のちにキリスト教カソリック教会は、パエトンの物語をルシフェルの堕天(最高神を真似る傲慢さ・地上への墜落)の寓意と解釈しました。
まぁ、そっちの解釈はさておいて(笑)
パエトンの起こした大災害を、
『 宙から突然「暴走する太陽(- の戦車)」があらわれ、ありえないほど低い空(夜空)を飛び。激しい轟音(猛り狂う馬のいななき・馬蹄)を上げ。最後に火球がとてつもない雷鳴?とともに弾け飛んだ 』
…… と、あらわすと。
隕石は『 落下の時には巨大な火球が出現し、夜間は空が真昼のように明るくなることもある。衝撃波による爆音の響く範囲は数十キロメートル四方を越えることも多い(Wiki)』
……… とゆう、説明と重なりません?
最高神ゼウスは、雷霆で火球の隕石を砕いた。すなわち神話世界のスペースガード!
こじつけ?
…… まぁ、そうなんですけど。
パエトンはそのものズバリ『地上に落ちた星』で。天の川は落下の痕跡という異伝もあるんです。
(アリストテレスが『メテオロロギア』で、ピタゴラス教団の説として示した)
メテオストライクの魔法の迎撃のヒントになりませんか?
どれだけ高速でも、メテオの速さは光や稲妻に及びません。
魔神様の仇敵が、先制攻撃でメテオを放ってもそれは──、はい? 相手から先制攻撃されることじゃなく、魔神様が放ったメテオを投げ返されそうで心配???
えと。
整理しますと。
魔神様の仇敵は、メテオストライクを気取る鋭さ、避ける素早さがあって。大威力の光線魔法を撃ってきて、なおかつ、メテオストライクも使いかねない。
さらに魔神様に先制攻撃されても、メテオを空中で撃破したり投げ返す可能性がある……
めちゃくちゃですね。
バケモノとしか思えません。
敵対をやめたほうがいいのでは?
魔神のプライドですか。
うーん。
いっそ、合体してパワーアップなんてどうでしょう?
最高神ゼウスはですね、じつは古代エジプトではエジプト神話の最高神アメンと同一視されて、太陽神とみなされました。それだけではなく頭に角が生えた姿で彫像が作られたのです。
有角の主神『ゼウス=アモン』── 強そうでしょう?
コインも作られてます。
は?
わたし、ですか? 魔神様と??
遠慮いたします… 遠慮させて下さい。
世界の1/16をお前にやろう、ですか。
合体したら、私のものは魔神様のものですよね?
♦︎♦︎♦︎
『 これはいけない、帰してくれそうにありませんよ。この幸薄そうな魔神と合体融合させられてしまう……それは勘弁していただきたいなあ』
『── しかし、メテオストライクが急に人気ですね。
ここへ来る前、《わが社》のロビーで、メテオストライクをオレに教えろ‼︎ って。なんか目がいっちゃってる男の人が騒いでましたし。
どこぞから迷い込んだ英雄候補みたいな感じでしたけど、あんなに慌ててどんな大物狙いする気でしょうか。
…………… おや?
急に窓の外が明るくなってきましたよ、朝にはまだ早いはずですが 』
2021年9月、聖書のソドムを滅ぼした災厄は、隕石の空中爆発だった? という国際研究が、英科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載されました。
ヨルダン渓谷の古代集落トリエルハマムを発掘調査したところ、約3600年前の空中爆発── 高熱と衝撃波の痕跡が認められたということです。
もっとも、調査したのは、あくまでもトリエルハマムです。
旧約聖書で語られた “ 天から降る硫黄と火で滅ぼされた ” ソドムが、この破壊された街だったというのは考古学者の学説の一つで、今のところ、両者を関連づける明確な根拠はないそうです。