おせっかい
第二章
「す・・」
「猫を探しに来たのかな?立ち話もなんだから中にどうぞ。」
家主はすぐに扉をあけ、間髪を入れずにそういうと優しくちひろを迎え入れた。
「私の庭は日あたりがよくて君の猫は日向ぼっこをしているよ。猫が日向ぼっこをしている間に僕たちはお茶でも飲まないか?・・見たところ君は落ち着いたほうがいい顔をしている。」
優しそうな目で見つめられてちひろは何も言えなかった。ちひろは震えていた。きっと額の汗が日光に反射して光っていたのだろう。
あたりに紅茶の匂いが漂い、その男は布巾をもってオーブンを開けた。
「マフィンを作ってみたんだ。お茶うけにどうぞ。」
ちひろは軽くお辞儀をすると周りを見渡した。キッチンはちひろの部屋よりも大きく、効率的に配置されている。
「何をしている人なんだろう?」まともにその人の顔を見られなかった。
「今日は休みなんだ。ゆっくり寝ていればよいのだけれど貧乏性だからいつもの時間に目が覚めてしまう。」そういうと男は微笑んだ。「どう?マフィンは君の舌に合っているかい?」
「おいしいです。」
「遠慮しないでたくさん食べていいよ。僕はコックをやっていていろいろと研究をしているんだ。このマフィンはそば粉で作ってみた。少し色が変だろう?なんでもかんでも健康食品ってわけではないけれど売れる商品を考えないとね。」
「料理人って大変なんですね。」
「考えてくれる人がいるならばそれに越したことはないのだけれど、やはり誰かに頼むよりも自分で楽しみながら作っていきたいからね。料理をするのは楽しいよ。君は料理は好き?」
「私はそんなことを考えたこともありませんでした。」
「病気なの?」
ちひろは答えなかった。あったばかりの人に自分の病気を知られるのは嫌だと思ったのだ。
「猫の名前はなんていうんだ?」その男は話題を変えた。ちひろが答えに困っていると見て取ったからだった。
「えっと、半年前に私のところにきて様子から見て野良猫じゃないと思って飼い主を探したんだけれど見つからなくて。なんとなくメメって呼んでます。」
「メメちゃん。で、君は何という名前なんだ?尋問しているわけではないからそんなに怖がらなくていいよ。」ちひろの困った顔を見てつかさず付け加えた。
「私は内原ちひろ。砂利道の先のアパートに住んでます。」
「ちひろさん。そうか、お隣さんなんだね。僕の名前は山杉大和、大地の大に和平の和。」
「わかりにくい。」
「あ、初めて笑顔を見せましたね。女性は笑顔がいい。」
ちひろはいたたまれない気持ちになった。自分からは何も質問できない。
「そろそろお暇します。掃除が途中なので。」ちひろが立ち上がろうとした瞬間、めまいがしてその場にうずくまってしまった。
「大丈夫?ちゃんと食事している?お茶飲んで、マフィン一つだけでもいいから食べて。そうじゃないと帰してあげないよ。」大和はちひろの体を起こすと肩を担いだ。
「椅子よりもソファがいいね。」そういうとちひろを隣の応接間に連れて行った。
「じっとしていてといっても君は歩ける状態じゃないね。今、君の紅茶とマフィンを持ってくるから。それを空にしないと立ち上がる許可はできないな。」大和はそういうと台所に戻りトレイの上に紅茶とマフィンをもって再びちひろの前に現れた。
「おせっかいなことだけれど自分の率直な感じたことを言わせてもらうよ。君は病気ででも完全に治療を受けていない。それどころかちゃんと食事もしていないね。メメちゃんだっけ?猫もそうだ。施しはしない。でも君は僕の家の客人として招かれているわけだから、おもてなしのものはちゃんと食べてほしい。残念ながら僕は猫を飼っていないから猫用の食事は出せないけれどできる範囲ならば何でも言ってほしい。」
「ありがとうございます。」ちひろは蚊の鳴くような声で囁いた。「もう大丈夫です。そろそろお暇します。掃除の途中の出来事だったので何もかもが片付いていなくて。」ちひろの声は震えていた。だが言わなければならないことははっきりと自分の考えを伝えなければいけない。それが動物に与えられたコミュニケーションの一つだ。
「そうだ、作り置きが何品かあるんだ。持っていきませんか?」大和は大事なことをここで思い出せてよかったという顔をして言った。
「ご馳走になって、助けて頂いて、その上何かを頂くなんて・・」
「困ったときはお互い様ですよ。もう知らない人同士じゃない。それにお隣さんだ。」そういうと大和は台所に行き、冷蔵庫を開けて何個かのタッパーを出した。
ちひろは大和が冷蔵庫の中をあさっているのを遠いところのように聞いていた。
「これ、よかったら持っていってください。空のタッパーはすべて空になったときにでも返してもらえれば大丈夫ですから。」
「こんなにたくさん?」申し訳なさそうにちひろは大和を見た。
「僕は作るのが大好きなんですよ。だから気にしないでください。」
ちひろはそばに来ていたメメを抱き寄せると、再び大和に軽く会釈をしてから自分のアパートへと戻った。
メメはちひろを見た。
「今日は大収穫だったね。僕のおかげだよ。」メメは一つ鳴き声を上げたが、何か嬉しそうだった。
