共に行く道
アレスを見かけたという情報をたよりに、行方を追っていたリエルが目にしたのは。
破壊しつくされた町の惨状だった。
「これも、アレスがやったことなの?」
「すまない、僕が浅はかだった。」
アンドロイドは悔しそうに拳を瓦礫に叩きつけた。
ことの全ては、アレスがいなくなってから数日後に始まってしまった。
操縦者がいなければ、やがて停止するはずだったその機体。
それの成れの果てはいずれ、バケモノたちによって処分されていたはずだったのに。
まさか今になって、再び起動させる物好きがいようとは。
「バケモノのドデカイ生命力なんて使いきれるはずもない。この暴虐が終わるとすれば、あの機体が壊れた時だ。」
「止めなきゃ。」
「リエル!?」
「あいつさ、言ってたんだよ。この音が好きだって。そう、言ってたのに。」
リエルは、割れた鈴を拾い上げた。
「だから絶対に止める。バケモノなんかに、あいつの操縦席は譲れない。」
鈴を握りしめる手を見て、アンドロイドは目を伏せた。
「君がそれを望むなら、僕はその助けとなろう。僕らは、そのために生まれてきたのだから。」
「え?」
アンドロイドは変形していき、長い間よき友として愛用していた乗り物と融合していく。
その果ての姿は、神の形をかたどっていた。
一方でのこと。
アレスは遠い意識の中にいた。
リエルと別れてからは、どうしたものかと途方にくれていたものである。
それでも、このまま永眠するのも悪くないなと思いながら時間がたつのを待っていた。
彼女との旅は退屈しなかった。海に、音楽に、躍りに、芸術。
バケモノによる滅びを迎えようとしている世界だというのに、多くのものがまだ残されていた。
生きている、そんな感覚を味わえた。
そんな生き方を楽しんでいた。それで十分だと思っていた。
そのまま消えていくと思っていた。
ところがだ。
消えたはずの意識の中に突然、知らない感覚が駆け巡ったのを自覚した。
足りなかったものが満たされるような、生命体でいうところの全身の血の沸き上がるような満足感。
これまでとは比べ物にならないような波長の統合だ。
人類討伐という利害一致、暴れたいという感情の合致、狂暴的な力の調和!
そのどれもがとにかく心地よかった。酔いしれていた。
あの音を聞くまでは。
壊れていく何かを知るまでは。
あれは、鈴の音だったか。
そうして、眠る自我を置いていったままであることに気がついた。
今の状況が自分の望んだ生き方でないことを知ってしまった。
あぁ、なんて奇妙な現象か。
これほどまでに充実感を得たことはなかったというのに。
あれほどまでに嫌悪感を抱いていた存在だったのに。
自分が自分らしくいられたのは、彼女が側にいる時だったとは。
鳴り止まない壊れゆく音に、何かが違うと感じる中。
アレス、と呼ぶ声が聞こえた気がした。
「アレスから、離れろぉおお!」
「ぐ、人間さえいなければお前などぉっ!」
アレスの機体が、一撃で相手を沈める。
その攻撃は胴体から操縦席までを突き抜けていた。
轟く悲鳴に、目を覚ます。
「私、リエル。」
壮絶なる戦いであるが故に、彼らには聞こえていなかった。
そして、気づいてもいなかったのだ。
「今、あなたの後ろにいるのっ!!」
アレスの操縦席に、背後から刃のようなものがお返しとばかりに刺し込まれる。
そのままこじ開けられようとしていたので反撃してやろうと片手を離した瞬間に、機体の熱が操縦席に襲いかかった。
異常な熱気に追い出されたバケモノは、元アンドロイドであった機体にトドメを食らう。
奈落の底から目覚めた一体と一人は、そうしてようやく目を会わせた。
「君という奴は。どうやってあんなところに。」
「気をそらしてもらってる間に、ね。あの機体から飛びついたんだよ。」
「無茶をする…生きた心地がしなかった。」
「あなただって、ボロボロじゃない。修理できるとこ、探さなきゃね。」
「そうだな。ついでにいろいろ直してもらうとしよう。」
焼けた操縦席を身に背負う。
それは、操縦者など不要であることを物語る証となっていた。
それは、もう一つの物語。
機体に乗せてもらったリエルは、アレスの搭乗口の方へとなんとか飛び移っていた。
しばらくして、アレスの攻撃が操縦席を突き抜けたのを見る。
‐そこには誰もいませんよ
そんな言葉が脳裏を過り、思わず笑ってしまう。
高揚感からなのか、遊び心に火が付いていた。
「私リエル。今あなたの後ろにいるの。」