あるべき生き方
機体はアレスと名付けられ、リエルと共に各地を旅していった。
様々な体験を共に重ねていくうちに、それは日常のように感じてしまうものだ。
しかし、彼らは理解できていた。
こんな関係など、長くは続かないであろうことを。
「彼女は、君のことを何だと思っているんだい?」
道中で出会ったアンドロイドに呼び出され、問われたアレスは考える。
彼女にとっての自分とは。
これまでの旅で出会った存在からの印象は、2つに分かれていた。
リエルと同じように、伝説を信じて神と呼んだ者。
あるいは、使命を知っていて悪魔と呼んだ者。
おそらくは、そのどちらであるかを聞いているのだろうと悟る。
どちらにしても、その全てがアレスには鬱陶しかった。
時に敬われ、崇められ、恐れられ、失望されて、嘆かれて。
だが、彼女は違った。
リエルだけが、違ったのだ。
「我々は、ただの共生関係に過ぎない。おそらくリエルもそのように思っている。」
最初こそ神と呼び、本来の使命を知って絶望したであろうに。
敬いもしなければ、恐れもしない。
ただ、素直に接してくるのだ。
そんな彼女との馴れ合いは、悪くないと思えていた。
「神でも悪魔でもないってか。人間を襲わないあたり、君自身も自分のことをそう思ってるってことでいいのかな。」
「いや、私は悪魔に違いない。今は使命を果たしたくても、やらせてもらえないだけだ。」
醜い人類に手をかけたくても、何度も彼女に邪魔されていたのである。
完全にではないが、操縦の一部をゆだねている相手だ。
意思に反するのであれば乗り捨てるまでと言われてしまったのだから、安易に手出しできなくなっている。
当然ながらアレスの方も、満足に生きられないのであればいつでも切り捨てるつもりではいたのだが。
「して、何故そのようなことを気にした。」
「神様だと勘違いしていたら可哀想だし、悪魔として使命を実行するなら止めなきゃいけないだろう?」
それだけが理由と思えず表情を伺っていると、そのアンドロイドは憐れむように笑った。
「君たちって面白い関係だよね。共生関係だっけ。でもそれはありえないよ。」
「ありえない、とは。」
「本来の君たちは敵同士で、互いに害をもたらすしかない。そういう因縁なんだよ。」
「お前は、何を知っている?」
アレスには使命のことしか記憶になかった。それだけでいいと思っていた。
だが相手の口振りからして、おそらく大事な何かを見落としている。
アンドロイドは言った。
古来からの長い歴史を知っている、と。
「元々は、襲いかかってくるバケモノに対抗するために人類が兵器を造ったことから始まった。その兵器が君の祖先とも言える初代の機体であり、いわゆる神様と呼ばれているものだ。」
「何だと?」
「現在でも同じような神様は数体散らばっているだろうね。無事かどうかは知らないが。」
自分とはまるで違う目的の、同じ機体。
なるほど、通りで神様と勘違いされた訳である。
いやしかし、それが事実であるならば不可解な点が多すぎた。
「ならば何故、私は人類の敵として造られた。何故、彼女との共生が成り立たぬ。」
「兵器を生み出したのに人類が負けたのは、その技術をバケモノに奪われたからさ。そうして造られた一体が、君なんだよ。」
「…!」
「負けた理由はもう一つある。バケモノに打ち勝つ力を生み出すためには、人間の生命力を使うしかなかったんだ。いわゆる犠牲、生け贄だよ。」
「おい待て。まさかそれは。」
「その機能は当然、模倣された君にも搭載されている。でなきゃ、搭乗しただけでパワーアップなんかされやしないんだ。」
身に覚えのある感覚を思い起こし、アレスは愕然とした。
リエルとの同調で得たあの力も、感触も、彼女の生命力から引きずり出したものだとすれば。
「彼女との共生はありえない。」
アンドロイドの言葉が突き刺さる。
「君は、誰かが操縦しなければ満足に動けないらしいね。おそらくは失敗作として、置いていかれたんだろう。でもバケモノたちにとっては人類の神の模倣品であり、驚異でもあるからね。」
「用が済んだからには、処分するということか。」
「そう。機体の多くは既に破壊されている。君以外に、はたしてどれだけ残っているか。」
「それで、リエルにこのことは。」
「言ったところで何か変わるかい?動くとすれば君の方だろうと気をきかせてみたんだけど。というより、僕がそうなることを期待してるだけかな。」
「…なるほど。感謝する。」
今あるエネルギーを全開にして、アレスは地面を踏み込む。
エンジン音に紛れてリエルの呼び止める声が聞こえた気がしたが、何もなかったかのように地面を蹴って飛び出していく。
彼女のことだ。真実を知ってもアレスと一緒にいることを選ぶに違いない。
であるからこそ、アレスは彼女を置いて去るほかないのだ。
敵である人類のリエルに対して、何故そうしたかはアレス自身もよくわからずにいた。
しかし共生関係になれない以上は、そのままで良いと思えなかったのだ。
それだけだったのである。