「す・・」
「猫を探しに来たのかな?立ち話もなんだから中にどうぞ。」
家主はすぐに扉をあけ、間髪を入れずにそういうと優しくちひろを迎え入れた。
「私の庭は日あたりがよくて君の猫は日向ぼっこをしているよ。猫が日向ぼっこをしている間に僕たちはお茶でも飲まないか?・・見たところ君は落ち着いたほうがいい顔をしている。」
優しそうな目で見つめられてちひろは何も言えなかった。ちひろは震えていた。きっと額の汗が日光に反射して光っていたのだろう。
あたりに紅茶の匂いが漂い、その男は布巾をもってオーブンを開けた。
「マフィンを作ってみたんだ。お茶うけにどうぞ。」
ちひろは軽くお辞儀をすると周りを見渡した。キッチンはちひろの部屋よりも大きく、効率的に配置されている。
「何をしている人なんだろう?」まともにその人の顔を見られなかった。
「今日は休みなんだ。ゆっくり寝ていればよいのだけれど貧乏性だからいつもの時間に目が覚めてしまう。」そういうと男は微笑んだ。「どう?マフィンは君の舌に合っているかい?」
「おいしいです。」
「遠慮しないでたくさん食べていいよ。僕はコックをやっていていろいろと研究をしているんだ。このマフィンはそば粉で作ってみた。少し色が変だろう?なんでもかんでも健康食品ってわけではないけれど売れる商品を考えないとね。」
「料理人って大変なんですね。」
「考えてくれる人がいるならばそれに越したことはないのだけれど、やはり誰かに頼むよりも自分で楽しみながら作っていきたいからね。料理をするのは楽しいよ。君は料理は好き?」
「私はそんなことを考えたこともありませんでした。」
「病気なの?」
ちひろは答えなかった。あったばかりの人に自分の病気を知られるのは嫌だと思ったのだ。
「猫の名前はなんていうんだ?」その男は話題を変えた。ちひろが答えに困っていると見て取ったからだった。
「えっと、半年前に私のところにきて様子から見て野良猫じゃないと思って飼い主を探したんだけれど見つからなくて。なんとなくメメって呼んでます。」
「メメちゃん。で、君は何という名前なんだ?尋問しているわけではないからそんなに怖がらなくていいよ。」ちひろの困った顔を見てつかさず付け加えた。
「私は内原ちひろ。砂利道の先のアパートに住んでます。」
「ちひろさん。そうか、お隣さんなんだね。僕の名前は山杉大和、大地の大に和平の和。」
「わかりにくい。」
「あ、初めて笑顔を見せましたね。女性は笑顔がいい。」
ちひろはいたたまれない気持ちになった。自分からは何も質問できない。
「そろそろお暇します。掃除が途中なので。」ちひろが立ち上がろうとした瞬間、めまいがしてその場にうずくまってしまった。
「大丈夫?ちゃんと食事している?お茶飲んで、マフィン一つだけでもいいから食べて。そうじゃないと帰してあげないよ。」大和はちひろの体を起こすと肩を担いだ。
「椅子よりもソファがいいね。」そういうとちひろを隣の応接間に連れて行った。
「じっとしていてといっても君は歩ける状態じゃないね。今、君の紅茶とマフィンを持ってくるから。それを空にしないと立ち上がる許可はできないな。」大和はそういうと台所に戻りトレイの上に紅茶とマフィンをもって再びちひろの前に現れた。
「おせっかいなことだけれど自分の率直な感じたことを言わせてもらうよ。君は病気ででも完全に治療を受けていない。それどころかちゃんと食事もしていないね。メメちゃんだっけ?猫もそうだ。施しはしない。でも君は僕の家の客人として招かれているわけだから、おもてなしのものはちゃんと食べてほしい。残念ながら僕は猫を飼っていないから猫用の食事は出せないけれどできる範囲ならば何でも言ってほしい。」
「ありがとうございます。」ちひろは蚊の鳴くような声で囁いた。「もう大丈夫です。そろそろお暇します。掃除の途中の出来事だったので何もかもが片付いていなくて。」ちひろの声は震えていた。だが言わなければならないことははっきりと自分の考えを伝えなければいけない。それが動物に与えられたコミュニケーションの一つだ。
「そうだ、作り置きが何品かあるんだ。持っていきませんか?」大和は大事なことをここで思い出せてよかったという顔をして言った。
「ご馳走になって、助けて頂いて、その上何かを頂くなんて・・」
「困ったときはお互い様ですよ。もう知らない人同士じゃない。それにお隣さんだ。」そういうと大和は台所に行き、冷蔵庫を開けて何個かのタッパーを出した。
ちひろは大和が冷蔵庫の中をあさっているのを遠いところのように聞いていた。
「これ、よかったら持っていってください。空のタッパーはすべて空になったときにでも返してもらえれば大丈夫ですから。」
「こんなにたくさん?」申し訳なさそうにちひろは大和を見た。
「僕は作るのが大好きなんですよ。だから気にしないでください。」
ちひろはそばに来ていたメメを抱き寄せると、再び大和に軽く会釈をしてから自分のアパートへと戻った。
メメはちひろを見た。
「今日は大収穫だったね。僕のおかげだよ。」メメは一つ鳴き声を上げたが、何か嬉しそうだった。