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猫になりたい   作者: kiki
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一難去ってまた一難

その後、大和はちひろを週に2,3回の確立で仕事をさせた。ちひろがすべての業務をその日のうちに終わらせてしまうので大和は分担配布をすることを忘れなかった。メメはちひろの仕事があってもなくても昼は大和の庭に入り浸っている。ちひろの経済面では裕福だとは言えなかったが精神的に安定し始めたかのようだった。


「ようは気持ちの問題なのかな?」ちひろは天井を見つめながら思った。メメは「そうそう、気持ちの問題が一番厄介だった。」とでも言いたそうに一鳴きした。




ある日、ちひろの郵便ホストに一通の封書が送られてきた。開いて読んでみると大家からの家賃値上げの知らせだった。ちひろはまた深くため息をついた。今の給料でもいっぱいいっぱいなのに家賃を上げられたら支払いができない。家では極力電機もガスもそして水さえも節約している。ちひろはテーブルにその封書を置くと両手で頭を抱えた。


「ニャーオ」メメは目をつぶりながら鳴いた。「そんなの彼に相談すればいいことじゃない。」とでも言っているかのようだった。


「給料上げてくれなんて言えないよ。そうでなくたってご飯をご馳走になったりしているでしょう?」ちひろはメメに言い返した。


「違う違う。あそこには部屋がたくさんあるのだから、一部屋を貸してくれって頼めばいいの。」


「そんな人が迷惑になるようなことなんて言えるわけないでしょう。」


「そう?私は大丈夫だと思うよ。私もこちらに帰ってきたりせずにずっとあの庭で日向ぼっこをしていたいもの。」


「あなたはそれが目的?」


「ほかに何があるの?人間同士のことなんてわからないけれど、私は猫だから。日向ぼっこをして周りのものを観察することが猫として生まれてきた宿命よ。」


「私も猫になりたかったわ。」


「あなたは人間のほうがいいわ。あなたのラッキーはこれからよ。」


「どうしてそう思うの?」


「自分だってわかっているでしょう。一か月前に比べて生活だって上昇してきたじゃない。例えば仕事中に発作が出なくなった。私とだってこんな風に会話したことなんてなかったじゃない。私はあなたのところに来た時からこうして話をすることをずっと待っていたのよ。」


「何のため?」


「あなたの幸せのため。」


「出会った最初の日から知っていたの?」


「そうじゃないわ。でもあなたと生活してみてなんとなくそうじゃないかなと思った。それが当たっただけのこと。ねえ、気が付いていた?あなたは彼の電話番号を知っているくせに、住所がわかっているくせに、相手から連絡がこないと絶対に行かないわ。私を迎えにも来なかった。私を利用しなさいよ。話をして、頭の中のもやもやを少しでも晴らせる時間を作ればいい。もう少し自分に自信をもって。あなたを理解しようとしている人がいるってことを今ではわかるでしょう?いつまでも過去のことにとらわれていてはダメ。パニック障害を克服したいのであれば知っている人から、大丈夫な人からとっかかりをつかまないと。彼はあなたに対して悪口は言わない。手にかけたりもしない。最後のチャンスだと思って飛び込むのよ。はい、電話して。」


「なんていえばいいの?」


「手紙のことを話せば?きっかけが欲しいなら証拠品がないと。」


「わかったわよ。電話して時間があるかどうかを聞いてみる。そして会いに行くわ。」


「そうこなくちゃ。私はここに残っているわ。」


ちひろはメメをにらむと連絡先番号から大和の番号にかけた。




大和は書斎で音楽を聴いていた。今日のジャンルはジャズ。アルコールでも飲みたいところだが一人で飲んでも味気がない。そんなところに携帯電話が振動した。


番号を見るとちひろからだった。


「珍しい。何か起こったのだろうか?」心配が先に立った。

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